act.11:大地を揺るがす者


-超古代竜邪巨神 ゴルザウルス 登場-







 ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 ブレイディアのエーゲ森より数キロ先、首都近くの山で、地震が発生した。


       ***


「パンツィア━━━ッ!!やっべぇぞーッ!!邪魔だこのブサイク!」


 生物研究区画まで、今にも傭兵を一人食い殺しそうだった異形を殴り飛ばし走ってやってくるのはテトラだった。


「どうしたの!?」


「あ、陛下もいるんなら都合いいや!!


 地震だよ、デカい!!」


「場所と被害は?」


 ポン、ポン、とタブレットを操作して地図を見せる。


「東のママコ山!!結構デカい!

 でもそれ以上に変なんさ!!」


「変?テトラちゃん、どういう事?」


「地質学なんて眠てー学問を飽きもせず修めてっけど、地震は初めてなんだよなぁ!」


「震源が、動く?」


「活断層にしろ火山にしろ、地震の原因は場所が固定されるもんだけンども、コイツは今もこっちに向かって動いてンだ!

 毎時12km、異常だろぉ?」


「…………それって、もしかして、地面をなにかが」


「掘り進んでいるのか!?こうしてはいられん!!」


 だっ、とクレドが走り出す。


「待ってください、ここからでは城まで行くのに2時間はかかります!」


「指示は早い方がいい!」


「ええ、だからまずはコレを使っちゃいましょう!」


 指を指した先には、固定魔力通信機があった。


       ***


 国王の指示により、ママコ山と首都の間の砦に、即座に砲兵隊の配備が始まっていた。


「ん!?

 補給班に通達!

 姫さまの竜騎兵が戻ってきた!!

 『竜酒』の用意をしろ!」


 伝令からの行動も早く、補給兵が飛竜の降り立つ広場に『竜酒りゅうさけ』と肉を素早く置く。




「補給は手早く済ませろ!!

 全員には悪いがそれほど休む時間はないぞ!!」


 飛竜種ワイバーンの食性は、実は『雑食』である。

 肉食のイメージがあるが、実はたんぱく質とは別に、ピニャという匂いの強い木の種類の幹を剥がして樹液をすすったり、葉を食う姿が稀に観測される。


 体内の生態内燃魔術器官ワイバーンジェットエンジンの燃焼には、魔力ともう一つ、アルコール由来の燃焼成分を分泌して使用しているのだ。


 故にというか、野生の飛竜が家畜のの次に襲うのが、決まって『酒蔵』。


 大酒飲みを『胃の中に竜がいる』などとこの地域で言われるぐらい、竜はアルコールを好むのだ。


 『竜酒りゅうさけ』とは、アルコール度数は60、にもかかわらず甘く口当たりよく『ジュースのように飲める火薬』とも呼ばれるブレイディアの特産品にもなる酒の一つである。


 しかしてその正体は、飛竜の特性を考えた末に、疲労回復と飛ぶ為のアルコール補給を同時に行うため生まれた戦闘用食糧であった。


「ここからUターンともなると、グズる竜もいるかもしれませんね」


「そう思うかピナリア?」


 竜騎兵部隊副長、ピナリアの何気ない言葉に、アイゼナは彼方を睨みつけてそう答える。


「…………!」


 ふと、飛竜達が食事の合間に、同じ方向を睨んでいるのを見るピナリア。


「分かっているのだ、飛竜は。

 のんびりする暇がない、とな」


 アイゼナも彼らと同じ方向を見ている。

 そんなアイゼナを見ていると、ふと、ピュイー、という何かの鳴き声が聞こえる。


 アイゼナと飛竜達の見ていた方向。

 大量の鳥の群れが、こちらへやってきた。


「これは……!」


 バサバサ、と小鳥からワシまで、あらゆる鳥達が上空の太陽を覆い隠すほどの大移動を始めている。


 グルルル……!


 飛竜達もせわしなくなり始め、吠え立てたり勝手に動こうとし始める。


「大物だぞ、これは!

