第33話 遭遇
休憩場所に戻れば、とりあえず話し合い(?)は終わったらしいレアルード(とピア)に出迎えられた。突っ込んで聞くのは状況的にどうなんだろうと思ったから特に何も言わないでおいた、というか多分宿に戻ってからでもレアルードが話してくれるだろうからこの場ではおいておく。
っていうか『記憶』から分かってはいたけど、レアルードってシーファに色々話しすぎじゃないかな。情報共有は確かにすごく大事なんだけど、ちょっと不思議なくらい話すのにためらいないよね。これも今までの接し方のおかげなのか、それともシーファがそういう役回りだからなのか――まあ別にどっちでもいいんだけど。
私が合流してからわりとすぐにタキが戻ってきたので、そのまま森の探索、もとい調査を再開――したわけだけど。
『記憶』からすれば行程の三分の二くらいを過ぎた頃。
徐々に色濃くなっていく『異常』に、初めに言及したのはやっぱりタキだった。
「なぁ、なんか上手く言えねぇけど、……ヤバくないか、この空気」
ヤバいヤバくないとかいう問題以前に、実のところ
……というか、シーファが本来の実力隠してたのって、こういう縛りがあったからだよね絶対。
意識的に隠してたのもあるけど、それプラスこういうステータスダウン的な色々があったからだよね。まぁ、本来のシーファなら大丈夫なんだろうけど、実力隠してるのと相乗効果っていうか。
多分『私』だから多少は軽減されてるんじゃないかと思うんだけど(シーファがいろいろやってくれた補助の一環だろう)、それでもこの森――というかこの森を蝕んでる『魔』はキツい。
なんというか、息苦しいのを通り越して首絞められてるんじゃないかってくらいだ。
実際には問題なく呼吸できてるので、心情的なものに近いけど。こう、皮膚から毒が回ってくる感覚? 実際そんな目に遭ったことないけど……ない、けど(あれ、もしかしてシーファはあるのか?)、そんな感じでもある。
そんな
ということで小声で『呪』を呟いて、指先で陣をなぞる。
ぶっちゃけて言うと厄除けみたいな、軽い祝福を兼ねた魔法だけど、まとわりつく『魔』を一時的に祓うなら、今の
完全に寄せ付けないようにするとこれからの旅に支障が出るし、かといって何もしないわけにもいかない。これは『魔族』や『魔王の眷属』以外には毒だ。『魔王』側の存在にはエネルギーみたいなものだけど、本来は在るだけで周囲を歪ませる――そういうものだから。
とりあえずちゃんと発動したらしく、それぞれにお礼を言われる。でもなんかピアは微妙な反応だった。空気読んだからお礼言いました的な……もしかしたらそんなにまだ影響なかったのかもしれない。結構個人差あるし。
そんなこんなで更に奥へと進んでいけば、周囲は不気味に薄暗くなってくるし異常じゃない景色を探すほうが難しくなってくるし、かけた魔法が気休めにしかならないくらい『魔』の気配が濃くなってくるしで、そろそろかなーと思ってたら。
『シーファ』からすれば見飽きたと言ってもいい、けれど他の皆からすれば初めて遭遇する、異形化した動植物が現れた、というわけだ。
ああそれにしてもキツい、ほんとキツい。何がってこの『魔』の気配。完全に掌握されちゃってるよねこの辺り。
相変わらず息苦しいような錯覚は続いてるし、じわじわ毒が染み込んできてるような感覚も消えない。どころか酷くなってきてる。たまに視界が霞むというかぶれるというか、結構ヤバイよねこれ。
とか考えてても
ちまちま補助とか回復をしつつ、今のところ前の『旅』の時とそんなに変わりない流れだなぁと思う。戦闘内容はまぁ普通に違うけど、この流れなら普通に勝てるだろう。その後の真打ち(?)登場後の戦闘はともかくとして。
ここでの『魔族』との接触は確定事項だから、流石に今回はジアスのちょっかいも無いはずだ。というか多分ジアスは他のメンバーが揃っている状態で接触してくる気はないんじゃないかと思うし。
ここの『魔族』との戦いに関しては、一度目の遭遇で勝てるか微妙なラインなのが気になるけど、とりあえず死ななきゃいいと思うんだ。まぁまずそんなことにはならないという確信もある。
