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「おかえり」
会長はそう俺に言った。
「何なんだあんたたちは」
俺はたまらずにそう言うと、
「曖昧に言って正解だったな」
と鬼川は言った。それに対して秘崎が口を開く。
「何言ってるの、これから概要を話すんじゃない。なに帰らせようみたいな言い方してるの?」
「会長。まだ分からない内に帰らせるべきだ」
秘崎を無視し、鬼川は会長に言葉を投げかけるが、会長は頭を振る。
「それっぽいこと言っちゃったし、それに秘崎さんも能力使っちゃったしね」
能力? えっ? 何それカッコイイ。
少し男の子の心がくすぐられる。
俺が混乱の極みに差し掛かろうとしていると、大きな手を叩く音が響く。
「またごちゃごちゃしそうですし、それにさっき話すって決めたでしょう?」
その言葉に鬼川はそっぽを向く。
それを見た荒村は他の人に目配せをした後に俺の方を見る。真剣な顔つきなのだが、休みの日みたいな目元を隠すものがないため、厳つい目つきがそのまま見えてかなり怖い。ヤクザの息子なんて言われたら信じてしまいそう。
「ブックさん。小説とかお好きでしたらそちらの方の思考で聞いてくれた方が分かりやすいと思います。いいですか?」
いや、そんなことを言われても。そっちって何よ。ミステリー的な?
頷きもしない俺を無視したのか荒村は話し始める。
「僕らは俗にいうと秘密組織的なものに属しています。とはいえ、ここにいる全員が同一の組織、団体にいるわけではありませんがそこは省きます。
その秘密組織的なものは総じて『一般的に在り得ないものを公にしない、表に出さないようする、または害がある場合はその処分をする』という名目や使命で動く組織です。
よくミステリー、SF、ファンタジーにありがちな暗部的な組織なんです。」
「マジで言ってるのか?」
「残念ですが、本気と書いてマジと読むあれです」
その真剣な表情に俺は固まる。
信じられないわけではなかった。
何せ、ドアの不自然な状態。そして、ターニィという新しい同居人の存在。
その二つの事実は、眉唾で、信じられないと吐き捨てるはずの話が頭の中にスッと入ってきてしまう要因となっていた。
まさかそんな。ありえない。だけど、そう言い切れないところに俺はいる。
俺は無関係ではないのだ。例え一般に生きてきた人間だとしても。
今、ここにいる俺は、水面上と水面下の境界に立っているのだ。
いや、既に聞いてしまった。その関係者から。
あるかもしれない、あったら面白いかもしれない。そんな外側から見たら他人事で娯楽にさえ見える世界に俺は踏み入れてしまったのかもしれない。
少なくとも、今俺は水面下を除いている状態なのは間違いなかった。
放心している俺に荒村は話を続ける。
「僕らはそんな組織に入っています。そして僕らはこの地域にある在り得ないものを探して保護ないし退治のようなことをしてます。」
そして荒村は話を区切る。間を作る。
「そして、今から貴方にターニィさんの事を聞いたわけを話します。」
「お、おい」
ここまで言われた後に人の名前を出されたら嫌でも答えに行きついてしまう。
「僕らは幾つかの経路でターニィさんの事を知りました。目についたのは転入ではなく、その過去を調べた際に何者かによる情報規制が張られていたからです」
「ま、まて」
制止なんて意味はない。こちらが何かを悟っていようが、理解していなかろうが関係ない。
彼の言葉は間違いなく現在進行形の物事の報告なのだから。
「ターニィさんが転入した際に同じクラスだった僕らに仕事の依頼が来ました。そして、その後を付けて調べたら一緒に下校した貴方が直接暮らしているという事、ご家族とも交流をしていることもわかりました。
そして見張っている内に見知らぬ女性と一緒に出掛ける貴方の姿を確認しました。その際に家の中には誰もいませんでした。出かけていないはずの人が居らず、知らない女性が出てきたことに疑問を覚えると、次の日には居ないはずの小さな女の子を確認しました。
そして、今日の朝の報告によると、今の家には、当の女性と女の子はいませんでした。まるで神隠しのように。
そして、あなた。ブックさんはどちらともにターニィと呼んでいました」
身震いをした。
なぜ知っている。
監視していた?
ターニィを呼ぶときも、大きい方はほとんど会話をしなかった。小さい方は家から一歩も出ていない。
なのに何故。
だが、俺が怖気づいていることなど構わずに荒村は続ける。
「これらの情報から、ターニィさんは何らかの変身能力者、或は幻覚を見せる何かであると推定され、名実ともに“非現実的存在”と認識されました。今は保護か処分かの検討がなされています。
……つまり、貴方にターニィさんことを聞くのは、彼女の害の有無についての審議の為の情報が必要だからです。
だからブックさん。こちらの質問に答えて欲しいのです。場合によっては貴方も処分対象になりますから。貴方の為にも答えて欲しいのです」
俺は在り得ないと言いたくなった。
笑いたくなった。
そんな俺に荒村は頭を下げる。
「お願いします。ターニィさんとの関係を教えてください」
気が抜けた。てっきり脅してくるのかと思ったのに。
なんでコイツは頭を下げているのだろう。
その時お腹が鳴った。俺のお腹が。緊張感のかけらもない。
そして手に持ったままのバッグを見る。
そういえばお昼だったな。
「なあ、お昼食いたいからさ、考えるついでに食べていいか? 弁当なんだ」
周りは呆れたような顔をした。
そして荒村は顔を上げて、
「ふふふ、あはははは!」
まるで笑った少年のように、その厳つい顔を崩して大きく笑った。
「そういえば僕らも食べてませんでした! みんなで食べましょう!」
荒村がそういうと他の人は皆肩を落とした。
仕方ない。そういうように。
「ブックさん。言ったからにはお弁当、見せてくださいよ」
荒村は厳つい外見に似合わない優しい笑顔で言った。
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