【拍手再録】リクエスト小話・2


以前、誕生日なので構って下さい!とばかりにリクエストを募集したことがあるのですが、その際にいただいた「シーファは空を仰いだ、ここも空が青い。」という書き出しからの『あちらで身代わり中シーファのギャグ風味』というリクエストから生まれたものの再録です。



※以前リクエストいただいて考えた拍手小話がベースのIFネタになります。

※IFにIFを重ねた、あくまでも『もし入れ替わった先のシーファがギャグ的状況になっていたら』ネタです。ギャグになりきれてないですが。

※反応に困ってもいいので石は投げないでください。


以上よろしかったらどうぞ。



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シーファは空を仰いだ。


ここも空が青い。あちらの空も青かった。空の青さは共通なのだな……などと益体もない感想が頭を過ぎる。


『チェンジリング』の魔法を使って、異世界の少女の体を得てから幾らか経った、天気の良い休日――この世界での初めての外出に至ったシーファは、既に家に帰りたかった。むしろ部屋に戻りたかった。部屋でひとり落ち着く時間を過ごしたかった。

 その状態を『引きこもり』と呼ぶのだという『知識』は、未だシーファの中には無い。



 空の青さはどうでもいいとして、やはりひとりでの外出はやや無謀だったかとシーファは考える。

 この体――ひいてはこの世界に馴染むまでは部屋から出ないことすると決め、それを実行したことによりこの体の真の持ち主たる『彼女』の家族に心配をかけ、連日連夜涙ながらに出てくるように説得され、あまりにもあまりなその様子に負けて部屋から出た。

 そうして、この世界に馴染みきっていないが故に『知識』が足らず、隠しきれない不自然さから『記憶喪失』だと判断されたのは記憶に新しい。それにまつわる騒動も含めて。


 『彼女』がいかに周囲に愛されていたか、それを承知で『チェンジリング』の魔法を使ったとはいえ、良心……のようなものが痛む錯覚すら覚えた。そんなものは自分にはないはずだが、そんな気がするほどに、周囲の動揺と心配は凄まじかった。思わず遠い目にもなる。


 それ以来、何をするにしても誰かが傍にいる生活が続いた。心配からの行動とはいえ、少々度を超しすぎてはいないかと諭したくなるくらいだった。というか諭した。

 未だ『彼女』の記憶や知識については、断片的にしか想起されない程度だ。故に、書物や映像――本やテレビといったものから、なんとかこの世界における『常識』的な物事を学んでいった結果、どう考えてもやりすぎだろうと思ったからである。いい判断をした、と自画自賛してもいい。褒め称えてもいいのではないかと思う。


 ……この世界について学ぶ最中から思ってはいたが、精神の摩耗の修復に伴う精神面での変化が著しい。

 あちらの世界での『エルフの末裔であるシーファ・イザン』にとってはよくないことなのだが、この世界で生きる上ではこの方が良いのかもしれない、とも思い始めた。

 難しい問題なので、とりあえず青空の下でぼうっと考えるものではないと、一旦思考を取りやめる。



 そう、今は目的があって初の外出を行っているのだ。外に出たからには迅速に目的を果たして帰還すべきだ。ここで部屋へとUターンしても何の解決にもならない。


 未だ圧倒的に『知識』が足りない中、己でも無謀かもしれないと思う『ひとりでの外出』を行うと決めたのは、過保護を通り過ぎた周囲の心配っぷりを払拭するためである。

 もちろん、『知識』を得るための本を買いたいというのも理由にはあるが、実際のところは口で諭すだけでは足りないならば実地で安心させようという試みだ。そのために周囲を説き伏せてひとりで外出することにしたのだから。


 じっくりと周囲を見回す。家の中とは比べ物にならないほど、未知のものが溢れる風景に目眩すら覚える。

 時折『彼女』の記憶が想起されたり、『知識』が流れ込んだりもするが、それでも追いつかないほどの視覚的情報量。


 向こうの世界にいる『彼女』は大丈夫だろうか、とここ数日で何度も思ったことをまた思う。

 できる限りのことをしたとはいえ、到底十全と言えるものでもなかったし、『彼女』へのサポートのために行ったことが逆に『彼女』への負担になる可能性も否定はできない。

 『チェンジリング』の魔法を為した以上、そうならないことを祈るしか出来はしないのだが。



 ともかくも、今やるべきことは自分の得た『知識』と実際の外の世界の様子を擦り合わせつつ外出及び買い物を遂行し、周囲に安心を与えることである。


 目的を見つめ直し、気を持ち直したものの、――さすがに、背後の視線に素知らぬ振りで歩き出すことはできなかった。


 心配なのだろう。ついていけないのならせめて見守りたい、そういう気持ちであろうことはわかっている。


 わかってはいるが、どうあがいても不審者な格好で後をついてこようと画策しているらしい『彼女』の家族及び幼馴染に気付いてしまったからには――ご近所の評判のためにも、再び説得せねばならないのはもはや確定事項だった。



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多分このシーファはいろいろ心労がたまってテンションがおかしくなっているような気がしますね。

常識のじの字も知らないはずのシーファが常識を諭さねばならない不思議。


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