05,大事な話をしましょ
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俺たちが家に着く頃には日は沈み切り、月が空の上に悠々と飛んでいた。
家に着くとターニィはポンチョを脱ぎ俺は荷物を降ろした。
ターニィの意見を聞き買ってきた食材を元に夕食を作った。
作ったのはスパゲッティ。キノコクリームだ。
作っている最中にも思ったのだが、お昼に食べたかった。モールで食べた普通のチャーハンの事を思うと余計に強く思える。
それと、食事中にターニィと話し合い、奇数の日は俺、偶数に日はターニィがご飯を作ることになった。
それからまた時間が経ち、リビングで話し合いの場が作られた。
食卓に腰かけ、机の上にはコップが二つ。昨日のように麦茶が注がれている。
「さて、最初に話さないといけないのは私の“体”についてかしら。」
「ん? ああ、そうだな」
いきなり切り出したターニィの言葉に少し戸惑ってしまった。 体、という言い方は確かにその通りなのだが、俺の認識とずれた言い方のように感じられた。そして、それはある意味当たっていた。
「ざっくり言うと、私は体が複数あるわ。」
「……。ん?」
……ゑ? 体が複数? ホワイ?
「……てっきり多重人格的な何かで人格が入れ替わったりするたびに肉体が伸び縮みするとか、そんな感じだとばかり思ってた」
「割と惜しいわね。」
惜しいのか。と俺は呆れたような感情が呆けた心から浮上した。
「私は複数の体はあるけど人格は一つ。まあ、処世術的に決まった性格は無いのだけれど。」
「決まった性格は無い? 今こうして話している性格、口調も作っているのか?」
その質問にターニィは迷いなく頷く。
「この口調はこの体の時に使ってるわね。」
この体、か。昨日、見せたのは三つ、いや、目の前の普段の姿を合わせて四つの姿を見ている。
「という事は体が変わるたびに口調を変えているのか」
「とも違うのだけれど。」
「?」
違う? そう言っているように聞こえたのだが。
ターニィは俺が疑問に思っているのを面白がっているのか、俺の顔を見るとニッコリと笑みを浮かべた。悪戯好きそうな嫌な笑み。
「この体はね。漫画的に言うとオリジナルなの。」
「オリジナル?」
「そう。本来の体。本来の姿。代えのないたった一つの“私”」
つまりは、だ。
今現在、学校から現在までの姿がターニィそのもので、昨日見た七変化が如くみせた他の姿はそうでないという事か。
ということは……!
「どういうことだ?」
と、俺は首を捻るしかなかった。ドンドン回る頭の中は回りすぎて情報が絡まりそうになっている。
そんな俺を見てターニィはフフッ、っと笑う。
「そう難しそうに考える必要ななのよ? 単純な話だから。」
「単純って言われたってなあ。普通ありえないことだからな。知識的に分かっても頭の方がついて行かない」
あの摩訶不思議な現象だってそうだ。小さい手、細くも大きな手、そしてそれらの柔らかい感触とその感触が変わる瞬間、それらを見た感覚。
正直それが無ければ、言ってしまえばテレビ越しであれば合成映像やマジックだと思ってしまうような現象なのだ。
それが種も仕掛けもないと目の前で見せられた。
本当に漫画的というか、漫画の様な現象を再現させられた気分だ。
漫画で超能力を目の前で披露された一般人が超能力者を奇異な目で見る描写がよくあるが、よく大げさだなと思っていた。だが、目の前のターニィが起こした現象を見た俺からしてみれば、それはいい気分ではない。分からないことが目の前で突然訳の分からないことが起きた。それは恐怖以外の何物でもない。
それだからこそ、知らなければならない。ターニィの事を、手品なのかそうでないのかといったことを含めて。
「ターニィ、確認……、まあ、確認したいから大きくなれるか?」
「ええ。はい。」
そういうとターニィの体、顔つきが変化する。大人の姿、身長は大きく体つきもしっかりとしている。
その変化は一瞬。体の端から少しずつ変わるわけではなく、本当に瞼の開閉の間に終わる。
「次は小さく」
「はい。」
今度は瞬きをしないように見ていたのだが、ターニィの声と共にターニィの姿は小さな姿に変わっていた。
変化の瞬間は見えなかった。気付いたら、というやつだ。
ターニィの姿の変化はパソコンで画像の切り替えのように変化前と変化後の間がないのだ。
そして、もう一つの姿。俺の絡まった頭の中で建てた予想の姿。
「ターニィ、お前の元の姿に似た“別の体”になれるか?」
「……はい。」
俺の言葉にニッコリとほほ笑んだターニィはその姿を変えた。
その姿は黒髪。一見すると大きくも小さくもないターニィ本人に見える。
だが、そうだ。昨日は金髪だった。
「ターニィ。その状態で髪の色を変えられるか?」
「……何色?」
「金色」
