エピローグ:その力は神にも悪魔にもなれる


 蹂躙された首都から、少し離れた場所にて。


「━━━━いざとなれば、と傍で見ていたが。

 存外、やるものだな」


 広げたマットの上、帰りがけに買っておいた弁当をもくもく食べる、二人の魔王。


 雷竜魔王ネリス

 駿刃魔王タニア


 二人は、今の今までその様子をただただ見ていた。


「手、出しても良かったけど……私達やり過ぎちゃうだろうしね」


「うむ。もはや、五百年も前とは違う。

 お前と違って余も無駄な犠牲は嫌イダダダダダダ!?!」


「一言余計だし、私も身内には優しいからね」


「優しく無い!!

 よの頬が歪んだらどうするのだ!?」


 ふぅ、とお互い一息ついて、立ち上がる。


「ところで決めたぞ」


「何を?」


「余の領地に、HALMITと似たものを作る!」


「なんで?」


「お前はアレを見て何も感じなかったか?

 今時代は変わろうとしているのだ。

 いや、二年前より既に時代は大きく動いている」


 再び、街を守った巨人を見るネリス。


「動力革命により、大陸の地図は小さくなった。

 もはや、機械の力は我ら魔王へ匹敵し、数年以内に越えるだろう。

 その流れを逃せば、我ら魔族は、もはやただの原始人よ」


「でも、私達だって、昔っから人間なんかには負けてない技術力が」


「『あった』と言いたいのか?

 だからお前は阿呆なのだタニア」


 一瞬、凄まじい殺気とともに、右腕に回転する魔力の刃を展開し放つタニア。


 避けた大地に大きく穴を開けるのを見やり、なおも心から殺す気を向ける友のその腕を踏みつける。


「グッ!?!」


「お前の沸点の低さなんぞいつものことよ。別に殺そうとしたことなぞ攻めるつもりはない」


「殺す……殺してやる、殺してやる……!!


「だが聞け。お前は頭は切れるし今もキレているだろうが……


 あった、などと過去形で語るな。


 我ら魔族、まだまだ人間に遅れを取るなどあり得ぬ!」


 聞いているのか聞いていないのかそのまま蹴り技を━━━━凄まじく薄く刃の様に練った魔力を展開した蹴り技を放ってくる。


 ブゥンッ!!!


 一瞬、周りの木々が衝撃波でざわざわとざわめく。


「フーッ!フーッ!!」


「はは、こやつめ」


 とっさに呼び出した愛用のハルバードで受け止めたネリスは、歯をむき出して息を切らすタニアの喉元を撫でる。


「少しは頭を冷やせ!!

 帰れば、やる事は多いのだぞ?」


「チィッ!!」


 ようやく離れたタニアを見て、笑いながらくるくると回るネリス。


「だが楽しみだぞ!

 ふふ……きっと魔族中の頭のいい、変わり者、鼻つまみ者、問題児に異端者、そんなのを煮詰めた魔窟を作ってみろ……


 邪巨神の2匹や3匹、楽に殺せるカッコいい兵器が作れるだろう!」


 というか、とピタリと、街にそびえる巨人をハルバードの穂先で指差す。




「余も、アレを作って乗ってみたい!!!」




       ***


「そうですか。まさか倒してしまうとは」


 カリカリ、と必要経費を捻出する書類を書きながら、アイザックは報告先の電話に答える。


「ブレイディア王はなんと?

 ほう!いえいえ、今代の対応の早さには私も驚きで。

 ほう……分かりました。では、書類仕事もあるのでこれで。

 ではまた〜」


 チン、と受話器を置いて、彼は少しだけ肩の力を抜く。


「いいぞ……!HALMIT周辺に隠れて投資をした甲斐がありそうだ……!

 兵器がよそで作られたということは、こちらはひたすら経済基盤を盤石にして、援助をする第3者でいれば儲かる!


