海にて~004

 だいぶ夜も更けて、持って来た食材も食べ尽くして、ぼーっとする。

「……腹いっぱいだ…」

 俺の呟きの、同感の反応を示したヒロ。

「……結構食ったよな…俺達もそうだけど…」

「……ああ…春日さんが…」

 このバーベキューで一番食べたのは春日さんだった。

 多分俺の二倍は食べていた。国枝君が真っ青になって見ていたのを思い出し、俺も改めて青くなる。

「あのちっこい身体で…どこに入っているんだあの女…?うまそうに食ってくれたから、良かったけどよ」

 木村ですら驚愕していた。因みに男子では一番食べていた。

「黒木さんは逆に小食だったな」

 ちょいちょい摘む程度だった。あれで腹いっぱいにはならんだろう。大袈裟かもしれないが、多分コンビニのサンドイッチよりも量が少ない。

「あれは小食なんじゃねえよ。『少ししか食べられないあたし可愛い』ってヤツだ」

 そのアホな戦略が本当だったら、逆効果だろうに…調理したのは自分の彼氏だろ…

 楠木さんは自分で焼いたりアレンジしたりして振る舞ってくれたから、結果自分じゃ、あんまり食べていなかったから、逆に心配になる。

 お腹が空いて眠れないんじゃないか、と。

 槙原さんは普通に食事していた感じだ。川岸さんと一緒になって、自分のペースを崩さずに食べていた。

「んでも、ちょっと足りなくねぇか?」

 ヒロが名残惜しそうに、食材が残っていないクーラーボックスを眺めて言う。

「沢山食べていたじゃない…冷蔵庫にある食材は、明日の朝ご飯に使うんだから、食べちゃ駄目だからね」

 波崎さんに念を押されちゃ、頷くしかない。

「つっても、海の家なんかもう閉まっているしなあ…」

 諦めきれないようなヒロに、木村が呆れながら言う。

「歩いて店を探すか、海に入ってサザエでも取って来るか、どっちかだな」

「海か…そうだな…」

「今、海辺は幽霊がいっぱいうろついているよ。行くなら気を付けて」

 視える国枝君にそう言われちゃ、行く訳にはいかない。

 一旦浮かした腰を、直ぐに下ろしたのだった。

「それなら、やっぱどこかの店に行って来いよ。国道歩いてりゃ、コンビニくらいはあるだろ」

 それもそうだな。と、また腰を浮かすヒロ。

「博仁、コンビニ探しに行くの?」

「ああ。なんか欲しいものあるか?」

 首を横に振って、波崎さんも立ち上がった。

「私も行きたいから、一緒に行こう?」

「……夜だぞもう?」

「……変なことする気なら行かない…」

 ヒロは腰を降ろし掛けた波崎さんの腕を慌てて掴み。立ち上がらせた。

「しないしない!!夜の散歩は楽しいぞお?」

「……変なことしたら許さないからね」

 小躍りしながら歩き出すヒロ。それに足取り重そうについて行く波崎さん。

 田舎だから、辺りは真っ暗だ。

 よって、二人の姿は直ぐに見えなくなった。

 その直後、今度は川岸さんが徐に立ち上がる。

 何かを察知した国枝君が、川岸さんの手を取って止めた。

「…中学時代の悪い癖が抜けていないようだね?」

「くにゅえだ君も来る?さっき大沢君止めたから、てっきり行くかと思っていたけど?」

 大きな溜息を吐き、嫌々と言った体で立ち上がる。

「言っておくけど、僕は君程力がある訳じゃ無いし、何の修行もしていないんだからね?」

「それでも心強いよ。万が一私が気絶しちゃったら、おんぶして撤退してくれるんでしょ?」

 何か穏やかじゃ無い会話だが…

「く、国枝君、もし人手が必要なら、俺も…」

「いや、緒方君には頼めないよ。あまり関わりたくないけど、川岸さんの専門だからね」

「平たく言えば幽霊関係ね」

 川岸さんの一言で全く行く気が失せた俺。

 海岸に向かう二人の姿が見えなくなるまで、手を振って見送るのが限界だった。

 さっきから、ちらちらとこちらを見ている黒木さん。

 なんか用だろうか?多分俺じゃ無く、木村にだろうが。

 助け船宜しく、俺から振ってみる。

「黒木さん、木村と散歩でも行って来たら?」

 ぎょっとして俺を見た木村。同時に肩を組まれ、ぐるんと後ろを向かされる。

「おい、一体どういうつもりだ?」

 超小声の木村。なんでそんなに怯えているんだ?天下の馬鹿高校、西高のトップが?

