海にて~006

 まあ取り敢えず。

「結局電気は点かないのか?」

 明かりが無いんじゃ何もできない。それこそ寝るしかない。

「うん。今日は遅いから業者さんも来られないってさ。しかもお盆休み中だし」

 真っ当な会社ならお休み中か。まあ致し方なし。

「で、暗くて何も出来ないから、とっとと寝ようって事になって」

 とっとと寝る事には承諾しかねるといった塩梅(あんばい)で肩を竦める。

「俺的には有り難いんだけどな。朝練もちゃんとやれるし」

「ああ、ロードワーク?だっけ?毎朝早起きなんだよね、確か」

「ああ。毎日やんないと鈍っちゃうからな。日課だ」

 そうと決まれば就寝の準備だ。

 ……ん?ちょっと待て。

「なあ、どこで寝るんだ?この部屋はお化けがいたし…」

 もういないのだろうが、やはりいい気分はしない。出来れば他の部屋の方が良いのだが…

「うん。緒方君の言いたい事は解るよ。くにゅえだ君もいい顔しなかったし」

 国枝君も拒否したのか。そりゃそうだ。

 国枝君にはお祓いはできない。人よりも良く視えて、良く聞こえるだけらしいし。

「だから広間でみんなで雑魚寝」

「ふーん…でも、みんなの分は布団敷けないよな?」

「うん。だから共用出来るんなら共用する。要するに、一つのお布団に二人寝るとか」


 ざわり


 氷で背中を撫でられたような感覚…

「……なあ…それって…」

「うん。あの三人、主張しまくっている最中だよ」

 やっぱりか!!つか、女子と一緒になんて眠れる訳がないだろ!!

 そもそも、女子と一緒って選択肢を、誰かが排除しなかったのかよ!!

 渋っている俺を、川岸さんが強引に引っ張る。

 広間には和やかにお喋りする女子達がいた。暗くて表情はよく解らんが。

「だからね、ここはジャンケンで決めるべきじゃない?公平にさ?」

 この声は楠木さんか。何を決めようとしているのだろうか…

「……私は何でもいいよ?どう転んでも左側は貰うし」

 左側ねえ…右には何があるんだろうか?

「それじゃじゃんけんの意味がないでしょー?我儘だなあ、春日ちゃんは」

 笑っているのは槙原さんか。だが、これは本当に笑ってはいない。微妙に声の質が違う。

「……じゃあ遥香ちゃんは、負けちゃったら諦める?」

「あはは~。さあ、どうだろうねえ?」

「アンタ等大概にしなさいよ?」

「じゃあ美咲ちゃんは負けたら恨みっこなしって事で?」

「……恨みっこなしは無いかなあ…」

「……美咲ちゃんも大概だよ?」

 ……内容は良く解らんが…怖い!!

