第47話 『勇者』と『聖剣』
「――で? なんでコイツ前後不覚になってんの?」
宿までレアルードを担いで運び終えたタキの第一声がそれだったのは、まあ予想の範囲内だった。
なので、『迷宮(仮)』でレアルードが聖剣を使ったこと、そしてそれによってものすごい疲労に襲われ眠りに落ちたことを簡潔に伝える。
「まー、経緯はわかった。わかったけど、もうちょい詳しく聞いていいか?」
「詳しく?」
「そ。最初はこんな長く付き合う気も、深入りする気もなかったからその辺詳しく聞かなかったけど――まず確認。アンタらは『魔王』を倒すのを目的に旅をしてるんだったよな?」
「ああ」
「そもそも、それはどうしてだ? レアルードが持ってる『聖剣』とやらになんか関係があるのか?」
言われて、そういえばそのあたりのことを詳しく話したことはなかったな、と気付く。
旅の目的を伝えた時は、途中でレアルードとピアが来たから詳しい説明をする前に次の目的地の話に移行しちゃったし、それ以降に訊かれることも話すような流れになることもなかったし。
どちらにしろ、このままタキが旅に同行するんだったらこの機会に説明した方がいいだろう。
そう考えて、頭の中で言うべきこと――もとい、『今の時点でタキに伝えても問題ない』ことをまとめて、口を開いた。
「そうだな、まずは――レアルードの持つ『聖剣』についてだが。あれは、私とレアルード、そしてピアのいた村に伝わっていたものだ。遠い遠い昔、世を脅かす強大な力を持つ者――『魔王』の出現の後、『エルフ』によってもたらされたものらしい。いつか『魔王』を打ち倒すために『聖剣』を揮える人間……『勇者』が現れると、そう言い伝えられていた」
「……『エルフ』ねぇ。またご大層なもんが絡んでるな?」
「とはいえ、古い話だから、その言い伝えのどこまでが真実かはわからないが――」
わからないどころか微に入り細に入り知っている立場ではあるけれど、それを口にできるはずもないのでそう前置いておく。
「『聖剣』が『迷宮』のように、人ならざる、強大な力を持った存在によって生み出された代物なのは事実のようだ。時折『迷宮』の奥底で見つかる、特殊な武具などがあるだろう。ああいうものと近いのだろうと思う」
「そういや、『魔族』と遭遇した時に『魔』の天敵だとか言ってたな」
「ああ。『聖剣』は、『魔王』――ひいては『魔』にまつわるものに対抗するためのものだから、『魔族』にとっても絶大な威力を発揮する。本来の力が出せないといえど、あの場面では牽制としてでも対抗する力が欲しかったから抜くように言ったんだ」
「ふぅん。……持ち主はレアルードなんだよな? アンタの方が詳しい感じなのはなんでだ?」
まぁ、そこは訊いてくるだろうと思っていた。答えは既に用意してあるので、詰まることなく返す。
「私が個人的に、『聖剣』に興味があって、レアルードが持ち主に選ばれてから、幾度か『解析』をさせてもらっていた。だからだ」
「解析?」
「『心眼』のように、人ではなく物に対して性能などを看破する能力を持った者がいるだろう。ああいう能力を、『魔法』で代替して行っている。『聖剣』については、とにかく情報が少なかった。何かわかれば、と」
なるほど、と頷いたタキは、それ以上深く訊いてこようとはしなかった。内心ほっとする。
実のところ、本来の意味での『魔法』でそれが可能かというと微妙なところだったりする。
不可能ではない――けれど、そんな高度な『魔法』が使えるなら、戦闘でももっといろいろできるだろうと言われかねないレベルなので、ひっかかることなく流してくれて助かった。
「で、つまりレアルードが『聖剣』の持ち主になったから、『魔王』を倒すための旅に出ることになったってことか?」
「その通りだ」
「でも話聞いた限り、アンタが一緒に旅に出る必要はなかったんじゃ? っつーかそれを言ったらレアルードもだけど。いくらその『聖剣』にまつわる言い伝えがあって、『聖剣』に選ばれたら『魔王』を倒しに行かなきゃならない、みたいな感じになってたとしても、ぶっちゃけ途方もない話だろ?」
