第28話 ア行語句を護るもの
ランマとバンが『飛燕城』に救援に駆けつけた。颯爽と大型バイクで登場した二語句に、ソカだけでなく、『組摘』の課長、【一網打尽】も人知れず安堵の表情を見せる。
「――さあ、お遊びの時間はお終いだぜ、オウショウ。俺ぁ言ったよなぁ、今度依頼でてめーと会うことがあったら、その時はタダじゃすまさねーって」
「依頼? 一体誰の依頼でここに来たと言うんだい? ランマ」
月明かりを背に、愉快そうにオウショウが訊ねる。
「俺らの依頼人は【意馬心猿】だ。……
吐き捨てるようにランマがイヘンに言ったのを、「シンエン先生が?」とソカが眉を顰めた。
「【意馬心猿】は弟の悪事に気がついとった。アンタの罪はもうバレとるんや。大人しゅう、そこの統監語句に捕まった方が、懸命やと思うけどなぁ?」
バンもまた、シンエンからの【意】を託された探偵として、イヘンと対峙している。
「フン。本当に馬鹿な〈語句〉よね、【意馬心猿】。まあ、今頃、黒塗りされてこの世界にはいないかもしれないけれど」
「まさかシンエン先生まで手にかけたのか!」
「うふふ。だったら何よ? 何か問題でも?」
「お前は本当にクソ野郎だ!」
「まーだ分かっていないようね。私は【韋編三絶】よ。どんなに悪事を働いたって、ア行特権が私を護ってくれるのよ。本来ならば、そのおチビさんに私を逮捕する権限なんてないはず。そうでしょう? 一網課長さん?」
うっすらと高みから笑うイヘンに、ジンが拳を握る。それでも、そっと微笑んだ。
「確かに本来であれば、私にア行語句を逮捕する権限はありません。それは統監本部の捜査語句全員に言えることです。ただ、それはア行語句に対して、ですが」
「なぁに? 含みをもたせたところで、アンタなんか恐ろしくも何ともないのよ。ア行語句に怖いものなんて何もないわ? アンタも同じア行なんだから、それくらい分かっているでしょう?」
「ええ、分かっていますとも。ア行語句を護るなどという行き過ぎた正義は、嫌と言うほど目の当たりにしてきましたから。でも、いくらア行語句だからといって、すべての罪が赦されるわけではないのですよ」
「なにを言っているのよ。今までア行語句で逮捕された奴なんかいないじゃない。無能な統監本部に、ア行特権を崩すことなんで出来やしないわ?」
「ふふ。それはどうかな?」
挑発するようなジンの態度に、イヘンの眉間が動く。ジンは隣に立っていたバンには目を向けず、口を開いた。
「【千変万化】さんですね。この〈語句〉は私が逮捕します。貴方はソカ君を護ってください」
「なんやて? わしがこの変態クソジジイを
「バン。ジンさんの邪魔をするんじゃない」
いきり立つバンの腕を掴み、ソカが首を振る。
「ソカちゃん。なんでこないな統監語句の肩を持つんや? コイツらはホンマは――」
「いいから! それよりも、僕達はあっちの方に加勢した方がいいだろう」
ソカが向ける視線の先に、じっと対峙するランマとオウショウの姿がある。
廃材の玉座に鎮座するオウショウに向かい、ランマが訊ねた。
「……ところで、ウチの【明鏡止水】はどうした? 姿が見えねーようだけど?」
「ああ。彼ならもうこの世界にはいないよ。イヘンが黒塗りしたからね」
「ふーん。まあ、そういうコトだろーけど。……んじゃ、早速、因縁の対決といこうや」
「良いねぇ。つまらない月夜が流血で華やぐよ。ただ、簡単には黒塗りされてくれるなよ、ランマ。君には、聞かなきゃならないことがあるんだから」
そう言うと、オウショウは自らが操る捜査語句達に向かい、命じた。
「さあ、そこにいる〈語句〉全員を血で真っ赤に染め上げろ。ただし、【快刀乱麻】だけは殺すな。良いな、忠実な僕の臣民達よ」
「仰せのままに、王将陛下――」
捜査語句達が一斉にランマやソカ、バンに銃弾を浴びせる一方で、ジンとイヘンの戦いもまた、火蓋が切られた。
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