 打ち震えていた俺に、川岸さんがこそっと耳打ちをしてきた。

「緒方君、この人達から一人選ぶんだよね?大変だねえ?」

 すんごい皮肉たっぷりにニヤニヤしていた。

 お前みたいなヘタレには不可能だ。と言っているようだ。

 俺は引き攣りながら返した。

「そ、そうだよ?秋までには絶対に!!」

「秋までってのが、言い訳に聞こえるんだよねえ?」

 もう何も言えない。結論先延ばしにしているのは事実だからだ。

「遥香たちはさ、どうしても緒方君の隣で寝たい。つまり一緒に寝たい訳?」

 いきなり質問を斬り出したのは波崎さんか。

「そうだよ~?なんていうか、ここらで決着付けるのもいいかな~って、ねえ?」

 頷くシルエットは楠木さんと春日さんか…正直言って驚いた。

 俺よりも覚悟は決まっているじゃないか…凄え…仲良しの二人と決別するのも止む無し、と言った感じだ…

 しかし波崎さんは困ったように首を捻る。

「そうなるとさ、博仁がさ、私の隣ってさ、解るよね?ねえ?」

「いいじゃん。彼氏なんだし」

「貞操観念は人それぞれでさ。遥香達はむしろウェルカムみたいな感じなんだろうけどさ、私としてはもうちょっと大事に、って思う訳よ」

 流石のヒロも、この大広間で押し倒すって事は無いだろ。横に寝て悶々とするのが関の山だと思うが…

「でも、くろっきーは木村君と寝るつもりだよ?」

「あっちはあっちで彼氏彼女でしょーが。好きにしたらいいよ。私はちょっと困るなあ、って言いたいの」

 いや、木村も黒木さんと大広間でどうのこうのは無いだろ。

 逆に一人になりたいんじゃないか?あいつの性格なら。

「それに、そうなったら雰囲気に流されて、国枝君と川岸さんってのも…」

 俺は川岸さんの方を見る。川岸さんは苦笑いして、無い無いと手と首を横に振った。

「……国枝君と川岸さんはフリーだから、ここでどう言う関係になってもアリだと思う」

 再度苦笑いして言う。

「いや~…春日ちゃん、大人しそう顔して、凄い事言うなあ…」

そりゃ春日さんは、あの三人の中で、一番過酷な過去を持っているんだし。

「と言うか、男子の面々はどこいった?あそこには居ないし、居られないよな?」

 あの状況下で居座っているのなら、どんだけ面の皮が厚いんだ、と感心してしまう。

「ああ、なんか外に行ったよ」

「外?雨は確かに小降りにはなって来ているが…」

「さあ?男子の考える事は解んないなあ…」

 そりゃそうだ。俺だって女子の考える事は全く解らんし、お互い様か。

 丁度良いタイミングなのか、外から木村が帰って来た。

 そしてきょろきょろ見回して、女子達に訊ねた。

「緒方は?」

 俺を捜しているのか…どうしよう?まだ川岸さんの話が、終わっていないような気がするが…

 顔色を窺うように川岸さんを見る。

「どしたの?呼んでいるよ?」

「いや…話終わったのかな、と思って…」

「終わる訳無いじゃん。つか、ただ責めているだけだよ」

「多分そうじゃないかな、とは思っていたが…」

「だからまだまだ終わらないし、今日中にだって終わらないよ。秋まで続くよ?」

 そっか…成程。

 俺はボソッと呟く。

「頼りにしてる…」

「ん?何だって?」

 聞こえたのか聞こえてないのか。どっちでもいい、それより早く行け、とのジェスチャーが嬉しかった。

 御言葉に甘えて広間に顔を出す。

「緒方、どこ行っていたんだ?まあいい。ちょっと外に出ろ」

 何だろうと、誘われる儘外に出る。

「おお!?」

 庭にはテントが二つ。雨が入らないように、周りに溝が掘られていた。

「こ、これは?」

「お前、あのままなら女と一緒に寝る事になっちまうぞ。だから俺達は外だ」

 テントの中から国枝君がひょこっと顔を出す。

「大沢君は渋っていたけど、木村君があの場で発情しても結局何も出来ない、蛇の生殺しだ。と言ったら、すんなり諦めたよ」

 そりゃそうだろ。ただ悶々と朝になるのを待つだけだ。

「それに、女に内緒で買い込んだビールもあるしな」

 本命はそっちか。どうしてもアルコールが欲しいのか。

 俺は苦笑いしながらテントに入った。

 中ではヒロがすっかり出来上がって、ビールの空缶を数本抱き締めて、涙ぐんでいた。

 かしゅっ、とプルトップを開けてビールを手渡そうとした木村だが、それを丁重に断った。

「俺朝早いからな。それに酒なんて呑んだ事も無いし」

「ああ、朝練ってヤツか?」

 特にしつこく勧めてくる来る事も無く、開けたビールを自分で煽る。

「緒方君はこっちだよね」

 国枝君に手渡されたのは、ブラックの缶コーヒー。それはありがたく戴く。因みに国枝君も意外にもビールだった。真面目さんだと思っていたのに。

「お前、毎日トレーニングやってんの?」

「うん。一日でもサボるとボクシングを忘れちゃうんだよ。身体が」

「お前って馬鹿なんだなあ…」

 呆れたように言う木村。いや、忘れるって言うか、えっと、まあいいや。

 知っている奴だけ知ってればいいって世界だし。

「本気で試合をすれば、大沢君と緒方君はどっちが強いんだい?」

「おお、そりゃ俺も気になる所だな」

 酔っぱらって半泣きしながら寝ているヒロに気遣う訳じゃ無いが…

「フルラウンドで試合するとしたら俺かな?スタミナは俺の方が上だしな。だけど そのスタミナ配分が上手いのはヒロの方だし…やっぱりヒロかな?」

 ぷっ。と、二人同時に噴き出す。

「な、なんだよ?」

「いや、大沢君は緒方君の方が強いって言っていたからね」

「え?でもスパーじゃ負け越しているよ?」

「それはあくまでも練習だろう?ガチでやった場合、KO負けするって言っていたぞ」

「KO負けは大袈裟だな…スピードもテクもヒロの方が上なんだぞ?」

