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時間は流れ、本日の終わりのホームルームの後、つまり放課後。
授業間の休み時間まで群れの缶詰であったターニィが群れの囲いに捕まる前に俺の前まで来て、
「一緒に帰りましょう。」
そう、何度も見た気のする微笑で言った。
当たり前だが、クラスは凍り付いた。
そんな凍り付いたクラス内で俺が「わかった」と声を絞り出したのはそれはもう勇気のいることだった。
俺の返事でクラスの凍結は解凍され、俺とターニィを囲まんと群れが一斉に動き出す。
その様はさながら放牧した家畜を逃がさんとする猟犬のようだった。
そんなクラスメイト達を前にターニィは怯むことなく、何とか荷物をまとめることの出来た俺の手首を掴んで悠々と歩きだした。
家、どこなんですか!?
私と一緒に帰りましょうよ!
そんな声が散見される。
群れを見ると俺はかなり強い眼力で睨まれている。
羊になった気分だ。
そんな臆病風に吹かれている俺を余所にターニィは自分のバックを持った手を伸ばし手を掴まれないように器用に群れをかき分けていく。
引っ張られている俺はされるがまま、引きずられるようにターニィと共に群れを抜ける。
群れを抜ける瞬間、ものすごい渋い顔をした秘崎が見えた気がするが、もしかしたら「あの時に引き下がらなければよかった」と思っているのかもしれない。
ただ無視だ。
廊下に出ると、早く教室を出た為か、廊下には別クラスの生徒の数は少ない。
それを確認したからかターニィは力強く俺の手首をひっぱり走る。
手首が少し鬱血してる気がするがそれよりも突然走り出したターニィに合わせる為に走ることに意識が向いた。
俺たち1年のクラスは1階にあり、昇降口も同じ階にあるため下駄箱にたどり着くのは早かった。
下駄箱にたどり着いた時にターニィは俺の手首から手を放した。
手を放した際に、
「さ、早く」
そう妙に流暢な言葉づかいで諭され、俺は短く返事をした後、下駄箱の靴と上履きを交換する。
俺は自分の靴を外に繋がるタイル床へ投げると2組の靴が同時に投げ出された。
片方は俺の靴が、片方はターニィの靴が。
ターンっ! という2組の靴が外と繋がったタイル床に叩き付けられる音はとても良く響いた。
俺とターニィは滑り込ませるように靴を履き顔を合わせる。
まるで宝石のような綺麗な青の瞳がこちらを見据えていた。
放課後の夕方、その赤色の光に照らされているからこそ、その青色は輝いて見えた。
ターニィの目に見惚れていると、ターニィは再度俺の手首を掴み走り出す。
不意を突かれたために転びそうになりつつ何とか体勢を整える。
校門は見る見る近づいていき、あっという間に校門を潜り抜けた。
が。
ターニィは止まることなく走る。走る。
細長い脚のどこにこんな力と持久力があるのか不思議で仕方なかったが、そんなことを走っている最中に聞くことも出来ず、まるで暴走した飼い犬にリードで引っ張られていく飼い主が如く無抵抗で引っ張りまわされる。
そして何度か信号などをほとんど止まることなく通り抜けていった先は俺を含む付近の学生が利用する駅にたどり着いた。
流石に改札では立ち止まり、ターニィは制服のスカートのポケットから定期券を取り出す。
俺も便乗するように定期券をポケットから取り出す。
「ほら! こっち!」
ターニィは俺が定期券を出すのを確認したら手を繋ぎ速足で歩きだす。
改札を通るのに走れないからだと思うがそれでも足は速い。
一瞬つっかえそうになるが、何とか改札を抜け、手を繋いだまま駅のホームへ走っていく。
そこには俺が帰宅する方面の電車が到着している最中なのが見えた。
「まじか!」
思わず零れた言葉と共にプシューと音を出している電車の前にたどり着き、ターニィは息を切らしながら微笑を向けてきた。
その笑みに何とも言うことができず、苦笑いを返してしまった。
電車のドアが目の前で開く、電車から出てくる人は少なく、何の障害もなく電車に入ることができた。
電車の中に入って、一息つく。
電車のドアが閉まってく様子を見ながら、俺はターニィに尋ねる。
「えっと、ターニィさん? 何の用ですか?」
そう聞くと微笑を湛えつつターニィは「そうですね」と言葉を挟み、
「挨拶がしたくて」
そう言った。何の迷いもなく。
挨拶がしたくて。
そう言った。
「えぇ……」
我ながら不満にまみれた声を出してしまった。
しかし、ターニィはそんな俺を見ても顔色を変えずに、「ああそうか」と何かに納得したように言葉を漏らした。
「少し訂正を、私はただの挨拶がしたいがために一緒に走った訳じゃあないのですよ?」
「ん?」
では何の為に? そう言った意図を含んだ声を出すと、ターニィは続けるように言った。
「婚約者としてのご挨拶を、と」
「え゛?」
今までの人生で一番濁った声が出た。
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