第50話 布石・2
とはいえ、実のところこれも予定調和の一つというか、多分タイミング的にこうなるだろうと『記憶』からして予想していたことだったので、驚いたとまではいかない。ユエと会話した直後になるかは微妙だと思っていたので、そこはちょっと予想外だったけど。
とりあえず、「……なーんて、ちょっと白々しいか」なんて続けたタキに、「……そうだな、少々」と返す。
「最初から、というわけではないだろうが――見ていたんだろう」
答えのわかっている問いを向ければ、タキは『前』、同じタイミングで現れた時と同じように頷いた。
「なんかあったら出ていこうかと思ったけど、ただ話してるだけっぽかったし、様子見してた」
「……そうか」
あっけらかんと言われるものだから、責める気にもならない。多分、心配してくれた――というとアレだけど、そういう気持ちもあっての行動だろうし、まあいいか。
『前』も
「だが、ここで会えたのはちょうどよかった。君に二つほど確認しておきたいことがある」
「? 何だ?」
この『確認』を、シーファはレームの町を離れる前にするようにしていた。一つはタキの答えがその時々で変わるもの、もう一つは『最初』からずっと同じ答えが返ってくるものだ。前者はともかく、後者は今後の指針になる部分があるので、聞いておかないという手はない。
「一つ目の確認だが、……君はまだしばらく私達の旅に付き合ってくれるということでいいのだろうか」
「……あー、なるほど。拠点移動するから再確認ってことか」
タキの言う通り、ある程度レームの町での滞在期間があって、そこからの移動が決まったのと、ここでタキの知り合い……『シウメイリア』(『前』までは『シウメリク』だったけど)に会ったが故の問いだ。
そしてこの問いへの返答は、ひとまずタキがどの程度まで付き合ってくれるかの指標になる。それにシーファが気付いたのは、『旅』を十数回繰り返した後のことだった。
ぶっちゃけタキがここで離脱することもないこともない。『今回』のタキのあれこれを見る限り、その可能性は低そうだけど。
ここで離脱するのか、『旅』の行程の半ばより前にいなくなるのか、少なくとも半ばまでは付き合ってくれるのか、というのがここでの返答で判断できる。
それによって、多少動き方も変わってくるので、シーファはこの『確認』を必須にしていたわけだけど――。
「とりあえず、今のとこ他にやることがあるワケでもないし、もうしばらくはアンタらに付き合うつもりだけど」
「次の町以降も、ということでいいんだな」
「ま、何が起こるかわからねぇし、確定じゃないけどな」
「そうか。わかった」
返答を聞いて、内心ほっとする。
この答え方は、この時点でタキが口にする中では、最長――つまり旅の半ばまで付き合ってくれることが確定の時のものだ。
早々に離脱するよりは、できるだけ長く居てくれた方が戦力的に助かるので、これでひとまず戦闘面では安泰だ。……イレギュラーさえなければ。
イレギュラーについて考えたくはないけれど、『私』が『シーファ』であることが原因なのかそうでないのか、『今回』には既にいくつか『今まで』にない変化が見受けられる。そういう面からしても、タキがいてくれた方が安心するし――何より、『世界干渉力』を保持しているタキに、
ゼレスレイドとの会話で、タキが意識的に揮うことが可能な強さの『世界干渉力』を保持していることを知った時と変わらず――限りなく低いけれど、完全に否定はできないタキ自身に及ぶかもしれない危険と、
……そう、思考する、のは――。
(……………?)
何かが、引っかかったような気がした。けれど、その何かは思考の端をすり抜けてしまった。
「そして、もう一つの確認だが――」
それよりも今はタキへの確認だ。とはいえ、残る一つの確認へのタキの言葉は、いつも変わりない。
「――君は、ヒトの形をしたものの命を、奪うことができるか?」
「……それがホンモノのニンゲンかそうじゃないかに関わらず、ってことだよな? ああ、できるぜ」
告げる事実とは裏腹に、タキの口調も表情も、軽やかとさえ言えた。
だけどこれは――『何度目』だって変わらない、返答なのだ。
そして答えたタキが、逆にこちらに問い返すのも、何度目だって変わらない。
「――そういうアンタは?」
「……そうせねばならない状況下なら」
「つまり、『そうせねばならない状況下』ってのが起こりうる、ってアンタは考えてるワケか」
「『魔王』――あるいは魔族や魔王の眷属が関われば、そういうこともないとは言えない。だから確認しておきたかった」
『記憶』からすれば、人型の魔族との接触は、多くもないが少なくもない。でも、それだけが理由じゃない。
魔に属するモノ達には、『人間』を利用しようと考えるだけの知能があるからこそ、この確認が必要なのだと、『記憶』が告げる。
――この『旅』の中、どれだけ『シーファ』が回避したいと願っても、『魔王』がそれにこだわる限り ――愉しみを、見出す限り。
必ず、『人間』を手にかけなければならない瞬間が、来るのだと。
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