 俺がまさっているのはパワーとスタミナ。だが、いざ試合となれば、それを殺せるのがヒロのテクなんだが…

「まあいいや。お前の得意技って何?」

 得意技…得意技か……

「左フック、かな?」

「それは顔面を狙うのかい?」

「勿論、その場合もあるけど、殆どの場合はリバー狙いかな…」

 左フックの型を作って、振って説明する。なかなか解説しやすいな。身ぶり手ぶりのジェスチャー付きだと。

「それだ」

 木村が我が意を得たりと俺に指を差す。

「な、なにが?」

「その左フックが怖いんだと。上下に打ち分け…なんだっけ?」

「間合いも軌道も殆ど同じで、上下のコンビネーションが厄介過ぎるってさ」

 そ、そうかな?自分じゃあまり気付かないけど…

 また左フックの型で振ってみる。今度は上下の打ち分けを意識して。

 う~ん…自分じゃ、少し甘いとこがあるように思うんだがなあ…

 試合相手ならどう見えるんだろう?と言うか、ヒロは大抵躱すんだけど…

「あと何つった?圧力?前に前にと鬱陶しいらしい」

ああ、俺はインファイトが好きだからな。ジムじゃもっと脚使え、ってよく怒られているけど。

 思い出したように手を叩く木村。

「いやいや、そういや的場やった時は、普通のボクシングだったよな?」

「お前の中の普通の基準がよく解らんが…まあ、あいつは場数かなり踏んでいたし、インファイトだけじゃヤバかったしな」

 対ボクサーもちゃんと想定していたし、またやったら勝てるかどうか…

「あ、でも、俺ってジムのジャスパー、結構負けているぞ?ヒロだけじゃ無く、先輩達にもさ」

「でもそれって判定でしょ?」

「いや、スパーでKOって滅多に無いから…」

 フルラウンドのスパーだって、数える程しかやった事が無いのに。

 見ている方は、KOは興奮するかも知れないが、実際は殆ど無い。相手だってこっちを知っているんだ。同門同士なら尚更だ。

 ふ~ん、とニヤニヤを止めないでビールを煽る木村。

「まあいいじゃないか木村君。緒方君も本気でそう思っているみたいだし」

「だな。ホント、知らないってのは馬鹿だよな」

 二人で含みのある事を…多少ムッとする。

「だって、その通りだから仕方ないだろ?」

 本当にその通り。もしも違うと言うのなら、過大評価されているだけだ。

「お前、本気で戦った事無いだろ」

 木村がやはり含み笑いを止めずに指を差す。

「本気だよ。心外だな。お前も見た事あるだろ?糞共をぶち砕く俺の姿を」

 あれで本気じゃ無いと?まだ力を出し惜しみしていると言うのか?

「じゃねぇよ。違う」

「何が違う?」

「だから」

 国枝君が妙に真面目な顔で、俺を直視しながら言った。

「それを大沢君や先輩達とのスパーリングで、やった事は無いでしょ?」

 そんな事、言われるまでも無い。スパーは練習だ。加えてヒロも世話になっている先輩達も、糞じゃない。ぶち砕く必要は全く無い。

「だから、お前が本気を出しゃあ、大沢は勝てないって言ってたんだよ」

 あれが本気だと言うのか?糞同士の潰し合いじゃねーか?

「逆に言うと、緒方君は全力を出して無いって事だよね。僕は別に残酷物語を見たいんじゃないよ。緒方君は友達に本気を出せないんだなあ、って思っただけだよ」

「あんなの本気って言う事じゃ無い…」

 全部言う前に被せて来る木村。

「要するに、大沢はお前以上にお前を知っているんだな。知り合いに甘い所がある。そりゃ当然だ。ダチを病院送りにしたい奴なんか、いる訳が無い」

「だったら…」

 また全部言う前に、今度は国枝君が被せて来た。

「それをあの三人にもやっている。って事だよ緒方君」

 ……言葉を失った。

 俺が…楠木さん、春日さん、槙原さんを中途半端に扱っている…

 国枝君はそう言っているのだ。

 俯いた。覚悟覚悟とカッコイイ事を連呼していながら、秋まで決着を着けると言いながら、何もしていない。

 此の儘じゃ、なあなあで過ごしてしまう。それは俺も危惧していた。

 傷つけたくないとかじゃない。俺は流されているだけだ。

 誰かを選ぶと言う事は、誰かを捨てなきゃいけないって事だ。頭じゃ解っていたけど…

「俺は三股もアリだと思うぜ?」

 いきなりの木村の発言。俺はゆっくりと木村を見る。別に茶化している訳じゃ無い。寧ろ大真面目な顔付きだった。

「そうなりゃ、あいつ等には間違いなくバレるだろうが、みんな仲良く、ってヌルい関係もいいだろ」

「……それじゃ誠意が…」

「誠意ってお前、今まで誠意を示していたってのか?」

 それを言われると…反論できない…

 俺自身、彼女達の好意に、甘えていると自覚しているのだから。

「つか、お前…麻美の話…」

 聞いていたのか?と続ける前に頷く木村。

「大体はな。つってもオカルトはあんま信じねえが、情報源が国枝だしなあ…ダチの言葉は信じない訳にはいかないだろ?」

 こいつ…カッコイイな…俺とは全く違う。本気でカッコイイ。黒木さんがベタ惚れするのも頷ける。

「つか、彼女が出来なきゃ安心出来ねえってのが納得出来ねえが、それはまあいい。そいつがそう思うんなら、そうなんだろうさ。お前も大概優柔不断みたいだし、だったら今の延長、三人纏めて仲良く、ってのもアリだろ」

「それは恋人じゃ無いだろ…」

「三股で恋愛成立させりゃいいだろ」

「俺は不器用だから…」

「だから女の方に我慢して貰えって言ってんだよ。お前がヘタレなのは、女の方も承知なんだろ?」

 グサグサ胸に突き刺さる言葉の槍。

 だが、反論できない。正にその通りなのだから。

「誤解すんなよ?責めている訳じゃねえ。お前が決められないなら、女の方に我慢して貰うって手もあるって言いたいんだ」

 無言で頷いた。

 流石に三股は無理(ちょっと前に三人ともそんな話をしたな)だが、女子の方に我慢して貰うって方法も確かにある…のか?

