act.13:超越機械人-スーパーロボット-



 地下室にそびえる、巨大な鉄の人型の何か。


 その場所から伸びる階段から上半身だけ乗り出せば、その巨大な顔を支える巨大な体がさらに見えた。


「これは…………スーパーロボット……!?!」


「スーパー…………今なんと?」


「ろぼっと……???」


「聞きなれない単語だな」


「あ…………」


 しまった。

 つい、生まれ変わる前は見慣れた物に、いや現実にあるとは思わなかったが、ついついそんな単語を出してしまった。


「極東かどこかから伝わった言葉で『物言わぬ歯車の奴隷』という言葉が語源だそうですわ。

 どうも響きがご主人様がいたく気に入ったらしく、もっと我々の分かりやすい言葉で表現すれば……オートマトン……我々と近い存在を言い表すニュアンスだそうです」


 ふと、ドライがそう補足してくれる。

 見ればこちらを見て小さく微笑んでいた。

 聞かされたのか、知っていたようだ。


「ほう……しかし、オートマトンなら、なぜ……」


 と、すぐにカーペルトが階段を降り始め、何かをぼやく。


「なぜ……?」


「頭のところの空白じゃよ。

 いや、自動詠唱機は小型化は簡単に出来るから、アレでいいとは思うぞ?

 だが、それにしても妙に広い気がして、気になってのぉ……」


「あ……そっか、普通はそうですよ……」


「なんじゃ、パンツィア?一応は一番出来が良い弟子じゃし、なんか分かったのか?」


「え、私いま軽く評価下げられました?」


「シャーカさんは優秀です!

 一番弟子です!!

 じゃなくって、カーペルトさん!」


「はっは!すまんすまん!!別にシャーカくんが嫌いなわけでは」


「皆!!喋っていると階段を踏み外すぞ!

 そろそろ足元だ!」


 と、中々長い階段を下り、巨大なスーパーロボットの足元へとたどり着く。


「改めて、下から見るとこれは……!」


 それは、城の屋根を見上げるような高さだった。


「かつて、戦と発展の女神『デウシア』が、神話の時代に数多の邪神や邪巨神を屠った巨神戦鎧……『イクスマキナ』を彷彿させるのぉ……!」


「けど、一つだけ神話の巨神より優れている点はあります……

 その時代最高の金属はオリハルコン。


 これは、おそらくスーパーオリハルコン製ですから……!」


 コツコツと回り込むように二人は、そのスーパーロボットを見上げて歩く。


「関節部、私の『雷魔法駆動機械モーター』に、この重量の自重で動けなくないよう、反重力魔導機構リパルサーリフトまで組み込まれてますね」


「ははぁん、ケンズォめ……!

 さては、神話さながらに『殴り合うため』に作ったな……見ろ!」


 カーペルトの指差す先、かかとと背中にそびえる、巨大な円錐状の物体があった。


「アレって……!!」


「ワシの作りし『反応反作用推進機関ロケットエンジン』じゃ!


 お前さん所のジェットエンジンと似たような物じゃが」


「いえ。

 言ってしまえば、私が大気の圧縮を内燃魔法で強く解放して推進するのなら、


 ロケットエンジンは、内蔵した物質を反応させて推進力に変えるもの。


 出力増減幅においても、推力重量比においても、今のところはジェットでは太刀打ち出来ないですね」


「じゃがこんな事を言うのもあれじゃが、いわばじゃ、口は悪いがなら、『火事を起こしながら飛ぶ』ジェットエンジンの方がまだ安心は出来るのう」


「ただ、思う通りなら、これに付けるならロケットで良かったと思います」


 たしかに、とカーペルトは頷く。


「予想通りなら、あのとぼけた賢者のケンズォはコイツを、対邪巨神用に作ったんじゃろうな。

 それも、」


「質量とスーパーオリハルコンの硬さで、殴り合うために……!

