6-3
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「どうだった? 今日の私は。」
風呂に入ろうと思って脱衣所に来たら、いつの間にか先にターニィが風呂に入っていた。その上、俺が来ることを待っていたかのような言葉を投げかけてきた。
そのもの言いから前もって考えていた言葉であることは想像するまでもない。
現在俺は脱衣所から浴室への曇りガラスの付いた扉の前に立っている。
「どうだったって言われてもな、なんていうか、演技っぽくなかったな。まるで別人と相手をしているようだった」
「それはそうよ。演技なんてしてないもの。」
「演技をしていない?」
浴室からパシャリと言う音が響く。
「私が演技をするのは冗談を言うときだけよ。」
「そうか」
そう短く答えた。そんな俺の思考は今日のターニィを思い出して頭がいっぱいになっていた。
あの穏やかを通り越した無口と言っていい素振りは演技じゃないと。
「お前は本当に多重人格じゃないのか?」
「ええ、あって欲しいとは思うけれどね。」
沈んだような言葉が聞こえた。その言葉はふと、今日の大きなターニィの顔を思い出させる。
パシャリと水の音がした。
「……あんまりそういうこと言うなよ」
「やさしさ、いえ、デレと言うやつなのかしら。」
「なんで言い直した。それで、デレだったらなんかあるのか?」
「一緒にお風呂を入りましょう。」
「またの機会にさせていただきます」
今度はバシャリとやや大きい水の音。
「貴方、さてはチキンと言うやつなのかしら?」
「いや、ただ単に風呂と寝る時くらいは一人になりたいって考えなだけ」
「そう。」
ターニィは簡単に引き下がる。そして沈黙。
いや、もう少し伸ばしてくれないと俺みたいな話題を持たない奴は会話が止まるんだよ。
そんな黙ったままの俺に業を煮やしたのか、それともただ単に思い出したのか話を再開する。
「明日のリクエスト。聞いてなかったわ。」
「明日か」
残りはオリジナルと中高生ぐらいのと小さいやつの三つか。
そこまで考えて何でもいいと言いそうになった。
何でもいいは本当に適当でいい時にしかつかたら駄目な言葉だ。ご飯とか、読む本とかな。
「お前はどの体からやって欲しいとかないのか?」
「ないわ。順番なんてどうでもいいもの。」
お前の体事情だろうが!
俺は唸って考える。どれがいいか、どれでもいい気がしてきた。だったら、
「明日は小さいのとデートする」
「それだけ聞いたら犯罪予告見たいよね。」
「お前は俺をどうしたいの?」
「そうね。」
ターニィの弾むような言葉に呼応するように浴室からパチャパチャと水を弄ぶ音が聞こえる。
「明日の小さい私が、この人誘拐犯です! って言ったらどうなるのかしら~。とは思ったわ。」
コイツ、完全に遊んでやがる。
「お前な、俺は仮にも婚約者っていう立場なんじゃないのか? 犯罪者にしてどうする気だよ」
「一生私が面倒を見る。」
酷いマッチポンプだ。それも世間体に受けそうな。
何かホラー小説かミステリー小説にありそうだな。ワザと恋人を犯罪者に仕立ててその面倒を見ることで取り入ろうことを目論む女性。
そして浴室からまた水の音。
「それはさておき、明日のリクエストはそれだけでいいの?」
「ん? ああ、性格とかの話か、あと髪の色もだっけか?」
「ええ、最近じゃ金髪ギャル小学生なんて世間じゃ有名みたいよ。どう?」
「どう? じゃねえよ。有名と受けがいいのとではまったく違うぞ。それにそんな子供連れている中高生なんかいたら速攻通報物だ」
「いいじゃない。有名になれて。」
ターニィのご機嫌この上ない声が響く。
「俺の場合はロリコンのレッテルでベッタベタにされるという事をお忘れなく」
「それもまた一興、よ。」
ああ、あの穏やか無口のターニィが早速恋しくなってきた。
「とにかく、日本女子っぽく黒髪の健康児でよろしく」
「了解したわ。ああ、そこにいるならバスタオル、取って欲しいのだけれど。」
そういうと浴槽から出るのが曇りガラス越しに見えた。
一度扉から離れて脱衣所にあるタオル置きからバスタオルを抜き取る。
すると後方で扉の開く音が聞こえる。
バスタオル片手に反射的に背筋が伸びる。
「おいターニィ。風呂の中で待ってろよ」
「蒸し焼きになっちゃうでしょ」
出来るだけターニィの方を見ないようにしながらタオルを渡す。
「ありがとう。ついでに籠の中にあるパンツ。取って欲しいのだけれど。」
「そのくらいは自分でやれ」
そう言って俺は脱衣所から出て行った。
扉を閉める際に、視界にターニィが見えた。
髪を濡らしワザとなのか体に髪の毛を張り付かせた姿は今までにない妖艶さを持っていた。
その後、俺はターニィと入れ替わるように風呂に入り、出たころにはリビングにもターニィの姿はなかった。
ただ、ケータイにメールが入っており、
<明日は起こしに来てね>
なんてメッセージが掛かれていた。
何考えているのか、訳わかんねえ。
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