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 俺は言い淀む。

 ギャルゲーは余り女子に良い感情はないと勝手に思っている俺にとってはその質問には答えられない。

 答えたくない。


「……ふーん。ギャルゲー? ってエッチなゲームの事?」

「違うぞ。ギャルゲーは……なんでもない」

「そこまで言ったなら最後まで言いなさいよ。」


 呆れたような様子のターニィは肩を落とす。

 それを見た俺は漫画みたいに都合よく言い逃れられるものでないと、ご都合主義のない現実を内心恨みながら話し始める。


「ギャルゲーと言うのは主人公が何らかの都合で出会った複数の女性と恋愛するシュミュレーションゲームの総称だよ。

 ゲームにもよるけど、主人公が女の子の場合もあって、その時は単純に百合ゲームと分けられることもある。

 そんな感じのゲームだよ」


 ターニィはそれを聞いて首を傾げる。


「それが何で成長とか老化云々の発想になるの?」


 そりゃそんな疑問が出るよ。

 最近はライトノベルでもあるけどね。本当になんでだよ。

 ……よくよく考えたら百合には反応しないのね。


「まあ、なんていうか、そのギャルゲーのヒロインたちの属性として、そういった要素が盛り込まれることが多いんだよ」

「……属性?」


 あああああああ!!

 疑問持つのそこ!?

 そういえばヒロインとかの特徴とかを属性って言ったのっていつからなんだ? いやそんな事よりも説明だ。


「ええ、と、属性っていうのはヒロインの持つ、あれ、えっと、そう要素! そのヒロインが持つ特徴を一つ一つに意味と名称を与えたものを総じて属性っていうんだ。ネットとかではよく使われてる。最近の恋愛小説でも例として使われることもある」

「ふうん。」


 声が震える。なに女子に向かって変な声を出してるんだ俺は。

 だが、当のターニィは目をパチクリさせて俺の話を聞いている。

 出す声は淡泊なものだが、それは俺の言葉を聞き逃がさないようにしているからのようだ。

 そうであってくれ。


「それで、その属性っていうものの具体例は?」


 引きつった声が出そうになった。なぜそんなことを聞く。遠回しに俺の好みでも探っているのか?

 なんで俺がサブカル用語を同年代の女子に説明してるの!? 罰ゲームかよ。


「あ、あ、ぞ、属性にも色々あってな。例えば姉や妹、イトコとか幼馴染とかの身近な人や、先輩や後輩、教師と生徒といった立場を示す属性。

 えっと、後は性格面、クールとか、攻撃的とか、甘えん坊とか、おっとりとか、そういった内面を表すのも属性っていうんだよ

 他には服装とか髪型とか色とか、人種も属性になることもある。あとは不老とか、成長しないとか、特殊な事例も含む。

 そ、そんな感じ。以上、です」

「ふうん。」


 ターニィが満面の笑みを浮かべている。

 こいつ! 遊んでやがるな!

 ターニィはワザと馬鹿にするようにうんうんと大げさに頷いている。

 そしてターニィは頷くのをやめて、笑みをこちらに向けた。


「その話を聞いてある意味安心したわ。」

「俺の話はいったい何を安心させたんだ?」


 少し不満と疑問を言ってみると、ターニィはゆっくりと俺と目を合わせる。

 お互いの目の奥がまっすぐ合わさるのを感じる。

 ああ、真面目な話なのか。と悟るような気持ちになり真っすぐターニィを見つめ返す。


「で、本題は何だ?」


 つまるところの閑話休題。強引ではあるが、このままギャルゲー話になるよりはマシだ。

 俺の言葉にターニィはまた頷く。先ほどとは違い了承したように浅く頷いた。


「私には決まった体は無いって言ったわよね?」


 俺はそれを聞いて、ああ。と落ち着いて答える。

 この返答はターニィについてさらに踏み込む確認だ。


「貴方に、私の本体を選んで欲しいの。」


 “本体”? 俺は目をパチクリさせた。


「つまり、本当のお前と言う存在を俺に決めろっていうのか?」


 その言葉にターニィは頷く。

 そんなターニィという一個人の人生を左右しかねないようなことを言われても……、もしかして、


「お前が婚約を申し込んだのは、この時の為なのか!?」

「いいえ、それは幼い頃の話。これとは異なる話なの。」


 ちょっと自信満々に張った声で言ってしまった。そして速攻で否定されて少し恥ずかしい。

 そんな俺の心情を無視してターニィは続ける。


「貴方と寄り添うのなら、曖昧な私に代わってあなた自身が選んで欲しい、そんなところの話なのよ。」

「……そんな簡単に言うがな、お前の体は誰でもなくお前自身のものだろう。そんな他人任せな」

「他人じゃないでしょう?」

「あ~、一応、一応婚約者な。だとしてもお前の将来の生き方に関わる案件だろう? その大事なことを俺なんかに任せていいのか?」

「大事なことだからよ。」


 そう言ったターニィは俺から目を離していなかった。

 ずっと、ずっと俺を見つめている。

 その心の中まで見つめられているような感覚に俺は何も言えない木偶の坊になる。


 “大事なことだから”


 それは俺が決めなければならないのか? だが、ターニィは俺でなければならないというのだろう。ここまで話を持ってきたのだ。そうではないとは言わないだろう。

 だが、このようなことを今ここで、……ここで?


「大事なこと、それは、まあ理解した。それが必要な、何に必要なのか分からないけれど、必要なんだろう? ここまで言うならさ。

 だが、それは今ここで決めることなのか?」

「いえ、今ここで決めることではないわ。」


 あれ? てっきり、今ここで決めてちょうだい! みたいに言われるのかと思った。


「いま、私がその場で決めてちょうだい! って言うと思ったりしたかしら?」


 大体あっている。

 お前は超能力か何かを持っているのか!? ……持ってそうで普通に反応に困るな。


「そんなこと思ってない。決して。でだ、今ここで決めないって何かあるような物言いだが」


 その言葉にターニィは微笑を湛える。

 不安を煽るような表情をしないでほしい。


「ちょうどいいゴールデンウィーク。それを活用しようと思うの。」

「活用?」

「ええ、明日と明後日、そして金曜日を挟んで土曜日、そして最終日の日曜日。計四日を使って四つの私から選んでほしいの。性格や口調のリクエストも受けるわ。」


 四日? リクエスト? 何だろう。その言葉が何を示しているのかが分かる。

 何を言おうとしているのか分かるだけあって言わないで欲しい。

 ターニィはどうだ? と言いたそうな顔で話を続ける。


「つまり、体や性格の異なる私とデートをして、一番良い私を選んでもらう。そんな、き、か、く♪」


 俺は顔の引きつきが止まらなかった。


「そうね、昨日今日考えたことじゃないの、どちらかと言うと貴方は私をお嫁さんと余り認めていないように見えるし。

 だからこそ、私はあなたにこういうことにしたの。いえ、今この言葉は今さっきの貴方の話を聞いて、それを絡めたシャレオツな言葉を思いついてしまったの。それを言いたい! だから言うわ。」


 ターニィはうれしいのかこれまでにない微笑みを湛えている。

 ターニィはこちらに向かって大げさに人差し指を差し、こう宣言した。



「属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?」



 全然シャレオツではなかった。

 だからそのドヤ顔をやめろ。

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