act.4:NEWウィンガー発進




 ブレイガーOの改修と同時並行して進められたウィンガーの完成度は、既に6割を超えていた。


「教授、この排気部分って……?」


「お、エドワードさん気づきましたか」


 残り4割の部分とも言える、エンジンも既に出来上がっていた。


 パンツィアの研究施設の一角にある、『風洞試験場』に運ばれて、最初のエンジンテストの段階である。


「ここの排気ノズルには二つの秘密があるんです。

 その一つが、」


 パンツィアが操作魔法を施すと、排気ノズルの部分が窄まり、そして上下左右に動き出す。


「「おぉ!?」」


 見ていたエドワードとデウシアが驚くのも無理はない。


「『可動型排気口ベクターノズル』です。

 これで排気の方向を変える事で、全翼機でも機動力を大きく高められるんです」


「排気自体に指向性を……!」


「なかなか画期的ねぇ!?!

 あら……?そういえば秘密は二つって?」


「知りたいか、女神様?」


 ふと、後ろに突然現れたカーペルトに思わずデウシアが振り向く。


「うぉ!?ちょ、カーペルトォ!!

 あなたその50年前から変わってない現れ方なんとかしなさい!!」


「ほっほっほ、いやぁついつい」


「カーペルトさん、向こうは終わったんですね?」


「もちろんじゃよ。

 だから、どうしてもエンジンの風洞試験を見たくて見たくて来たというわけじゃ!」


 ふっふっふ、と笑う二人に、なんだか期待と不安の混じった感覚を女神と青年は覚えた。





「このターボファンエンジンの構造を見た時から、ワシはピンと来たんじゃよ。

 長年ロケットエンジンを手がけたからこそ、思いついた機構にな」


 パンツィアがエンジン内蔵の反応魔導炉リアクトオーバードライブを立ち上げ、エンジン始動の準備に入る中でそう言うカーペルト。


「なかなか、ぶっ飛んでますが、お陰でジェットエンジン最大の難点を解決できました」


「ふっ……理論や予測はできた……さぁてさてお待ちかねの実験だな!」


 二人揃って、その顔は悪ガキのソレ。

 例えるなら林で落とし穴を掘って、嫌な奴を落とす前のあの顔だ。


「ふ、風洞試験は危ないから少し離れましょう??」


「そうですね。女神様が言うのなら間違いない」


 操作用の機械を前に嫌な予感しかさせない二人から離れ、そしてそのタイミングで悪ガキ二人は目を保護するゴーグルと耳あて骨振動マイクを装着する。


「ターボファンエンジン、予備起動状態からブラストオフ開始」


 クルクル回っていたタービンファンが、より強く唸りを上げ始める。

 振動がこの大きな建物を揺らし始めるが……思ったよりもその音は小さい。


『━━━よっしゃ!

 地上試験でも大分静音されてる!!』


『━━━つまり、予定通りジェット噴流速度は抑えられておるな!!』


 おもむろにパンツィアは手元の機械のレバーを上下し、壁に開いたジェット噴流を逃すトンネルへ向いた排気部分のノズルを動かす。


 噴流の向きを知るための耐熱凧の動きは、キチンと排気ノズルの方向に動いた。


『ベクターノズルもいい感じで!

 窄めれば……この通り勢いも変えられる!』


『パンツィア!!ではアレをやろうか!!』


『もちろん!

 でも、スイッチはカーペルトさんが』


『はっはっは!お見通しか!!』


 渡された操作装置を受け取るや否や、カバーで保護されたボタンを露出させる。


『ゆくぞぉ!!

 これがワシの考えし、


 『一時推力増加装置アフターバーナー』!!


 最初のテストじゃぁッ!!』


 カチッ


 ボタンが押された瞬間、エンジンの排気部分から突然炎が上がる。


 轟音!!


 そのエンジンが生み出す振動が一時的に凄まじく上がり出す。


『成功じゃなぁ!!』


『お見事!!』


 ひとしきり轟音を楽しみ、スイッチを切りエンジンを停止させる。


 エンジンの音が鳴り止むと、周りでパチパチと拍手が鳴り始めた。


「すっげえじゃあねぇか、元王さんに嬢ちゃんよぉ!?」


「クットゥ!!一体あの急な出力上昇は何!?」


「はっはっは!!何のことはない!!


 ただじゃよ!!」


 なにぃ、と尋ねた二人が叫ぶ。


「教授!!質問です!!」


「はい、エドワードさん!」


「先程カーペルト様は排気部分で再燃焼を起こしたと言われましたが、そんなことできるんですか!?」


「いい質問ですね。まぁ結論は見た通りですが……」


「そこの少年!忘れてはおらんか?

