act.1:女神デウシア降臨





 大陸各国は今、地獄だった。



 聖マルティア連邦に現れた雪の結晶のような姿の異形の邪巨神は、道行く中全てを凍て付かせ空を悠々とたゆたう。


 魔力、炎、電気、あらゆるエネルギーを喰らい、後には抜け殻だけを残して進んでいる!!




 トレイルに現れたは、蛇の様な器官を生やした2足歩行の邪巨神。


 まるでゴルゴン族の様に、不気味な口の奥から時折覗く恐ろしい巨大な目より放つ光で、本当に全ての物質を石に変えていく。


 それは、似た力と特徴を持つゴルゴン族達からすらもも『怪物』と呼ぶほど恐ろしい存在!!




 魔王諸国連合へ新たな邪巨神が現れた。


 全身を鋼鉄と岩石で覆い、天を隠すほどの巨体と怪力を持つ怪物。


 剛腕魔王との力比べを難なく終わらせ、圧倒的なまでの質量と膂力で全てを蹂躙していく!!




 まさに地獄ッ!


 この大陸は今、邪巨神達が無数に闊歩する恐るべき地獄と成り果てていたッ!!




「あ、あ……!」


 メキメキと音を立てて、友人だったものが咀嚼され飲み込まれる。

 不気味な毛むくじゃらの醜い人型邪巨神━━━あの、取り逃がした個体が、こちらを見る。


「助けて……だれか……!」


 誰も、助けることなどできない。

 人には、無理な願いをし、伸びてくる指先に絶望を見る。


「……神様ぁ……!!」


 人は、こういう時にかのもの達へ祈る。


「なんの神でも良いから…………」


 助けて、は言えなかった。


 ただ叫び、開いた鋭い歯の並ぶ奈落へ落ちていく。





「神様助けてぇぇぇぇぇぇっ!?!」




 バクンッ






       ***






 ━━━━神は、この世にいる。


 この大陸の上、浮かぶもう一つの大陸。


 ヴァールファラ神国。

 この世に残った、唯一の神の領土。

 各地の神話のあらゆる神の━━━━が、敬虔けいけんな神官の一族の人間と静かに暮らす場所。







「う〜〜…………辞めなさい、つってんでしょうもぉ〜〜…………」






 寂れた、大理石の柱が並ぶ神殿の奥、


 キングサイズのベットの上、破壊された目覚まし時計に伸びる嫋やかな手の根元。


「……う〜〜……今いくから……ほら、泣かないの…………」


 うるさい寝言に似合わない、美しい顔立ちの女神が一柱いた。


「……んん……?ふぁ…………〜〜!」


 むくり、とベットから起きる。

 芸術品の様なスタイルの肢体がありのままの姿で見えるのも構わず、ぼーっとした目で目覚まし時計の方を見る。


「…………あー……オリハルコン製にして貰おうかしら……


 嫌ねぇ……我ながら…………だいぶ力が落ちてるはずなのに……くぅ〜〜……」


 一つ朝の伸びをして、まずは神殿の奥へスタスタ歩いていく。




 人間の作ったもので最高の存在は歯磨き粉と歯ブラシだと思っている。

 彼女は、念入りに歯を磨いて口をゆすぎ、顔を洗って、面倒だがうるさい女神がいるので軽くメイクをしておく。

 服は……神の装束はかさばるので、普通に人間用のブラジャーとショーツにYシャツで適当に済ませる。


 次に人間が作った物で最高なこと間違いなしのトースターを使い、ある神官一族の作ったパンに、同じくジャムを塗って軽く腹を満たす。


「ん〜、技術の発展が素晴らしいわよね〜〜!


 朝食作りって季節にもよれば拷問なのよね。手軽にできる様になるなんてさすがよ!


 あ……新聞でも見ようかしら」


 テーブルの所には、朝届けられた大陸各国の新聞がある。

 神の力で食べながらそれらを宙に浮かせ、パラパラめくっては記事を眺める。


「……下界は荒れてるわね……あら、ブレイディアに昨日邪巨神が現れ……ん?昨日??」


 ふと、彼女は日付を見る。






「うぎゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!?!?!?!?」







 悲鳴が浮遊大陸を駆け巡った直後、この神殿の一角の空間が歪む。


「ちょっと、デウシア〜??

