第40話 レームの町での日々・3
どうにかこうにか穏便にレアルード(とピア)と別れて、一足先に宿に戻って荷物を降ろして一息つこうとした矢先。
「――会ったな?」
背後から投げられた問いに、反射的にびくつきそうになるのを堪える。
振り返れば、扉に寄りかかって、意味深な笑みを浮かべたタキがそこにいた。
気配でわかってはいたけど、そして扉を完全に閉めなかったのは私なんだけど、それでも前触れなく声かけられたらちょっとくらいびっくりしても仕方ないと思うんだ……! というか癖なんだろうけど気配を抑えて近づくのやめてほしい。
「……やはり、分かるか」
何とも言えない気持ちのまま返すと、何故かタキも何とも言えない顔をした。
なんでそんな顔をされたのかわからないけれど、私が何かを言う前に、タキはその表情を拭いさって苦笑に変える。
「相変わらず、なワケか。アンタ結構災難引き寄せるタイプ?」
「そうでもないと思っていたんだが……。旅に出るまではそもそも他人との接触も最小限だったし」
「それもどうよ」
どうよと言われても、立場上そうならざるを得なかったんだからどうしようもない。
タキが確認したのは、ユエの襲撃(?)についてだ。あれが恒例と化していることに、レアルードは気付いてないけどタキは気付いている。多分初接触時に一緒にいたのがタキだったからこういうことになったんだと思うし、自然な流れでもあると思うんだけど――何というか、『仲間内でタキだけが知っている』事柄が着々と増えているような気がしてならない。
だったらレアルードとかにも話しちゃえばいいんだけど、余計なこと言って刺激して過保護再びになられても困るので判断が難しいところだ。私にだって一人で行動したいときはあるし。
せっかくレームの町でならわりと単独行動OKな雰囲気になってきたのに、下手な真似してそれが駄目になったら地味にストレスだ。
「ところでレアルードはどうした? 一緒だったんじゃなかったっけか」
「途中で別れた。恐らくピアと帰ってくるとは思うが」
「……あー……成程」
何だか色々察してくれたらしい。微妙に同情を含んだ眼差しを向けられた。……い、いや、確かに心労は若干溜まったけど。溜まったけど……。
「気になってたんだけどさー、アイツらってずっとああなわけ?」
「……。ああ、とは?」
「こー、『気ィあります、近づく女許しません』的な」
……言いたいことはわかる。ピアのレアルードに対しての態度……というか、周りを牽制するような行動について言ってるんだろう。
旅に出てからのピアの様子を思い返すけれど、なんかちょっとしっくりこない。とりあえずそんな直球すぎる表現は似合わない気がする。
「私は、村ではあまり二人が共にいたところを見ていないから、何とも言えない」
「同じ村の出身だったよな? やっぱ村の中で抜けがけ禁止とか女同士の妬み嫉み的なアレがあるとかそういう?」
「さあ、どうだろう。確かにレアルードは女性に人気があったようだが」
それこそ若い女性に始まり、幼女から年配の方まで、レアルードに好感を持ってない人を探すのが難しいぐらいだったみたいだけど。
記憶を探りつつそう言うと、タキは変な顔をした。何かが噛み合わないけど、何で噛み合わないのか謎、みたいな顔。
「……さっきから聞いてると、アンタ、村ではレアルードとあんま一緒にいなかったわけ? 今の様子見てて、昔っからべったりだったんだろーなーとか思ってたんだけど」
「……まあ、村にいた頃よりは、レアルードが私に意識の比重を傾けているだろうことは否定しないが」
「いや、そんな甘っちょろい表現で済むレベルじゃないだろ?」
「…………」
わかっていても、人間認めたくないことってあるよね。いや、
ひとつ、小さく溜息をついて、口を開く。
「私は村にはあまり寄り付かないようにしていたからな。レアルードが他人といるところ自体、そう見ていない」
「『寄り付かないようにしていた』? そりゃまた何で」
「歓迎されないからだ」
「……。えーと。それはアンタが美人過ぎてとかそういう?」
「君は冗談が上手いな」
「そちらは遠まわしな嫌味がお上手デスネ。……髪色とか、そこら辺?」
「それもある。だが、外見だけの話ではない。そもそも私は素性が知れないんだ」
『
でもまあ、常識的に考えて、いつの間にか村のはずれの森の中に家があって、そこから超絶美形の子ども……子ども(?)が突然現れたら不審を通り越して不気味だろう。魔女狩り的なことにならなかっただけマシである。
せめてもう少し愛想がよければ円滑な人間関係も築けたかもしれないが、一度目はそもそもそういう思考回路がなかったし、二度目以降はそんな心境になれるはずもなかったし、そもそもそんな時間もなかった。
悲願を果たし、『繰り返し』を終わらせる。そのために、村人との円滑な人間関係が必要だったかと言われれば否だったから。
不意に、レアルードに対して申し訳なさと――哀れみにも似た気持ちが浮かぶ。
レアルードが『勇者』でさえなければ、親しくすることにいい顔をされないような、『シーファ』というエルフの末裔に無条件に親しみや信頼を向け、心を寄せることもなかっただろうに。……考えたって、詮無いことではあるのだけれど。
いまいち事情がわからないといった表情のタキに、村での『シーファ』の立ち位置を話すと、やっぱりよくわからないという顔をされた。なんかさっきからこんな顔ばかり見てる気がする。
ちなみに
そもそも『シーファ』には子ども時代がない。エルフだからどうこうじゃなくて、『エルフの悲願を叶えるためのエルフの末裔』だから、らしい。肉体的に幼い頃はあったし、決定的に不審がられない程度に幼い姿の時に村の人たちに接触を図ったけれど(でなければ流石にレアルードと関わりを持つのすら難しい)、外見的には十は超えた状態だった。
独り立ちしていてもおかしくない外見年齢、という基準だったみたいだけど、不審に不審を上塗りしている感は否めない。古のエルフたちも結構無茶な設定だって気付かなかったんだろうか……。人間社会には疎かったみたいだから無理か。
そう考えると、シーファもよく知識だけで人間と関われたよね……。上手に、とは言わないけど、関わりが途切れない程度には何とかやっていけてたんだからすごい。先祖の無茶ぶりに応えられるからこその『エルフの末裔』なんだけど。
「私からレアルードを訪ねることは殆どなかったし、私の元をわざわざ訪ねてくるのもレアルードくらいだったからな。唯一親しくしていた、と言っても過言ではないくらいだが、レアルードの交友関係については詳しくない」
「フツーそれだったら、アンタがレアルードにべったりになる側じゃ……ねぇよな、アンタだし」
勝手に納得されてしまったけれど、まぁその通りなので何も言わないでおく。
むしろ誰かにべったり……依存とかそういう感じになるシーファというのが想像つかないし、そもそもシーファはそういうふうにできていない。
でもそういうことを知らないタキにそう言われるって、
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