 ジェットエンジンは大気を触媒にし火炎魔法で膨張させその勢いでジェット噴流を起こし飛ぶ。


 のだが、ここには書かれていない落とし穴があると言うことをじゃ」


「落とし穴……?」


 ふと、この基本原則の落とし穴とは何かを考える。


 単純に考えれば、

 上のプロセスを踏めば排気部分のジェット噴流には、燃焼させるだけの大気はない。全てが燃焼によって触媒になる大気成分が変化するからだ。


 なのに、なぜ排気部分で再燃焼ができるのか??


「……エドワード?あんた前の授業真面目に受けたのよね?」


「え?女神様、まさか分かったんです、か?」


「……タービンブレード部分の冷却にコンプレッサーで取り込んだ触媒の大気を使ってるから実際より排気部分の触媒大気濃度は多いんじゃないの?」


「あ、」


 怪訝そうな顔で言われれば、実際そうだった。


「それどころか、ターボファンエンジンは、排気部分でさらにバイパスされた大気を流入させるから、」


「排気部分で再燃焼させればさらに空気を膨張させてジェット噴流を加速できる……!!

 あー、なんでこんな単純なことに……!!」


「私も、カーペルトさんが気付くまで分からなかったから仕方ないですよ」


「ふっ……長年燃料と触媒の混合比に唸っておらんよ……!」


 パンツィアに言われ、悪い気がしないのかそうカーペルトは答えた。


「おっしゃ!これでエンジンも完成だよな!!

 スロットルの最終調整もすっから、もうエンジンを本体に入れて良いか??」


「いえ。風洞試験を終えたばかりでまだ調整があるかもしれません。1時間下さい」


「あー……じゃあ、パンツィア嬢ちゃんは借りれるか?」


「え?何でまた?」


 と、その時、入り口から何か搬入されてくる。


「いやよぉ……操縦系統最後の仕上げに必要でな。

 嬢ちゃんとレアちゃんが」






 ロッカールームなどないので、コンテナの後ろでパンツィアとレアは衣服を全て脱いでいた。


「ここまで脱ぐかー」


「パンツィアちゃん、ちょっと大きくなったのです?」


「え、本当!?」


「……分かんないです」


「えー……」


 などと言いながら、渡された特殊素材のインナースーツを着込み始める。


 ふと、シドーマルを筆頭に一部男性がそのコンテナの見える位置に移動しようとする。


 ピシュゥンッ!


『…………』


 男性陣の進行方向の床になにかが着弾した。


「おや、シドーマル様も皆さまお揃いでおつもりで?」


 ニッコリと笑うノインの腕は、小型プラズマキャノンへと変形しており照準は男性陣の頭に向けられていた。

 すす、と頭のいい男性陣は戻った。


「おーい、インナー着終わったよー!」


 と、コンテナの向こうから声が響く。

 この隙に、とデバガメをしようとした一部男性たちだったが……ノインはこちらを見たまま、ドライが必要な機材を持って向こうへ行く。


「くっ……!」


「お主ら、ここのエドワードよりもガキっぽい事しとるぞ?恥ずかしくないんか?え、どうだ?シドーマルや」


「カーペルトの爺さん……レアちゃんほどの上玉はいねーぞ……!?

 パンツィア嬢ちゃんはちょっと背徳感しかないが、」




「ノイン、今間接的に小さいと言った人間を抹殺して」




「任務了解♪」


「まって嘘!!嘘だ!!!

 俺は、結構嬢ちゃんも」


「なおペドフェリアは私の独断でさせていただきますゆえに」


「お前もやっぱ小さいって思……あーっ!?!?」


 助けてー、と叫ぶ東方の蛮族の男に迫るオートマトンメイド。

 超合金製の腕で殺られるか、プラズマキャノンで撃ち殺されるか?


「よかったのぉ、上玉にお近づきになれて!」


「若いって、罪だよねコーヴ君?」


「そうだねピアース君?

 僕らも昔によくやって、ああやって殺されかけたね」


 死にたくねぇぇぇぇぇぇッ!!!


