9-1


     9-1





 目が覚める。

 夢の内容に笑いがこみ上げてくる。

 皮肉なのか、俺の告白は過去の焼き回しだった。


「クソがっ」


 倒れた状態から上手く立てない状態で悪態をつく。

 意識が無くなる直前の光景は間違いなくターニィが誰かに襲われるものだった。

 どこにいる? 周囲を見回そうとして、目の前に誰かが立っていた。


「やっと起きたか。ターニィはもういないぞ」


 小動物を連想させる小柄での女子――鬼川がそこにはいた。モールで見た時と同じような格好だ。

 周囲を見回すが、他に誰もいない。


「ターニィはどこにいったんだ?」

「落ち着け。まず、ターニィはさらわれた。次に私たちはターニィをさらった奴を知っている。最後に私たちはターニィさらった奴がどこに行くかを知っている。分かったか?」


 まだ頭がクラクラする上に、早口で言われたが何とか頭の中に入れる。


「じゃあ、案内してくれるのか?」

「ああ、早くしろ、馬鹿が馬鹿なことをする前にな」


 鬼川はそう言って俺の腕を引っ張る。


「うおっ!?」


 俺は度肝を抜かれた。鬼川はその小さな外見とは逆にかなりの力を持っており、倒れている俺を引っ張っただけで浮かせてしまうほどだった。というか肩が外れるかと思った。

 結果的に浮いた状態から足を伸ばし、ふらつきながらも立つことができた。


「ほら行くぞ」


 鬼川はふらつく心配もせずに俺を力いっぱい引っ張った。

 木や遊具を避けて公園の出口へと向かう。出口には荒村が居た。鬼川と同じようにモールの時の服装でサングラスをしている。


「ブックさん! 大丈夫ですか!?」

「コイツの前に保護対象だ! 秘崎はどうしてる!」


 荒村は俺を心配して声を出すが、鬼川が怒鳴る。

 保護対象ってターニィの事か?


「秘崎さんはいま“制限”を掛けて妨害したって」

「よし、あの馬鹿でも住宅街で処分はすまいよ! おい本野郎!」


 鬼川は何かの確認を荒村からすると、俺を呼んだ。多分。

 というかブックとすら呼ばれないとは。

 鬼川さん。せめてブックって呼んでほしい。


「なんだ、その情けない顔は、さっさとちゃんと立て! 一緒に居るっていたんじゃないのか!?」


 何で知ってるの? と思ったが会長から聞いたのだろう。会長さん口軽くない?

 口に出しそうになったが、そんなことを言っている場合ではないのは確かで口をつぐんだ。

 靴底で地面を踏む、ちゃんと踏みしめてる。

 足に力を入れてみる。ちゃんと立てる。

 体に力を入れる。ちゃんと体を真っすぐにできた。

 大丈夫だ。走れる。


 その様子を確認した鬼川は質問を投げかけてくる。


「走れるな?」

「走るよ。転んでも走る」


 俺の答えを聞いて鬼川は鼻で笑う。


「ハッ、さっきまで寝ていた奴がほざくな。ま、ついてこい」

「えっと、ブックさん。今からターニィさんのところに案内しますから一緒に行きましょう」


 鬼川か言った後に荒村が翻訳のように言った。

 どちらにせよ、ついて行くしか俺がターニィを助ける方法はない。


「案内してくれ」


 そういうと鬼川と荒村が頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る