act.13:地底へGO!GO!GO!


 髑髏巨神 スカルキング

 三首吸精邪巨神 ギドラキュラス

               登場








 がちゃ、とある装置を短時間で仕上げ、パンツィアはジェロニモ以下のビッグフット達も含め集まった皆へ言う。





「作戦を説明します!」





 ドレッドノート格納庫前、皆が集まった中でそう言葉を発した。




「作戦は簡単です。

 今眠っているギドラキュラスを、ここにある装備で先に爆破します」




 おぉ、と全員驚きの声を上げる。


「随分乱暴な作戦だなぁ……!」


「乱暴ですし、確実に大惨事になりますが、件のギドラキュラスの能力が未知数な以上、わざわざ復活の阻止だけするぐらいなら殺した方がいい。

 未確認生物学者としては惜しいかもしれませんが、実際そうじゃありません?」


 それはそうだがなぁ、とボヤくジョナスをかき分け、ディードが一歩前に出てくる。


「ひとつだけ確認するが、

 邪巨神を殺せる爆薬なんぞこの世に存在はしないぞ?

 どう爆破する?」


「いい質問ですね。

 使


 代わりにもっと事をします」


 ふと、後ろに目配せをした瞬間、ノイン達オートマトンメイドが何かを運んできた。


 が、


「ちょっとクソジジイ!!

 年齢考えて私に任せなさいって言ってんでしょ!?」


「じゃあかしいわい口悪人形メイドが!!

 このぐらい出来ると言うとるじゃろうが!!」


 その過程で、何やら口喧嘩が聞こえる。


「ハァ〜〜〜???????

 あなた年齢考えて物言ってますぅ〜〜?????

 私の起動を今の今までド忘れしてたボケ寸前の老害様がなぁに言ってるのか自分で分かってるんですかぁ〜〜????」


 見ると、一体の銀髪金眼の見目麗しいオートマトンメイドが、いかにも人を小馬鹿にしたような顔でそう言葉を履いていた。


「うるさいのぉ!!お前のその口の悪さが嫌でわざと今まで起動せんかったんじゃい!!悔しかったら黙ってわしの後ろにおんかい!!」


「その歳の癖してガキみたいな事を言いますねぇ??

 主人の自覚足りないんじゃないですか、クソジジイ様??」


「なんじゃい?」


「やる気??」




「あの、カーペルトさん、No.6《ゼクス》、今説明中なんですけどぉ……?」




 と、今にもつかみ合いの大げんかに発展しそうな一人と一体を、パンツィアは恐る恐るそう言葉をかける。


「……おっと、失礼しましたパンツィア様。

 私のご主人様が年甲斐もなく無理に重いものを持とうとして身の程を弁えないのでつい?」


「一言多いんじゃい!だから起動したく無かったと言うのに!」


 皮肉を込めた笑顔で言葉では謝りつつ言い切るゼクスに、年甲斐もなくムキになって返すカーペルト。


 オートマトン・メイド No.6《ゼクス》


 彼女は、創造主であるクルツ以外には従順なオートマトン・メイドには珍しい、あまり主人には忠誠心がない……


「あの、ゼクス?いくらカーペルト様がお歳を重ねているとはい、」


「は?文句あるわけノイン?

 別に昨日『膝が痛い』って呟いてたからって心配な…………」



 ・・・・・・


「お前、まさか昨日寝る前に実は起動して聞いてい」




「はぁ!?!


 勘違いしないで貰えますぅ!?!?


 ジジイがトロいから手伝ってるだけですしぃ!!!


 そもそも年齢考えろって常日頃言ってるじゃないですかぁ!?!」




 と、見て分かるほど、顔が余熱処理しきれず真っ赤になりながらテキパキと重そうな装置を指定の位置まで運ぶゼクス。


「…………すまんの」


「は、気色悪い。

 体調でもイかれてるんじゃあないですかお爺さん??