 巨体の割に機動力の高い邪巨神を、同じ機動力、いやそれ以上でありながら、同質量級の格闘を行うために」


「そうなれば、ワシのロケットエンジンは正解じゃな。

 ジェットはまだ未完成、」


「完成しました。実用でも使えます。

 用途に向かないだけです」


「ふふ、すまんのぉ。

 まぁ、じゃが急な出力増減は、こちらの得意とするところよ!」


 一通り見回した瞬間、ウギャー、という叫び声が聞こえる。


「━━━━無理無理ぃ!!こんなの無理だよぉ!!!」


「どうした、シャーカくん!」


 みれば……そこには、


「えっ!?!ウィンガー!!!」


 情けなくいつも通り泣いているシャーカと、困った顔のアイゼナのすぐ真横、


 なんと、ウィンガーらしき物があったのだ。


「なんでこんなところにウィンガーが!?

 しかも、これって……!!」


「パンツィアちゃん!!カーペルトさん!!!

 聞いてよ!!酷いよ!!あんまりだよ!!」


 バンバン、とウィンガーらしき物の胴体を叩くシャーカ。


「何があったのじゃ!?」


「このウィンガー!!これ、アレを動かすためのコックピットなんですよ!!!多分!!!」


 驚くカーペルトと、やっぱりと呟くパンツィア。


 このウィンガー……パンツィアは『Mk-1 ホバーウィンガー』と呼んでいるこれは、かつてケンズォを遅刻から救い、自分が今の地位にいる足がかりになったものの、形をそのままのアップグレード版。


 リパルサーリフトは、形こそ昔と同じだが、効率や出力は最新版と刻まれた魔法陣を見ればわかる。


 それはいい、何が問題か……ふとパンツィアはそのウィンガーのコックピットを見てみる。


「これなんですけどぉ!?」





「━━━━━ あ゛ぁ゛ん゛!?」




「ひっ!?」


 思わず、ドスの効いた声を出してしまうパンツィアに、なにか言いかけたシャーカが怯えておし黙る。


「あ……ごめんなさい!!シャーカさんに言ったんじゃないんですよ!?」


 慌ててそう訂正するパンツィアの後ろで、カーペルトもそこを見る。


「…………ガッ!?あのクソ賢者ァ!?」


 そこは、かつての一国の王だった男が口汚くなるほどの光景があった。






 この表現を見ている異世界の邪神などがいたら、あなた方の見ているテレビの中の、ロボットアニメ特有の操縦席を思い浮かべて欲しい。


 それがそこにあったとして、邪神たち諸君は喜ぶだろう。





「ふざけんなこのクソコックピットがよぉーッ!!」





 では聞いてほしい。この世界の技術者の叫びを。



「計器の数が多い!!一部余計なものがある上に、ああ、なんで前方に集中させぇないんじゃぁ!!!右向く時は右向く時だけで計器まで見せるのかバカめ!!」


「操縦桿が二つあるのはいい……腕用だね、トリガーが前に四つ、多分指が連動だね。


 だけどスロットルおまえよぉ!?

 なんで操縦桿みたいな角度でよぉ!?

 すぐ脇に『私も操縦に必要です!』みてーな顔して鎮座してんだぁ!?オメーはよぉ!!!」


 怒りのあまりに口調が変わったパンツィアは、ヒョイっとそのウィンガーに乗り込む。


「…………例えば、さぁ…………」


 さすさす、と計器の見える部分の隣をさするパンツィア。


「…………窓が開けられる、っていうんだったら分かるよ…………

 あるいは、特殊な密閉服を着る、っていうなら分かるよ。



 いや分かんないねッ!!!


 『空調』どこ行きやがったぁッ!?


 お前は炎が真下で燃える中とかエンジンの真上みたいな場所で空調なしで過ごせ、って言うんじゃねーだろうなぁ〜〜〜〜、クソ爺さんよぉ!?」


 バキィ、と計器脇を殴りつけ、さらに叫ぶ。


「というか狭いんだよぉ!!!

