第29話 クソみたいな世界
オウショウによって操られた捜査語句達が、ランマとソカ、バンに向かって銃弾を浴びせる――。
咄嗟にランマは、麻の葉模様の鞘に納められた刀を抜いた。頑丈な鞘と刀でもって銃弾を弾き返す。
バンもまた手を盾に変化させ、自分とソカの身を守った。その後ろから、両手を翳したソカが、四方に青い壁を出現させた。ブルドーザーのごとく、捜査語句達を捕らえていく。
ランマはランマで、ソカの青い壁から逃れた捜査語句達を、次々と刀の柄で気絶させていった。そうしてあっという間に捜査語句達を蹴散らした探偵達は、玉座という高みから笑うオウショウを見上げた――。
一方、ジンとイヘンはもまた、互いに間合いを取りつつ、相手の技をかわしていく。俊敏にイヘンが逃げるも、ジンの鎖が地獄の底まで追うようにイヘンの後を追っていく。
「ほんっと、ウザったい鎖ね! でもこんな鎖、私の破壊能力があれば、何の脅威でもないわ!」
イヘンが差し迫る鎖に向かって、手をかざす。捕縛される寸でのところで、爆発音と共に鎖がバラバラに散っていった。
「うふん♡ 快っ感……!」
恍惚な表情で、イヘンが快感に浸る。
「……っ」
握っていた鎖の断片を離し、ジンがその右手に新たな縄を出現させた。
「なぁに? たった今鎖を粉々にされたばかりだと言うのに、今度は縄で私を捕まえる気? 緊縛プレイは好きだけど、私は縛られるより縛りたい派なのよね。まあどちらにせよ、鉄の鎖より劣る縄如きで、私を捕らえるなんて出来ないでしょうけど」
余裕の表情でイヘンが笑うのを、ジンはただ黙って見つめている。静かなる闘志を胸に、自らが握る縄をイヘン目掛けて放った。その縄はイヘンの遥か横を通り過ぎていく。
「うふふ。一体どこを狙っているのかしら? 下手っぴねぇ、おチビさん。それでも『組摘』の課長、【一網打尽】なのかしら?」
外れた縄の軌道などどうでもいいと言わんばかりに、イヘンがジン目掛けて手を翳す。
「
ぐっと拳を握る寸で、放たれた縄が軌道を変え、イヘンの体を四方に囲んだ。赤い光が放たれる。
「何なのよっ……!」
捕縛される前に、イヘンが思いっきり拳を握った。
バンっ――と爆発音が上がる。
「ジンさんっ……!」
咄嗟に助けに入ろうとしたソカの目に、四方の縄の中で燃え盛る炎に包まれるイヘンが映った。
「ぎゃあああ!」
「子供みたいな顔しとるくせに、エっグい技使うでぇ、ホンマ」
顔色一つ変えず敵を見据えるジンに、バンが空笑いを浮かべて言う。
燃え盛る炎と共に縄が消えると、その場にイヘンが崩れ落ちた。全身を炎に焼かれたイヘンが、それでもギリッとジンを睨みつける。
「やっ……て、くれる、じゃ、ないのよぉ……」
「ふっ。無様ですねぇ、【韋編三絶】。この縄は麻でできた特別な縄。神道において麻は神聖な植物であり、結界の意味を持つしめ縄の材料として用いられてきましたからね。つまりこの縄は捕縛用ではなく、結界を張るためのもの。この結界の中では、どのような技であれ、放った張本人に弾き返ってきますから。ふふ。すみません、痛かったですか?」
今度はジンが高みから笑って、イヘンを見下ろした。
「ぐっ……」
「鎖より縄が劣ると見誤った
「すごいです、ジンさん! 憧れるぅ!」
キラキラの笑顔でソカがジンを褒め称える。その隣からバンが、「ホンマ、すぐに尊敬の眼差しで見るクセ止めた方がええで、アンタ……」と一歩引いたところから忠告した。
「さあ、お縄の時間ですよ、【韋編三絶】先生?」
ジンが改めて鎖を握り、虫の息であるイヘンの前で冷笑を浮かべた。
「っち! ぼさっと見てないで、助けなさいよ、オウショウ……!」
叫ぶイヘンが玉座に鎮座するオウショウを睨み付けた。
「……だってよ。王サマなら臣民を助けてやれよ、オウショウ」
嘲笑を浮かべながらランマが視線を向ける。
「この虫けらがボクの臣民だって? 笑わせないでくれよ、ランマ。いつまでもア行語句を崇高なる者としてお高く止まっている勘違い野郎なんて、助けてやる義理なんてないね」
「なっ……! まさか私を見殺しにする気じゃないでしょうね! この烏合の城に、私が一体どれだけの資金を支援してやったと思っているのよ!」
「別にそんなこと、ボクからお願いしたことじゃないよ」
「ぐっ……! 王様気取りめ! アンタなんか所詮、ア行語句の中でも爪弾きにされてる裸の王様じゃない!」
キャンキャン喚くイヘンに、ふっとオウショウが笑う。そうしてゆっくりと口を開いた。
「……【
「
「この歌を詠んだのが誰か、君は知っているかい?」
「そんなこと知るわけないじゃない! 私が生まれた時には既に、この歌は存在していたのよ!」
「そう。ア行語句の中でも始まりの方に生まれた君でさえ、その歌を詠んだ者が誰か知らない。アから始まりオ゙で終わる歌。『アイ』の連中にも訊ねたことがあるが、誰一人としてその者の存在を知らなかった」
「何が言いたいのよ?」
「でもこの世界で唯一、その歌を詠んだ者の正体を知っている〈語句〉がいる。そうだよね、――ランマ」
「え? ランマさん?」
ソカが意外そうにランマを見つめた。目を瞑るランマが、ゆっくりと瞼を開けた。
「さて、ようやく君に聞くことが出来るよ。この世界を創った男――『
オウショウの問い立てを、じっとバンもランマに目を向け、その答えを待っている。固唾をのむジンと、「ランマさん?」と不安げなソカ。
「……讃始歌を詠んだ男が、『只呉明正』? この世界に、【神】は実在すると言うの……?」
ぐぐっと全身から流血するイヘンが起き上がる。
「こんなクソみたいな世界を創り上げた男がいるって言うのっ……!」
どうにか立ち上がったイヘンは、これまでに見せたことがないほど、憤怒の表情でランマと対峙した。
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