「僕も責めている訳じゃ無いし、嫌味を言っているつもりも無いよ。丸く収めるなんて不可能だって言いたいんだ。はっきりした態度を取る事で傷を付けちゃうかも知れないけど、結果その方が優しさだって事もあるんだよ」

 これも無言で頷いた。三人にも似たような事を言われて、そして自分でも言った記憶がある。

「まあなんだ」

 木村がやはりビールを一煽りして、続けた。

「俺はそれなりに場数踏んでいるから、話くらいは聞いてやるよ」

 そう言って笑う木村。

 腕っぷしだけじゃ、糞の掃き溜めの西高は束ねられない。面倒見もいいんだろうな。それも実にカッコイイ。

 黒木さんは勝ち組だな。こいつをゲットできたんだから。

「僕もあまり経験は無いけど、相談くらいは乗ってあげられるよ」

 頼もしいな国枝君は。あの繰り返しの中、一度でも友達になれたのなら、また 違った結果が出たんだろうな。勿体無いな、過去の俺。怖がられているから孤立しているってのは、単なる自虐だった。単なる甘えだったって気付いたよ。

 ん?つか…

 俺は恐る恐る訊ねる。

「国枝君って…彼女居た事あったの?」

 国枝君は頭を掻きながら、少し照れながら―

「中学の時にね」

 ……中学時代の俺は虐められて、麻美を失って、糞をぶち砕く日々だったのに…

「ち、因みに何人と付き合ったの?」

 せめて一人と言ってくれ!!と祈るような俺に―

「三人と『しか』付き合った事が無いよ」

 ……『しか』ね…うん…

 世間一般では『も』とは言わないのも、この時初めて知った…

 だが、二人共頼もしい。

 ヒロとはこんな話はできないし、(あいつも童貞だし)蟹江君達にはこんな事情、深く話せない。

 繰り返していた最中は、木村とは喧嘩しかしていなかったのに。

 俺は頷くように頭を下げた。頭を下げたのをバレないように、こっそりと、微かに。

「なんで頭下げてんだよお前?」

 なんでバレたんだ!?細心の注意を払っていた筈なのに!?

「いや…恥ずかしかったから…」

 恥ずかしいよホントに。あらゆる意味で。色々と。

「ふうん…よく解んねえが、まあいい。ほら、お前もやっぱ呑め」

 そう言って缶ビールを放る。

 俺は難なくキャッチし、プルトップを開けて口を付けた。

 初めて呑んだビールの味は、伝え聞くように苦かった。ほろ苦いと言うレベルじゃ無い。マジ苦かった。


 ゆっさゆっさと身体を揺さぶられる。

 半目を開けるが、頭が痛くて直ぐ閉じてしまう。

「おい隆!ランニング行かないのかよ?」

 ヒロの声だ…ランニングか…もうそんな時間か…

 だが、目が開けられない。なんでだ?