 私の家隣なのよ〜〜?煩いのは辞めてね〜〜?」


 空間を開けてあくび交じりに、月と豊穣の神フェイリアがやってくる。


「分かってるわよ!!そんなことぐらい!!


 でも……でも!!」


 対して、誰もが羨む美貌の顔を情けない半泣きにして、新聞の上の枠に指を持っていく女神━━━デウシア。




「一日寝過ごして!!



 ウチの教授の講義をすっぽかすだなんて大ポカやったのは私なのよ━━━━ッ!!」




 あらあらまぁまぁ、とフェイリアは半泣きの同じ女神へ近づいて言う。


「あなたって、3万年前からそういう所はまじめよねぇ?」


「うぅ……私はこれでも時間と言った事は守る女神なのよ……?


 情けないわ……いくら力を落としたと言っても……うぅ」


「泣くのはおよしなさいな。

 貴方私より2歳年上じゃない」


「3万年生きてて2歳違いなんて誤差よ……はぁ……


 でもまぁ、来てくれて嬉しいわ。

 少し気分が楽になった」


 よし、と立ち上がり、近くの人間の街で買ったクローゼットを開ける。


「もう少ししたら、HALMITに行くわ。

 授業やっているかどうか分からないけど、教授ことパンツィアに授業の内容を軽く見せてもらうか、最悪出てた学生捕まえてノート写させて貰うわ」


「貴方仮にもまだ現存する女神の一柱でしょう?


 人に教えを請うのに抵抗がないの?」


「優れているところを認められなくなった瞬間、私は発展の女神ではなくなるわ」


 そそくさとタイトスカートにチョッキを着て、どこかにいそうな普通の人間の格好をし、


 シャキン、と瓶底眼鏡をかけて着替えを終わる。


「……ぷっ」


「何よ?無駄に顔の造形が美し過ぎても、周りがうっとおしくなるからかけてるのに」


「効果があるから面白がってるんじゃな〜〜い♪」


 はいはい、と言ってノートなどの入ったバッグを持って歩き始めるデウシア。


「行ってくるわ」


「間違っても、道すがら邪巨神と戦うのは辞めてね?」


 ふと、ピタリと足が止まるデウシア。


「……なんでそんなことを?」


「あら、わざわざ聞き返すだなんて図星なのね」


「……さぁ〜〜、何のことだか?

