act.14:未完の最終兵器

-超古代竜邪巨神ゴルザウルス 登場-







 キュカカカカカカカ、ズンッ!!





 拳が振り下ろされ、ゴルザウルスの頭部を沈みこませる。

 衝撃は足から地面を伝い、瓦礫を吹き飛ばす。


「━━━━━シャオォラァッ!!」


 操縦桿から伝えた力のまま、左のアッパーがゴルザウルスへ入る。

 打ち上げられた頭が放物線を描き、燃える廃墟を破壊しながら巨体が倒れ込んだ。


「まだまだだ!!」


 ブレイガーOの超合金製の腕が尾を掴み、全身から悲鳴のようなモーターの音を上げて持ち上げる。


「くーらーえーっ!!」


 ブゥン!ブゥンッ!


 ジャイアントスィングと前の世界では言っていた投げ技が炸裂する。

 蹂躙された街の瓦礫に思い切り頭から墜落し、ゴルザウルスは悲鳴もあげない。


「どうだ!!少しは効いたかっ!?」


 しかし、突然ヒュンッ、と空気を切り裂く影が来る。


「うわっ!?」


 こちらを襲った尾の先端にバランスを崩した瞬間、ブレイガーOの首をそのまま締め上げる。


「ぐぅぅぅ!!蛇みたいに尾を!!」


 瓦礫を振り落とし立ち上がったゴルザウルス。

 怒りの視線を向けるとともに、強靭な尾で掴んだブレイガーをゆさぶり、自分と同じように街の瓦礫に叩きつける。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!?」


 透明なキャノピーは超合金製だが、心理的に怖い光景は防げない。

 レンガの硬い壁が、鋭い木の先端が、パンツィアの頭上に襲いかかってくる。


「くぅ…………いい加減に、しろぉぉぉっ!!!」


 だが一瞬、叩きつけられた一瞬に踏ん張りを聞かせ、自分ごと相手のバランスを崩し回転させ叩きつける。


 ドラゴンスクリュー。


 まさか、その名を持つプロレス技を、竜に似た怪物に叩きつけることになるとは。


「くっ……ラチがあかない……!」


 しかし、このまま殴り続け投げ飛ばし合うだけでは、決着に時間がかかりすぎる。


「武器は……このブレイガーには武器がないの……!?」


『━━━パンツィアちゃん、聞こえる!?』


「シャーカさん!」


 突然、シャーカからの通信が開く。


『ブレイガーに武器があるのを言い忘れてたの!!!

 強力なのが、二つ!!』


「アイツが起き上がる!!一番使えそうなのは!!」


 ドラゴンスクリューのダメージからか鈍い起き上がりを見せるゴルザウルスを見て、思わず叫ぶパンツィア。


『右操縦桿親指左のスイッチを下ろして!!


 『超高熱物質砲プラズマキャノン』が起動するから!!!』


超高熱物質砲プラズマキャノン!?」


 カチ、と押した瞬間、右操縦桿の指に連動したトリガーが人差し指以外固定される。


 同時に、右腕が複雑に変形し、手だった物が光り輝くプラズマの砲口を作り出す。


「う、わ、すっご……!!」


 異常加熱警報が鳴り響くなか、完全に復活したゴルザウルスの尾がやってくる。


「ッ、発射!!」


 トリガーを引く。


「うわっ!?」


 ピィン、という変わった音とともに放たれたプラズマが、振り下ろされた尾を撃ち抜く。





 ━━━━ギィィヤァァァァァァァァァァァ!?!?!




 ずぅん、と切断された尾と同時に、反動で体勢を崩したブレイガーOも地面へ背中から叩きつけられる。


「うっ……なんて反動……!!」


 なんとか立ち上がった瞬間、突然やってくる耳鳴り。


 ゴルザウルスの額の水晶型器官が光る。


「まずい、超振動波!!」


 再びプラズマキャノンを放とうとして、突然右手の光が消える。


「え、あ、まさか……!!!」


 オーバーヒート警報は鳴り止まない。

 要するに、これは一発で回路が焼き切れたということだ。


「一発でコレって欠陥品じゃん!?」


 しかし、ゴルザウルスは待たない。

 直撃すれば超合金スーパーオリハルコン製のブレイガーは無事でも、自分が死ぬ攻撃が迫るその時、とっさにパンツィアはブレイガーOのロケットエンジンを起動させて飛ぶ。


 ━━━キシャァァァァァッ!!!