 ほら、座ってなさいな。お茶でも飲んで静かにしていてください」


 …………忠誠心がないように見える、の、その実とてもとても御主人様の事を考えている優良オートマトン・メイドなのであった。


 現に、たまたまのように取り出したお茶は老人にも飲みやすい上に火傷しない熱さであるし、座らせた場所には柔らかいクッションをいつのまにか引いていた。


「…………すまんのぉ……ったく素直ではないからに……」


「別にただ仕事してるだけですが?」


「はいはい!じゃあ、早速例の物を!」


「承知いたしました、パンツィア様?」





 パンツィアの言葉に、不満そうなカーペルトを尻目にしながら持ってきたものを皆の前に下ろす。


 丸い筒に、機械式の時限装置、そして自動詠唱機がくくりつけた装置だ。


「これ、発想はあったんですけれども……正直作りたくはなかったですね……」


「パンツィア君、これは?」


「『極大炎熱魔法爆弾ブラストバスターボム』。

 現状この世に存在する中で最強の戦略爆弾、とでもいうべき代物ですよジョナスさん」


 ぴっぴっ、と自動詠唱機を少しタップするだけで、極大炎熱魔砲ブラストバスターの魔術式が出てくる。


「待ちたまえ!僕はこれでも攻撃魔法には多少精通している!

 そして、いくら専門外とはいえ、このサイズに仕込める反応魔導炉では出力不足なのも知っているんだぞ!?

 どうやって極大炎熱魔砲ブラストバスターなどを撃つ気なんだ!?」


「確かにその通り!

 反応魔導炉が以下に強力な動力源でも、このサイズでの極大炎熱魔砲ブラストバスターに必要な魔力を産むのは不可能です。




 ━━━を使わなければ」




 パンツィアは、腰にある万能ホルダーベルトのポケットから、赤いトリガーのようなものを取り出す。


「それは……?」


「パンツィア様、それは……!?」


 と、見ていたドライの言葉に少し口の端を曲げて、パンツィアは答える。


「コレは、『ブラストリガー』

 の、コピー品。

 お爺ちゃんの隠し財産にして、反応魔導炉の基礎魔法式に組み込まれたリミッターを解除できる唯一の機械です!」


 パンツィアは足元の極大炎熱魔法爆弾ブラストバスターボムの一角にある端子を指差す。


「ここに、ブラストリガーを装填して、この青のスイッチを押す。

 安全装置を外した状態になるので、いよいよここのトリガーを引きます。

 これでこの小型反応魔導炉を意図的に大暴走させ魔力を増幅し、極大炎熱魔砲ブラストバスターを発射させます」


 おぉ、と説明を聞いていた皆が感嘆の声を漏らす。


「本当に爆弾じゃあないか……!」


「1、2……全部で7つの極大炎熱魔砲ブラストバスターか。

 古の炎熱魔王が見れば笑うかあるいは驚くか見てみたくもあるな」


 ジョナスとディードは半ば呆れた顔でそう言うが、パンツィアはただ笑って返すだけだ。


「これで爆破します。

 そして、そこまでは……」


 ふと、その瞬間、ブロロォンと言う音が響く。




 ギュルルルル!

 二つの円錐状の部位が回転し、履帯キャタピラ懸架装置サスペンションからプシューという唸りを上げる。


 それは乗り物。自走式の車だった。

 それも、前面に見える二つの円錐状の部位はいわゆる…………




『ンナッハァー!!ドリルが絶好調だずぇ〜〜ッ!!』


『振動数が今までの100倍は行けるのだなご主人!!』


『ぱわーあーっぷなんだよっ!!』


 フハハハハハハハ、と外部スピーカー越しに笑う声。


「おいゴラァ!?女神様がまだ廃棄部分から出る前にエンジンかけるってのはどういう了見なのよぉオラァン!?」


 と、ズン、と一瞬高さが5mはあろう車体を浮かす蹴りを入れる真っ黒なススだらけの声。

 安全ヘルメットを付けたデウシアだった。


『『『ガッ!?

