第20話 防具屋にて
タキの予想通り、『教会』からの依頼を受けることに対して、レアルードからもピアからも反対意見は出なかった。
『シーファ』が繰り返していた『旅』のことを考えればいいことなんだろうけど、何だか微妙な気持ちになってしまったのは仕方ない。
さすがに『教会』お墨付きで健康体なことが証明されたので、レアルードの
元々パーティメンバーってことで殆どの行動は一緒になるわけだし、部屋から出してもらえないとかそういうのさえなければ別にいいんじゃないかと思う。
ちょっと感覚麻痺してるんじゃないかと思わないでもないけど、今まで『シーファ』が繰り返した旅でも、距離感としてはこんなものだったみたいだし。
で、とりあえず『教会』の依頼を受けることは決定なわけだけど、その前に『教会』に実績を示さないとならないわけで。
そのための一般向けの『依頼』の物色にタキが行って、
「ねぇ、レアルードっ! これどうかな?」
「いいんじゃないか」
「じゃあ、これは?」
「いいんじゃないか」
どうしよう、ものすごく居た堪れない……!
服と防具を売ってる店で、ピアが商品を手にとってはレアルードの意見を聞いてるんだけど、明らかにレアルードの対応が適当だ。さっきから聞いてると、ほぼ「いいんじゃないか」しか言ってない。
露出度が高かったり、デザイン可愛いけどそれただの布だよね、なものだったり――防具として機能しなさそうなものを示した時だけ、「それは戦闘向きじゃないだろう」とか言ってたけど。
……私は改めて買う必要がない装備なので、傍観しつつ、軽く店内を見回ったりしていた。でも正直、ここに居合わせる必要ないよね?
別に新しく装備を買ってもいいんだけど、今
更に『シーファ』が色々細工して、物理耐性の効果もつけようと思えばつけられるという、旅の始まりから終わりまでぶっ通しで使ってもいいような、バランスブレイカーな代物だ。なんと言っても意思一つで耐性を最高値まで上げられるとかいう恐ろしい性能を持っている。
さすがに旅のしょっぱなからそんなもの着てると変なので、段階的に改造するのが常だったみたいなんだけど、どうやら『私』のために先回りして細工しておいてくれたらしい。有難い。
というわけで私に装備の新調は必要ないんだけど、レアルードとピアは違う。
特にピアはただでさえ物理耐性というか防御力というか、そういうの無いし。いや『シーファ』もだけど、異常な回復力があるので多少はマシだ。
でもピアはただの人間だし、レアルードみたいに『勇者』としての特典みたいなのもないし――って、じゃあなんでピアは旅についてきたんだろう。今更過ぎるけど、気になる。
やっぱりレアルードを慕ってたからとかそんな感じなのかな。そのために弓とか覚えたんならすごい。
「じゃ、じゃあ、これは?」
「いいんじゃないか」
「…………」
「…………」
ぼんやり思考に耽ってたら、なんだかピアとレアルードの間の空気が微妙なものになっていた。
まあ、あの調子で会話してたのなら当然だと思う。彼女の買い物に付き合わされて意見求められるけど興味のない彼氏、みたいな構図だったもんね……。
むう、と頬を膨らませたピアは、ずいっとレアルードに接近する。結構な身長差から、上目遣いになるのは必然だ。大抵の男ならコロッといきそうな可愛さ全開で、甘えるように口を開く。
「やっぱり、レアルードが選んで?」
「……選ぶ? 俺が?」
眉を顰めたレアルードにも怯まずに、ピアは頷いた。
「うん。レアルードはこういうの、選ぶの慣れてるでしょ? だから、お願いっ!」
傍から見ているとお見事としか言いようがない完璧な笑顔を浮かべたピアに、レアルードは。
「自分の身を守るものを、他人の手で選ばせるのはおかしいんじゃないか」
まったくもって空気を読まない発言で、周囲の空気を凍りつかせた。
……うん、見目の良い二人組があんな会話してたら気になるよね。しかも男の方が明らかに空気読んでなかったら尚更ね……。