 そんな叫びが少しの間響いた。




「と言うわけでこれ着てみたけど……」


 かつてパンツィアが作った飛行用の服の改良版は、全身にフィットしたスーツに各種生命維持装置などを取り付けた物だった。


「なんだか、キツいです?」


「…………そだねー……」


 パンツィアのと同じ白い素材のそれを着た隣のレアの視線は、自分のそこそこ良いサイズな胸元を見ての言葉だった。

 …………大きすぎても困るらしいが自分はそもそも、と視線を落としてため息が漏れるパンツィアだった。


「悪いけどまだ続きがあんだわ」


 ぬぅ、と現れたシドーマル。

 その顔には、地獄を見たとでも言うべき表情が浮かんでいた。


「シドーマルさん?流石にやりすぎました?」


「男の落とし前だ。どうせ何度もされるんだろうぜ」


「何度もする気って不潔ですー。ぷー」


「そんなことより……コイツだ」


 ふと渡されたのは、頭に装着するヘッドセット。

 通信機のスピーカーや、見慣れぬ耳というかツノというかそんな機械のあるものだ。


「通信用……にしちゃ頭部を大きく覆うこれらは……?」


「お前らの魔力制御で機体の細かいバランスとか動きを指示できるようにする代物だよ。


 ━━━コイツと一緒に使うそうだ」



 カラカラと運ばれてきたケース。

 プシュー、と開いたそこから取り出されたのは……




「「ひっ!?」」




 例えるなら、ムカデ。

 金属の体は節で区切られ、カチカチと鋭そうなアームを鳴らして蠢く奇妙な機械。


「何それ?何それ??」


「ま、待ってください??ちょっとなんだか嫌な予感が……!?」


「神経接続装着だよ。背中に装着するんだ」


「ちょっとまって私聞いてない!」


「私もです、それは辞め━━━」


「人間度胸!!竜も度胸だ!!」


「「わひゃいっ!?!」」


 逃げようとして背を向けた一瞬、シドーマルの国に伝わる特殊な歩法で半歩詰めてそれが二人の背中へ装着される。


 まるで背骨のように背中にフィットして、ガッチリと装着される。


「うわわ、なんかゾワゾワするぅ〜〜!?」


「ぞぞ、ぞわぞわさん〜〜???」


「コイツでよぉ、尾翼だの何だのの細かい動きを、魔力弾を動かすみてーに操れる……はずだとよ」


 ぽん、と背中を叩かれただけで、なんだか変な感覚がやってくる。


「「うぅ……」」


「つーわけで、早速まずはレアちゃんが初飛行テスト頼むわ」


「ちょっと待ってください、そんなに早くエンジンをセッティングできるんですか?

 調整は終わっても、あのエンジン割と重たいはず……」





「今終わるわよ〜〜?クットゥッルーン!」




 ふと、ウィンガーの方向を見ると、一言では表せない光景があった。


 ━━━まずウィンガーは『真っ黄色』と言っても間違いはない状態であり、


 そこの後部へ新型エンジンが、なにやらパチェルカが乗る平べったい機械の下から魔法によって吊り下げられて所定の位置へと差し込まれている。


「なぁにこれぇ!?」


「あー……あれはな、『超合金イエロー』だそうだぜ」


「ぬわぁにそれぇ!?」


「超合金スーパーオリハルコンを塗料の粒子にしたらしい……思った以上に真っ黄色になった代わりに、強度も高い上に剥がれにくくって、唯一融点が2800℃のblock-07を使っていることや、その他耐熱素材も混ぜた結果、」


「真っ黄色に!?他に色ないんですか!?」


「あるけどなぁ……黄色より量少ねーんだわ」


 うわぁ……と言ってしまうパンツィア。

 まぁ、この際黄色も仕方ないと諦めよう。


「……というか、パチェルカさん?」


「クトゥ?」


「乗ってる奴なんですそれ?」


「クックットゥ〜♪

 反重力魔導機構リパルサーリフト応用試験用に作ったのよっ!

 移動に便利なのよぉ!」


「と言うことはその吊り下げているのって……まさか、反重力牽引魔法リパルサースィング!?


 すごい!

 まだ実践段階ではないって勝手に思ってた!?」


「ふふっ、先に完成させちゃってごめんなさいねぇ〜〜?」


 その反重力牽引魔法によって、もう一つのエンジンも機体へと接続される。

 すぐさま、内部での固定作業も始まり……いよいよである。


「……私も最初が良かったなぁ」


「だーめ。人間さんは簡単に死んじゃうから」




       ***


 ━━━━フィィィィィィィィッ!


