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「さて、何から話しましょうね。」


 彼女の口調の特徴。よく聞かないとわからないが、語尾を止めるような話し方。

 その普通に聞いていると気付かない口調は、この場においては力強い印象を与えてくる。

 ターニィは考えているそぶりを見せているが、その腹の内は解らない。


「それじゃあ、私の事情とこの家に住むことになった経緯を話しましょうか。」


 様子を見ていた俺にターニィはそう話を切り出した。




 ターニィはおよそ6歳までイギリスに住んでいたが、突如両親が行方不明となり、日本人とのハーフであった父親の日本人の父親、つまりは祖父のところである日本に来たのだそうだ。そうして日本に身を置くことになったのはいいが、昨年の夏に病気で祖父が急死。ターニィは一人となった。

 祖父の家はそこそこ広く、物も多いこともあり管理が大変だと悩んでいたところに、俺の保護者、正確に言えば俺の叔母に出会った。そして、俺の家に住む提案をし、ターニィは快諾、そして現在に至る。




「と言ったところかしら。」


 俺は一度頷き、そして傾げた。


「ちょっと待ってくれ、俺の保護者とどうやって出会ったんだ? 俺の家に住むという事をずいぶん簡単に了承したような気がするのが」


 ターニィはそれに対して表情を変えずに、そうね。と口にした。


「ごめんなさい。話の大前提を忘れていたわ。私とあなたの叔母様とは昔から知り合いだったのよ。」

「へえ、……へ?」


 どういう事だろうか? 知り合い? 叔母、つまり俺の保護者と? 後付け?


「何時から?」

「私が日本に来てから少しだから、えっと、今から6年ほど前になるわ。」

「なぜ知り合ったか聞いても?」

「私の両親の友人が貴方の両親だったから。」


 そう言ってターニィは懐から一枚の写真を出す。それ、ずっと持ってたのか?

 俺は写真を受け取り、写真を見る。

 ずいぶん色あせているが、そこには日本人夫婦と外国の夫婦、そして外国の婦人と手を繋いでいる少女が写っていた。

 この少女が恐らくターニィなのだろう、しかし、俺の思考は日本人夫婦に目が向いていた。


「この二人、俺の……」


 俺の両親だった。

 10年前、仕事で海外に出向き行方不明になった両親の姿が写真にはあった。

 既にアルバムの写真でしか顔の分からない両親、家にある写真の顔と同じ二つの顔がそこにはあった。


「その写真は10年前にとられた物、その夫婦が行方不明になる一か月前のものよ。」

「そう、なのか。いや、理由になってないぞ、まさか、写真一つで俺の保護者にたどり着いたわけじゃないだろ?」

「ええ。」


 ターニィは俺から写真を返されると机に隅に置き話を続けた。


「この写真はあくまでも叔母様に思い出してもらう為に持ってきたもの。叔母様にあったのは単純に昔会っていたから。」

「……それってどういうこと?」

「私の祖父の家。あなたの家、つまりこの家の近くにあるのよ。隣町ではあるけど。」


 この家は町と町の境目に近いからな。家があるのは境目の向こう側という事なのだろう。

 そしてターニィが前に住んでいた祖父の家というのはは俺の家の近くにある。

 だからターニィは知っていた、叔母の事を。そして叔母もターニィの事を知っていた。

 思い当たることはある。叔母は10年前、両親が行方不明になって落ち込んでいた俺を気遣って一時期一緒に住んでいたのだから。

 恐らく、その時に親の友人という事で知り合って――。


「……その時、10年前?」


 俺は身を乗り出し、机の隅に置いた写真を取り、ジッと見る。

 写真の少女、色あせているせいか顔が少しボンヤリしている。

 だが、ボンヤリして細部が見えないが確かにどこか見覚えのある気がしてならなかった。


「ターニィ。あんた、昔、俺と会ったりしたか?」


 少し声が低くなっていたかもしれない。

 ただ、ターニィはそれに気にする様子はない。


「一度だけ、ここの近くの公園で。」

「近くの、公園……」


 その声を聞いて思考を回す。

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