「起きているようだが、起きちゃいねぇ。お前等どれくらい呑ませたんだ?」

「ビール一本だけだぞ…」

「呑み終わったと同時に、倒れるように寝ちゃったんだよね…」

「マジか…どんだけ弱いんだこいつ…」

 ヒロの呆れかえったような声が聞こえる。

 そうか。この頭の痛みが、俗に言う二日酔いってヤツか。

 目が開けられない程の痛みなのかよ、二日酔いって…

 もう酒は一生呑まなくてもいいや。こんなに辛い思いをするんなら。

 そう決意して、俺は無理やり身体を起した。

「無理しない方が良いよ緒方君?」

 この声は国枝君か…俺は無理やり作り笑いして頷く。

「寝てろ、マジで」

今度は木村が俺を寝かせようと肩を押すが、俺はやはり作り笑いしてそれを拒否する。

「起きたか?じゃ、走るか」

容赦ない一言はヒロか。俺は頷いて無理やり立ち上がる。

「今日くらいはいいんじゃないかな?」

「駄目だ。一日でもサボると、身体が鈍っちまう」

その通り。武器を手に入れる為に毎日繰り返した日課だ。そう易々と手放せない。

テントを出ると、目に刺さりそうな青空。思わず立ちくらんでしまう。

「おお~。昨日はアホみたいな雨だったが、晴れて良かったなあ」

呑気なヒロだが、俺もビールなんか呑んでいなきゃ、きっとそう思うんだろう。

今はこの早朝にも関わらず、ぎらついている太陽が、物凄くキツイ…

先ずは柔軟からだ。何をするにも、身体は解しておかなきゃいけない。怪我のリスクが激減する。

屈伸すると、ガンガンと痛む頭。思わず顔を顰める。

「そのツラはマズイだろ…走るにしても、もう少し休んでからでいいんじゃねえか?」

「ビール一本程度の二日酔いなんて、大したもんじゃねぇだろ。行けるよな隆?」

そう言われたら、頷くしかない。

「よく言った。じゃあ続けるぞ」

俺はヒロに倣いながら柔軟して行く。ガンガン痛む頭と戦いながら。

つか、あいつ昨日結構呑んでたんじゃねーのか?なんであんなに元気なんだ?馬鹿だからか?

「大沢君、君は大丈夫かい?10本以上は呑んでいただろ?」

10本!?呑みすぎだろこの馬鹿は!!

「別に?トイレが近いだけだな」

解る解ると頷くのは木村。そう言えば、こいつもそれくらい呑んでいたような…

よくお店が黙って買わせてくれたよな?普通断るんじゃねーのか?

柔軟で此処までダメージを負ったのは初めてだが…

どうにかこうにかランニングは開始できた。

流石に木村と国枝君は付いて来なかったが。

しかし…ヒロのペースに合わせるのが、こんなに辛いとは…

「もう息が上がっているじゃねぇか」

はあはあ言いながら無言で頷く俺。

「しかしマジで弱すぎだなお前は。もう一生呑むなよ?」

言われるまでも無い。なんでこんなに辛い思いをしなきゃならんのだ…

ダッシュとランニングとシャドーを繰り返しながら進むヒロ。

俺はと言うと、ランニングだけ。しかも速度は早歩きレベルだった。

ダッシュすれば頭がガンガン。スピードを上げれば頭がガンガン。どうにもならなかったからだ。

自販機のあるベンチまで来た時に、ヒロが立ち止った。そしてスポーツドリンクを二本購入。

「隆、ちょっと休憩しようぜ」

そう言って俺に一本渡す。

有り難く頂き、一気に煽った。

うまい…うますぎる…

呑んだ次の日のスポーツドリンクが、こんなにうまいものだったとは…

「ペットボトル一気かよ…」

「……足りない…」

自分でもう一本買い、再び煽った。

今度は一気までは行かずに、半分残ってしまった。

「生き返る~…」

「お、おう…お前が言うと、洒落にならない台詞なんだろ?それ…」

若干青ざめたヒロ。そしてベンチに座り、俺にも座るよう促した。

「いい天気だな」

「そうだな」

「……………」

なんだこいつ?天気の話を切り出して、後はダンマリか?

つか、空を見上げてなんか考えているが…俺になんか話でもあるのか?