とりあえず近くにいると何だかマズイことになりそうな気がしたので、こそこそと店の隅に移動する。ここならレアルードからもピアからも見えないだろう、というところで足を止めた。すると。
……うわぁ、なんでこんなところに。
かろうじて口に出すことは阻止したけど、誰彼構わずこんなところに放置している責任を問いたい気分になる物がそこにあった。
真っ黒い、光を反射するのではなく飲み込むような、深い深い漆黒の――腕輪。
オシャレに言えばブレスレットだけど、その物体の由来――もとい正体を知ってるので、間違ってもオシャレになんて言いたくない。
飾り気のない、シンプルなそれは、一見ただの装飾具だ。だけどそうじゃないんだと『シーファ』の記憶が告げてくる。
――それは『魔剣』。
いつか必ず『旅』のどこかで、レアルードの持つ『聖剣』と刃を交える、呪われた剣。
本当に何でこんなところにひょいっと現れちゃってるんだろうこれ。今までの『旅』だと魔剣に憑かれた人間が『聖剣』に惹かれて現れてそのまま戦闘、って形だったけど……。
好奇心で値段を確認してみる。……いわゆる二束三文って感じだった。
なるほど、特に何の効果もない腕輪だからこの値段なのか。そして『魔剣』に都合のいい人間を引き寄せて買わせて駒にする、と。……本当、胸糞悪い仕掛けだことで。
見つけてしまったからには放置しておくのも憚られる。『旅』において、『魔剣』と『聖剣』の対峙はそこまで重要イベントではなかったはずだ。あえて言うなら『聖剣』の誕生秘話に関わる程度で。
でもその辺りのことなら、タイミングを見て
仕方なく、漆黒の腕輪を手に取って、店主の元に向かうことにする。さっさと精算して四次元ポケット――もとい荷物の奥につっこんでおくことにしよう。
そう思って歩き出した、んだけど。
……何故か壁にぶつかった。否、予想外に近くにいた人物に激突した。
恐らく胸だと思われる辺りに思いっきり顔をぶつけてたたらを踏む。
ふらついた身体を、伸びてきた手が支えてくれた。その感触に何故か覚えがある気がして、不思議に思って顔を上げる。
「……大丈夫か」
見下ろしてくるその人は、なんというか、――一言でいえば不審者だった。
長い前髪で目元は見えないし、高さのある襟で口元も見えない。全身真っ黒で大剣背負ってて、露出している部分は顔の中央部だけという徹底っぷり。
決して背が低いわけじゃない『シーファ』が思いっきり見上げないと目線(目は見えないけど)が合わないことからして、相当体格が良いことがわかる。
「大丈夫だ。すまない、気付かなかった」
しっかり自分の足で立ったのを見計らって支えていた手を離してくれるという紳士さに、『記憶』が刺激される。……多分、『シーファ』の知り合い、というか『旅』の仲間になり得る人なんだろう。
手を離した後も何故か無言で見下ろしてくるのに、『記憶』を探りつつ見返す。
声を聞いて姿を見て、それでも即座に思い出せないなら、パーティに入る頻度は低い人物だろう。その内でこの体格、恐らく獲物は重量級となると、候補は絞られる。だとすると。
――『記憶』から探り当てられた人物に、内心首を傾げる。
『魔剣』のことじゃないけど、どうしてこんなところにいるのか分からない人物だ。
『旅』の終盤、最後の町で、運が良ければ『仲間』に入ってくれることもある――そんな程度の関わりのはずなんだけど。
そもそもいわゆるダンジョン以外で会うことが最後の最後まで無いのが『彼』だった気がするんだけど……まあいいか。考えても仕方ない。どちらにしろ、今関わるつもりもないし。
「ぶつかって、すまなかった。支えてくれてありがとう」
意識して笑みを浮かべて、『彼』の脇をすり抜けてカウンターへ。
その間際、聞こえた声には、気付かないふりをして。
――気をつけろ。でないと『喰われる』ぞ。
……心配しなくても大丈夫ですよ『闇の人』。
『
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