 〜〜っ……ごめんなしゃい』』』


「ったく、荒れてた頃なら素手で頭蓋骨取り出してる所よ素手で!!」


「デウシアさん、できれば許してあげてください。

 テトラちゃんはとりあえずエンジンをかけちゃうんです……この通り」


「まぁ生きているからいいけど、人間なら死ぬ温度よコレ」


 パンツィアが駆け寄って適当なタオルを渡し、受け取ったデウシアはとりあえず顔のススを落とす。


「エンジンは完璧ですね。いい音だ……」


「当たり前でしょう?あなたの設計じゃない」


「もちろん、組み上げたのが女神様というのもありますよ?」


「ふん……分かってるじゃない?」


 ぐ、ぐ、ぱん!と拳を酌み交わし、デウシアから一度離れてパンツィアは説明に戻る。


「これは、テトラちゃん設計の『地底潜行車』。


 その名も、『パワーライザー01』です!」


 バァン、と手を広げて紹介するパンツィア。


「ほぉ……!!」


「地底潜行車だってぇ!?

 あの、ドリルで地底を掘り進むのかい!?」


「正確にゃあ、ドリルじゃねぇぜぇ〜?」


 と、パワードライザー01からひょいっと降りてきたテトラがそう言う。


「ありゃあんなぁ、『超振動波発生装置』だぜぇ!

 ゴルザウルスのアレを機械で再現したもんだぁ!

 本当はよぉ〜、ブレイガーOのオプションパーツだったんだけど、武器の使うには取り回しに問題があったからンなぁ〜、ちょっと貰ってこう言うもんにオイラが改造したんだぁ!」


 ほぉ、とジョナスは目を輝かせてそれに近づいていく。

 ディードにその姿を呆れられているのも気づいていない。


「これで、テトラちゃんに爆弾と、設置作業に為にオートマトン・メイド達をギドラキュラスのいる場所まで運んでもらいます」


 と、パンツィアの言葉に、少しだけノインとゼクスが驚く顔を見せる。


「なるほど、私達の身体なら、どの環境でも、溶岩の直撃でもない限りは活動できます…………しかし、」


「ちょっとご主人様ぁ?

 あんたのところ離れても良いってわけ?」


「なんじゃ、怖いか?」


「怖いに決まってんでしょ!

 あんたの事見ておかないと何するか分からないじゃないのよ!!

 突然怪我したりお茶が欲しくなったりし…………〜〜〜!?!?!?」


 ゼクスの言う通りだった。直後本人はその意味に気づいて赤面したが。


 オートマトン・メイドには、主人を守る事が自動詠唱機に刻まれた人工魂魄の至上命令として存在する。


 故に、なるべく離れない。

 離れている時とは主人が外出中に家を守る事が命令された場合ぐらいだ。


「パンツィア様、ゼクスと同じように私も貴女様より離れるのは心配です」


「私と同じようにって何よぉ!?