 ふむ……だが、少しは戦います、ってアピールすべきかな……あ!」


 それも任せてしまうか、と言って、自分の書類の山々からメモを取り出す。


「さて、周りはどう動くか……魔王諸国連合が早いだろうけど、他には……」


       ***


「神父様、何をしているのですか?」


 ブレイディアの避難民の中、光の精霊教徒の神父が一人、映像記録気カメラを回していた。


「この映像を後に残さねばならないのです」


「なぜ……?」


「見なさい、この悲劇を。

 何があったかを、子供達に聞かせて、未来に役立てるのもまた、精霊様の御心なのです」


 周りは、酷い有様だった。

 瓦礫、倒壊した建物、そして……


「ああ、たしかに……

 神父様の趣味が役立ちますな……」


「あとで、持ってきたフィルムを見れば、元の街並みも直せましょう。

 こんな形で趣味が役立つとは……」


「ありがたいですよ……どこに何が立ってたか分かりませんしな……」


 ええ、と町民へ答える神父のカメラが……


 静かに、ブレイガーOを映す。








「━━━同じものを作れるか?」


 聖マルティア国首都にそびえる、聖マルティア大聖堂内部、


 教皇タラニア12世は、そう言葉を投げかけた。


「……映像を見る限りでは、同じものは作れるでしょう」


 送られてきたブレイガーOの映像を見て、科学技術省長官のアレクセイは、顔色の悪い吸血鬼種特有の顔でそう言葉を漏らす。


「そうか……」


「しかし、教皇様。

 同じものを作ったとて、見る限りではアレは欠陥品です。


 ならば、我々にすべき命令は一つ!


 どうか、アレを越えるものを作れ、とお命じください!」


「…………そうか、すまぬな……」


 す、と遮光カーテンを自分が外を見る分だけ開けて、外の様子を見る教皇。


「ならば命じよう。君のような信心深い科学者の言葉を信じているのだから」


「ありがとうございます」


「ただ……覗き見した物だけを元にするのも、また危険ではないのかね?」


「は……?」


「我々は、ブレイディアとは『友好国』なのだよ……

 それは、誰しもが国を操る以上、こうやって諜報もする。

 しかし、正式な手続きができるのであれば、そうした方が体裁も我々の心も守れるのだ」


「も、もしや、協力を仰ぐおつもりですか?」


「正規のルートで手に入れた設計図を元に、我々も改良した方が良かろう?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべたシワの深い顔に、思わず呆気にとられるアレクセイ。


「確かに、それがベストですが……」


「君は嫌かね?」


「はっきりと申し上げれば、教皇様?

