第37話、終章






―――ジャスポース学園、学園長室。


歌に願いを込めて、巡り巡ったサウザンは。

ついに念願叶って、教師……しかも、学園のトップの座に上り詰めていた。



その地位に至るまでには、数え切れないほどの様々なことがあった。



それは……仕事の合間の居眠りの席にも夢に見るほどで。




「わたしがこんなに苦労……っていうか、わたしは何もしてないけど、のんきなものね」


ノックの音と扉が開く音がして。

しばらく経って夢うつつの中、聞こえてきたのは。

随分と懐かしい……ずっと聞きたかった、そんな少女の呟きだった。

それだけで、目を覚ましてしまったサウザンだったが。

居眠りしていたこともばつが悪くて、起きるタイミングを見逃してしまう。


そんな中、明らかに周りを物色したり、きつめの視線で観察されている……そんな気配がして。




「幸せに、なったんだね……」


次に聞こえてきたのは、そんな言葉だった。

大方、一生を添い遂げると誓った、その人と撮った写真立てでも見たのだろう。

その声色に、拗ねた成分が混じる。



「……ん?」


どうにもいたたまれなくなって。

サウザンは今起きましたよ、なんてふりをしつつ、起き上がる。


ばっちりと目が合う。

潤んだ朱を染み込ませた黒の瞳。



「あれ? 君は……ああ、そうか。会いに来てくれたんだね」


ずっと……振られた訳を聞こうと。

長年待っていたくせに、今更それを伝えるのも照れくさくて、とぼけるようにそんな事を言うサウザン。



「何当然のように言ってんのよ。そ、それに……わたしはあの子のことが心配でっ、あなたのことはついでなんだからね!」

「ふふふっ。そんな所は変わらないんだね」


久しぶりの再会だというのに、あまりに変わらなすぎて、思わずサウザンはそう言って笑ってしまう。



「当たり前でしょ。変わってんのはそっちじゃないの……って! ち、ちょっと!?」


あまりにも変わらないから、あの時の気持ちが甦ってきて。


サウザンは彼女を引き寄せ、抱きしめる。

今はここまで、大胆になったんだよ、と言わんばかりに。




「来てくれて、ありがとう」

「……あっ」


そして、彼女の耳元でそう囁く。


サウザンは知っている。

そうされることが彼女の好きなことだということに。

それはかつての勘違いでもなんでもなくて。


まるで全てに満足したかのように。

霞み始める彼女の身体。



「……また、会えるかな」


振られたのにも関わらず、昔に戻ってしまった気分で、サウザンはそんな事を言う。

すると、彼女はさもいい事を思いついたと言わんばかりに意地悪そうに笑って。



「そうね、またそのうち会いに来るわ。その時はわたしの自慢の彼も連れてくるから」

「はは……」


片目をつむってそういう彼女に、サウザンは思わず苦笑を浮かべる。



「……じゃあ、またね」


すると、本当にまたいつかふらりと顔を出すんじゃないかって笑みを残して……。


彼女は消えた。


まるで、全てが幻だったかのように。




「……またね、リコリス」


サウザンは、知っている。

彼女が幻ではないことを。


何故ならば。

それを言葉に乗せて、口にしたからだ。


その日まで、願いを込めて、歌い続けるからだ。




「どれ、可愛い生徒たちの様子でも見に行くことにしますかね」


サウザンは、そう呟き窓から見える……平穏に澄んだ青空を見上げる。



その抜ける青空のどこからか。



そんなサウザンを景気づける素敵なメロディが、聞こえた気がした……。



      

     (終わり?)






   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歌に願いを~SONG FOR YOU~ 陽夏忠勝 @hinathutadakatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画