 べ、別に私は耄碌もーろくジジイなんてこれっぽっちも心配なんてしてないけど、まぁほらメイドだから突然歳のせいか足がもつれてしまわないか心配をし、いや心配な」


「私もこの通りです。それでも、ご命令は変わりませんか?」


「どー言う意味よノイン!?!?」


 墓穴を掘るゼクスを抑え、ノインはその美しい顔に不安な子犬のような目を向けてくる。


 ……正直言って、パンツィアは心が痛んでいる。


「ごめんノイン。でも、やって欲しいんだ。

 はっきり言ってコレは人間のエゴだよ、危険な場所にオートマトンを向かわせるのは」


「私は構いません。それがご主人様のご命令とあらば。

 しかし、私も心配です。

 もし、私がいなくなるような事があれば、貴女様の午後のひとときはきっと味気なくなってしまうでしょう。

 そうなった時の顔を想像するだけで、胸の辺りの、私の魂が傷むのです」


「…………本当にごめん。

 でも、こればかりは……ノイン以外に頼めない。

 信用、できるからね一番」


「…………ずるい言い方です、ご主人様」


 す、とノインは一礼する。


「承りました。

 オートマトン・メイド ノイン

 誠心誠意ご命令を遂行して見せましょう」


 パンツィアは、静かにノインの言葉にうなづく。


 そして、その横でゼクスは複雑な表情でカーペルトを見る。


「…………頼めんか?」


「いや、別に良いですけど……ちゃんと薬の時間とか、お酒の量とか見てないところではっちゃけませんよね?」


「フン!細かい奴よ!」


「細かくて悪かったですねぇ、ご主人様ぁ??」


「一言多いんじゃよいつもいつも!!


 まぁ、細かい奴じゃなきゃ、わしの調整したそこの爆弾は任せられんがな!」


「本っ当!!誰に似たんでしょうね!!

 創造主みたいなクズではないでしょうけど、ご主人様みたいなズボラじゃないでしょうけど!!」


 ふん、とお互いに顔をそらす。


「…………頼んだぞ」


「仕方ないですね、クソご主人様」


 ……話は決まった。


「……と、言う作戦で行きます。

 そしてごめんなさい、私は一度HALMITへ戻ります。

 ジュゼェさんのレーダーをブレイガーOに組み込んで、作戦第2段階に間に合わせないといけないので」


 そして、とパンツィアはずっと黙っているジェロニモへ寄る。


「……避難を、できれば明朝までには」


(……避難、だな?)


「!ま、待つみょ!!

 今避難って言ったみょ!?」


 ふと、その言葉を聞いたミョルンは駆け寄る。


「はい。

 もしも、ギドラキュラスが死ななかった場合は、おそらくいの一番にこのビッグフットの住居がやられますので」


「避難の意味分かってるみょ!?


 根こそぎ生活を捨てて逃げろって事じゃねーかみょ!!!


 動けない老人も、幼い子供もいるんだみょ!?

 いくら数が少ないからって、そんな、そんな……!!」


 ふと、ミョルンの肩を巨大な手が置かれる。


「ジェロニモ……!?」


(思えば、あなたには住居の世話に良くなったな。

 ミョルンという言葉は我々にとっては『大工』であり、家を作る物の意味になっている。

 私が生まれた頃より、父の父が生まれた頃より)


「……みんな、それでいいのかみょ?

 正直納得できねーみょ…………1000年みょ、私がここに過ごして1000年みょ……!!

 魔剣士だった私は本当は家を作る大工になりたかったんだみょ!

 戦いが変な形で終わったのを幸いに、ずっと、ずっとみんなの家を作ってきたんだみょ!!

 自己満足の出来だったけど、楽しかったみょ……工夫してテントを住みやすくしてきたみょ、自分の家を工具から作ったんだみょ!!


 それが……それを全部捨てるんだみょ!?


 納得できねぇみょぉぉぉぉっ!!!

 うぅ……うわぁぁぁぁぁん!!」


 地面にうづくまり、涙を流すミョルン。

 その姿に、ビッグフット達は駆け寄り、同じく悲しそうに泣く。


 この作戦の、どうしてもやらなければいけない事ではあるが、



 ……避難というのは、住民に根こそぎ生活を捨てさせる事。


 それは…………納得しにくい。



(…………分かるぞ、ミョルン。

 だが皆も堪えてくれ。


 いつか、いつかこういう日が来る筈だったのだ。


 いや、いっそ突然ギドラキュラスが復活し、何も出来ず死んでいたかもしれぬのだ。


 それに比べれば、まだ我々には自らの命を救うと言う手が打てるのだ)


