第11話 【承】タイムはどこで?

「——私のことは、どうかシンエンとお呼びください」


 そう今回の依頼人【意馬心猿いばしんえん】に言われ、ソカは敬意をこめて、彼女のことを「シンエン先生」と呼んだ。


「けど、【意馬心猿】とは、本来どういった〈意味〉なんです?」

「ああ、【意馬心猿】は〈煩悩を抑えきれない様子〉という〈意味〉で、私は俗にいう仏教派生組なんです」

「ああ、ならうちのアンさん、【疑心暗鬼】さんと同じですね」

「ええ。彼も有名な仏教派生組ですもんね。そのお噂は聞き及んでいますよ。何でも、あの【千変万化】さんの相棒だとか」


 シンエンがウズウズと動き始める。自分のデスクでパソコン業務に励むランマが、横から口を出す。


「ならいっそう、アンとバンを題材にしたらどうだ? アイツらも色モンだし」

「えっ? 良いんですか?」

「ちょ、ランマさん! アンさんとバンまで巻き込まないでくださいよ!」

「アン×バン? それともバン×アン? シンエン先生はどっち派よ?」

「ちょ、だから――」

「私は断然、バン×アン派ですねええ! 関西弁語句と孤高の天才語句、その二語句による、禁断の愛とサスペンス――。構想降りてキター! ヒッヒーン!」


 一語句、鼻息荒く立ち上がったシンエンに、ソカがげんなりと呟く。


「やっぱり、断った方が良かったかなぁ」


 はあっとソカが溜息を吐いたところで、「よし、じゃー行くか」とランマが立ち上がった。


「え? 行くって、どこへ?」

「決まってんだろ、【ショー】を回収に行くんだよ」

「【承】って……。そんな都合よく【起承転結】の【承】が転がってるワケないでしょうが」

「いいから、ほら、シンエン先生も行くぞ」

「え? はあ。分かりました」

 言われるままに、ソカとシンエンはランマの後に続き、外へと出た。


 三語句が連なり、先頭のランマに続くように、ソカとシンエンが顔を見合わせる。


「あの、ランマさん、一体どこへ向かっているんですか?」とシンエンが訊ねた。

「んー? まあ、着いてからのお楽しみってやつだな」

「雀荘じゃないでしょうね?」 

「ばか! いくら何でも、女連れでギャンブルなんて行くかよ! おいソカ、お前への依頼なんだから、もうちっと頭使えよな」

「うう……この男にバカと言われるとは、屈辱以外の何物でもないんだけど」

「ふふ。本当に仲が良いんですね、お二語句とも」

 

 笑うシンエンに、「ま、まあ」と満更でもない様子のソカ。頬を掻き、こそばゆそうに視線を外す。


「——よし、着いたぞ」

「っぶ……」

 急に立ち止まったランマの背中に、ソカが顔面からぶつかった。

「ちょ、ランマさん! 急に立ち止まらないでくださいよ!」

「わりーわりー。ケド、目的地に着いたぜ~?」

 おちゃらけた様子で、ランマが二語句の前で目的地を指さす。


「ここって……」

「ああ。ここが今回の【ショー】タイム会場——麒麟きりん寺だ」

「麒麟寺って、お寺がショータイム会場って、アンタ、またふざけてるでしょ?」


 ソカの冷たい眼差しがランマに突き刺さるも、「いーから、早く中に入ろうぜ」と言って、シンエンの背中を押していく。


「えっ? 私、お寺はちょっとっ……」

「仏教派生組がナニ言ってんだよ! お前さんの実家のようなモンだろー?」

「それはそうですが、私の〈意味〉がそこを拒絶すると言いますかっ……」

「いーから! 黙って俺のいうコト聞いてれば、悪いようにはしねーからよ!」

「え? ちょ、押さないで~!」


 さっさと寺の中へとシンエンを押し進めていくランマに、「どういうつもりだ?」とソカが訝しがる。それでも彼らの後に続き、寺の境内へと入っていった。


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