「ヒロ、何か話あるんだろ?」

仕方ないので、俺から切り出す。

「お、おう。よく解ったな…」

「長い付き合いだからな。で、なんだ?」

「お、おう…んと…」

言い難そうだ。まあ、大体見当は付くが。

「また槙原さんに頼まれたか?波崎さん経由で」

「なんで解ったの!?」

仰天してベンチから飛び上がるヒロ。まあ、長い付き合いだからな。そのくらいは表情で読める。

そして俺は槙原さんの性格も承知している訳で、風呂では引き下がったが、小っちゃい隙間からでもグイグイ攻めてくるのが槙原さんだ。

抜け駆けなんて屁とも思っていない。楠木さんや春日さんも、そこら辺は同じだが。

「黒木さんと川岸さんも、抱き込もうとしたんだろ?」

「おおおおお!?お前そこまで読んだの!?」

まあな。俺が酔い潰れたのと、木村と国枝君が黒木さん達の誘いに乗らなかったのとで、もう一度ヒロに頼んだんだろう。

黒木さんは兎も角、川岸さんは早急に誰かとくっ付いて欲しいから、簡単に乗ったんだろう。

 波崎さんの勝手なお節介って線もある。あの人、ヒロに何でもいいみたいな事を言っていたようだが、槙原さんとは親友だから、やっぱ槙原さんを応援しているだろうし。

「……で…こ、答えは?」

「昨日と同じだ」

「だよなあ~…」

ヒロはがっくりしながらベンチに座り直す。

こいつはこいつで、俺が誰かに言われた程度で、考えを変えるなんて思っていないだろう。それでも波崎さんに頼まれたからには、嫌とは言えない。

なかなか面白いポジションにいるなあ、こいつ…

「いや俺もな、無理だ、無駄だとは言ったんだよ。でも槙原、つか、優がしつこくてさあ…」

「ほうほう。で?」

「何か知らねぇが、黒木とその連れも援護しやがってさ。主に連れの方だが。何か秋がどうのこうのでナントカカントカ言っていたなあ…」

やっぱ川岸さんか。

思わず苦笑する。いや、有り難い。

逆に言えば、そこまで麻美を気にかけてくれていると言う事だ。

もっと言えば、俺の事を全く信用していないんだろうけども。


「焦んなって言ってやれ。俺も腹括ったから」

「ん?どう言う事だ?」

 ヒロがキョトンとしながら、俺の顔を覗き込むが、ただ笑って流した。

 結局のところ、俺次第なのには変わりないのだから。

 俺は立ち上がって軽く伸びる。

 うん、だいぶ頭の痛みも無くなった。

「ヒロ、ヒロはさ、俺は誰だったらうまくやっていけると思う?」

唐突に聞いてみる。

「いきなりだな…槙原、って言いたい所だが…俺は苦手かな?頭いい奴とは相性が悪い」

「じゃあ波崎さんとも相性が悪いじゃねーか」

「じゃなくて!!切れ者過ぎるのはちょっとなあ、って事!!なんつうの?自分の行動が全てお見通しされているような感じがするから、窮屈に感じる。みたいな?隠し事一切無理みたいな?息苦しくなるだろそれは。あのおっぱいは捨てがたいが」

 腕を組みながら頷く。

 だが成程、言われて見ればその通りだ。あと、槙原さんの魅力はおっぱいだけじゃねーぞ。

「じゃあ楠木さんはどうよ?」

「楠木は元とは言え、ビッチだろ。今は更生したんだろうが、薬の為に身体売ったって過去は消えないしな。そこら辺は更生で、チャラでいいとしても、売った相手となんかの縁で仲良くなって、そいつから楠木の性癖とか聞かされた日にゃもう…って、木村と仲良くなったか。だけど、木村みたいに空気読める奴ばっかじゃねぇしな。だが、バランスはいい。顔とか身体の」

 まあ、その通りだよな。つか、元カノ(?)の性癖をペラペラと喋る野郎とは、仲良くなることは無いからいいか。

 あと、楠木さんのバランスは外見だけじゃねーんだが…女子力はあの三人中ナンバーワンだし。

 だが、意見は聞いとくもんだ。ここは最後まで、ヒロの意見を聞いておこう。

「じゃあ春日さんはどうだ?」

「春日ちゃんか…あれは可愛い。可愛すぎる」

 べた褒めだぞ?ヒロにしては珍しい。他人を褒める事も滅多に無いのに。

「だが、アレは魔性だな。よく言うだろ?魔性の女って。今まで素顔を隠していたのが、晒しただけでパニックだ。俺だってうっかり惚れそうになったもんな。守ってやりたくなるような可愛らしさに。平然としていたのは、お前くらいのもんだ」

 うっかり惚れそうって…そうだったのか?つか、魔性ってそういう意味だっけ?

「過去が壮絶だからな。わざと顔を隠して目立たないように頑張っていた訳だし。だが、逆に言えば、そりゃ自分が可愛いって自覚しているからの防衛策って事だよな」

「そう…なるのか?」

 だが、それは決して嫌味では無く、そして防衛策って訳でも無い。

 単に他人と距離を置きたかったのだ。

 傷だらけ、痣だらけの身体を隠す為に。バレたくなかっただけなのだ。

「そしてあの依存体質だ。お前も何回か殺されたんだろ?サイコだよ。怖いだろ、普通」

「怖くないだろ。話せば解るんだよ」

 俺はそれを知っている。

 春日さんのアパートで、春日さんが暴走しそうになった時、ちゃんと言葉で止められたのだから。

 ランニングを終わらせ、コテージに戻る。

 つか、俺の質問はどこ行ったんだ?

「おい、俺は誰とだったらうまくやっていけるか、聞いてんだが?」

「ん?だから、誰とでもうまくやっていけるだろ?」

 キョトンとされ、聞き返される。

「え?だから相性とか…」

「相性なんて知らねぇよ。お前みたいなヘタレを相手にしてくれる女なんか、あんまいねぇだろうし」

 酷い言われようだ!!だが否定できないのが悲しい!!

「お前はツラもそこそこいいし、言い寄ってくる女ならいるんだろうが、ヘタレが厄してオシャカになるのが関の山だろ。最後まで残れるのは、あの三人くらいじゃねぇの?」

 そう言ったヒロは、一瞬考えて首を横に振った。

「いや…あの三人だけじゃねぇか…」

 それは殺意を感じる瞳…ヒロのこんなに怖い顔は久し振りに見た…

「ど、どうしたヒロ?凄い顔しているぞ?」

 ヒロは我に返ったのか、顔をぶんぶん振って表情を戻す。

「いや、あの三人以外にも、もう一人いたな、と」

「え?誰だ?」

「須藤だよ」


 どくん!!