タキの疑問も尤もではある。『聖剣』という現物があったとしても、『言い伝え』なんてふんわりしたものだけを指標に、『魔王』なんていう一個人でどうこうしようもなさそうなものを倒しに行こうとするのは正気の沙汰じゃないだろう。たとえ『聖剣』がエルフ謹製の特別感溢れる代物だとしても、ただそれだけで『魔王』を倒せるなんて一介の村人(多少腕に覚えがあるとしても)が思うはずもないし、真っ当な意見だ。――普通ならば。
そう、その『普通』の思考で打ち切られないように……つまり、『聖剣』を持った者が、必ず『魔王』を倒しに行く――そういう流れになるように、古のエルフたちは当然手を打っていた。
「まず、私が『聖剣』の持ち主になったわけでもないのに、レアルードと共に旅に出た理由だが。単純な話だが、レアルードに誘われたからだ。あの村で、攻撃系統のものを含めて、ある程度以上の『魔法』が使えるのは私だけだったから、妥当な人選だろう」
「いや、それは――、……。……あー。うん、そうだな」
すごく物言いたげな顔で言いかけたタキは、けれど意味深な――というか生温い笑みを浮かべて流した。そんな流され方をするくらいならいっそツッコミなりを口にしてほしかったところだけど(弁明くらいさせてもらいたい)、
「そして、そもそもレアルードが言い伝えのとおりに『魔王』を倒す旅に出たのは――私は『聖剣』所有者ではないから、レアルードから聞いた話でしかないが。『聖剣』の持ち主になってから、〈『魔王』を倒すための旅に出なければならない〉、という……『使命感』というか、『強迫観念』というか――『為さねばならない』という意識がつきまとうようになったのだそうだ」
「……なんか、それ、結構やばいやつじゃねぇ?」
胡乱げな目でタキが言った。否定はできないな、と口には出さず思う。
本人の意思に関わらず『魔王』を倒すための旅に出させるには、まぁ確実といえば確実なのかもしれないけど……。
精神とか思考に関わる『仕掛け』は、大体が深く考えると怖いやつな気がする。考えないでおきたい。
「……暗示の類に近いものだろうとは考えている。まぁ、『迷宮』で見つかるような武具にも、装備すると人が変わったように戦闘を好むようになるような、呪いじみた影響力を持つものがあるだろう。あれと似たようなものなんだろう。『魔王』を倒すための旅に出てからは、その強迫観念も薄まっているらしいから、それほど害があるものではないと思っているが」
「いや、実際に旅に出させられてる時点で害あってるだろ」
「…………」
そう言われればそうなんだけど、そうしてもらわないと話が始まらないというか、エルフの一連の仕掛けが初手で躓くからなんとも言えない。
「――ともかく、私たちが『魔王』を倒すための旅に出たのは、そういう事情だ。ああ、ピアがどういう経緯で加わったのかは、正直私もよく知らないから、本人かレアルードに聞いてほしい」
「え、アンタも知らないのか?」
「レアルードに旅の仲間にピアが加わる、というのを聞いただけだから、経緯の方は特には」
「いやそこは訊くもんだろ」
「旅の主体はレアルードだから、彼がいいと言うのなら私に言うことはない」
そう言うと、タキはちょっと呆れたような顔をした。いやまぁまがりなりにも一緒に旅する仲間が増えるならその辺は聞くもののような気はしないでもないけど……。
でも、
「いやまぁ、アンタだしな、うん」
しかし何を言う前に謎の納得をされてしまったので、わざわざ食い下がる内容でもないし、その話はそこで終わってしまった。そして、そもそもの〈『魔王』を倒すための旅に出た理由〉も説明し終わっていたので、そのままこれからの夕食の話なんかに移行したのだった。
……いや、タキの言葉の真意が気にならないわけじゃなかったんだけど、
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