 力の大半を失った女神にはさっぱり、分からないわ」


「嘘よ。貴方はたとえ手足をもがれても、自分を変えられない。


 戦と発展を司り、神々すら敵に回して戦う戦女神のデウシア。


 かつて、人々を救うがために、自分以外の ティターニア神族を全て屠った、優しくも苛烈な女神」


 はいはい、と腕を振り、トースターの残り一枚を口にくわえるデウシア。


「もう『巨神戦鎧イクスマキナ』も動かせない様な女神が何をできるっていうのよ。

 手なんか出す気ないわ。行ってくる」


 瞬間、凄まじい跳躍で神殿の外へと向かっていくデウシア。


「……所で、ちょうどブレイディアの方向は今の時間はあっちなのよね」


 ふと、空中でその方向へデウシアの気配が急転換するのに気づいて言うフェイリアは、仕方がなさそうな笑みで空間を開けて帰っていった。



       ***


「全く、女神ひとの気も知ってるくせして、なぁ〜〜にを嗜める様なこと言うのかしらねっ!!」


 びゅおぉぉぉ、と耳元で凄まじい空気の流れが動く中、ようやく巨大な山脈のてっぺんが見える位置でデウシアは呟く。


「イクスマキナ抜きで戦おうとするほど私もバカじゃないっつーのよ!!」


 ドン、と雪の残る山のてっぺんを蹴り、隣の山へと跳躍する。


「あーもうヤダヤダ!!私だって、私だって全盛期だったら……!」




 ふと、嫌な気配を感じる。

 女神の目は千里先(てきとう)の村の惨劇を見た。


 見れば、異教徒の教会が立つ村が、醜い毛むくじゃらの怪物に襲われている。


「……無視よ無視。異教徒じゃない。しかも最近幅きかせてる。

 今急いでるのにそんな義理無いわよ、無い無い」




 そういえば、進行方向だから見えたのである。

 全く、と自分の信仰心を上げる事などないのに……




「邪魔よ不細工ッ!!」



 と自嘲しているうちにその魅惑の白い足でそいつの顔面を蹴飛ばしていた。




 加減はした。頭を吹っ飛ばすのではなく、全体を吹っ飛ばすために。


「やっぱり履いてたのはブーツで良かったわね。ハイヒールとか趣味じゃないわ」


 そのまま何事もなかったかの様に、人間では不可能な速度で跳躍しながら進んでいく。




 こんなことに意味はない。

 彼らは別の宗教を信仰している上に、あまりの早さに何が起こったのかも分からないだろう。

 上にいた他の神ならそう思う。


 ただデウシアは、それ以上に『朝から邪巨神の蛮行を見て最悪だから吹っ飛ばしてスッキリした』という思いだけで充分だった。


 ここのところずっと、中々起きれない、体が動かせないので不快だったから、余計に。



 この女神はそう言う性格だった。



 そんなことより千里先(あいまい)に目的地がようやく見えた。


 HSXブレイディア、東カノー駅。


 さて、ここで取り出したるは一枚の硬質な素材の呪符。


 その名を『SUIY《スイー》』。

 従来の切符が時代遅れになる素晴らしい発明。

 券売機の機械にかざすと、SUIYに組み込まれた魔法により、券売機へ入れた金額分チャージされ、入るときと出たときに改札でかざせば自動で駅分の金額が引かれる。


 誰でも使えるハイパー便利な呪符なのだ!!


 駅手前20メートルで減速し、普通の人間の速度で歩いて改札へ。

 時刻は午前9:24分。発車はいつもの時刻表で、9:30分だ━━━━━━



 ピシュー…………グゥゥゥゥゥゥン



 響いた音は、特徴的な高速鉄道車両の発車時のモーター音。

 え、と思う間に、白地に赤いラインのブレイディア行きの車両が、やけに長い鼻の後部車両を見せながら消える。


「…………え?」


「あれ、お客さん?

 もしかして、ダイヤ改正の知らせを見てない感じで?」


「どう言うこと、駅員さん?」


「今日から、車両が新しくなったのと、このところ物騒でしょう??

 色々あってダイヤが改正されたんですよ」


「……なるほど。次の列車は?」


「今からだとぉ……9:50分発、各駅停車東ユグドラシア森前行き、」


「ありがとう駅員さんッ!!


 追いかけるわッ!!」


 瞬間、駅のホームから線路へ飛び出し、デウシアは走り始める。


「あ、お客さぁんっ!!!

 線路の中への立ち入りはおやめくださぁぁぁぁぁ!?!?!」



       ***


 プァーン!