 何が来るかは分からないが、急いで偵察飛行へ向かう!!」


「りょ、了解!」


 いよいよ、慌ただしくなってきた。


      ***


 HALMIT大会議室。


「地質学者兼掘削技師のテトラ、今回の第一発見者でーす。

 単刀直入に言うと、地面の中を馬鹿でかい震源が毎時17kmでこっち向かってんだってーことです。

 オイラんラボのお手製地震計が捉えちまったんでーす」


 いくつかの専門学者達が一同に集まり、自分の持てる限り持ってきた資料と自動詠唱機のデータなどを持ち寄り、通信で城の元老会議室とともに作戦を立てていた。


「地震計のデータを計算する限り、敵の大きさは、推定60mぐらいだと思いますじぇ〜」


『邪巨神だとしても大きいな。なぜそう言えるのか根拠を聞きたい』


「ま、簡単に言うと、地震計は振動を感知するモンなんだけンど、震源の移動速度と深さと感知してる振動の強さの差を計算すっと大体その大きさじゃねーと計算合わないんでさ、です」


 将軍相手に、慣れない敬語で説明するテトラは、あー、ただ、とこう付け加える。


「ただ、元々、地震予測用の装置なもンで精度がクッソわりーんもんで、いまいち確定情報は出せねーのが現状ですだわさ」


『不確定な情報では、作戦の立案が不可能だ。何とかならんか?』


「ンナァこた百も千も承知だっつーのです!!

 あー、面倒くせ〜な、生物学者ぁ!

 なんかいい知恵ねーかぁ??」


「未確認生物学者のジョナスです!

 現状では情報が少なすぎます。


 なので、まずは敵の正体を知るべく、敵を地上に出す作戦を提案します!」


 話を振られていの一番に手をあげるジョナス。


『地上に出た場合、移動速度が速くなる可能性もある。

 砲兵の配備が出来ていない以上、危険を冒すリスクは避けたいのがこちらの意見だが、魔法博士としてはそこのリスクの上で何故そう立案する?』


「それに関しては……レリック君、頼む」


 と、横にいた恐ろしい姿の怪物が、背中の鋭い爪を持つ前脚ではない腕を使い、器用にタブレットを操作し始める。


「生物学者、レリックでス」


 まるで人を食い殺しそうな口でそう名乗り、向こうの会議室の人間は皆が『え、魔法博士だったのか?』と言わんばかりの顔を見せる中、静かに長大なゾウに似た牙と竜種の様な肉食獣そのもの口を器用に動かして喋り始める。


「地下ニ住む生物とイウのは、大抵『視覚』でハナく、『振動』デものヲ『見テ』いマス。

 トなレバ『大きな振動』で何カ『リアクション』ォ起こすハズでス」


『……り、リアクション、とは?』


「グルル…………恐ラク『二択』、『逃走』か『追従』デす。

 ドチラにせヨ、飛竜種ヨリ早く飛ぶ事ハ不可能。

 進行を『コントロール』出来ル筈』


 なるほど、と偏見承知とはいえ、見た目に似合わない分かりやすい案が彼……彼女?から出される。


『……そういう事であれば、

 陛下、偵察中の竜騎兵部隊に連絡して、地上を爆撃してみましょう。

 敵のリアクションによって、その進行をコントロール。

 敵の全容を掴んだのちに防衛ラインの構築完了後、おびき寄せて攻撃。


 そういう作戦で行きますがよろしいですか?』


『私に異論はない。まずはそれで行こう。

 魔法博士諸君、他に何かあるかね?』


「「「「映像通信をこちらにも回してください!!!」」」」


 生物学者一同は、そう叫んだ。


       ***


 砦より50キロ地点、

 上空から見れば、一筋の谷が出来るように地中を何かが進む


「通信は聞いたな!?

 竜騎兵部隊、散開して『上級炎魔法メテオボルグ』を叩き込め!!」


 追従する竜騎兵達は、即座に魔法を放つ。

 地面に爆煙が上がり、まさに大地を焼いていく中、


 突如、地面が下から爆ぜる。


 ━━━━グォォォォォォォォォッ!!


       ***


「出てきたァ━━━━ッ!!!」


「あーッ!?あ、あ、ああーっ!?!?!?」


 映像がHALMITに流れた瞬間、奇声に近い声を上げて、机の上のさらに小さな机から転げ落ちる妖精種の一人がいた。


「どうしたんだラフィールさん!!」


「あれ、『旧支配者』!!!

 ゴルザウルスだよ、分かんないの!?!」


 バサバサと小さな身体で書類をかき分け、一枚の絵を取り出す。


 映像に映る邪巨神と、同じ骨格の復元図だった。


「あぁ!?!ゴルザウルスか!!」


『ゴルザウルス??』


「おっと、わたし古生物学者のラフィールです!!!

 あの、アレはゴルザウルス!!


 化石の見つかっている邪巨神、分類上『旧支配者』って呼んでいるもので、その…………あー、そういう事か!」


『どういう事だ!?」


「アレは、見つかったどの化石も、『不自然な年代の地層』だったり、『二つの年代をまたがった地層』だったりするんです!!」


「そう!いわば、飛竜の死体がレンガの中に埋められて出土するような『不自然さ』!