「別に腹ごなしみたいな感じだろ?散歩なんて」

「だから、俺は束縛されるのが大っ嫌いなんだよ!なんでキャンプに来てまで引っ付かれなきゃならねえんだ!」

 ……やっぱり普段はべたべた引っ付かれているって事か…

「ま、まあまあ…もう言っちゃったし…10分くらい…」

「そ、そう?じゃあいこっか」

 おお。超機嫌が宜しくなったな…

 成程解り易い。多分嫉妬もキツイんだろうな…

 半ば無理やり、と言うか、強引に腕を組まれて引っ張られていく木村…

 離せ!!とか、暑いからくっつくな!!とか言っているが、黒木さんの耳には届いていないようだ…

 ま、まあ…ちょっと申し訳無い事をしたとは思うが、恋人なんだからいいだろ…

 ん?ちょっと待て…

 ヒロは波崎さんと買い物、国枝君は川岸さんとお祓い(?)…木村は黒木さんと散歩…

 て、事は…

 ぎぎぎ…と、首を正面に向き直す。

 うわ~…微妙な空気の楠木さんと春日さんと槙原さん…

 一応顔は笑ってはいるが、明らかに他の二人を邪魔にしている…だって目が頻りに泳いでいるんだもん。三人とも…

 こほん、と咳払いしたのは槙原さん。

「え、え~っと、こ、この辺りにカブトムシいるかなあ?」

 知らねえよ!?なんだその話題振り!?

 いるだろ?田舎だし!!多分!!

「あ、ああ~、カブトムシ。買うと結構高いからね」

 乗っかった楠木さん。つか、買ったのかよカブトムシ!!ホームセンターとかペットショップで売っているけども!!

 絶対買わねーだろ!!楠木さんのキャラじゃ!!

「……カブトムシは脚がいっぱいあるから…嫌い…だ、だけど隆君男の子だしね…私我慢するよ?」

「いや、飼わねーよ!?世話大変だし!!」

 なによりロードワーク等で朝早いんだ。深夜に羽音で目を覚ますなんて、冗談じゃねーよ。

「そ、そっかあ。隆君買わないんだあ…じやあ私が取ってこようか?あ、でも夜の森で一人は怖いなあ…」

 チラチラと俺を見る槙原さんだった。

「いや、確かに夜の森は色んな意味で怖いけども!!買わねーし飼わねーから!!」

 俺って地の文をちゃんと理解できているなあ…

 買うと飼うをちゃんと理解して喋っているわ。

「あ、あ~…じゃあ森を散歩したいって事?仕方ないなあ…私付き合うよ」

 腰を上げようとする楠木さんを、慌てて止めて座り直させる。

「俺がいつ森を散歩したいって言った!?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「言ってねーよ!!森にカブトムシを捕まえに」

「なんだ。やっぱりカブトムシ欲しいんだ?だから私が一緒に…」

 やはり腰を浮かせた槙原さんを、必死になって座らせた。

「だから!!森にカブトムシを捕まえに行くって言ったのは槙原さんだろ!!俺はカブトムシ欲しいなんて一言もいってねー!!」

 ぜーぜーと肩で息をする俺…

 会話が全く噛みあってない!!つか、そもそも会話ですら無い!!

「……じゃあ、私は我慢しなくていいの?」

「カブトムシの件に関してはなっ!!」

「……じゃあ、いつまで我慢すればいいの?」

 ギクリ、と凍りつく。

 春日さんの視線から逃れようと首を捻ると、槙原さんと目が合った。

 なので、槙原さんから逃れようとしたら、今度は楠木さんと…

 うわ~…これって修羅場じゃねえ?