 鳥獣竜除けの警笛を鳴らし、すすむ速度は時速307kmもの速さ。


 その先端を、これまでのNE-0以上に空気抵抗を減らした形状へ変化させ、赤と白のスタイリッシュなカラーで走る。



 NE-2 ブレイドベル



 『剣の乙女』の名を持つ、現在ブレイディアを走る最速の高速鉄道だ。




「ふぃー……人が少ない割に忙しかったぜ……」


『酔っ払い様は大変でありまーす』


 この車両の車掌となっているサンザは、車内販売のコーヒーをシャショータンに貰い一服していた。


「まぁ朝から酒飲みたくもなるわな。

 どこもかしこも、やれ邪巨神、邪巨神って……」


『……あ、あ……あ……!』


「おいどーしたよ、壊れちまった……か…………」


 シャショータンが震えて見る窓の外。


 ━━━美しい女のようなものが必死な形相でこの『時速300km以上で走る』NE-2と並走し、恐らく「乗せてー!」と叫んでいる光景があった。




「うわァァァァァァァァァ!?!窓、窓にぃ!?!?」


『つつ、次の乗車駅をご利用くださぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?!?!?!?』




 悲鳴をあげる車掌達をよそに、その顔は次の乗車駅まで並走を続けていった。


       ***


『HALMIT東門前ー、お出口は左側でーす』


「あー、もう乗った気しないわねぇ」


 結局次の駅まで並走したデウシアは、ため息混じりに駅のホームへと降りる。


 途端、周りの妙な喧騒が入ってくる。

 ホームの中は人が少ないが、それでもこれだけガヤガヤしているのならば、つまりは外に何人も集まっていると言うこと。


「祭り?まさか……まだ大陸を邪巨神が闊歩しているのに」


 と、ホームの外へ足を運べばそこは……


「機材搬入急げー!!」


「そこどけー!!ちんたら歩いてっとぶっ殺すぞ!!」


「コンテナのチェック急げー!!」


 そこは、戦場だった。


 剣も矢も銃弾も飛んでいないが、間違いなくそここそ戦地の真っ只中。


 作業する男達は、高速鉄道の下を走る別の鉄道に止まる、本来鉄道の最大の役目である『物資の輸送』のための車両から、HALMITで生み出された人を超える力を持つ作業用機械車両━━━フォークリフト、トラクターと言ったものでコンテナごと荷を下ろし運んでいく。


(アレは……!回転軸式内燃機関タービンエンジン式の牽引列車!?

 贅沢ねぇ、まだ普及しきってない奴じゃないの!)


 などと思っていると、オークや屈強な男の声に混じり、ふと可愛らしい声が聞こえてくる。





「いらっしゃーい!!

 出張『黄金小麦亭』のパンいらねーかーい!?

 熱いお茶も売ってるよー!!」


「はいまいど!5ラウンドのお釣りです」


 よく見れば、見知った顔が何やら売っていた。


「……エドワードよね?」


「へ?

 あっ、デウシア様!」


「様づけは要らないっていつも言ってるじゃない。今は同じ学部の学生同士でしょう?」


 どこにでもいそうな平凡な顔の青年━━エドワードは顔見知りだった。

 隣の手慣れた接客をする小さな女の子は初対面だが。


「なにさおにーちゃん。いつの間に美人の知り合い増えたのさ、隅に置けないねぇ?

 美人さんあたしの考えたこのスペシャルサンドどうだい?」


「おバカ!!

 この方、いつも死んだ母さんが夜寝る前に話してた神話の女神様だぞティオ!

 ごめんなさい、コイツ悪い子じゃないんですけど馴れ馴れしくって……」


「いーのよ、こちとら信仰心足りなさすぎて眠りこけてばっかりの駄女神様なのだから」


「ねーちゃん、女神だかなんだか知らないけど、自分のこと卑下し過ぎるのは良くないぞ〜?

 そう言う時は美味しいものとあったかいものが一番!


 スペシャルサンドとコーヒーどうだい?


 安くしとくよ?」


「あっはっは!!

 あなた、その歳でいい商売根性してるわ?

 私にはそっちの加護はないけど、多分将来大物になるわよ?」


「将来と言わず、数年後には大物になるよっ!!

 少なくとも城下町一番のパン屋は後少しでなるね!!」


 よっし、とそのオススメを買うデウシア。

 実際、朝は軽かったので小腹は空いていた。


「店、昨日ので潰れてたじゃないか」


 ふと、一口食べようとした時言われたエドワードの言葉に、手が止まってしまう。


「おにーちゃんさ〜、慎重なところは好きだけどさ〜、気が滅入ること言うなよ〜」


「……何が、あったの?

 昨日私が寝過ごしてるうちに……ブレイディアに邪巨神が現れたのは知っているけど」


「酷いもんですよ。首都の城下町は大部分焼け野原で、今も行方不明な人もいれば、怪我人も大量で……」


 思わず、息を飲む。

 次の瞬間、もらったスペシャルサンドを一旦持たせて、上へ跳躍する。




「……!」


 上空600m地点から見た首都。

 家屋は潰れ、道は瓦礫で埋まり、更地としか言えない街だった場所まである始末。


「一晩で……!?

 全盛期の主神達クソオヤジがやったんじゃないの……!?」


 シュタッ、と元の場所へ着地し、再びスペシャルサンドを受け取る。


「酷い物ね。生き残って運が良かったとしか言えないわ」


「あたしも死ンだかと思ったよ!

