【韋編三絶】編

第14話 捜査会議

 ソカは事務所の掃除中に、所長席に置かれたモニターを見た。それは各探偵に付けられたリストリングによる、彼らの生体反応を示すもの。五人を象徴とする色で分かれていて、所長のランマは赤。ソカは青。バンは紫。アンは黄。そして残る一人が……。


「……そう言えば長らく会っていないな。無事に依頼を解決出来ると良いけど、メイ君」

 ソカがモニターに映る緑色の生体反応に向かい、その無事を祈った。



 物々しい雰囲気で始まった、捜査会議――。

 この辞書界の平和と秩序を守る統監本部内でも、暗躍組織摘発課、通称「組摘」に所属する捜査語句達は、一つの犯罪も見逃さいない。悪には容赦ない鉄槌を下し、すべての犯罪組織を壊滅させるため、一語句一語句は、自らの使命と〈意味〉に絶対の誇りを持っている。その「組摘」の課長こそ、【一網打尽】と呼ばれる、【一】族出身のエリートだ。彼は捜査語句達の前に対面して座ると、先日壊滅させた裏雀荘を取り仕切っていた組織「壟断会ろうだんかい」について、その後の捜査内容を話し始めた。


「裏雀荘にて利益を独占していた『壟断会』の構成語句は悉く逮捕いたしました。ですが、彼らが利益を還元していた先については、まだ不明確な点が多く、今後も継続して捜査をしていくことが重要です。また、彼らの頭目であった『花牌ファパイ』についても、未だ行方をくらませている現状。彼女の身柄を拘束し、一日でも早く事件解決を図らねばなりません」


 そう発破をかけるジンの隣には、「組摘」の副課長である【虎視眈々】の姿もある。頭は虎で、体は人の姿。スーツを身にまとい、鋭い金色の瞳をジロリと捜査語句達に向けている。


「悪事を働く〈語句〉共に情け容赦はいらねえ! 場合によっちゃあ、黒塗りしても構わねえ。兎に角、この世界から悪を一掃すること。それが我々統監本部に所属する〈語句〉の使命だ! 疑わしきは罰しろ。いかなる悪事も許すんじゃねえ! 犯罪組織『壟断会』はまだ生きている! 必ず『花牌』を見つけ出し、俺のもとに連れてこい! いいな、てめえら!」

「はい!」


 トラの瞳が青くなりかけたことに恐怖するも、一層気合を入れて、捜査語句達が立ち上がった。


 捜査会議が終わり、〈語句〉達がそれぞれ聞き込みに走る。誰もいなくなった会議室で、ジンとトラは席に座ったまま、口を開いた。


「……『花牌』はどこへ逃げたのでしょうか」


「あいつは俺達の取引に関わっている。必ず息の根を止めなければ、正義は貫けない」


「分かっています。トラ、私はしばらく、この捜査から離れます。全権は貴方に委ねますので、後のことは頼みましたよ」


「ああ。お前は例の失踪事件の捜査か?」


「ええ。これ以上の被害を防ぐためにも、今現在、おとり捜査中です」


 そう言うと、ジンは立ち上がり、ドアへと向かった。


「……あんまり、昔を引きずるなよ、ジン」


 ドアノブに手を伸ばしたところで、ジンは動きを止めた。そうしてトラに振り返ると、「ええ、分かっています」と、小さな体でも大人のように笑った。






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