 直後自分のいた位置へ放たれる超振動波。

 空中で一回転した拍子に下が砂漠化したのを見たパンツィアは、絶妙な操作でゴルザウルスへ右足を向ける。




「ブレイクキィ━━━━━ックッ!!!」




 金属の身体の重量をそのまま乗せた脚が敵のゴルザウルスの額に命中。

 超振動波を放つ器官を破壊する。


 ━━━━ギィィヤァァァァァァァァァァァ!?!?!


 断末魔をあげるゴルザウルスの背後で着地したブレイガーの中で、パンツィアは不敵に笑う。


「へへっ、ちょっとは効いた!?」


 しかし、怒りのゴルザウルスは、血走った目でブレイガーに摑みかかる。


「グッ!?」


 ズンッ、という衝撃と共に一瞬体が浮く。

 しかし、押し倒そうとするゴルザウルスに踏ん張り、何とか体勢を直しながら、なおも地面を抉るように進んでいく。


「こいつ……なんて火事場の馬鹿力……!!」


 あの巨大な鉄の塊すら持ち上げたブレイガーOでも、押し返せないほどのパワーで、後ろへ向かって進まされていく。


「まずい、このままじゃ!!」


       ***


「マズイですよ!!このままじゃ!!」


 HALMITの大会議室、シャーカはコンピュータに送られた情報と映像を見て叫ぶ。


「進路計算!!おそらく、残り10分以内には、住民の避難した場所へ!!」


「王国軍の救援は望めません!!」

 戦地へ送ったメーザー車は戻りませんか!?」


「1時間は不可能です!!!」


 うぅ、と泣きそうな顔で、こうなればと通信を開く。


「パンツィアちゃん聞こえますか!?

 最終手段です!!」


       ***


「シャーカさん!!何をすれば!?」


『ブレイガーOには、胸部に『極大炎熱魔砲ブラストバスター』を発射できる装置があります!!』


「ブラッ……!?」


 太古の炎熱魔王が使った最強クラスの炎の禁呪魔法の名前に思わず言葉に詰まる。


『おそらく、そんなものを撃てば、右腕の回路が焼き切れたように、今度は全身の回路が焼き切れるはず!!

 だけど、』


「ダメだ、撃てない!!

 この距離で撃って外せば、まだ無事な街まで!!」


『でもこのままじゃ背後には!!』


 そうだ。

 振り向けば、そこには避難した人々が集まる場所が近い。


「くぅ……ブレイガーの駆動系を改良出来れば……!!」


 だが、今はこの場でどうにかするしかない。


 しかし、どうすれば……!?


       ***


 戦いの様子は、逃げた人々も見ていた。


「まずいぞ!!あのままじゃこっちにまで!!」


「もうダメだ……みんな死ぬんだ……!」


「逃げなきゃ……」



「━━━━大丈夫」



 皆が、怯える中一人だけ、


 まるで、家でくつろいでお茶でも飲んでいるかのような、そんな様子で座っている一人の少女━━━街のパン屋の娘、ティオが言い放つ。


「って、ティオちゃん、何そんなにくつろいでいるんだ!?

 そりゃ、他の年代の子よりはしっかりしてると言うか、俺の母ちゃんみたいな落ち着き方してるってぇ評判だけど、何もかも諦める歳じゃないだろ!?」


「おにーさんさー、諦めてるからくつろいでるんじゃないんだよー。


 私はただ信じて待ってるだけさね、パンツィア姉ちゃんの言葉を」


 ほれほれ、と一番小さい弟をあやしながら、ティオは笑って言う。


「すぐに盗み食いする顔のいいジジイと違うんだ。

 なんとかする、って言ったら必ずなんとかする。


 それがうちの常連の公爵様で、


 にいちゃんの師匠さまの、パンツィア・ヘルムス姉ちゃんさ!!」


 ぐ、とサムズアップする姿は、まるで熟練の『お母ちゃん』のごとき落ち着き方だった。


       ***


「なんとかする、って言ったんだ!!

 なんとかしなきゃ、行けないけど!!」


 どうするか考える間も後ろへ下がっていく。

 どうする?

 今のブレイガーに何ができる?


「!」


 ふと、左手の操縦桿が目に入る。

 ━━━━右側と同じ、親指の隣のボタンに気づく。


「まさか!!」


 ためらわずに押す。

 瞬間、左腕が超高熱物質砲プラズマキャノンへと変形する。


「ぃよっっしゃぁッ!!!」


 狙うは、


「たった一発のチャンスだ!!

