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 予定にあった服屋をすべて回り終わると時間は既に12時を過ぎていた。

 ターニィは買い物を楽しんでいた為か空腹を感じてはいなかったのだが、付き添いである俺が空腹に限界を感じたのでモール内のフードコートで昼食をとる運びとなった。


 俺とターニィは両方とも、中華屋の本格チャーハンなるものを頼んだ。

 俺がチャーハンを選んだのは品名に興味が湧いたから、ターニィは興味の無い物を消去法で無くしていった結果選んだようだった。 熱い湯気に煽られるように口に運んでいき、二人して同じ感想を言った。


「思ったより普通だ」

「思ったより普通ね。」


 まあ、こういった場所にある売店の食べ物は夏祭りの屋台と違って風情も何もないから、雰囲気でおいしく感じることもないのだろう。


 そんな期待外れの食事を進めていると、横の席に人が来た。視界の隅に俺たちと同じチャーハンが見える。

 昼時だ。多くの人が至る所で食事をしている。適当に座って隣に人がいるなんて変なことじゃない。

 だが、その隣の席に座った人は座った後に少しこちらに寄ってきたのだ。

 そちらの方を見ると二人組が向かい合うように座り、二人してこちらを見ていた。

 男と女、一人ずつ。二人とも大人というには若い、もしかしたら学生かもしれない。


 男は俺よりも身長は高い。目測では170を超えているかもしれない。髪の毛は日本人らしく黒で、髪は長くはない。カチューシャで前髪を後ろに流していて顔がよく見えるが、その相貌はサングラスで隠されているがその顔立ちは堀が深く厳つい感覚を受ける。ガタイは良く、服は無地のシャツにパーカーとラフな格好で、どことなくチャラい感じを放っている。

 女はターニィを含めこの場で一番低く、その容貌も大きく愛らしい目に腰下まで伸びる栗色のウェーブのかかった髪を揺らしている。服装は軽くフリルの付いたミルク色のワンピースに、その上にカーディガンを着ている。その外見からはリスやハムスターの様な可愛らしい小動物をイメージさせる。

 俺はその二人がこちらをじっと見ているので、何か用ですか? と尋ねる。

 その言葉を待っていたかのように男の方は片手を上げてしゃべりだす。


「まあまあ、そんなに警戒しないでください。たまたま見かけたので話しかけてみただけですよ。ね」

「そうだな。こいつはともかく、私は聞きたいこともあるしな」


 それに俺は内心驚いた。

 決してこの二人が話しかけてきたことでも、用があることでもない。

 二人の声だ。男の声は外見と違って声が高く、少年という言葉が似合うほどであり、その上に丁寧な口調も相まって外見とのギャップを強めている。。

 同じくして女の方。可愛らしい外見とは真逆に声は低く、声だけ聴くと壮年の女性を思い起こさせる大人の声。男のような口調は外見と声の印象を乖離させている。


 そして、俺はこの二人を知っている。というかクラスメイトだ。

 この二人はクラスの中でちょっとした有名な二人組だ。

 “心身凹凸カップル”

 それがこの二人の通称で、俺が一人で本を読みふけっていても所々で噂が飛んでくるほどに有名だ。というか同学年で知らない人はいないのではなかろうか。

 名前はたしか、


「たしか、荒村と鬼川、だっけ?」


 俺が言う前にターニィが二人の名前を言った。

 それに対して男――荒村は頷きつつ、覚えてくれて光栄です。と落ちつた風に言った。

 女――鬼川は頷くだけで何も言わなかったが、ターニィの方を一瞥して視線を外す。


「別に大したようではない。私たちはお前らがどういった関係かを聞きに来ただけだ」

「そうです。僕らが聞きたいのはその一点だけです」


 どんな関係か、か。どうなのだろう。ターニィからの求婚は事実上保留の様な状態で、でも今は彼女からデートだと誘われてここにいる。

 それは同居人? 婚約者? それとも傍から見たら恋人のようにでも見えるのだろうか。

 答えに迷っていると、ターニィは身を乗り出すように声を出した。


「恋人ですよ。」

「へえ」

「ほう」


 ターニィの言葉に二人は驚いたような声を上げる。

 鬼川はその視線をターニィではなく俺に向けている。

 何でこっちを見ているんだろう。


「お前は正気か?」

「……え?」


 鬼川は俺にそう言い、俺は間抜けな声を出してしまった。

 正気? なぜ? 何を言ってるんだ?

 俺は自分でも眉に皺が寄るのを感じ取る。


「ちょ! チエちゃ――痛い!」

「ちゃん付けするな」


 その様子を見た荒村が慌てて名前で呼ぼうとして鬼川に足を蹴られた。恐らく余り人前で特有の名前で呼ばれたくないのかもしれない。

 荒村は蹴られた足をさすりながらこちらに顔を向ける。


「すいませんね。この子の言ったことには変な意味はないですよ。ただ、転入生が恋人を作っていることに驚いているんですよ。気を悪くしないでくださいね」


 そう言って頭を丁寧に下げた。

 俺は別に気を悪くするような言葉のようには感じなかった。だけど、そう、気にはなる言葉だった。なにせ心当たりはあるのだから。

 昨日見せたターニィの摩訶不思議な現象。あれはいったい何なのか、それをいつかは聞かなければならない。

 それを思い起こさせた彼女の言葉は決して気を悪くするものではなかった。それに、まるでターニィの何かを知っているような言動に俺は疑問を覚えた。が今ここで言及することではない。なにか間違えがあったら目も当てられないからだ。


「そんな事よりもご飯食べないのですか?」


 ターニィの言葉に荒村と鬼川はそういえばと手元のチャーハンに手を付け始める。

 俺たちはほとんど食べ終わっていたこともあり、残りのチャーハンを口にかきこむ。

 食器を返却するために俺たちは立ち上がると、鬼川が声を掛けてきた。


「また、学校でな」


 ぶっきらぼうに告げられたこの言葉に俺は軽く返事をするだけだった。


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