 つか、全員に言った筈だよな?秋まで待ってって…

 じっと見つめる三人。俺は冷や汗で、全身ぐっしょりだ。

「……大丈夫だよ?どんな結果になっても、私達友達の儘でいるって決めたから」

「そ、そうなのか?」

 頷く楠木さんと槙原さん。

「私達って、基本一匹狼の集まりだし。正直言って同性に気を遣わないで話したの、遥香と春日ちゃんが初めてだし。どんな結果になっても、この関係壊す度胸は、少なくとも私には無いよ」

「そうそう。私も計算無しで付き合っているの、波崎以外じゃ、春日ちゃんと美咲ちゃんだけだからね」

 そ、そうなんだ…他の子の事をどう思っているのかも聞きたい所だが、俺の心が荒みそうなので控えようか…

「……だから安心して?振っても恨まないし、殺さないから」

「いや~…殺されるのはマジ勘弁だなあ…」

 過去に実際に俺を殺したのは、春日さんただ一人…

 その子から、そんな台詞は、ちょっとなあ…

「そうそう。さっきも言ったけど、カッコよく振ってくれて構わないから」

 槙原さんが、ややおちゃらけて言うが、その心中はきっと穏やかじゃないだろう。

 俺にしか解らないだろう、焦りが一瞬窺えたからだ。

「で、ぶっちゃけ、現時点で誰?」

 ずい、と顔を近付けてくる楠木さん。ハッキリ聞くなあ…怖いよ普通に。

「さ、三人とも甲乙つけがたくて…」

「じゃあ、三人とも付き合っちゃう?私はいいよ」

 飲み物を飲んでいたなら噴き出していただろう。

「……それが望みなら私も我慢する…」

 なんでそうなる!?つか、泣きそうじゃねーか春日さん!!嫌なら嫌でいいんだよ!!

「でも、隆君って不器用だから、三人同時に付き合うのは無理だよね」

 この後に及んで冷静な分析をする槙原さん。らしいよ!!槙原さんらしい!!

「三人と付き合うなんて無理だ!!俺にそんな甲斐性は無い!!」

 全力で首を振っての否定。

 接近していた楠木さんが、伸びをしながら離れる。

「だよね。甲斐性云々は置いといて、器用じゃないからね」

 なんつー言い草だ!!自分から振って来た話題だろ!!

「あ、でも、浮気くらいはするのかな?」

「しねーよ!!バレた後の事を考えると怖すぎる!!」

「私なら浮気は許すよ」

 やはり何か飲んでいたら、噴き出しそうな台詞だった!!

 三股オッケーとか浮気オッケーとか、楠木さん寛大すぎるだろ!!

「……わ、私はヤダ…私だけがいいの…っ…」

 涙ぐんでしまった春日さん。いつ浮気するって言ったっけ!?むしろ怖いからしないって、はっきり言ったよな!?

 つか、俺を無視して話進み過ぎだろ!!せめて言った事はちゃんと聞け!!

「私なら…私にバレないように浮気して欲しいかな?」

 顎に人差し指を当て、空を見上げながらの槙原さん。

 槙原さんを出し抜ける自信なんて全く無いぞ!?

 またまた楠木さんが顔をずい、と近付けてきた。

 やはり腰を引かせる俺。ほら、俺ってこんなにヘタレだろ?無茶は言うなよ?

「さて、今ので大体固まらない?」

「な、なにかな?」

「だから、私は三股許すし浮気も許す。春日ちゃんはどっちも嫌だって。自分だけがいいって。遥香はバレなきゃいいかな、ってとこでしょ?」

 頷く春日さんと槙原さん。

「この条件なら誰がいい?」

「そう言う問題じゃねーだろが!!」

 真顔で聞いてくんな、真顔で!!

 可愛いじゃねーか!!ちくしょう!!