 なんでだよお爺ちゃん!!!!


 二年前もっと広かったじゃんかよぉ、私作はぁ!!!!」


 確かに、周りの中で最も小柄なパンツィアが入っても狭い。そんな場所だった。


「…………あやつは人間が乗ることを考えてこれを作ったのか?

 正気の沙汰とは思えん構造だぞ」


「せめて燃料漏れみたいに、魔力系の針がすぅんごい速度で減るとか無いといいなって思うレベルです!!!」


「いや、二人とも?


 これ、の代物何ですよ」


 ふと、シャーカがそんな事を言いながら、持ってきたタブレットを見せる。


「ん?」


「何かわかりますか?

 固定型遅延詠唱式プログラムです」


 …………白い画面だった。


「白紙だな」


「何も書かれてないですね」


「何も書いてないんですよー、笑っちゃいますねー」


「「「あーっはっはっはっはっはっは!」」」


 …………









「「「クソジジイ!!!もう一回蘇らせてぶっ殺してやる!!!!!」」」









       ***


 もうすでに、街の入り口まで邪巨神は迫っていた。


「陛下、前国王様と姫様は無事だそうです」


 城で避難を見守り、歯がゆい思いをしていたクレドに報告が来る。


「飛竜隊は全滅か?」


「残念ながら」


「何もできない私を呪う」


「……所で、前国王様と、ヘルムス公爵より言伝が」


「何と?」


「1時間で、『最終兵器』を用意するから、耐えろ、と」


「……何をするつもりだ?」


       ***


「スロットル付け替え完了!溶接します!!」


 ちょうど股の間にスロットルをつけ終え、火炎魔法の応用で溶接していく。


「ロケット燃料の配合だけは完璧じゃったな!!

 反応魔導炉リアクトオーバードライブ、二基とも魔法石は満タンじゃ!!」


 そのスーパーロボットの胸部のメンテナンスハッチを閉め、ふいーと息をつくカーペルト。


「シャーカさん、プログラミングは進んでますか?」


「一人じゃ無理だから、通信でHALMITの私の教え子ちゃんたちと、別の魔法博士達で『固定型遅延詠唱式プログラム』は、一応全部書き終わった、けど、損傷詠唱箇所探査デバッグがまだだから待っててね?」


「なんで、こんな事、やっておかないでシャーカさんに任せるかなぁ……」


「あの人はそういう人なのです」


「そういうロクデナシでした」


「デバッグは完了。

 インストール作業も順調だし、」


「じゃ、ウィンガー上げます!」




 ウィンガーを、ドライの操作するこの部屋のクレーンで上げて、頭へと下ろす。


「飛ばさなくて正解じゃ、あの操縦桿じゃ無理じゃろ」


「発想も作り上げた腕もすごいですけど、そこまで頭回らなかったのかなぁ」


「かっかっか!どうせ、まだテストもしとらんよ!!」


「不安です」


「ワシもな!」


「壊れませんように……!」




 乗り込んだパンツィアは、スイッチの一つをあげる。


「マスタースイッチオン」


 反応魔導炉が唸りを上げ始めるのを確認し、もう一つのスイッチに手を伸ばす。


「シャーカさん!!詠唱刻印プログラミングは完璧ですね!?」


「多分!!スイッチを入れてみて!!」


「了解。

 オールスイッチオン!」


 反応魔導炉2基分の出力が、全身を駆け巡っていく。

 目に当たる部分が光り、計器の針が動き、示すべき値へと止まっていく。


「よし……!

 みんな、一回地上に戻ってください!!