 家族全員生き残れて嬉しいさね」


 ふと、チーン、と言う音が響く。

 するとティナは手慣れた手つきで手袋をして、後ろにあった大きな機械の……いや、よく見ればそれはただの機械ではない。


 車輪が付いている。運転席もだ。


「そういえば、なにそれ?」


「焼きパン号!」


「ぷっ……くっくっ……なにそれ……??」


 名前が名前だけに吹き出してしまった。


「あー、正確には、僕式調理販売車いち、」


「この『焼きパン号』すげーんだ!!

 おにーちゃんも機械いじりばっかでちょっと将来心配だったけどさー、こんな良いもの作れるんだからやっぱ頭いいからすげーよ!!」


「僕の発明なのに……名前が勝手に……!」


 同情はするが、焼きパン号は正直に言えば面白い名前だし覚えやすい。


「窯が付いているのね、その焼きパン号くん……!」


「それだけじゃないよ。冷蔵庫も調理スペースも、水も持ってこれるし貯められるし」


「ほぉ〜……!

 地味に凄いのね、焼きパン号」


「そりゃあ!僕が手塩にかけて作ったんだよ、この焼きパン号を!

 あっ……」


 ニヤニヤした顔を向けているうちに拗ねてしまったエドワードだった。


「実際家の窯より性能いいんだコレ」


「へぇ〜〜……内燃機関の応用?」


「まぁそうですね。

 なんだよ……名前がダサいぐらいなんだよ……コレは凄いんだぞ……」


 拗ねてもその焼きパン号の一角から、コーヒーを作る機械まであるようで、豆から挽いていた。


 受け取って飲んでみたが……美味い。

 デウシアも神の端くれなのでそれなりに美食は知っているが、充分美味しい物だった。


「コレならば、すぐに店と家が建てられそうね」


「目標は広い店っ!」


「頑張ってね。はいチップ」


「まいどー!」


「話は戻すけど……それで邪巨神はどうなったの?」


 ああ、と機嫌を直したエドワードは言う。


「倒したんです。パンツィア教授が」


「は……?」


「信じられませんよね?

 ただ、もっと信じられない事態です。

 特にデウシア様にとって、」



「━━━おいそこ!!あぶねーぞ!!」


 ふと、後ろを巨大な自走車がコンテナをHALMITへ運搬していく。


「…………ただ事じゃないわよね。

 HALMITでなにをしているの?」


「ブレイガーOの改修作業ですよ」


「ぶれ……何?」



「ブレイガーO。

 ケンズォ・ヘルムス魔法博士最後の発明である『超越機械人スーパーロボット』。


 デウシア様の『イクスマキナ』並みの大きさの、操縦型機械人形兵器とでも言うべき代物です」


「なんですって!?」


 がばっ、と詰め寄るデウシア。


「うわ……!?」


「とうとうイクスマキナを再現したの!?」


「いえ、待ってください!!多分まだそこまでではないです!!

 ちょうどいいや……コレ、教授から渡されてまして!」


 と、なんとか振り払い、エドワードは焼きパン号の運転席からある紙の束を取り出す。


「それは?」


「ブレイガーOの設計図ですよ!

 流石に公衆の面前で見せるのもやばいんで、ちょっとこっちで!」




「ほー……!」


 運転席で一人と一柱は、その設計図を見ていた。


「コレは、回収時点、昨日の戦闘後までのブレイガーOの設計図です」


「全身がスーパーオリハルコン!?

 モータ出力とかトルク値は物足りないけど……硬さは私のイクスマキナを超えているわね」


「でもまだ未完成です。戦闘時に武器回路が焼ききれたり、操縦席下にラジエータ管通ってたり酷い所も多いと」


「というか、コレ結構機密なのではなくて?