普通に考えれば何もせずに髪の色を変えるのは不可能だ。染料を使ったり、傷んだりしなければ髪の色が早々に変わることは無い。
だが、ターニィは言われた通りに変化した。
体と同じく、その髪の色を気付く間に金色にしたのだ。
それを見て、俺は次のステップに踏み込む。
「じゃあ、次は、髪を黒くした後に、元の姿と何度も入れ替わってくれないか?」
「フフッ、そこまで言うなら分かってるんじゃない?」
ターニィは笑う。先ほどからターニィは笑みを崩さない。
いや、別にそんなことは良い。笑顔であることはいいことだ。
そう俺は心で言い含め、言葉を紡ぐ。
「確認だ。お願いだ。やってくれ」
「そう。それじゃあ10往復ぐらいするわ。」
俺が頷くと、ターニィの髪は黒になった。その後にターニィはジッとしている。
その姿を俺は同じくジッと見続けた。
ややあって、ターニィは話しかけてくる。
「10往復。確認できた?」
「ああ、できた」
長い作業を終えたような感覚に俺の肩は反射的に下がる。
先ほど、傍らから見たらターニィはジッと座っているとしか見えなかっただろう。
そんな近くにいないと分からないことを俺は観察して理解した。
“元のターニィ”と“それに似た姿のターニィ”を比較して後者よりも前者の方が一回り小さかった。
言葉を変えるなら“幼かった”のだ。
それを確認して、俺は口だけ動かす。
「二つ質問させてくれ」
「どうぞ。」
「体は今見せたものだけか?」
「そうよ。」
「最後に、“元のお前”は髪の毛とかの色は」
「変えられないわ。」
「ありがとう」
それだけ言うと俺は椅子の背もたれに寄りかかった。
だらけるように俺は顔を天井に向けながら話しだす。
「今から推測を含めたお前の体について話す。間違っていたら指摘してくれ。
まず、お前の体は“本当の体”と“本当ではない体”の二種類在る。前者は、多分俺と同じ普通の成長したりする体だと思う。後者は、三つほど体があって、まあ推測の域を出ないが成長、恐らく老化もない。
さらに言うと、“本当の体”は普通だから髪の色を変えられなくて、“本当ではない体”は普通じゃないから髪の色を変えられる。
それは“体質”の様なもので、処世っていうのはその体に対応した性格や口調をするようにしている。
こんな感じだが、どうだ?」
シンとその場が静まり返る。
ターニィは真顔だ。笑顔じゃない。
正直、漫画とかゲームとかの知識のせいで様々な推論を織り交ぜた結果、明後日の方向に解釈しているかもしれない。
ターニィは長く息を吐きながら俯く。ため息とは違う息遣いに俺は少し背筋が伸びた。
ターニィは顔を上げると、その顔はいつも通りの笑みを浮かべていた。
「少し驚いたわ。」
「……。あってたのか?」
「8割ほどかしら。ほとんどは合っていないのではなくて足りないのだけれど。」
足りない? と言うと老化云々の妄想任せのところは会っていたのか。まじか。
だが、足りないという事はもう少しぶっ飛んだ俺の想像の先があるはずだ。
「と、言うと?」
そう聞いてみるとターニィは麦茶を一口飲み、口から固まったような息を吐いた。
「まず一つ。今現在のオリジナル以外の体は確かに三つある。時間経過による成長や老化もないわ。けど、意図的に年齢を上下させることは出来るの。
二つ。私の性格や口調は別に外見に沿ったものではない。その時々で意識的に変わることもあれば無意識的に変わることもあるという事。
三つ。オリジナルとか言ってはいるけど、私には決まった体は無いの。」
「決まった……?」
決まった体が無い? それはどういうことだ? 今の姿、自称オリジナルが、“普通の体”が“本当の体”ではないのか?
「私にとってはね、この四つ体全部、ほとんど大差がないのよ。今の、正確には成長していて、未来に老いるであろうこの体が“生まれ持った体”と分かってはいるのだけれど、他の体も物心ついた時からあるから“本来の体であろう物”と対して変わらないのよ。」
あ、としか声を出せなかった。そう言われたらそうなのだ。少し失念していた。情報がなかったとはいえその可能性を考慮してなかった。
先ほどの俺の推論は完全に“本来の体”と“そうでないもの”を完全に別物、悪く言えば後者を差別的に言っていたかもしれない。
「俺の推論、悪いことを、いったか?」
恐る恐る聞いても見ると、ターニィは笑みを変えずに話す。
「いいえ、むしろ感心したわ。というか、成長しないとか、老化しないとかの発想はどこから?」
「ああ、それはギャルゲー……いや、本から」
口が滑った。だがハッキリと言ってしまったものはちょっとやそっとじゃあ誤魔化せない。
ターニィが目を細める。
「ギャルゲーって何?」
眉間が引きつるのを感じた
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