6-4
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翌朝。5月5日。木曜日。午前5時ジャスト。
やや暗い外の風景から曇りかと思っていたが、すぐに雨が降り出した。
そんな予期せぬ天気に俺は昨日ターニィが言っていた誘拐犯冤罪の話は出来ないな、なんて考えていた。
他意はないぞ。普通に冤罪は嫌だからな。
そういえば、今日は起こしに来いとターニィはメールをよこしていた。俺は着替えたあとに部屋を出て、ターニィの部屋へ真っすぐ向かう。
昨日の事例からしたら、恐らく朝から変わっているのだろう。
ノアノブを捻って中に入る。
中はどこかで見た制服が壁の洋服掛けに掛かっていることと、見慣れないダンボール二つとバックが一つくらいで見たことのある部屋、まだまだ部屋主の色に染まり切っていない様子が見て取れる。
まあ、昨日今日の話だから当たり前なのだが。
そんな部屋の変化を見るために辺りを見渡すと、ベッドの上の布団が不自然に膨らんでいる。
俺はその掛け布団の中に何が居るのかを理解しつつ、その膨らみを揺らす。
「ターニィ。起きろ。5時過ぎだ。」
「うん。起きるから揺らさないでお兄ちゃん。」
その言葉に手が止まる。
布団は膨らみを避けるようにベッドに落ちる。
そこにいたのは今まで何度も見た小さいターニィ。とは異なり、顔立ちは小さいターニィなのだが、紫の無地の着物に、前下がりのボブヘアと、オリジナルのターニィとは毛色の違う姿をしていた。
「おはよう。お兄ちゃん。」
「ハハ。おはよう」
今回は一段と辛くなりそうだと、心の中で肩を落とした。
リビングにて、俺とターニィは食卓を挟んでご飯を食べていた。
ターニィの装いに感化されて味噌汁や漬物に焼き鮭と言った和風の朝食となった。
黙々と食べている小さなターニィを見ていると、その小さな体の小さな胃袋にドンドン食べ物が入っていくと思うと不思議で面白く面白く感じる。
ま、普通に考えるならば育ち盛りなために子供は見た目よりも食べるという考えもあるのだが、この体は成長しないのだからそのエネルギーがどこに行くのだろうかと考えてしまう。
それも不毛な考えなのだろうが。
「ねえお兄ちゃん。」
「……どうした?」
どうもお兄ちゃん呼びは慣れない。なんかむずがゆいし、これの中身があのターニィだと思うとなんか違和感がある。
「ご飯食べ終わったらゲームしようよ。」
「ゲーム?」
ゲームとは? 据え置きゲームは買ってないし、あるとすればボードゲームくらいか。
「で、何かやりたいゲームはあるのか?」
「カバディ。」
何そのチョイス。
「室内じゃできないだろ。それ。ていうかなんでカバディ」
「ネットで見て気になったから。やり方も知らない。」
じゃあなんで言ったんだよ。
「却下だ」
そういうとターニィは口をとがらせて不満げを前面に押し出した表情をする。
「そういうお兄ちゃんは何かあるの?」
そう聞かれて一度箸を止めて考えた後、箸で鮭をつまむ。
「TRPGでもやってみるか?」
「てぃーあーるぴーじー?」
「テレビゲームのRPGゲームの元になったゲームの事。元祖RPGだな」
「ふうん。たのしいの?」
「俺は楽しい。だからまずやってみよう」
そう言って俺は鮭を口に放り込んだ。
朝食後にTRPGを始めて約5時間後、TRPGのプレイが終わった。
初心者プレイヤーであるターニィに説明しながら進めていた都合で長くかかってしまった。
既に時間は12時を過ぎていた。
「疲れた~。」
そう言ったターニィは机に突っ伏した。
一時間ごとに休憩を挟んではいたが、5時間と言う長時間にゲームのルールを覚えたり、自分の作ったキャラクターとゲームマスター(ゲームを仕切る監督のこと。今回は俺がやった。)が演じるキャラクターとの会話や、プレイヤーと自作キャラクターの思考のすみ分け等、頭を動かしっぱなしだった。
ターニィと俺はそんな一種の労働に似たことを終えて、ゲームプレイ中の為のお菓子やお茶をつまんでいた。
「どうだ? 楽しかったか?」
「楽しかったよ~。疲れたけどね。」
ターニィはそう言いつつクッキーを齧る。
そのくたびれたターニィを見つつ、机の上のものを片付けていく。
「どうする? お昼だが、何か食べるか?」
「んーん。いらない。」
俺はそうかと軽く返事をして片付けていくと、紙が一枚ターニィの机に投げだされた腕の下敷きになっていた。
「ターニィ。その紙、こっちにくれ。保管するから」
「ん?」
眠そうな顔をしてターニィは紙を見て渡してきた。
その紙はキャラクターシート。自作キャラクターを書き込むための書類だ。
ちなみに、キャラの名前はターニィ自身の名前を用いている。感情移入しやすいようにと言う考慮の上で決めたキャラだ。
「私を大切にしてね。」
ターニィはキャラクターシートを眺めていた俺にそう意地の悪そうな顔でそう言った。
何かその言い方だと犯罪臭がするのですが。
そう思いながら書類をクリアファイルにまとめて、そのほかのものと一緒に物置に仕舞いに行った。
ふと、キャラクターシートを見たターニィの目を思い返す。
思い違いでなければ、その目はどこか遠くを見ているようにも思えた。
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