第26話 探偵の使命
ランマは生体反応を測るリストリングに備え付けられている、超小型携帯でソカに連絡を取った。だが案の定――。
『――おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』という圏外音声が流れる。
「くっそ、また圏外だよ。なんでアイツに電話をかけるといつも圏外なんだ。電波拒絶でもしてんのか?」
何故かソカに電話をかけると、いつも圏外音声が流れる。それを本人に問いただしたことがあったが、『え? そうなんですか? 僕もちょっとよく分かりませんね』と本気で首を傾げる表情が返ってくるだけだった。それが不運からくるものだと、探偵達の中では暗黙の了解となっている。だから今回も、アンはソカとイヘンを探し回っている時も、彼に直接連絡を取ることが出来ず、シンエンと共に駆けずり回る結果となったのだが。
「まあ、直接連絡が取れなくとも、アイツらの居場所なら分かってんだがな」
ランマは生体反応が示されているモニターを切り替えた。それはリストリングにつけられた発信器から、それぞれの居場所を示すものだ。
「え? これ発信器までついとったん?」
意外そうに、バンが自分のリストリングを見た。
「まあ、お前らがサボってないか定期的に確認するために、発信器については、俺とソカしか知らないからな」
ニシシと笑うランマが、緑色が点滅している場所に、「ははーん」と笑う。
「なるほどな。シスイは今、廃材の城で王サマに謁見中か。こりゃー、ただのオッサンの気色悪ぃシュミだけで終わる事件じゃねーってワケね」
「この事件の裏に『飛燕城』まで絡んどるんかいな。こんなん、S級案件やん。ヒヨッ子一語句でどうにか解決できる案件やあらへんで? 所長」
ソカから本来の自分の姿に戻ったバンが、思っていた以上の難解案件に、苦言を呈す。
「わーってるよ。……んで、肝心のソカは、真っ直ぐその『飛燕城』に向かってるという摩訶不思議ね」
「どうなっとるんや? セオリー通りなら、ソカちゃんの不運が発動して、悪趣味ジジイに手籠めにされとるところやろ? ソカちゃんが単独で動くとも考えられへんし、シスイがジジイと行動を共にしとるんなら、誰がソカちゃんと一緒におるんや?」
「この移動スピードからして、車に乗ってるのは間違いなさそうだな。なら、順当に言って、シスイの依頼人だろ。こんな闇深な事件の潜入調査依頼をしてくるくれーだ。大凡、統監本部の連中だろ」
「はああ。アイツら、ホンマ自分らの保身のことしか考えられへんのやな。探偵に潜入調査を依頼するなんざ、わしらのこと、ただの捨て駒にしか思うておらへんのやろ」
ぐっとバンが苛立つ表情を見せた。
「まあ、少なくともア行語句が関わってる事件だ。アイツらも慎重にならざるを得なかったんだろ。時間がねえ。俺らもアイツらと合流するぞ」
そう言って、ランマがドアへと進んでいく。その後姿を見つめながら、立ったままでいるバンが訊ねた。
「……ホンマにええんか?」
「何がだよ?」
「わしらの依頼人は、【意馬心猿】や。この依頼を受けるっちゅうことは、成功報酬として、依頼人の【心】を受け取る言うことやろ?」
バンの言わんとしていることが理解できるからこそ、ランマは笑みを浮かべて振り返った。
「その依頼人の願いはなんだ? 俺ら探偵は、依頼人の望みを叶えることが仕事だぞ。アイツは死を覚悟していたからこそ、俺らに【意】を託した。なら俺らもアイツの願いを叶える覚悟をしなければ、アイツに対し示しがつかねーだろ?」
「……せやな。依頼人の望みを叶えることが、わしらの使命やったな」
「そ。それに、依頼人である【意馬心猿】がそう簡単にくたばる〈語句〉とも思えねーしな。アイツは仏教派生組だ。なら、仏サマのご加護があって然るべき〈語句〉だろ? 煩悩語句狩りの脅威からも脱したんだ。【心】の一つや二つ失っても、作家であるアイツの存在理由に変わりねーだろ」
ランマに諭され、バンもまたその後に続く。向かうは【王侯将相】が統べる『飛燕城』――。
◇◇◇
捜査車両の後部座席に座るソカが、イヘンとメイを追って向かっている場所について、ようやく訊ねた。
「そういえば、僕達は一体どこに向かっているんですか?」
「あれ? 話していませんでしたっけ? 我々は今、【韋編三絶】が裏で繋がっている組織、『飛燕城』に向かっているんですよ?」
助手席に座るジンに説明され、ソカが「・・・」と3回瞬きを繰り返した後、「飛燕城おおお?」と大声で叫んだ。
「ふふ。本当に面白い〈語句〉ですね」
そう穏やかに笑うジンであったが、見え始めた廃材の摩天楼に、ぐっと狙いを定める。
刻一刻と、この事件の【結】に向かい、それぞれの思惑が集結しようとしていた。
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