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「さて」


 そう言って俺はケータイを取り出す。


「どうしたの?」

「ちょっと電話しようと思ってた人が居てね、気分のいいついでに掛けようかなって」

「そう。私は近くにいたほうが良い?」


 会長に電話しようと思ったが、なんて言おうか。


「出来れば少し離れて欲しいかな、先方は俺だけの頼まれごとなんだよ」

「ふうん。ま、そういうことにしておくわ。」


 何かに感づいたようだったが、離れてくれた。勘違いが無ければいいんだが。

 ターニィに俺は後ろめたさを感じながら携帯を開く。

 慣れない電話帳を操作して会長に電話を掛ける。

 しばらくのコールの後に電話に出る音がした。


『はいもしもし?』

「うえ――。いや、本名だと分からないか?

 えっとブックです会長」

『ん? ああ! ブック君。こんにちわ。まさかそっちからかけてくれるなんて』

「ええ、昨日の事で返事をしたいと思いまして」


 そういうと電話の向こうで会長とは別の声が聞こえた。


『ちょっとまって今電話中!

 ああ、ブック君? 昨日のって、保護とかの件の事?』

「ああ、そうですけど、大丈夫ですか?」


 お取込み中なのかもしれない。そう思って聞いてみると。


『ああ、まあそうなんだけどさ、で!? 答えはなに!?』

「ターニィはそちらには寄越しません。俺が一緒にいるって言っちゃいましたから」

『そうなんだ! それは良かった! でも良くないことが今起きててね、今どこ!?』

「どこって」


 そういえば公園の名前を確認し忘れた。

 だが、会長はまくし立てるように言葉を投げてきた。


『聞いているのは場所じゃなくて家か外のどっちかってこと!』

「外ですけど」

『外ぉ!? 今すぐ家に戻って! 今すぐ! 説明は後にするから早く!』

「は?」


 叫んだ会長の声に呆けていると、


「っ! 後ろ!」


 とターニィの声。

 俺はその声に従って後ろを向こうとするが、


 ガンッという衝撃を頭に感じた。

 俺の体は近くのフェンスに寄りかかり、倒れるようにずれ落ちる。

 意識は朦朧とし、視界は霞む。


「――っ! ――っ!」


 誰かが何かを言っている。

 何かの影が誰かに迫っている。

 それだけは分かった。

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