 可愛いのは置いといて、だ。

 俺は楠木さんを直視した。

 途端に赤くなって目を逸らす楠木さん。どうしろってんだちくしょう!!

 ま、まあいい。いや、よくないが、取り敢えず先に進ませて貰う。

「楠木さんは社交性があって空気が読めて、料理上手いし、結構家庭的で好きだ」

 更に真っ赤になった。燃え上がるようだ。

「春日さんはちょっとおどおどしているけど、芯が強くて意外と頑固。そんなとこが好きだ」

 今度は春日さんが轟々と燃え上がった。と、言っても俯いているのだが。

「槙原さんは頭が良くて、回転も早くて、だけどちょっと自信が無い。でも、そこが好きだ」

「私もす」

「まだ言い終ってねーから、ちょっと待ってよ!?」

 まさかの槙原さんのフライング。いや、これも計算なのか?

 取り敢えず、一つ咳払いして続けた。

「ま、まあ、だから内面での甲乙は全く付けられない。だって俺、全部好きだし」

「だったら三ま」

「まだ終わってねーからな!?最後まで言わせて!!」

 今度は楠木さんのフライング。つか、三股って言おうとしたよな、今!?

「じ、じゃあ外見はどーか、って話になるけど、楠木さんも春日さんも槙原さんも 可愛い。つか、俺あんま外見には拘らないし、何とも言えないってのが本音だな」

「……私は抱かれ」

「それはいいから!!ちゃんとお付き合いしてからだから!!」

 春日さん、絶対抱かれてもいいって言おうとしただろ!!いや、抱きたいけれども!!

「今、春日ちゃんが言おうとしたことだけど、私もいいよ。何なら今直ぐでも」

「俺の話聞いてた!?ちゃんとお付き合いしてからって言ったよな!?」

「あ、私処女だよ。お買い得じゃ無い?」

「それがどうした!?俺だって童貞だよちくしょう!!」

 このちくしょうは、いらんカミングアウトした事の無念と言うか、悔しさだ。

 別に童貞だろうが問題ない。無いのだが、何故か涙が頬を伝う…っ!!

 ま、まあ、またまた置いといて。

 俺は涙を拭いながら話を続ける。

「だから秋まで待ってくれ。沢山考えたいんだよ。今日明日で結論出せっても無理な話だ」

「うん、待つよ。でも、現時点で誰がリードしているのか、気になるじゃない?」

 まあ…そうなのかな?俺にはちょっと解らないけどさ…

「須藤も全く動けない状態だしね。正直それって邪魔されないチャンスだし」

「ああ…まだ病気治ってないようだな」

 物理的にも間接的にも、麻美にきっちりやられているからだが…

「……須藤さんって、病気治らないと言うより悪化しているんじゃ無かった?人相まで変わったって…」

「そうそう。何かに取り憑かれているような顔になったってさ」

 何気なしに会話している春日さんと楠木さんだが…

 それはまさにその通りで、俺は何とも言えない気分になった…

 後ろからがさがさ、とビニール袋が擦れる音。

 振り向くと、コンビニを見つけて買い物してきたヒロと波崎さん。

 安堵した。心から。この状況下はキツすぎた。前から言っていたのを再確認しただけなのだが、キツイ…

「おう隆、色々大変だっただろ?」

 ニヤニヤしてヒロが俺に缶コーヒーを渡す。

 後ろの波崎さんは俺と顔を合わせないように。だが気になるのか、一瞬だけ視線を向ける。何度も。

 ヒロは単純になんか食べたかったから買い物に行ったんだろう。それに便乗したのが波崎さんだ。

 俺と槙原さん、もしくは三人だけにしようとしたに違いない。

 ならば黒木さんも期を窺っていた?まあ、あの子は普通に木村とイチャラブしたいから、波崎案に乗っかっただけだろうが。

 と、言う事は、木村を無理やり散歩に出させた俺のミスか…

 いや、その展開も読んでいたのだろう。ならば首謀者は槙原さんだ。槙原さん以外にこの状況は作れないだろう。

 槙原さんをジト目で眺めると、目が合ったと同時に笑いながら舌を出した。

 テヘペロじゃねーよ!!やっぱ槙原さんの仕業かよ!!

