act.5:此度の栄誉魔法博士卿



「さて皆!!コレより私ことクレド17世の名の下に、『賢者会議』出席者の中より『栄誉魔法博士卿』の指名をさせてもらおう!!」


 夕方、賢者の宮殿の中にて、クレド王の言葉が響く。


 賢者会議は、魔法博士達の研究の発表の場であると同時に、その中でもブレイディア国王自らが最も注目し、ふさわしいと判断した魔法博士には、『栄誉魔法博士卿』という称号と共に、何かが贈られる事がある。


 それなりの権威がある肩書きと、場合によっては一生研究し続けられる資金や、人によっては高位の貴族や王族に連なる家へ嫁ぐ事になったりと、何かしら『いい事』がある物なのだ。


「今年こそケンズォ氏か……?」


「偉大な魔法博士にして真の賢者だが、アレに権力と資金を与えても、その……アレでは?」


 今、片隅でケンズォの心をブッスリと貫いた鋭い槍のような言葉通り、実はケンズォはこの国が建国して賢者会議を続けて以来、ずっと出ており、世界を変えるような研究結果もいくつか出しているにもかかわらず、全くその栄誉を貰っていない。


 当たり前である。



此度こたびは……それなりの騒動もあったが皆、中々私でも理解しづらいが、間違いなくこの世を変えてしまう恐ろしくも素晴らしい研究の成果を出してくれた」


 改まって言われた全員が、表情を引き締める。


「数を数えるだけであらゆることのできる機械、神の力の模倣、魔力が底なしなほど組み上げられる魔導炉……オリハルコンの再現やそれを超える新たなオリハルコン。

 甲乙つけがたい。


 だからこそ……少し心苦しいが、個人的な感情で贔屓をさせてもらう」


 ふと、カツカツと歩きはじめるクレド。

 すぐに周りは誰かへ向かっていると気付いて視線をそちらへ向ける。


「……新たな力の源を作る。

 そして、それまで最強の硬さを持った鉄を作る。

 なんと偉大な事か。コレで歴史は大きく変わるだろう」


 クレドはケンズォの目の前で足を止めた。


「おぉ……!!」


「とうとう、彼が……!」


 周りのざわめきも何も、当の本人には聞こえず、ただただまさかという喜びに震えていた。


「━━━だが、」


 しかし、クレドは一歩ケンズォから離れる。

 え、という理解の追いつかない顔を一瞥いちべつもせず、クレドは続ける。


「私としては、それら祖父であり大師匠の物を自分の物に落とし込み、天空の神の土地を浮かばせる技術、進む為の機構を、そんな彼の為に使った君が、コレにはふさわしいと思った」


 え、とケンズォの隣━━━そう、パンツィアの顔が驚きに染まる。


「おめでとう、パンツィア・ヘルムス栄誉魔法博士卿。

 私は、若く才能に溢れ、それでいて誠実に自らの研究を使った君に、これを送ろう」


 歓声。そして拍手。

 素直に驚き、隣でなんとも言えない無表情で立ち尽くすケンズォを横目に、とりあえず「ありがとうございます……」と声を絞り出した。


「え、えあっと…………」


「シャキッとしろ!栄誉魔法博士卿!」


 頭が真っ白になりかけた所に、アイゼナが背中を叩きようやく頭が回る。


「あ……重ねてありがとうございます……非常に光栄です、飛び入り同然だったのに」


「物理的に飛んできたのが今でも実は信じられん。愛娘の竜を振り切ったのもな!」


「お言葉ですが国王陛下、

 次は負けません」


「フッ……まぁいい。

 ところで、栄誉魔法博士卿の授与者には、ささやかながらも、贈り物が与えられる。

 希望は、あるか?」


「はい、それでしたら……思い切って二つだけあります!!」


 まだ緊張しているのか、やや早口にパンツィアはそう言い放つ。


「内容を聞かせてもらおう」


「はい。

 一つ目は……コウシ湖の湖畔、山の崖の近く……『知恵の竜宮』の一帯をください!使わせてくれるだけでも良いです!」


 ほう、と驚くクレド。


 『知恵の竜宮』とは俗称で、この国の湖の上流にあたる、川の流れ込む崖の近くの要塞ダンジョンの事を指す。

 かつては、魔王諸国連合の領土だったためにこういうダンジョン跡地は数多いここの中でも、最大級の広さを持つ。

 最も、生活拠点や観光名所、そのまま王国側の要塞に使われているダンジョンと違い、ある『モンスター』のせいで手付かずであり、場所も場所でまず必要がない余った土地同然なのだが……