『タキシング開始ー。

 所定の位置までエンジン出力10%』


 黄色い翼がゆっくりと進み、格納庫入り口から見て斜めに横切る滑走路へと向かう。




「エンジン回転数問題なし。

 ラダーもヨーも動くねー」


地上本部GPよりウィンガー、発進を許可します。

 スロットルはマキシマムで一時推力増加装置アフターバーナーが起動しますので、それで離陸して、スロットルを巡航まで戻してください』


「りょーかい!」


 滑走路へ完全に移動したウィンガーを駆るレアは、鼻歌交じりに空を見上げる。


 本日は快晴。

 空を飛ぶにはいい日だ。


「……いきましょー……!」


 スロットルを最大値ミリタリーパワーへ。

 赤く光る排気部、そっと降着装置のブレーキをあげる。

 途端、風の代わりに体へやってくるG。

 心地よい衝撃を受け止めて滑走を始め、揚力の得られる速度まで上げていく。


離陸決定速度V1……機首上昇速度VR…………離陸速度V2!」


 滑走路で上がる作業は反重力魔導機構を使った垂直離着陸とは違う快感がある。

 それに任せて操縦桿を引き、緩やかに空へ上がれば……





「……わぁ♪」





 何故だろう?

 何の変哲も無いこの空が、とても綺麗に見える。

 いつも下から見ていた青空、薄くまばらな雲がぐっと近くに見える空が。


 逆さになりたくなる。


 真上に現れた地上は、動く絵画のように綺麗で彩り鮮やかだった。

 巨大な五百年以上は住んでいたはずのHALMITのダンジョンも、全体を見下ろせる。

 不思議と鼻歌まで出てくるこの景色は…………



 神話の時代、

 この地に住まう全ての人を守るために捨てた片翼。

 人を滅ぼそうとした神々に挑んだ結果失った力。


 後悔はない。

 ただ……叶うならもう一度飛びたかった。


 HALMITの……かつてのダンジョンにこもった理由も、そこにあった膨大な蔵書の中に、それが叶えられる知識があるんじゃないかとずっと読んでいたから。


 ……何を書いてあるのか読めても分からなかったから、訪れた人間に意味を聞き回った日々であったが。


 だから、


『おーい、レアちゃん聞こえるー?』


「んあ!?」


 ……おっと


『バレルロールに急上昇にと曲芸飛行した気持ちは分かるけど、


 出来ない人も地上にいるんだよぉーっ!??


 今すぐ操縦変わ』


『はい、変わってパチェルカよー?

 飛行中の軌道変更前には報告をお願いするわね、って注意だけするわね〜?

 クットゥッルーン?』


「ごめんなさいです!

 あんまりにも自在に動いてくれてつい……」


『いよぉっしゃぁっ!!

 ワシの一時推力増加装置アフターバーナーは完璧に動作しとる!!』


『バカ言うな爺さん!!俺の操作系統が完璧だったのさ!!』


『クトゥ!!私の反重力魔導機構の調整も完璧よ!!みなさい、この安定度!!』


『聞き捨てならないねぇ、コーヴくん!?』


『僕たち、ボディの空力設定を頑張って製錬したのにピアース君!!』


『みんな協力した上で出来た完璧なウィンガーに乗せてぇ!!!乗せてくださいぃぃ!!あと内燃機関エンジンは私!!空力理論私ぃぃぃ!!!』


 相変わらず、騒がしい『軽い人々』の面々で、言葉を聞くだけで自然と笑う。


 ……まだもう少しだけ無断で空中を飛んでおこう。






 ほんの二年前の話だった。


 住んでいるダンジョンにやってきた、可愛らしい女の子。


 でも、彼女は自在に空を飛ぶ機械に乗ってやってきた。


『私、空を飛ぶ機械を作る研究をしている魔法博士です!!

 研究のためにこのダンジョンをください!』


 元々、自分のものじゃない。

 だから、二つ返事で渡したし、


『私も、それに乗れるのですか?』


 と思わず聞いた。


『もちろん!

 ちょっと難しいけど、操縦方法教えます?』


 ━━━二つ返事で了承してくれた彼女は、とても良い人だった。



 今日も、レアは金属の翼で空を舞う。

 テストパイロットとして初飛行は必ず乗るようになった。

 何回か落ちたこともあるが、頑丈な竜種なのでそこは平気だし、死にやすい人間の彼らに任せるのも気がひける。


 何より、飛行成功の時は、こうやって大空を自在に飛べる。


 だから……多少の墜落は許せる。


「GP、こちらレア。

 機体は快調。本日も晴天ですー」


『はいこちらGP。ここからでもよく見えるよ。

 いやぁ、でも内心世界初の全翼機でここまでうまく行くなんて』


「今までいっぱい作ったからきっと上手くいくコツつかんだ━━━━」


『━━━━ッ!?


 レアちゃん、今すぐ回避し、』



 え、と思った瞬間、凄まじい衝撃が後ろからやってくる。


 ピーピーとうるさい警報音、ぐるぐる回転する景色。

 ああ、目の前の景色が回りながら近づいて━━━━コウシ湖の水がやってきた。



       ***


 何があったかは、地上から見てよく分かった。


 ブレイガーO格納庫を、HALMITの天井を突き破った爆発魔法推進弾錬成機ラケーテンビルダーが、おそらく赤外線誘導━━━熱を感知するタイプだったために凄まじい速度でウィンガーの前人部分に直撃したのだ。




「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?