 私、ただの学生……いや女神だけどまだただの学生よ?あなたもね」


「教授曰く『何かアイディアがあるならば可能な限り広く聞き入れたい』って」


「でも、それなら最新設計図が欲しいわね」


「言うと思いましたよ。タブレットは?」


 す、とお互いタブレットを取りだして起動させる。


「HALMIT中の教授クラスの人間に、データベースにアップロードされた設計図はいつでも見れます」


「このコンピュータシステムはここ独自の物だけど、他国に知れ渡り過ぎてもいけないからほら、パスワードがあるのではないの?」


「さっきの設計図、ここです、見て」


 ふと、古いその紙の設計図の一角……何やら、印刷魔法ミスなのか、線が妙になっている部分がある。


「あーら……なるほどね」


 タブレットのカメラを起動、そこを写す。

 瞬間、その設計図へアクセスが可能になる。


「バーコード。便利ね、この線の太さと間隔で色々なデータが表せる!」


「しかし、良いのかなぁ……さっきデウシア様が言ったこともあるって言うのに」


「それだけ切羽詰まっているって事ね。

 どれほどの期間で改修を?」


「一週間とか」


「……お爺ちゃんの時代の天地創造神話のイキリっぷり思い出すわー」


「一週間で天地創造、って科学的に否定されてましたよね?」


「昔は科学なんて無かったか、神だけの物だったから平気でどの神族も天地創造を捏造できたのよ」


 うへぇ、と言われてデウシアも嫌になる。

 自分が生まれる前に生殖器を切り落とされて死んだらしい祖父の神の事が。


「………へぇ〜〜……コレ全部武装?

 ここまでの密度だと、要塞を歩かせるかの如き火力よね……あ、また搭載兵器増えた」


「リアルタイム更新らしいですしね……ん?


 ファッ!?!」


 ふと、エドワードが変な声を上げる。


「どうしたのよ、いきなり?」


「コレ見てくださいよ!!流石に冗談でしょ!?」


 と言われて図面を指差す。



 その武装、腕全体に広がるソレ。


 名を爆発魔法推進拳ラケーテンファウスト


 関節の接続部にあるロケットブースターで拳ごと飛ばす武器……であるというデータがあった。


「何これ、ふざけてるの?」


「初期装備らしいですね。流石に使わなかったみたいですけど」


「当たり前でしょ?

 あの『ガキ』、昔からふざけてるけどコレは……」


「死んでしまったとはいえ、コレは酷いと言わざる終えませんよケンズォ魔法博士……というか構造上戻ってこないじゃないですか……」




 流石に腕を飛ばす機能が必要なのかは疑問だった。




「流石に外すでしょう?その前に実験でもしそうだけど」


「流石にしませんって」


 はははは、と人と女神は笑った。



 ズドォン、という爆発するような音が響いたのは直後だった。

 思わず車を出て音の方向へ顔を向ける。




 ━━━━空へと飛翔する鋼の拳があった。




 ソレは、HALMITの上空にあった。


 いや実験するんかいっ!?!


 無言で大きく口を開けて驚くデウシアは瞬間思った。


 なんで起動してんのっ!?!


 同じく悲鳴をあげるように両手で頬を覆うエドワードは思った。




 ロケット噴射の煙を上げた拳が、上空からよりにもよってこちらへ向いていく。


((ん、んん〜〜〜〜〜〜???))


 なんでこっち来るの?

 素直な感想には向かってくるスーパーオリハルコン製の巨大なロケット噴射する拳は答えない。


 しかしこっちには来るのである。

 無言で。


「う、うわわわわわ、


 うわァァァァァァァァァッ!?!」




 巨大な拳が、か弱い人間を潰そうとした瞬間、




「━━━憤ッ!!!」



 それをアッパーカットで打ち上げる一柱の女神が、いた。


 タッ、と跳躍したデウシアは、回転している拳がロケット噴射をこちらに向けた瞬間、




「破ァァァァァァァッ!!!」




 そのたおやかな白い指の拳で、飛んできたスーパーオリハルコンの塊を打ち返す。


 ややあって、HALMITの方へと拳が戻って再び天井を撃ち抜いた。



 ━━━おぉぉぉぉぉぉ!!


 パチパチと響く拍手に、思わず口元が緩む。


 さっと髪を片手で振り払うデウシアは、ひさびさに信仰心を感じた。


「お、お見事です女神様……!」


「だからエドワード、そこまで畏まらなくて良いって言っているのよ??」


「でも命の恩人ですし、」


「だったら、」


 と一歩近づき、デウシアは言う。






「前の授業のレポート、

 見せて貰えるわよね?」




 断わるつもりはないが、断ったらあの膂力で殴られそうだった。


       ***

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