「いっそ、利用価値もないからな……そうか、『アレ』に挑む気か……

 まぁ別に構わない。


 詳しい話はもう一つを聞いてからしよう」


「ありがとうございます」


「それでもう一つは?」


「そこで研究所を開く許可を頂きたいんです」


 一瞬、周りも含め、死んだ魚のような目で立ち尽くすケンズォ以外の頭に疑問符が浮かぶ。


「そのぐらいは許可を取る必要もあるまい。今の君の家では不満だったのか?」


「そうじゃないんです……私だけじゃなくって、」


 次の瞬間発した言葉は、ますます周りに疑問符が浮かぶ。




「出来ればこの場で参加しても良い、と言える人、全員が研究できるような、そんな大規模な研究所を作りたいんです」




「何!?!」


 ざわめく、余りの突拍子のない考えに。


「待て待て、私も王としてそれなりの教養はある。

 だがまずは、順番に話してくれ」


「はい……


 そもそも、ウィンガー……あの飛行機械は、お爺ちゃんケンズォの研究、そしてそこのシャーカさん、その他論文を世に出した人達の協力や模倣あって、ようやく空が飛べたものです」


 パンツィアは、今一度周りを見回しながら言う。


「だから、実はいくつか文通や、新技術同然の方法、魔法石通信機などでやり取りをし続けて、あと少しだけ無理をしてようやく今日出せた、ギリギリでツギハギ同然の物。

 もしかしたら、聞いた時点では未完成だった事もあるはずですし、さっき顔合わせでそう言うものも実際あって……それらも早く分かれば完成度を上げられたと個人的には思っています」


「……なるほど、それで?」


「通信技術は、少しづつ発展していますが、それでも普及は結局輸送速度……馬や竜の速度をまだ超えられません。

 ……勝手かもしれませんが、私の研究の参考になるであろう、この場の皆さんやまだ見ぬ魔法博士達に、私は意見の交換や助言が欲しいんです。


 もちろん、頼まれれば私も協力し、場合によっては手伝います」


「待ってくれ、君の提案は塾考の余地はあるが、共同研究は基本デリケートな部分がある!」


 ふと、一人の魔法博士が手を上げてそう意見を言う。


「無論、中には功名心が焦り、研究を盗むような人間もいるかもしれない。


 分かってます。

 分かった上で、私は自分や皆さんのような魔法博士達の可能性に賭けたいんです」


「何故だ!?私は君のように素晴らしい結果や栄誉は貰えなかった人間だ!なんの参考になる!?」


「今は参考にならなくてもいずれ参考になるかもしれない。


 私達は私達、人る……人間種や亜人種、神、魔族、そんな垣根は関係なく、いつか何かに役立つかもしれないことに、何になるかも分からない物に興味を持ち、研究するような生き物。


 それがそもそも魔法博士というものの筈です」


「それは分かるが……」


「何より現実的理由にして、


 出来れば爆発しても文句を言わない、文句は言っても辞めろと言わない、辞めろと言っても根拠を示し、それでも意地を通せば別の視点からアドバイスなり反証なりしてくれた人間が隣にいないと、


 我々は、一人で家を破壊して近所には『ああ、なんか学者さんが家を壊して死んだな、怖い怖い』って言われて終わり。


 なんで爆発したかも調べてくれず、自分のやった事は誰も語り継がないなんていう、悲しい出来事は減る筈です」


 一部、この長い説明に疑問符を浮かべる人間の中、その大半は顔を完全に無表情に変え、また少なくない人間が「あ〜」で言いそうな口の形で頷く。



「……今回、栄誉ある賞を国王陛下の信頼の元に承った私でも…………


 実際の所、整備を夜、実験を昼にやらなければ……本当は夜通しやりたいのですが、森の中に住んでいるにも関わらず、街には鶏がわりの目覚ましにされ…………

 その……先程今の場所に不満があるかと聞かれた陛下のお言葉通り…………


 不満というか、これ以上街のすぐ近くであんな事するのも忍びなく……」


「確かに、たまにうるさいとは思っていた。城でそうなら街はもう少しうるさいだろう」


「はい…………で、切実に研究場所は師のケンズォ以上に必要だったのと、先程の話の続きになりますが、おそらくこの場の少なくない人間は…………


 ボヤ騒ぎで斧を持った住人がやってきて心配されたり、黒魔術の儀式で悪魔を呼び出したという前時代的な事で焼かれかけたり、調合ミスで毒ガス発生、釜の温度ミスで吹っ飛んだ屋根が隣の農家の柵を壊して羊を逃がし、」




「止めろ!!!