「……お前も酷いツラになっているぞ」

 苦笑いするヒロ。俺はさっきのヒロに倣い、顔をぶんぶん振って表情を戻す。

「…なんでお前に執着するんだろうな?」

「解んね。あいつの中にもいろいろあるんだろ。なんだかんだ言って、一番付き合いが古いしな」

 麻美よりも古い付き合いだ。だからこその初恋の相手だが。

「幼馴染ってヤツだよな。あいつツラもいいし、結構スペック高かったんだよな。あの性格さえ無けりゃ…」

 そこまで言ってやめるヒロ。

 朋美があんな性格じゃ無くても、どんなに高スペックだろうとも、俺はあいつとは付き合っていないと思う。

 麻美がいたから。俺は麻美が好きだから。

 っと、イカン。麻美を心配させない為に、麻美の意思を汲んで、思い出にしなきゃいけないんだ。

「……そうか…それで彼女か…」

「あん?なんか言ったか?」

 俺は無言で首を横に振った。

 だが、思考は続く。

 麻美を安心させる為に恋人を作るじゃないんだ。

 麻美を思い出にする為に、麻美以上に好きな人を見つけなきゃいけないんだ。

 恐らくは、麻美は、繰り返しの中でもそう思っていた筈だ。

 現に二年の春には、槙原さんとの仲を応援していた節があったじゃないか。

 ならば俺は、やはり単純に、誰かを選ぶなんて事はできない。

「おい隆?どうした?」

「……だから何でもないよ。さって、戻ろうぜ。朝飯食わなきゃな」

 俺は立ち上がって話を終わらせた。

 正直朝飯を食べる気にはなれないが、何かをしていなきゃ、心が急いで仕方が無い。

 ランニングを終わらせ、コテージに戻る。

「お疲れさま~」

 槙原さんがタオルを持って駆け寄ってきたので、お礼を言ってそれを受け取り、顔を拭く。

 チラリ、とヒロを横目で見ると、波崎さんに、同じようにタオルを手渡され、何か小声でゴショゴショと話している。

 無理だった、とか、駄目だって、とか聞こえてくる。

 さっきの槙原さんとくっつけよう作戦の失敗を話しているようだな。

 槙原さんはただニコニコしている。この表情は、槙原さんは何も知らないな。おせっかいの方だったか。

「シャワー浴びるでしょ?用意は出来ているよ」

「うん。ありがとう」

 この気の利かせ方、有り難い。

 俺はヒロを置いて、先にシャワーに向かった。

 コテージに入ると、良い香りが漂っていた。

 台所からだな。朝飯の準備中か。さっきまでは食べる気はあまり無かったが、この香りは食欲をそそる。

 風呂に行く前に台所をチラ見すると、楠木さんが鼻歌を歌いながら、おかずを調理中だった。

 あの甘い卵焼きも大量に焼きあがっている。アレ旨いんだよなあ…

 邪魔しちゃ悪いと、早々に立ち去ってシャワー室に行く。

 がちゃり、と開けると、春日さんが洗濯中だった。洗濯機はシャワー室にあったのか。

「……おかえりなさい」

「うん、ただいま。何しているの?」

「……洗濯だよ?タオルとか小物だけだけど。下着も洗いたいけど、今日帰るからね…それに、みんな遠慮するし」

 そっか。みんなの洗物をしている最中か。

「……隆君、シャワー?…着替えは隆君のカバン、勝手に持って来ちゃったから…」

 持って来てくれたのか。物凄い有り難い。

「有り難う春日さん」

「……うん」

 春日さんはこっくり頷いて、シャワーから出て行った。

 流石に乱入は避けたのか。そもそも、するつもりは無かったのか。

 俺は有り難くシャワーを浴びる。

 そう言えば…ヒロのカバンは見当たらなかったな…

 波崎さん…ま、まあいいけど…

 俺は早急にシャワーを浴びて風呂場から出た。

 と、言うのも、シャワーが一つしかなので、後から入ってきたヒロが使うシャワーは無いからだ。

 早く出ろ、とか、グズグズすんな、とか文句を言われ、もうちょっと長居してやろうか?とも思ったが、大人気無いので、やめてやったのだ。

 シャワーから出ると、朝食の良い香りの元に、勝手に足が動く。

「おお~…」

 感嘆の声を漏らした。広間にはテーブルが置かれて、旅館の朝食のようにおかずが置かれていたのだ。あの甘い卵焼きも然り。

「おう緒方。具合はもういいのか?」

「ああ、だいぶ」

 木村の隣に座る。女子達は一名を除き、忙しそうに動いている。ご飯を盛ったり、味噌汁を装ったり。

 因みに一名は川岸さんだった。スマホのゲームに夢中だった。

「あ、緒方君!博仁は今シャワー?」

 波崎さんに聞かれたので、頷いた。

「ヤバい!もうちょっとでみんな揃うよ!」

「え!?まだサラダで来て無い!!」

「……お味噌汁出すの、早かった?」

 ……華やかな修羅場だな…ヒロが出て来ても、直ぐに朝食にしなくていいだろうに。

「しかし凄いね。旅館の朝食みたいだよ。これの大半は楠木さんが作ったんだよ?」

 感心する国枝君。

「ふん…あいつ、意外と家事が好きだったからな」

 ぶっきらぼうの木村。元カレ(?)としては、やや複雑な心境なのか?