 誰かがわざわざ掘って埋めたんじゃないかと言うような化石は、そうか……!!」


「地面を自分から掘っていたんだ……!」


 映像の巨大な竜のような邪巨神━━━ゴルザウルスは、二足の強靭な足で地面を蹴り上げるよう地上へと出てくる。


 強靭な腕、固そうな体表、そして硬質そうなトサカのような形状の頭には光り輝く器官を備えている。


「実物の迫力は凄い……!」


「つーかナァ〜〜……オイラ生物学初心者だけどさ、??」


 たしかに、と生物学の権威達に衝撃が走る。


「何故……?ドウやっテ、穴を掘ッタ?」


「おかしいよ!ワームみたいに土ごと食べて進んでいるわけでもなく!」


「腕の形状からモグラのように掘っているわけでもないッ!!」


「「「あんな巨大な穴を掘れるのはなんでだ!?!」」」


       ***


 ゴルザウルスは、屈強な腕で適当なその辺の丘を破壊する。

 思い脚をズンズンと動かし、先ほどと同じルートを進んでいた。


「姫様、どうします?」


「足止めできると思うか?

 見る限り、体表が岩同然だ」


 ピナリアの言葉に短くそう答えるアイゼナ。

 岩のような、と言うことは飛竜の火力やアイゼナの得意とする雷魔法は相性がとても悪い。


「と言うか、アイツ意外と小さいですね」


「充分大きいだろう。小山はある」


「いえ、通信では、体長60mと言われていますが……しっぽまでは40、全高は27ぐらいしかない気もします」


「だから、充分大きいだろう?」


 しかし、と言った瞬間、ふとゴルザウルスの視線がこちらを捉える。


 グルルルルル……


 そのゴルザウルスの頭部、トサカのような部分の付け根の光り輝く器官の光が強くなる。


 ……ィィィィィィィィィィ、


「?

 なんの音だ?」


「?」


 ふと、音叉の音のような音が響き渡る。


 ━━━━グルルァァァッ!!


「ぐっ……!?」


「耳が……あ、頭ごと揺れるような?」


 咆哮とともに、その音はより強く響き渡り、耳を覆いたくなるような振動とかしていく。


       ***


「なんだ、この音は?」


 HALMIT大会議室へも、通信機を伝いそれは響き渡る。


「…………◎×◇◇◎×××?」


「ん?」


 ふと、会議室の左端にいた、黒い触手の生えた陰のような何か━━━魔法博士、種族不明のアノ(※そうとしか聞こえないのでそうみんな呼んでいる)が、人間種ではまず発音できない声で何かを言う。


「◇◎◇◇◎××◇◇◎×◇◇◇◇◎◇◎×××◇◎……」


「あの、アノさん?翻訳機のスイッチ切れてる」


「『すまない。興奮して忘れていた』。」


 手元のタブレットの魔法を発動し、機械合成された声で喋り始める。


「『生物学は専門外だが、あの現象は物理学の範囲だよ。


 アレは、『超振動波』。

 そう表現するのがいいだろう』」


「超振動波……?」


「『土の液状化はおそらく地質学ではよく聞く現象のはずだ。

 大抵は多量の水を含んだ荒い土が、粘土質の土と剥離して流れ出る『土石流』のような。


 アレはおそらく、信じられないほどの振動によって土の粒子を振るわせる事で擬似的に液状化させ土の中を『泳ぐため』の器官だ』」


 ほう、と言われるさなか、アノは腕に当たる触手を動かしてタブレットを操作する。


「『物質には固有の振動数を持ち、それと同じ振動を当てれば大抵の物質を破壊できる。

 仮にそれで破壊できない物があるのなら、今のところ分子間結合に電磁力以外に魔力を使う事で、内部を擬似的に『結界』を作っている超合金スーパーオリハルコンだけだ。

 アレの前ではどんな硬い岩も一瞬で砂に変えられる』」


「それで、地面を掘ったのは分かったが……いや、それ以上にまず聞きたいことがある!

 もしかして……」


 そろそろスピーカーが拾えないほどの周波数になったのか、唐突に音が消える。

 代わりに映る映像にノイズが入り始め、質問したジョナスはこう尋ねた。



「もしかして、それを攻撃に転用出来たりは……??」


「『できる!確証と言うわけではないが、私ならばそれを攻撃に使う!!』」


       ***


 キィィィィィッ!!!!