 周りをよく見てみろ!!

 良い子ちゃんの凡骨研究者以外の変人と変態と天才のオレが皆揃って震えているか顔面蒼白だ!!」


「ウプ……!」


「隣で吐くなクソがぁ!!」





 ね、とパンツィアの無言の言葉通り、思った以上の数の魔法博士、が精神的な負荷により皆体調不良を起こしている。


 心当たりはある筈なのだ。


「…………急に崇高な理念を諦めたかと心配になったが、

 そうか、もっと心配な出来事があったのだな」


「陛下、私は前述した綺麗事が、心の底からの一番の理由ですが、

 二番目の方が周りにとっては洒落にならないほど深刻なんです。

 この中には、私の研究の助けになる人たちもいますが、今すぐ好き勝手実験しても壊れない実験室と、周りにかけた迷惑を、まだ個人の穏便な手段で落とし込んでくれ、死んだ場合原因をまとめて後世に活かせるよう残してくれる人が必要なんです」


「……だからダンジョンにしたのか……

 元は魔族が亜人種と幻想種や同族を操り曲がりなりにも生活していた拠点だ……」


「その上、滅多なことでは倒壊せず……


 何かあった時にも封印できます」


「よし良いだろう、私は許可しよう!

 だが無論、研究結果は我が国に優先的に開示する事と……もう一つ」


 と、話しにくい事なのか、クレド王が耳元で囁く。


「━━━、という事だ。人は用意する」


「願ったりです。私の理念通りですし」


「よし、私は許可したぞ!

 だが……周りはどうするかは、残念だが周り次第だ。

 そうなればあの巨大なダンジョンはほぼ君だけの物になるな」


「覚悟の上です」


 改めて、パンツィアは周りの魔法博士達へ向き直る。


「……強制するような権威も、まだ一緒にやって見たいと言われるほどの研究でもないです。


 予算に関しても……


 あげられる物は、恐らく広い場所だけ。


 ……それでもいい、というのであれば、どうかお願いします。


 私は、パンツィア・ヘルムスは、


 そんな、まだ魔法博士としても未熟だからこそ、やってみたいんです。

 さっきの現実的な理由も、理想も全部、全部織り込んだ上でそう思っています。


 ……皆さんも、最初になにか偉業を成し遂げた時には、誰か分かる人間にいの一番に聞いて欲しいじゃないですか。


 ……えっと、上手く言えなくってごめんなさい。

 ただ……そんな風に考えたんです。

 よろしければ、皆さんも検討をお願いします」


 そうして、最後に頭を下げて、パンツィアの言葉は終わった。



      ***


 晩餐会を欠席して、パンツィアはウィンガーのカバーを戻していた。


「大それた事言うよね」


 ふと、背後でふて腐れていたケンズォが言う。


「ごめんお爺ちゃん」


「まぁ栄誉魔法博士卿もらっちゃあ、大それた事言いたくはなるさ、栄誉魔法博士卿じゃあね」


「そっちもごめんお爺ちゃん」


「もって何さ!?も!?

 そっちを気にしてよもぉ〜!!」


 うわーん、と大げさに泣く2000歳児。

 しかしまぁ、攻めることも出来ず、パンツィアはようやくハッチを閉める。


「━━━━行くのか?」


 ふと、横から聞こえる声。


「おや、カーペルト君じゃないか」


「フッ、ジジイや久しいの。

 こっちはシワが増えたって言うのに、お前さん顔だけは良いから羨ましいわい」


「カーペルトさん……!」


「ようやく陛下が取れたな、パンツィア。それでこそ儂のライバルじゃわい!」


「ライバ……!?

 そんな、おこがましいですよ……」


「シャキッとせんかい!!儂より先に空を飛んで置いてからに!」


 ぱん、と老人とは思えぬ力強さで肩を叩かれる。


「……でも、結構推進器はカーペルトさんのアレコレの影響も大きいですし……」


「しっとるわい。じゃからこうして、お前さんの案に同意すると先んじて言いに来たのじゃ」


 え、と驚くなか、そろそろと近づく影がもう一つ。


「…………わ、私も手を上げていいですかー……?」


「シャーカさん!」


 気弱さしか感じぬエルフの顔……シャーカの顔がそこにある。


「……パンツィアちゃん……その操作系、さっきこっそり見ちゃった……」


「あ、」


「……使ってくれたんだね……遅延魔法陣版に……私の『自動詠唱機』……」


「ありがとうございます。結構助かっ」


「アレを機械の操作系統に使う発想ね、私……全然思い浮かばなかったの…………」


 ポツリ、とそう言葉を紡ぐ。


「私、ね……気が弱くて……口下手で……人前だと詠唱一つ出来なくって…………それで、詠唱しなくても、無詠唱魔法が苦手でも誰でも使えるような…………そんな物を目指して二つを作ったんだ……」


