7-3


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「どんな関係とは?」


 俺は反芻するように問い返した。

 それに会長は笑みを浮かべてこういった。


「なんでもいいんだよ? 恋人、愛人、親戚、兄弟、家政婦、奴隷、ペット、なんでもね」


 俺の頬はヒクヒクと痙攣するばかりだ。

 何か会長以前に女性が言っていい言葉じゃない。

 何だろう。俺と知り合いになる女性ってなんでこうも変な人ばかりなんだろう。


「ほおら、黙ってないで答えて」


 そう促す会長の笑みは形だけでこちらを睨み付けているように感じる。

 それに対して俺は、


「嫌ですよ。言いたくありません」

「どうして? 本当に奴隷とか?」

「そんなことを言う人に人間関係を言いたくありません。やましい事があるなし以前に貴女が信用できない」


 本当に生徒会会長かも怪しいしな。

 その回答を聞いた生徒会会長は、右手の人差し指を立てる。

 それをこちらに向かって振るうように――。


「ストップだ。会長」


 振る前に鬼川に人差し指を掴まれた。


「会長。荒事は無しだ。あいつは間違いなく一般人だ」


 荒事? 一般人? 鬼川は何を言っているんだ?

 指を振るうのは何かの合図なのか?

 そう思って俺は周囲を見回す。しかし、ここにいる面子以外は見られない。

 会長は捕まれた指を放してもらい、手をブランと下げる。その様子を見た荒村は俺と会長の間に入る。


「すいませんね。会長は最近色々あって機嫌が悪いんだ。僕から聞くけどいいかい?」

「あ、ああ」


 厳つい容姿をしている荒村だが、その大人しめの声と口調で言われて思わず了承してしまう。


「さっきの会長と同じなんですけど、ターニィさんとの関係を聞きたいんです」

「じゃあ聞き返すけど、その答えは何の為に聞くんだ? それはあいつに何かあっての事なのか?」


 何かあっての事、転入したばかりだが、もしかしたら何らかの手続きを忘れていたりしたのかもしれない。

 しかし、荒村は何か言いづらそうに顔をゆがめ、他の人の方を見る。

 それに対して秘崎が発言する。


「教えちゃえば? 一般人とはいえもう関わっているの同然なんだし、ちゃんとした関係者でしょ」

「いや、駄目だ。事後処理の手間になる」


 鬼川は秘崎の言葉をバッサリ切り捨てる。

 そこから話すべきだ、話さないべきだ、と鬼川と秘崎が言い争う形になった。


 まて、俺を置いていくな。訳の分からない話をするな。

 なんだ? 話すか話さないかって、そんなヤクザみたいなこと言うなよ。怖いだろ。


 そこに会長が、あっ、と声を出す。

 その場にいる全員が固まる。


「ブックなんて名前でもばれてるんだから、漫画とかミステリー小説とか読むんじゃない?」

「ええ、一応」


 いきなりそう言った会長に俺は反射的に頷く。

 それを聞いた会長はポンと手を叩く。


「だったら言っちゃっても大丈夫じゃない?」

「な!? 会長!?」


 鬼川は悲鳴のような声を上げた。そんな声も出来たのか。

 そんな信じられないものを見ているような鬼川に会長は続ける。


「だってブック君はターニィさんと一緒に暮らしている。そして元々一人暮らしで、学園生活では目立った交友関係もない。しかも本大好きでミステリー系も読んでる。話しても話が広まる心配が少ないんじゃない?」


 俺にとって散々な理由を言われた。

 それに対して鬼川は唸るように考える。

 言ってくれ。もし友人が出来たら、とか言ってくれ。


「確かに、このまま友人ができるとも思えないし、言っても大丈夫、なのか?」


 ボロクソでしたチクショウ!


「ふ、二人とも失礼すぎますよ! 僕は友達だと思ってますよ! ……えっと、ブックさん!」


 おう、荒村。お前は優しいな。そして俺の名前忘れてるなこの野郎。

 余り人と話さない俺も悪いのだが。


 それから俺を除いたあちら側が話し合った結果、その何やらを話すことになった。

 まともな話を頼むぞ。


 俺の前に会長が目の前に来て口を開いた。



「私たちは言うところの秘密組織のメンバーなんだ」



 会長はこれまでにない真剣な表情で言った。


 俺は屋上と校舎を繋ぐ扉の方に向いてハッキリと言った。


「帰らせていただきます」


 俺は走り出した。向かうは校舎内に繋がっている扉。


 遠いとは言ってもたどり着けない距離ではない。すぐに扉にたどり着いた。


「ブック!」


 秘崎の声が響く。反射的に後ろを向いた。向いてしまった。

 後ろには誰もいなかった。他の人は先ほどの場所から一歩も動いていない。つまり追いかけてきていない。

 異なることと言えば声を上げた秘崎が左手に手帳を、右手にペンを持っている。距離的にシャープかボールかは分からないがペンを持っている。そのペン先をこちらに向けていた。


「≪君はここから出られない≫」

「は?」


 秘崎の言葉を理解できず、俺は扉のノアノブに手を掛ける。

 力を入れるがノアノブはピクリとも動かない。


「は? は?」


 ドアを揺らす。叩く。引く。引っ張る。どれもビクともしない。しかもどれだけアクションをしてもドアから一切音がしなかった。

 しかもガタガタ揺れもせず、ノブもガチャガチャという機構の擦れるすら音すら鳴らない。

 おかしい。何がって、扉が空かないように細工することは出来るだろう。だが、これほど乱暴にしても扉からは音の一つ聞こえない上に、鍵を掛けたノアノブのような機構に阻まれる感覚もない。ノアノブはその形をした突起物のように微動だにしない。


 そこまでして俺はピタリと動きが止まる。そして後ろを見る。


 彼らは動いていない。

 ただジッと成り行きを眺めている。

 いったい、何が起きているんだ?


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