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食器を片付けた後、俺たちは行く場所を考えたり話し合ったり決めたりしながら出かける準備をしたあと、財布といったものを忘れ物することもなく、特別に語るようなこともなく流れるように家を出た。
現在9時59分。
場所は隣町のショッピングモールだ。
10時になってしばらく待つと目の前の閉められている自動ドアが開店を示すように横にスライドして俺たちを迎え入れた。
「時間丁度か、計算して家を出たのか?」
その言葉にターニィは、その方が気持ちいいでしょう? とさっぱりと答えると前に出るように歩き出し、俺は横並びになるようにあとを追う。
最初に向かったのはモールの出入り口に近い服屋。
ターニィは店の中に潜んでいる服の群れへと迷うことなく飛び込んでいく。
かき分けるように服のデザインを見ていき、後ろで付き添うように見ている俺に度々服の感想を聞いてくる。
感想を聞いてくるとは言っても、「これ可愛いよね」とか「これ私に似合う?」とか聞いてくるわけではなく、服を手に取って俺の前に出してきたかと思うと、
「これはどう思う?」
そう淡々とした口調で聞いてくる。
一応一緒の買い物である為、服とターニィを見比べるのだが、感想を言おうとするその度に服を戻したり、試着の為に手元に残したりしてた後に別の服に視線を移すので中々感想まで言えなかった。
そんなことを繰り返したあと、試着という運びになった。
ちなみに、ターニィが来ている私服はというと、トップスは白を基調とした長袖のタートルネックシャツの上に腰上までの白いポンチョ、ボトムスは黒のジーパン。モノクロのファッションはターニィの黒い髪と合わさって精錬されて見える。
そして、うなじでまとめられた髪には俺の保護者からもらった髪留めを付けている。
そんな姿のターニィが片腕に服を抱えて試着室へと消えていった。
衣擦れの音を聞きながら待つと着替えたターニィが姿を見せた。
その姿を見た俺は、少しイマイチだな、なんて言おう、と感想を考えていると、ターニィはすぐに試着室へ消えた。
また衣擦れの音の後、別の服で姿を現す。そしてそれに対して感想を言う間もなく試着室へ消え、また着替え、また試着室へと繰り返す。もちろん、俺は感想一つ発言していない。
ターニィによるお着換えショーが終わると元の服に戻ったターニィが試着室から悠々と出てくる。
ターニィの両腕に服を持って出てきたあと、片方腕にある服を店内の買い物籠に突っ込み、もう片方の腕にある服は元の場所に戻していく。
場所を覚えているのか。なんてずれたような感想を抱きながら、ターニィに声を掛ける。
「俺の意見はいらないのか?」
そう聞くともう貰ってるわ。とターニィは返してきた。
俺は何も言っていない。一体ターニィには何が見えているんだ。
俺は訝しんでターニィを見つめると、そんなに見つめないでよ。とターニィは笑いかけてきた。
「他愛の無い事よ。貴方の目を見ていたの。」
「目?」
「そう。私の試着を見た時の目。良さそうな物、イマイチな物、似合って無い物、貴方の目を見て判断したの。だって言うでしょう? 目は口程に物を言うって。」
「お前、読唇術じゃあるまいし、目で判断なんて安直な……」
「そう? なら、この中のものを見てどう思う?」
差し出したのは買い物籠だ。少し見てみると、俺が良いなと思ったものばかりだ。
ターニィは微笑を浮かべて俺から籠を取り、会計へ向かう。
ちなみに家を出る前に行くことにした店の内の6件が服屋だ。
つまり、この店を出たら後5件ほど服屋を回ることになる。
その度に俺の目を元に服を決めると考えると、ストレスで精神が削れそうだ。
だが、こうも思う。
女性は男が思っている以上に買い物が楽しいのだと。
何せ、服を見ているターニィの笑みは不敵でもなんでもなく、優しい笑顔だからだ。
そこまで考えて、更に思う。
おれ? ゴールデンウィークは今日を含めて三日ある。
だとしたらあと二日もこの勢いに付き合わされるのだろうか。
まだ明日からの事は決まって無い事ではあるのだが、そう考えると一瞬上がった気分が下がるのを感じた。
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