「…………」


「だけどね……?それって…………凄いことだけど、練習すればいいことなんじゃないかって…………当たり前だけど…………詠唱しない魔法なんて、今じゃいろんな方法がある、それもこんなの使う必要無いんじゃないなって……ずっと思ってた……


 ウィンガー凄いよね、うん……私なんかよりずっと歳下で…………なのに、私以上に私の研究……上手く飛ぶために使ってくれて……」


「それも……シャーカさんのお陰です」


「そう言ってもらえて、そうやって使ってもらえて、私……救われたの、うん……」


 いそいそ、とパンツィアの両手を握り、はにかむように笑う。


「……お願い、一緒に研究しよ。

 歳下だとか、歳上だとか……エルフとか人間とかは関係ないんだよね……?


 私ね……昼間のホタルみたいに影がうすいし……地味な研究ばっかりだけど……

 ……絶対、誰かに役立てるって……今日、確信したんだ……!」


「シャーカさん……!」


 断る理由は、元よりない。

 ただ力強くパンツィアはうなづいた。


「……まずは、場所の確保をしないと。

 明日朝一番に、『知恵の竜宮』を使える状態にしに行くつもりです。

 ほら、シャーカさんの研究室になりそうな小部屋も探さないといけないですしね?」


「!ありがとう……!

 私も……行こうか?」


「たしかに……例の問題は、知恵が多ければ多いほど良いですし」


「おっと、ところでお二人さん。最初に声を上げたワシの研究室は広く頑丈なのが良いんじゃがな?」


 と、カーペルトが少し格好つけた表情でそう言葉を紡ぐ。


「カーペルトさん……!」


「王国の研究室は手狭な上に、家臣やら何やらがうるさくてかなわん。

 なんせ、ワシの研究は爆発するのが前提じゃ、ちょうどええじゃろ」


「━━━ところでそこはまだ空きがあるかい?」


 ふと、別の方角からそんな声が響く。


「あなた達は……!」


「ジャン・ピエール。やはり一度では覚えていただけないか」


 あの柱みたいな髪をもつ逞しい男、ジャン・ピエールと、何故か隣にはムスッとした顔でこちらを見るアンナリージュがいた。


「君の考え、感動したよ。本当だ。

 存外、研究というのは多く、誰かの続きである場合や、その他多数の魔法博士達が積み上げて来た結果をまとめたものも多い。

 一つの大規模な研究所という形でそう言った物を多く生み出す基盤を作る。

 君はそう言いたいのだろう?」


「ええ、ですが……まだ用意できるのは場所ぐらいです」


「場所は十分な資産だ。

 私はそれにかけたい」


「失礼ですが……なんでそこまで?」


 パンツィアは、どうしても思ってしまう疑問を相手にぶつけて見る。

 すると、ピエールは、ふ、と気障ったらしく笑う。


「……死の商人だなんだ言われてはいるが、私は子供だった頃からその生き方は一つの思いしかない」


「?」


「それは、『興味を持ったことはとことんやってみたい』だ」


 思っても見なかった言葉は、真剣な眼差しとともにやってきた。


「大砲をしっかり当たるようにしたい、最高の魔法の杖が欲しい、神様の能力を自分で使って見たい。


 子供っぽい気持ちは重々承知だが、

 私は常に本気だ。


 次にやりたい事は何か?

 そう、自分の作ったものでも砕けなかった金属に完璧に勝つ事だ。


 そんな中さっきの君の意見、私は非常に興味を持ってしまった。


 才能を刺激する出会いがありそうだ、現実的に売れる発明もできそうだ……


 やって見たいんだよ、君の意見を、私は……!」


 すとパンツィアの背の高さに視線を合わせ、腰を落として視線を合わせる。


「頼む。参加させて欲しい。

 国家予算のアテもあるだろうが、何分と国家とは融通がきかないものだろう?