 複雑ではあります、技術者のプライドもあります。

 ただ、できるなら確かに……」


「欲しいのだろう?なら手に入れよう。

 政治とはそういう仕事だ」


 再び席に戻り、深く座るタラニア。


「我々も、目下あの『目の上のたんこぶ』をなんとかしたいのだから」



 遮光カーテンの先、窓の向こう。




 巨大な、巨大な雪の結晶のような、


 半透明に輝く、水晶のような邪巨神が、空に浮かんでいた。



       ***


「あらあら、面白いことになっているわね〜」


 月が巨大に映る神殿、雲の上の大地、


 浮遊大陸にそびえる神の国、ヴァールハラ神国の一角で、ワインを片手に下界の見える泉を見ているフェイリアがそう呟いた。


「ねぇー?あなたの模造品がすごい活躍をしているわよー?」


 ふと、後ろにある神殿に声をかける。


 ………………


「もぉ、1万年前から相変わらずねぼすけさんね……」


 す、と一口ワインをすすり、神殿の奥を見て呟く。


 神殿の奥、一つのベットの上、

 うつ伏せになって、寝息すら微かな熟睡をする一柱の女神がいる。


「ねぇ、

 寝すぎるのも身体に毒よ?」


 かけた声は耳には届いているはずだが、その女神は全く目を覚まさず、寝返りを打つだけだった。


       ***





「━━━ と゛う゛し゛て゛そ゛ん゛な゛可゛愛゛い゛身゛体゛を゛こ゛こ゛ま゛で゛傷゛つ゛け゛ら゛れ゛る゛の゛ぉ゛!?」




 なんとか回収されたブレイガーOは、HALMITの、とりあえず地下第空洞へ置かれていた。


「痛い、痛いです!」


 そんな巨大な超合金の塊の横で、火傷の治療をされているパンツィアがいた。


「消゛毒゛し゛な゛き゛ゃ゛可゛愛゛い゛お゛手゛手゛が゛治゛ら゛な゛い゛し゛ゃ゛な゛い゛で゛す゛か゛も゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」


 治療しているビュティビュティは、最早さっきから半狂乱で一心不乱に適切な治療をしていた。


「大袈裟ですって、もぉ」


「そんなことありませんがご主人様?」


 ず、と突然背後に現れたノインの低い声に、ひゃい、と変な声が出る。


「あそこまでの『欠陥兵器』に搭乗した上に、回収のさいにキャノピーが開かず軽度の脱水に火傷……十分に死ぬ可能性もありました」


「そ゛う゛て゛す゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!

 パ゛ン゛ツ゛ィ゛ア゛ち゛ゃ゛ん゛か゛死゛ん゛た゛ら゛と゛考゛え゛る゛身゛に゛も゛な゛っ゛て゛く゛た゛さ゛い゛よ゛ぉ゛!!!」


「こちらのように、皆様が心配しているのです。

 不用意に、大袈裟などと言わないでくださいまし」


 流石にビュティビュティのような心配の仕方は大袈裟と思うが、ノインは正しい。


「……ごめんなさい……」


 素直に謝るのが、一番いい。


「はい。

 ではご主人様?スコーンと紅茶をどうぞ。

 疲労回復にはやはり甘いものと紅茶で」




「すまないが、先にこちらが要件をすませてもいいかな?」




 ふと、声の方角を見ると、クレドが立っていた。

 す、とノインが姿勢を正して下がると、こちらへゆっくりと歩いてくる。


「クレド陛下、早かったですね」


「最早会議を開く間もないほど忙しい。

 首都防衛はガラ空きだ、なにせだいぶ兵を失った」


「なるほど…………それで、私は何をすれば?」


 おそらく、その事だろうと思い言葉をかければ、クレドも分かっているが故にうなづく。


「すまないと思っているが、実は急を要する知らせがある。


 マルティアに邪巨神が出たと言ったが、我が領土にもまだ逃げた邪巨神がいるのは聞いているな?」


「はい」


「もう一体が、トレイルに出た」


「…………状況は最悪ですね」


「まだある。

 すでに、シャーカ副学園長には知らせたが、そのどれもが、どうもこちらへ進路を取っているらしい」


 流石に驚く。

 泣き面に蜂という、元の世界の諺を思い出していた。


「単刀直入に聞こう。

 どのぐらいでその、ブレイガーを修理できる?」


「では申し上げます。

 修理だけなら1日で終わるでしょう。


 でも、私はブレイガーOを『改修』しなければいけません。


 まともにやれば、年レベルの時間はかかります」


「それほどは、待てんぞ?」


「…………一週間です」


 何、と尋ねるクレドに、パンツィアは言い放つ。




「一週間。

 なんとか、一週間でブレイガーOを実用できるレベルまでに改修します。


 HALMITの総力を挙げて、必ず!」




 聞いていた周りが、呆気にとられた顔を思わずする。


 無茶だ……誰もがそうは思った。


 だが、時間がないのは事実だった。




「……信じよう」


「私も、それに答えてみせます」





 こうして、ブレイガーOの戦いが始まった。

 果たして、ブレイディアの未来はどうなるのか?



            第2章へ続くー

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