08,“私”とのデート? 3と……

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 5月7日、土曜日。

 俺は日常の延長のように朝の6時の頃に起き家事を済ませていく。

 朝食を作り、食卓に並べていくと、ターニィが起床したのか階段を叩くような音が聞こえる。

 そして、リビングのドアが開かれる。


 そこには。


「おはよう!」


 元気な金髪のターニィが白いワンピースにカーディガンを着て立っていた。

 全体的に明るい色であるためどうも眩しく感じる。


「どう? 綺麗でしょう?」


 外見は金髪なこと以外はオリジナルとそう変わらない。だが、その顔立ちや青い瞳から日本人感が皆無だ。完全に海外から来た美少女だ。

 口調はオリジナルに近いが、あれと比べて声のトーンが高い。と言うか明るい。


「たしかに綺麗だな」


 俺は窓の外を見る。雲は少なく、青い空が太陽と共に眩しくその姿をさらしている。


 光の滴はリビングのカーテンの隙間に零れ、リビングを強く照らしている。


「いい天気だ。今日は商店街にでも行くか」


 その言葉を聞いたターニィがステップを踏むように近づいてくる。


「なに? この美しい私を見せびらかすつもり?」


 お前な、そんなことを言っているから、お前が美人なことを忘れそうになるんだよ。

 俺は呆れながら返答する。


「見せびらかすって、単純に天気がいいから外に出たいだけだよ」

「そこは乗って、『そうだよ。君を見せびらかすために人の多い場所に行くのさ』って言うところでしょうに。」


 いや言わねえよ。どこのキザなチャラ男だよ。言うとしたらホストあたりだろ。

 俺は何も表情に出さずにいると、ターニィは反応の乏しい俺を見て肩をすくめる。


「まあいっか。それで、商店街ってどこの? 何しに行くのよ。」

「場所はここから駅を北へを跨いだ場所だ。まあ、やることは買い食いと買い物だな。休日のお出かけはそんなものだろう」

「そういうものかしらね。」


 ターニィは不満そうな声を出したが、その顔は先の事へに期待でいっぱいの笑顔を見せていた。


「出かける前に朝食を食べよう。その後に支度をしたら商店街に向かうぞ」


 そういう間にターニィは一人で食卓に着く。


「はいはい。じゃあいただきます。」


 そう言って朝食に手を付け始める。

 快晴に合わせて作ったポテトサラダにコンソメスープに食パンだ。

 俺に遠慮することなくターニィはバクバク食べている。

 まったく、とため息を吐いた俺にターニィは明るい笑顔を向けた。





 それから、朝食を食べ終え身支度をして家を出たのが大体8時前、商店街に着いたのが8時を過ぎていた。


「結構人いるな」


 そこら中に人、ひと、ヒト。

 ここ近年は商店街は寂れていることが多い中、ここはそこそこの活気があった。

 建物の販売店のほかに、道端に売店やトラックと一体型のクレープ屋といったものが多く見られた。


「どこから回る?」

「それじゃあ、まず、あそこに。」


 俺がそういうとターニィは俺の手を引いて近くの揚げ物専門店に赴く。買うのは食べ歩きができる牛肉コロッケだ。

 そのコロッケは揚げたてで、湯気が立ち上っていた。

 それを頬張ると、口の中でやけどしそうなほど中までホクホクに仕上がっていた。

 味もジャガイモの風味を生かしつつ、ジューシーな牛肉の味を染み込ませていた。

 うまい、マネできるかな、と考えてしまう。

 一人暮らしの時は保護者がが来るとき以外は基本的に適当な物で済ませていたが、ターニィが来てからは料理に気を使うことが多くなった気がする。まだ一週間たってないけど。


 そんな考えを余所にターニィはおいしそうにコロッケを食べている。

 そんな様子を見て、今日はいい日になりそうだと思った。





 それから、俺は一緒に商店街を回っていたはずが、気付けばあっちこっちに行くターニィに振り回されていた。

 道端の売店だけでなく、菓子屋、服屋、陶磁器店、あまつさえランジェリーショップにまで突入された。

 午前11時に差し掛かるころには、俺はくたびれていた。主に精神的に。

 一番効いたのはのはランジェリーショップに連れ込まれ、いくつかの下着を直接選べと迫られた時だ。

 何がキツかったかって、店員さんも他の客も女性で、唯一の男性である俺は針もむしろのように感じられたのは言うまでもない。

 せめて「あれ、彼氏なのかな」みたいなセリフが聞こえればよかったのだが、店員も客も俺の事をジッと見ているだけだった。

 しかも、俺を連れているのが金髪の美少女だ。店の外でも視線が痛いのにランジェリーショップでは完全にトドメとなっていた。


 そして俺を引き回した本人であるターニィは、もう満足げに買い物袋を持っていた。

 それはもう綺麗な笑顔で。


「これからどうするの?」


 疲れた俺に元気満々なターニィが聞いてくる。


「お前は満足したのか?」

「ふふ、そうね、満足した、かもしれないわね。」

「そうか、じゃあ一回帰ろう。ほら、荷物を持ってやる」


 そう言い、俺はターニィの荷物を受け取るために手を差し伸べる。

 その手に、ターニィは買い物袋を渡す。その時、買い物袋を渡す時の目は、どこか遠くを――。


「ほら、そんな目をしてないで行くぞ。昼ぐらい好きなの作ってやるから」


 俺はそう言って空いている手の方で買い物袋を渡した後のターニィの手を引く。


「帰るぞ。ターニィ」


 そう、目を合わせて俺は言った。今度はこちらから目を合わせた。

 それに何を思ったのか、ターニィは、


「そうね。」


 と短く答えた。


 俺たちは手を繋ぎながら帰った。


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