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 食事が終わり、二人して台所の流しで食器を洗っていた。。

 水が指の間を駆け巡り、食器についた洗剤を流していく感覚はどこか遠い事のように感じる。

 洗い終わった食器を隣に差し出すと流れ作業のように隣で布巾を持ったターニィが受け取り丁寧に食器を拭いていく。

 食器もそこまで多くない。10分も掛からずにその作業は終了した。


「ねえ、これらは棚のどこに置けばいいの?」


 拭きおわった食器をまとめて持ちながらターニィは問うてきた。

 今後家事を頼む際に必要なことだしな。教えといて損はないだろう。

 俺は下の段は割れやすい平たい皿を中心にしていることや、中段には丼や茶わん、上段にはその他、という風に教えていった。

 一度教えただけで、ターニィは手際よく食器を片付けていった。


「覚えるのが早いっていうか、家事全般は得意なのか?」

「おじいさまに一人で出来るように言われてきたから。」

「そうか、ま、何だかんだで一緒に暮らすんだ、家事は手伝ってもらうぞ」

「全部やれとは言わないのね。」

「そんな傲慢な奴に見えたのかよ」

「多少は。」


 否定してほしかった……。

 そう心の中で落ち込んでいると、ターニィはケータイを取り出して操作し始める。

 ふとターニィの手が止まり、ケータイの画面をこちらに見せてきた。


「ん? なに? ってこれ……」


 画面にはどこか既視感のある名前のあるメールだった。


<服持ってきたよ☆ 玄関開けて♪>


 俺はリビングに行きインターホンについているカメラを起動させる。

 玄関には一見して妙齢の女性が立っている。俺にとってとても身近で、実際の年齢が妙齢ではない人物が。


『ほらほら、見てるんでしょ? このおませさん♪』


 飄々とした口調で女性は言った。

 俺はインターホンのマイクをオンにする。


「荷物置いて帰れ」

『やだぁ、冷たいなぁ。仕事疲れの可愛い肉親を労わっておくれよぉ』

「ああ、もう」


 情けない声に俺は頭を強く掻きながら玄関に向かう。

 玄関の鍵を開けると、その瞬間ノブが大きく動き勢いよく扉が開け放たれる。


「ハァイ! グットナイト!」


 玄関を開け放った女性は大げさに両手を上げる。

 それはまごうことなく俺の保護者の叔母出会った。


「少年! 今夜はお楽しみの予定はあるかい? ちょっと叔母さんとイケない夜を過ごさない?」


 まるでヒッチハイクでもするように明るい声でそう言い放った。

 それに対して俺は言葉を無視し、叔母の手元にあるバックを掴んで手加減無しに引っ張る。


「おら! 荷物置いてさっさと帰れや!」

「ああん! だめぇ! 乱暴しないでぇ!! 乱暴するならキスしてからぁ」

「くさっ! 酒臭い! 香水も相まってドブのような匂いになってる!」


 荷物を取ろうとした矢先に叔母は顔を近づけてきた。

 確か今は7時か8時くらいのはず、こんな時間に飲んでるのかよ!

 俺はそれを押しのけようとするが叔母は倒れこむようにこちらにのしかかってきた。

 俺はそれに耐えきれずに倒れこんでしまう。そして叔母は倒れこんだ俺にのしかかりつつ顔を近づけてくる。

 それを必死に制止していると玄関内から声が来た。


「叔母様。ごきげんよう。相変わらずですね。」


 ターニィは微笑を浮かべて言った。

 叔母はのそりと俺から体を起こして立ち上がり手荷物をターニィに差し出す。


「ターニィちゃん、この子が襲ったりとかしなかったぁ?」

「いいえ、随分と紳士に話を聞いてくれました。」


 荷物を受け取りながら言ったその言葉に叔母はニッコリと笑うと、


「ごふ……うぐっ」


 不吉な声とも音とも分からぬモノをその口から響かせた。


「え、ちょ――」


 倒れたままの俺はそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。

 顔面から酸味のある生臭いものが浴びたからだ。

 毎回毎回こんな感じでこの保護者は全力で酒酔いして家にやってくる。本当にうんざりしている。


 ちくしょう……。


 俺は生暖かいものを浴びながら悪態をついた。

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