「クッソ!!うるさ過ぎる!!まともに近づけん!!」


「よく聞こえなかったのですが、姫様あまりそう言う言葉は使わない方が!!」


 飛竜が飛ぶのにも支障をきたす振動。


 その主が、一瞬空中でホバリングして動きを止めた竜騎兵に視線を向ける。


「!!!

 馬鹿者、今すぐ動け!!!」


 額の水晶器官より、光線のような何かが放たれた。

 直撃、そして飛竜の強固な外皮が一瞬ひび割れ、落ちていく。


「━━━ッ!」


 そして、ゴルザウルスはその額から放つ光線を適当な丘へと撃ち放つ。

 振動とともに、砂となり崩れ落ち、丘だった場所は平に近い砂場と化す。


「…………なんて言うやつだ……!」


「ダメですどう見てもあっちは……即死、です……!」


 クッ、とあぶみに拳を叩きつける。


「どうしろと言うのだ、この邪巨神を……!」


       ***


「『ちょ……超振動波に指向性を持たせ…………撃った……???』」


 映像の様子に、皆青ざめた顔を見せる。

 人ひとりが死んだ、以上にこのゴルザウルスと言う邪巨神の能力に恐怖したのだ。


「…………アノさん、」


 ふと、ずっと静かに見ていたパンツィアが言葉を漏らす。


「『何かね、学院長?』」


「超振動波は、砂や岩に対してもっとも効果を発揮する、という認識で良いのですね?」


「『ああ……スーパーオリハルコンでも無ければ防げない』」


「では……陛下、防衛ラインはもはや無意味です。

 砦の材質は、資料によれば8割がレンガ。厚さ3mの壁といえど、もはや意味はありません」


『…………何が言いたい』


「砲兵を撤退させてください。

 全滅ならまだマシです……壊滅、いや消滅もあり得ます」


『…………もしも、撤退した場合……ここが、危ない…………』


「…………陛下、私は、軍事は素人、専門外です。故に、これからの言葉には、そう言う要素を排除した、私の意見でしかありません」


『言葉を慎め魔法博士!今撤退などすれば、』


「一度しか言いません。


 5分逃げる時間を稼ぐ代わりに兵が全て死ぬと言うのが今行なっている選択肢です」


『辞めろ!!言うな……!!

 兵の長たる私が、私が一番分かっていることなのだ!!』


 パンツィアの言葉に、涙ながら将軍が声を荒げて言う。


「……私からは今のところ以上です。

 対策は考え続けます」


『何とか、ならないのか?』


「……」


 生物学、物理学、その他すべての学問の徒。

 その全員が、どうしようもない、という顔を見せる。


『…………5分稼ぎましょう…………

 首都の避難の開始を…………』


 将軍の言葉を皮切りに、周りの魔法博士たちはそれでも、とあらゆる方法を個別に議論を始める。


「…………あれ?」


 ふと、意気消沈したせいか変に思考がクリアになり、気づく。


「帰ってきているはずのシャーカさんに……そういえば、カーペルトさんも…………」


 ふと、会議室を見回し、ある人物を見つける。


「アヴィディルさん!」


「ああ、学院長殿!どうされたかな?」


「シャーカさん、あと前国王知りませんか?」


「何!?

 何も言っていないのですか、あの二人は!?」


 慌てた様子のアヴィディルは、すぐにこう説明する。


「あの二人は、先ほどケンズォ氏の迎えに行ったのです!!」


「…………、━━━━━ッ!?!」


 最悪な事態だった。


 何故なら、




 かつて自分が住んでいた森は、現在邪巨神が進んでいる方角の直線上に位置し、

 防衛ラインの場所からあまりにも近かったのだ。


「ピエールさん!!ピエールさんはいますか!?!」


「おう、どうしたのかね!?」


「少しの間ここの最高責任者を任せます!!」


「なんと!?緊急事態かね!?」


「ロクデナシの所にシャーカさんたちが!!」


「迎えにいくのか!?」


 そう、と言ったが聞こえたかどうか。

 パンツィアは超特急で走り出す。


 ここから向かうなら、一度自分の研究施設へ行った方が速い。


 ━━━ウィンガーは狭いが、4人は詰め込める!


       ***


 瞬殺、とはまさにこう言う事である。


 砦は、砲の射程圏内に入った瞬間、超振動波を受けて瞬く間に砂の大地と化した。


 そう、瞬殺とはまさにこう言う事である。


 悠々自適な足取りで、ゴルザウルスは森のある方角へ進んでいく。

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