 そんな、嫌だ、どうしよう……


 始まる、頭に響くビッグフット達の声。

 頭痛で少しふらつきそうなほど、それは強い叫び声だった。


「……分かったみょ」


 ふと、涙を拭うミョルンが立ち上がる。


「絶対、ミョルンが全部立て直すみょ……だから、みんな心配すんなみょ……!」


 ぐ、と顔を上げ、パンツィアに視線を向ける。


「必ず、倒すんだみょ」


「ええ……必ず!」


 そうして、作戦が始まった。



       ***


 パンツィアはウィンガーでまずはジュゼェをHALMITへ送り届ける為に飛び立つ。

 作戦第2段階とは、ギドラキュラスの生死を問わず、ブレイガーOでこの大地の隣の荒地で邪巨神を迎え撃つ作戦の為だ。

 そのためのスクランブルウィンガーの実機データは、HALMITに送ってある。


 そして、数時間後、


 ドレッドノートでの調整を完璧に仕上げたパワーライザー01が、格納庫よりキャタピラを響かせて進み始めた。


       ***




「つーか狭いなぁ!?!」




 その操縦室は、実に過剰乗車なものだった。

 車長兼操縦士のテトラ、サブ操縦士のジーベンとフィーア、ゼクス、ドライ、ノイン、


 そして何故かジョナス(※一番肩幅も身長も大きい)とデウシアが乗っている。


「女神様もお前もなんでいるんだよ、つーかジョナスが一番邪魔くせぇ!!」


「なにを!

 これでも生物学者だ!!もしも、ギドラキュラスが既存の生物と違うと言うのであれば、爆弾の取り付け位置や弱点の有無が変わってくるかもしれないじゃないか!!

 専門家は必要だ!!」


「それにしたってあんた大きすぎるのよ!!邪魔だし、あーっ!?どこ触ってるのよ!?」


「失礼!!いま!!」


「ジョナス様?そこは私のです」


「くっ……!!両手に花とは言うが、両方ともバラのような棘付きとはキツイ……!」


「男一点はつらいさん?」


「分かったからもう押し寿司同然も嫌だから進むのだな。

 あ、ご主人、右脇は避難中のビッグフットの列だ、気をつけるのだ」


「へいへーい!ンナァ!!」


 ギュルギュルとキャタピラを動かして旋回、目的の山の方角へと向ける。


「…………あんた達は感じる?」


「んなぁ?」


 ふと、デウシアはそう言葉を漏らす。


「女神様ぁ、言葉というのは出来れば主語述語を入れて行ってくれません〜?

 だから、神の言葉は分かりにくいって言われるんですよぉ??」


「ハッ!!言うじゃない機械メイドちゃん!

 そうね……あの山が例の封印の山って奴?」


 指をさした先、静かな山が見える。


 余りにも何の変哲もなく、ただそびえる山が。


「あれか…………む?」


「どうしたんだよ、クッションがわり筋肉〜?」


「…………あの高さで…………木がないのか……いや、なんだか……」


 ふと、ジョナスは周りの山とその山を見比べる。


「…………なんであそこまで緑が薄いんだ……??

 火山性の山といえど……草しか見えない……??」


「何が言いてぇんだ?」


「こういうことよ。


 あの山には『命が無い』の」


 デウシアは、ジョナスの脇の辺りから山を睨みつけて言い放つ。


「不自然よ、余りにも命が薄すぎる。

 火山だったのは大昔のはずで今はもう噴火もないらしいじゃない。

 なのに……

 この巨大なを。


 まるで、噴火直前の火山みたいな何かのエネルギーが、ずっとずっとあそこに居座り続けている……!!」


 え、と周りの皆も山を見る。


 と、その時、


       ***


 パシャリ、とシャッターを切る。

 ディードは、カメラ越しにずっと、彼らビッグフット達が最小限の荷物をまとめる家達を撮っていた。


「何してるんだみょ?」


 ふと、背後から彼らを手伝っていたミョルンが声をかける。


「記録だ。失われる筈だった歴史のな」


「記録?なんで?」


「俺がまだ数百年前、子供だった時の住んでいた街の景色は消えた。

 何度かの戦争で焼かれてな」


 パシャリ、とまた家を撮る。


「そりゃ……災難だったみょ……」


「俺は、その町の景色が思い出せないのだ」


 ディードは、なんとも寂しそうな顔で、ビッグフット達の今を撮る。


「俺は、どこの路地裏で皆と遊んだ?

