第19話 コレクション7

 この世界の富や名声は、ごく限られた者達によって、独占されている――。

 

 この世界の法律は、一番初めに生まれたア行の〈語句〉らによって築かれ、彼らの都合の良い筋書きによって、その後多くの〈語句〉達が生まれていった。殊更、数多くの【一】から始まる〈語句〉達は、徒党を組み、兄弟姉妹という観念つながりの下で繁栄していった。そして、その【一】族を中心としたア行の〈語句〉らは、年長者としての威厳と品格を保つため、あらゆる面で優遇されてきた。  

 

 俗に言う、ア行特権である。彼らは病院に行けば他の〈語句〉達よりも優先的に診療され、住宅や自動車などの所有物に対する税金は免除され、その身分も終身に渡って保障されている。


 ただア行というだけで、実力も運も関係なく、その人生と〈意味〉を絶賛されるのであった。統監本部もまた、彼らの手によって組織されたものの一つである。ア行特権を護るかのようなその理念は、やがて行き過ぎた正義として、非難の声を浴びるようになった。


「――それでは駄目だ。行き過ぎた正義はやがて、悪となる。だからこそ、それに代わる正義を築くためにも、我々は信念を貫かねばならない」


 統監本部暗躍組織摘発課課長の【一網打尽】は、一人、呟いた。


 ジンは今、美麗語句連続失踪事件にて指揮をとっている最中である。その早期解決のためにも、今現在、おとり捜査中である。


「――マル被の見当は付いています。ですが、なかなか尻尾を出しません。決定的な証拠を掴むためにも、貴方の潜入は必要不可欠。貴方の身は我々が必ず守ります。ですから、今なお行方不明となっている被害者の語句達を、必ず見つけ出してください」


「ええ。必ずや被害者全員を救ってみせましょう」


 組摘のジンからの依頼により、一人の見目麗しい〈語句〉が、彼らがマークするマル被に近づいたのが、今から三ヶ月前のことである――。

 

 ◇◇◇

「――お帰りなさいませ」

 そう恭しく立礼し、有名コメンテーター【韋編三絶】を自宅に迎え入れたのは、彼のマネージャーにして、身の回りの世話役でもある【春花秋月】である。桜色と中秋の名月を混ぜたような髪色に、銀色の切れ長な瞳。見目麗しい見た目で、スーツ姿が似合う長身の青年である。


■春花秋月(しゅんかしゅうげつ)

春に咲き乱れる花と、秋の夜に照る月を意味する。自然の清らかな美しさをたとえる言葉。


「コレクション7は後部座席に積んである。後で私の部屋に運んでおきなさい」


 イヘンは帰宅するやいなや、ネクタイを外しながら口早に話すと、急き立てられるように浴室へと向かった。


「かしこまりました」


「それと、私の近辺を探っているがいるようだ。シュウゲツ、お前の方で始末しておくように」


「……承知致しました」


 大豪邸の主であるイヘンの背中に、銀色の瞳が突き刺さる。主がシャワーを浴びている中、シュウゲツは車の後部座席のドアを開けた。飛び込んできたコレクション7だと言う〈語句〉に目を見開くも、納得するように口角を上げた。


「これはこれは。流石は不運熟語でいらっしゃる」


 シュウゲツが小さく笑う先には、薬で眠らされた【四面楚歌】の姿があった。



 











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