 コイツを、」


 ━━━下半身。


「喰らえッ!!」


 高熱のプラズマ、その回路と引き換えの一撃で、腰を撃ち抜く。


 ━━━ギィィヤァァァァァァァァァァァッッ!!!


 押す力が消える。もはや踏ん張ることなどできない。


「ふぅー……ッ!!」


 左腕を元に戻し、歩くこともいっそ座り込むこともできないゴルザウルスを前に、いよいよとパンツィアはゴルザウルスを睨む。


「シャーカさん『極大炎熱魔砲ブラストバスター』を使う!!


 どう撃てばいい!?」


『聞いて!目の前の赤いボタンを押して、スロットルを全開に!!』


 言う通り、目の前の計器にある赤いボタンを押し、スロットルを全開にする。


 グォォォォォォォォン!


 大きく腕を振り上げ、胸を突き出すポーズを取るブレイガーO。

 胸部の装甲が開き、砲口がせり出し、魔法陣を展開する。


『メーターのゲージがマックスになった瞬間に、スロットルのレバーを一気に下へ下ろして!!』


「了解!!」


 メーターの針のメモリの数値が大きくなるとともに、大気中の魔力を吸うように魔法陣へ赤い光が収束していく。


「じいちゃんの仇、なによりみんなの街を破壊した分だッ!!!

 これでも喰らえ!!」


 ぐっ、反動に負けぬようフットペダルに力を込める。


極大ブラストッ!!」


 最大級に収束した熱量を向け、




「『炎熱魔砲バスタァァァァァァァァァッッ!!!!!



 レバーを倒し解放する!






 凄まじい熱量が解き放たれ、動けぬゴルザウルスに直撃する。

 断末魔をあげたゴルザウルスの全身が、一気に沸騰し、



 ドォォォォォォォンッッ!!!!



 凄まじい爆発を引き起こし、その身体が灰となり四散した。


       ***


「…………やった」


 シャーカの一言を皮切りに、HALMITの会議室が歓声に包まれる。


「倒したぞ!!あの邪巨神を!

 ゴルザウルスを倒した!!!」




「━━━全員!!静粛に!!!」



 と、そこでシャーカが皆を一度静かにさせる。


「ここからが、我々の仕事です。

 倒したゴルザウルスのサンプルの回収と解析!!

 及び、ブレイガーOの回収です!!


 我々HALMITの総力を挙げて、事後の対応を進めます」


       ***


「父上!」


「戻ったか、アイゼナ!!」


 城へと戻ったアイゼナを迎えるクレドの顔に、ホッとした表情が現れる。


「心配をおかけしました。

 上空から街を見て参りましたが、酷い有様です」


「復興は長引くであろう。

 民の死傷者の数も……」


 竜騎兵用の発着場から見える城下の街は、いまだに燃えていた。


「…………しかし、勝ちましたよ」


「…………ああ」


 しかし、同じく見える光景がある。


 邪巨神のいた位置をえぐるよう破壊した一撃を撃ち、沈黙の中立ち尽くす巨人。


「あれは、一体……?」


「名をブレイガーO

 ケンズォ氏の残した、唯一の希望です」


「ブレイガーO……!」


 クレドの眼に映る鋼鉄の巨人は、

 ただ静かに、瓦礫の街にそびえ立っていた。



       ***


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!!


「あ゛つ゛い゛!!!

 だから空調の無いコックピットはクソなんだよね!!」


 『極大炎熱魔砲ブラストバスター』のオーバーヒートの結果、ブレイガーOの機能は全てが停止し、一歩も動けなくなっていた。


「電送系に改善の余地あり。

 というか…………他にも色々問題多すぎる……!」


 密かに最期の超高熱物質砲プラズマキャノンの時にボッキリと折れていた操縦桿を見て、はぁとため息をつく。


「試作型の問題を、回収の時点まででなるべくまとめておかないと……


 次も出番があるなら……改善しなきゃいけない」


 パンツィアは、決意を新たにタブレットを開く。


「……お爺ちゃん、私、悲しいとか、そういう感情もあるよ。


 でも今は恨んでるから。





 もうちょっと……人間工学を学べロクデナ、お尻熱っつ!?!」





 座席下にラジエータのダクトでも繋がっているのかという熱に飛び上がり、頭をキャノピーにぶつけてしまうパンツィアだった。

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