 どこの街の腕っ節だけが強い無礼な人間と喧嘩をして止められた?

 どこの家の壁に落書きをした?

 どこの教会の夜間の祈りに参加した?


 思い出せないのだ。確かに行ったあの場所が」


 使い切ったフィルムを交換して、再び撮る。


「歴史は、過去はこうも簡単に消えてしまうものなんだな、と理解したのはもう100年近く前だ。

 そう思った頃には俺の故郷は変わっていたらしい。


 今、俺の目の前には消えそうな歴史が、あるんだ」


 パシャリ、とミョルンを撮る。


「撮らずにはいられない……ッ!

 俺は、歴史を解き明かし、解釈する歴史学者だ。

 であるならば、歴史を後世に残すのも義務だ。

 この、俺達の手で失われそうな文化と生活を……!」


 そう言って、ディードは写真を撮り続ける。


 今日、これからなくなるかもしれないこの場所を。


「……お前、」


 ふと、なにかを言いかけた瞬間、




 ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!




「なんだ!?」


「地震……!?」



       ***


「振動波探知機に地震を感知したよー!」


「フィーア、マグニチュードは?」


「5.5!震源はあの山!!」


「ここで5.5かよ……!!」


 やがて、地震は収まり、ややあって鳥達が頭上を大量に飛び立ち始める。


「……今の感じた?」


「女神様ぁ、感じるどころか計器に地震が記録されてんじゃねぇかよぉ〜〜??」


「違うわよ!

 あの山から今、をはっきり感じたの!!

 私達に向けてじゃない、何か……


 何か別の物に向けて……!!」


 デウシアの言葉に、皆緊張の面持ちを見せる。

 ややあって、テトラはエンジンのギアを入れ、アクセルを踏んでクラッチを上げていく。


「予定より早いけど、行くぜ?

 フィーアは通信。

 ジーベン!


 超振動波発生装置始動ぉ!」


「了解」


「超振動波発生装置、始動するのだな。

 出来る奴は皆シートベルトを閉めるのだ!」


 ジーベンは補助席コンソールの丸い装置のスイッチを入れ、出てきたレバーを右にゆっくり倒し始める。


 ギュルルルルルルッ!!


 徐々に回転し始めたドリル型機関から、近くのゴルザウルスが思わず振り向く程の超振動波を発生し始める。


 途端、キャタピラが踏んでいた土が、まるで抵抗を失ったかのようにキャタピラを飲み込み始める。


「潜行開始!

 土中へ完全に埋没したと同時に、正面モニターを超振動レーダーから来る情報のコンピュータグラフィックに切り替えるよぉ〜!」


「推進をドリル推進に切り替え!

 さぁ、ご主人、進むのだな!」


「アイアイ!

 パワーライザー01、微速前進!」


 土中に車体が完全に埋没し、正面の光景が土中へと埋まる。


 瞬間、全周囲モニターは暗転し、グリッド線で描かれた仮装の地面と進路を示す矢印が現れる。


 そうしてパワーライザー01は、目的地へと進み始めた。



       ***


 封印の山が見える丘の上、


 黒い巨体の髑髏の顔が━━━━スカルキングが、静かに腕を組んで立っていた。


「戦いはちけぇなぁ……!

 ようやっとお前を殴れるぜ……三本首やろうよぉ〜……!!」




 ━━━━キシャァァァァァッ!!



 まるで自分を鼓舞するように、スカルキングは大きく咆哮した。


       ***


 それは、とても暗く、熱く、静かな場所。




 ━━━━キュルルルルル…………!




 そんな場所に響く、不気味なほど甲高い声。



 そして、


 闇の奥に、六つの赤い怪しい光が灯った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る