 それにしても、卵焼きとシャケはいいとして、きんぴらごぼうやほうれん草の胡麻和えや肉団子まで作ったのか…国枝君の言う通り、ちょっとした旅館の朝食だ。

 まだサラダも作っている途中なんだろ?恐れ入るなあ…

 そうこうしている内に、ヒロがシャワーから上がってきた。

 そして、 テーブルを見て、目を見開く。

「すげえな…朝から手の込んだ物を…」

 俺の隣に陣取り、おかずを端からずーっと眺めならが、そう呟いた。

「これ、誰が作ったんだ?川岸じゃないのは確定しているが…」

 ヒロの問いに、川岸さんがスマホから一切視線を外さず答える。

「卵焼きと、ほうれん草と、肉団子と、わかめときゅうりの酢の物は楠木さんだよ。シャケ焼いたのはくろっきー」

「へぇ…じゃあこの味噌汁は?」

「これは春日ちゃんだったかな?」

「ご飯炊いたのは?」

「遥香っちだよ」

「……優は何か作ったのか?」

「配膳だけ」

 ガクッと頭と落とすヒロ。

 ファミレスの従業員だからと言って、料理が得意な訳じゃ無いんだから、いいだろ別に。

「ま、待て大沢、ここにほ、、焼き海苔があるだろ?これを炙ったのは確か」

「楠木さんだよ木村君…」

 フォローしようとした木村に、国枝君の真実の言葉が、ヒロに突き刺さった。

 更に落ちるヒロ。別にいいじゃねーか。配膳だって立派な仕事だぞ。川岸さんは配膳すらしていないんだから。

「あ、大沢君、この納豆をかき混ぜたのは」

「ああ…それも楠木だな…ネギを散らしているだろ?こういう細かい気配り…ぁ…」

 国枝君のフォローを無慈悲に潰した木村。もうヒロは口を噤んで一言も話さない。

「別にいいだろ。お前にだけ手料理を振る舞ってくれればさあ」

 慰めで言ったんじゃない。本当にそう思ったから言った。

「……ない…」

「ん?」

「手料理食わせて貰った事…無い…」

 いや、それは嘘だろ。いつだったか、お手製の弁当を食っていた筈だ。

 俺がその旨を伝えると――

「……あれ惣菜の詰め合わせ…波崎の家の近くに、惣菜を売っている店があるんだよ。そこで仕入れたヤツだ…」

「え?そうなの?でもいいだろ別に。他にも色々…」

「……うん…色々ご馳走にはなっている…ファミレスの残り物とか、かっぱらったポテトとかな…」

 いや、マジで俺はそれでも問題ないと思う。思うのだが、ヒロが必要以上にヘコんでいたので、言うのをやめた。

 いちいち構ってられるか。槙原さんがサラダを運んできた事だし、そろそろ朝飯なんだよ。

「おまたせ~。サラダは好きなドレッシングをかけてね~」

 サラダは生野菜を中心に、ベビーコーン、アスパラガス、ブロッコリーなどの茹で野菜が添えられている。

 ドレッシングはどれもスーパー等で見た既製品だが、充分過ぎるだろ。

 全員の前に行き渡ったところで、いただきます。

 迷わず卵焼きを口に運ぶ。

 旨い。咀嚼するのも惜しい。一気に食いたくなる旨さだ。この仄かな甘味が素晴らしい。

「おお…この肉団子、旨いな…」

 ヒロが肉団子の旨さに感動している。

「朝にこのほうれん草の胡麻和えは優しいよね」

 国枝君はその気配りに感動している。

 木村だけは何も言わずにムシャムシャ食べているが。

 ふと気付くと、ご飯がもう無かった。

 しまった。卵焼き一切れで、茶碗一杯完食してしまった。

「もう一杯いる?」

 正面に座っていた槙原さん。俺が頷くと、茶碗を受け取り、ご飯を装ってくれた。

 いや~。有り難い有り難い。

 このネギと豆腐とわかめの味噌汁も、いい味してるし。

「……もう一杯…いる?」

 斜め向かいの春日さん。味噌汁を飲み干すタイミングを見計らって訊ねて来た。

 頷くと、お椀を取り、味噌汁を装ってくれる。

 有り難い有り難い。ホントに。

 つか、おかずまだ卵焼き一品しか食べてないわ。

 納豆を掛けたいが、おかずがまだ大量にある。

 納豆の誘惑を強引に捻じ伏せて、俺はおかずに集中した。

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