 私もささやかながら予算を出したい。

 無論、多少の下心や融通もあるが、基本は皆に干渉しすぎるつもりはない。

 どうだろうか?」


 真剣な眼差しを受け、少し思案するパンツィア。


「……断るつもりはありません。

 ただ……あまり受け取る訳にも生きません。

 あなたも武器商人をしているなら理由は分かるはず」


「そういうと思ったさ。だが、受け入れていただいただけでもこちらとしては、大勝利だ」


「……言っておきますが、別に兵器転用されるだとか、そういうことを危惧している訳じゃないんです。

 ナイフでだって人は殺し合いが出来る。


 ただ問題は、機密。


 あなたの職業は、関わる人が多いのが利点でもあり、難点でもあるんです」


「機密……?ほうほう、さっき国王陛下に耳打ちされたのはそういう事か」


「それもありますしね。

 いざという時、あなたは秘密を守れますか?」


「いいだろう、必要なら書類にサインや印を押すし、なんなら呪術なりをかけるといい。

 私にだって言いたくはないことはある」


 がしり、と小さな自分の手と大きなピエールの手で握手を交わす。


「話は終わったか?

 長すぎてそろそろ寝ようかと思ったがな」


 ふと、背後でウィンガーのあの実験に使ったカバー部分の傷を触っていたアンナリージュが声をかける。


「え……あ、何を?」


「終わったな。じゃあ聞け。

 なんだこのクソみたいな物は?

 お前ら普通にオリハルコンを鋳造したな?」


 と、傷を見せながらそう口汚く言い放つ。


「それ鋳造したのは僕だけど、」


「オリハルコンの材料は重さが違う!!

 その上魔法石まで混ぜ込んだんなら、物質の偏りが出来るのが当たり前だろクソジジイ!

 こんなのでよくオレのオリハルコンが砕けたものだな、金属のど素人が!」


 酷い、と言うケンズォを一瞥して、再びパンツィアに向き直る。


「お前、そこの空を飛ぶ機械の機構を使わないのか?」


「へ?」


「っったく、脳みそにまで反重力魔法かけておいて、これを鋳造するときにコイツで極めて無重力の状態にして混ぜるっていう発想が出てこなかったのか、って言ってるんだ、理解しろ羽根なしトリ女」


 あ、とようやく言わんとする事を理解した。


「そっか、一応そういう使い方もできる……!」


「オリハルコンは神の金属とも文献で言われていた。

 オレもありとあらゆる方法で均一に混ぜる方法を探ってはいたが、恐らくはお前が作った反重力魔法の装置が答えだ。

 どっちも神の物だからな」


「すごい、そこまで気づけるなんて……」


「ハッ!!年季が違うんだよ小娘、オレは何年錬金術に捧げてると思ってやがる?」


「僕の記憶だと、千五ひゃ」


「ここのボケ老人の言葉は忘れろ」


 慎重さを生かした金的で一撃でケンズォを黙らせたアンナリージュだった。


「で?」


「で……?」


「鈍い奴だ、オレの研究室の話をしている。

 出来れば見晴らしが良くて暑くもなく寒くもない場所がいいと言っている」


 え、と言った瞬間、胸倉を掴まれ下へと顔を向けさせられるパンツィア。


「お前の突拍子のない話だがな、オレは気に入った。

 ハッ……嫌だと言っても住み着いてやる、とっとと根城を手に入れろ!」


 意外なセリフにたじろぐものの、どうも本気らしい獰猛な笑みでアンナリージュは言い放った。


「あはは……はい」


「凄い事になったねぇ、パンツィア。

 僕も多分、今なんか股が凄い事になってそうでちょっと医者を呼んで欲しいんだけど」


 うずくまったまま震える声でケンズォが言うが、全く冗談ではない状況だった。


 なんせ……


「ところで、我々の他にも話に乗りたい、っていう人間がいるようだな?」


 ピエールの言葉通り、気がつけば物陰から遠くから、ぞろぞろとさっきまで顔を合わせていた魔法博士達が出てきていたのだ。


「…………思惑通り過ぎても、驚くもんだねお爺ちゃん」


「そうだね、僕もうおばあちゃんかもしれないけど」


 苦笑いだ。そういえば、この世界に来る前の小説にもこういう話があった気もする。


「……トントン拍子過ぎて実感もわかないけど……じゃ、やりますか!」


 しかし、と気持ちを切り替える。

 言い出しっぺがリーダーの法則、ならまず動くべきは自分。


 まずは……例の『知恵の竜宮』を完全に物にする算段をまとめる事にした。



       ***


 そうして、2年の時が過ぎた。

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