……うーん、しかしこの後の戦闘、どの程度手を出していいものか。決定打にならない程度に消耗させる方向で攻めるか、もうサポートに徹するか。
『魔族』ってつまり『魔王』と繋がりがあるから、あんまり下手に手を出すとまずいことにならないとも限らないし……。
まぁこうやって考えてたって、結局のところ場当たり的に対応することになるんだろうな……今までのことから考えて。
思考の片手間に魔法を使う。『繰り返し』続けたシーファには、それは造作もないことだ。
けれど、それはつまり、『魔』に侵蝕されたモノ達を倒す手助けをすることで。己に向かってきたモノに半ば反射で発動させる魔法は、確実にその命を奪うけれど。
『敵』と定義づけられたそれらを倒すことに、何も思わないことこそがおかしいのだ、本来は。それはあの、盗賊の襲撃を受けた村で感じた乖離にも、きっと繋がる。
けれど『旅』を続けるには、この状態は望ましいんだろう。命を奪うことをためらって、仲間を窮地に陥れることはしたくない。
『魔王』を倒す。それだけのために私はここにいて、それさえ為せば全てが片付くのだ。それを成し遂げるのに有利なことなら、多少の違和感は飲み込んでしまうべきだろう。
そう自分の中で折り合いをつけるのと、レアルードの剣が襲いかかってくる最後の元動物を屠ったのは、ほぼ同時だった。
「……あー。やーっと片付いた、か?」
とりあえず『魔』に冒された害意ある生物が周囲から居なくなったのを確認して、タキが疲れた様子でそう言う。
でもまだ緊張は解けてない。あんなのが出てきた時点で、この森が安全じゃないことは確定だから当然だけど。
「一度、森を出た方がいいのかもしれないな」
ちらりとピアに目を遣ったレアルードの言葉に、タキがちょっと顔を顰める。あれは多分レアルードの提案が実行可能か悩んでる顔だろう。
ピアの消耗は本人に聞くまでもなく明らかで、身体的な疲れは魔法とかでどうにかできても、戦いという神経を遣う場に再び放り込まれたら足手纏いになるだろうことが目に見えている。実戦経験の浅さから言ったら、かなり保った方だとは思うけど。
まぁ、気力と体力は表裏一体だから、これを乗り切ったあとは是非ともピアに体力向上をしてもらいたいとは思う。私もした方がいいのかもしれないけど、シーファの体質的にあんまり成果が見込めないからなぁ……。
とりあえず自分の意見も表明したほうがいいかと思って、二人に近付く。……うう、心なしか水の中を歩いてるみたいな抵抗感がする。どれだけ力増しちゃってるのここの『魔族』。
「私も、可能なら撤退を選ぶべきだと思う。先程の異形を見て確信が持てた。――ここには『魔族』が居る」
「――……マジか」
多分、予想はしていたんだろう。信じられない、というよりは、信じたくない、といった風にタキが呟く。
「シーファ」
こちらも感づいていたのか、特に驚きを見せなかったレアルードが、すっと
「この空気――『魔族』の侵蝕のせいか。身体に影響が出ているだろう。俺達よりも顕著に」
「……少し、な」
否定しても無意味だろうと、ちょっと濁して肯定する。
頬に触れる体温はいつもより高く感じるけれど、これは多分自分の体温が低くなっているからだろう。身体機能の低下と比例して、熱の生成率も落ちているといったところか。
これがもうちょっとすると、逆に高熱に苛まれるわけだけど。……嫌だなぁ、あれ結構辛いんだよね……。
「とにかく、とっととこの森から出た方がいいってのが共通見解ってことでいいか? 確かに長居すんのは明らかにマズそうだし、そういうことなら手がないことも――」
撤退する場合の今後の動きをシミュレートし終えたんだろうタキがそれを口にするより前に。
「――そんなにあっさり帰すと思っているのかい。これだから愚かだなぁ人間は」
微かに愉悦を滲ませた――それでいて無機質で冷たい、見下す声が響いた。
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