 天井を破るにしろ、ここは危険です!」


 分かった、とカーペルトとシャーカがドライに連れられて立ち去ろうとする。


 が、なぜかアイゼナが動かない。


「アイゼナ……!?」


「姫様、なんで!?」




「……アイゼナちゃん、早く行かないと」


「私には、これは操縦できないのか?」


 ふと、彼女らしい言葉がやってきた。

 ……なんとなく、そう言うだろう、とパンツィアも思っていたのだ。


「ごめん。私にとっても未知の、この世界に誰も操縦したことがない、そんな物なんだ。

 アイゼナちゃんが、姫様だからだとかっていう理由で言ってるんじゃないの。


 そりゃあ、アイゼナちゃんは戦闘のプロだよ。


 でも、これだけは、

 こういう操縦桿に慣れ親しんだ、私にしか出来ないと思う」


 予想通りというか、複雑な表情を見せるアイゼナ。

 だが、彼女は勇猛果敢ではあるが……決して、無知ではないのだ。


「よく分かった。お前を……疑っているわけじゃない」


「うん」


「……六つの頃だ。お前と会ったのは。

 お前、野生の飛竜を乗りこなしていたな」


「アレは偶然だよ」


「だが嫉妬したよ。お前には、色々な才能がある」


「そんな…………私、アイゼナちゃんに勝てるところ、案外少ないよ」


「知ってるさ。そうなれるよう……努力してきたんだ、我が好敵手?」


 少しだけ微笑むアイゼナに、釣られて笑ってしまう。


「後ろは任せろ。

 必ず、こいつで仇をとっていやれ」


「それだけじゃないよ。みんなを助けなきゃ」


「ふっ……そう言えてこそパンツィア・ヘルムスだ!!」


 そうして、アイゼナも外へと走り出す。


「……ありがとう。親友」


 その背後を目で追いつつ、静かにそう呟いた。


       ***


「聞こえるか、パンツィア!」


 通信機に叫びながら、飛竜達を飛び上がらせるアイゼナ。




『━━━━今、全員飛び上がった!

 いつでも外に出られるぞ!!』


 ヘッドセットの通信機の声を聞きながら、透過型オリハルコン製のキャノピーを下ろす。


「了解。

 やるよ」


 ぐ、と操縦桿二つを握り、いよいよと力を込める。


『お待ちくださいませ。パンツィア様、最後に一つだけ』


「ドライ?」


 ふと、そんな言葉がやってくる。


『そちらの乗るスーパーロボットにございますが、固有名詞が存在します』


「これの……名前?」


『はい。


 名を、ブレイガー。


 『打ち払うもの《ブレイガー》』の試作型……0号機、故に『O』。


 ブレイガーO、でございます』




「ブレイガーO……!」


 ふ、と口元が緩む。


「なんだよ…………昔話したあっちの世界のアニメの…………オマージュじゃん……」


 通信機に聞こえぬよう呟き、改めて操縦桿を握る。


「━━━━ブレイガーO!!」


 ブゥン、と出力に合わせたように光る目。


 そして、その鋼鉄製の腕が、操縦桿に合わせて上へ向いていく。





「発進!!!」





 ドォン、と地上が爆発する。


「おぉ!」


 すぐさま、飛竜に乗っていた皆が、煙の中から立ち上がる巨人を見る。


「アレが……あの巨人が……!!」


「ブレイガーO……!」


 すぐさま、あの邪巨神を追うように走り出す。


 大地が爆ぜ、足元を開拓するかのような勢いで。


「速い!

 何という力強さだ……!」


「これは、勝てるかもしれんのぉ……!」


 皆の希望の視線を背負い、ブレイガーOは走って行く。


       ***


 ━━━時は、今現在に戻る。





「━━━来い、化け物!」





 身に纏った瓦礫を落としながら立ち上がり、その巨人の中から叫びが上がる。



「お爺ちゃんの…………この街のみんなの仇だ!!


 私とこの『ブレイガーO』が、相手になってやる!!」


 再び拳を構えた巨人と立ち上がった怪物がぶつかる。



       ***

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