 あがっ!?こ、腰が……!?」


 あまりの出来事に、アフターバーナー部分は確実に壊れたと悟ったカーペルトは叫んだために、ぎっくり腰となった。


「と゛ほ゛し゛て゛こ゛ん゛な゛こ゛と゛に゛な゛る゛の゛ぉ゛!?!

 ヴェレレレレレレレ……」


 パチェルカに至っては、後部にリパルサーリフトがある構造にためにストレスでイカスミならぬクトゥルースミを吐いた。


「野郎!!俺はカチコんでくるっ!!

 いくらいつもの事故っつったって、許せねーぞ!!ぶっ殺してやらぁ!!」


「そんなこと言うものじゃありませんよ、シドーマルさん」


 ふと、自前の東方製の剣━━━刀を取り出そうとしたシドーマルを尻目に、パンツィアは静かに壁の所へ歩き出す。


「お嬢!!事故だろうが何だろうが、あんなことされて腹の虫が治るっていうのかよぉ!?」


「ぶっ殺してやる、なんて言ってぶっ殺せる訳ないじゃないですか」


 壁の近くには、鍵が集めて置いてある。

 ウィンガー用ロッカー、燃料魔法石保管室の鍵……そして、




「ぶっ殺してやる、って言った時には、すでに殺してなきゃあ、ダメじゃないですか」



 と書かれている場所に鎮座する、超合金スーパーオリハルコン製の斧を、もう一度言うが握るパンツィア。



「ぶっ殺した、って言わなきゃあ、ダメじゃあないですかぁ??」



 くるりと振り向いた顔、

 恐ろしいほどの殺意を秘めた目で、口元だけがひきつるように笑っていた。


 本気だ……!


 この顔を、例えるなら昔相対した復讐者の剣豪、戦士、その他実際にやり遂げたような執念深い誰かを彷彿としてしまったその場の人間や神たち。


「せっかくこの後簡易点検ののちに私自らが飛行する所だったのに……うふふふふ…………




 ━━━許せないよねぇッ!?!」




 体格に合わない大きな斧を担ぎ、ずんずんと向かい始めるパンツィア。

 本気だ。

 あの普段はなかなか怒らないパンツィアが……!

 だが、止める理由ははっきり言ってない。

 行くぞ!

 シドーマルも一歩を踏み出した。


 と、その時、その場に地響きがやってくる。


「あっ……!」




 ズンッ!


 大地を踏みしめる巨大な白い足。

 ゆらゆらと揺らめく尾の先は、まるで鳥の羽のよう。

 純白の翼は片翼、左側は傷跡が残るのみ。

 その白い精悍な竜の顔の上、角のあるはずの場所からも小さな翼の生える、それ。


 ━━━━クォォォォォオォォォォォオォ!!!!



「レアちゃんが久々の竜形態に……!?」


 思わず、久々に見たその姿にパンツィアも怒りを忘れる。

 相変わらず、大きい。

 かつては、この目の前のゴルザウルス並みの巨体でありながら、大陸を半日で横断できるほど速く飛ぶ『天空の支配者』とも呼ばれていたらしい。


 そんな、湖からここまで登ってきたレアの巨大な腕に掴まれたウィンガーが、パンツィアの研究室前に降ろされる。


 ━━向こう?


 指で指し示された方向はブレイガーO改修中の格納庫。


 うんうん、とほぼ全員で頷いたのを見て、ズンズンとその巨体のまま向かう。


 …………ややあって、断末魔と悲鳴が聞こえてきた。


 少し気が晴れたので手際よく壊れたウィンガーをチェックし始め、カーペルトの腰を介抱していると、たったったっ、と弾んだ足取りで、いつもの体毛を変化させた服でやってくる竜人姿のレア。


「おかえりー、反省してた?」


「もう二度とミサイル部分の事故は起こしませんって言ってたですよー♪

 後、アイス貰っちゃったのです」


 食べるです?と渡されればそれは食べるに決まっている。


 冷凍設備があるっていいな、と思いながら、壊されたウィンガーの修理に挑む為にもアイスを一行は食べ始めた。


       ***


 意外なことに、一日で大まかなブレイガーOの改修と新しいウィンガーの修理は終わった。


 いよいよ、翌日にはブレイガーOの起動試験ということになった。


 それと、レアに焼かれた皆に死者、重傷者はいなかった。



 ……心の傷はよくは知らないが。

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