 つか、俺もよく解ったよなあ…

 こんな感じに真相に辿り着ければ、何回も繰り返す事も無かっただろうに。麻美に同情するわ。俺の残念さを。

「つか、お前何買って来たんだ?袋三つも…」

 買い物袋を覗き込むと、お菓子と飲み物と花火!!

「やっぱキャンプっつったらこれだろ?」

 ドヤ顔のヒロ。マジで良くやった!!

「私が言ったんだけどね」

 と波崎さん。ヒロがそんな気を遣う筈ねーか、やっぱ。

「黒木さんが戻ってきたらみんなでやろう!!」

 そうだな、木村も花火したいに違いない。全くキャラに合わないけど、そうに違いない。

 遠くで、だからくっ付くな!!暑い!!と喚く声。

 徐々に近付いてくるのは、木村と黒木さんだった。

 よく見ると、木村のシャツがびっしょり濡れている。

 雨でも降ったか?いや。降ってない。

「木村、何でそんなにびっしょりなんだ?」

 強引に黒木さんが組んでいた(しがみ付いていたと言った方が正しい)腕を払い、ぜーぜー言いながら座る。

「こいつがしがみ付いてくるから、暑いのなんの…」

 と、言う事は、それは汗で濡れているのか…

「暑い~…シャワー使えるんでしょ?ちょっと借りるね」

 自分だけ早々にさっぱりしに行く黒木さん…やっぱ黒木さんも汗だくなのか…

「あいつ!!俺が最初だって言ったのに!!」

 そんな事で目くじら立てんなよ…

 いちいち短気だな。だからアホの西高って言われるんだよ。

 ずっ…ずっ…

 闇夜に不気味に響く音…

 それは、川岸さんに引き摺られながら帰って来た、国枝君が奏でた物だった!!

「ど、どうしたんだ国枝君!?」

 慌てて水を持って駆け寄るも、それは川岸さんにひょいっと取り上げられた。

 ごくごくごくごくごく…

 一気に無くなっていくペットボトルの水…すげえ喉が渇いているようだな…

「ぷはああ!!」

 オヤジみたいに口を拭い、空になったペットボトルをぽいっと!!

 ゴミ袋に入れろ!!ちゃんと分別しろ!!

 ブチブチ言いながらそれをやる俺。マジお人好しだ、我ながら。

「お、緒方くん…ぼ、僕にも水を…」

 カサカサになった腕を震えさせながら伸ばしてきた。

 やはり俺は慌ててペットボトルを渡した。

「あ、ありがとう…ぶほお!?」

 噴き出した国枝君。一体どうしたんだ!?

「こ、これサイダー…」

「あ、炭酸か。ごめんごめん」

 しかも慌てていたからか、結構振っていたから、溢れて飲みにくい状態だったんだろう。

 だが、喉が渇いている時の炭酸は別格だ。

 その後はごくごくと喉を潤す事に成功。げっぷを我慢する仕草がナイスガイの証だ。

「漸く落ち着いたよ…」

「何があったんだ国枝君?そんなにカサカサになっちゃってさ?」

「うん…実は川岸さんの除霊に付き合っていたんだけど…」

 ああ…そういやそんな事言っていたな…俺、それネタだと思っていたよ。

 あの三人と俺だけ残す為に仕掛けたんだとばかり思っていたよ。

 ガチなんだ…ふ~ん…普通に怖いんだけど…

「あ、あのさ、国枝君。その話はいいからさ。落ち着いたら花火やろう」

「そうかい?意外と大変だったから、話を聞いて欲しかったんだけどなあ…」

 残念そうな国枝君だが、夜にそんな話は洒落にならん。幽霊に憑かれている俺が言うのもなんだが。

「花火って買ってあったのかい?」

「いや、ヒロがコンビニ見つけて、ついでに買ってきたんだよ。食べ物も結構買っていたから、何か食べるか?」

 首を振ってのお断り。

「あれだけ食べたんだからいいよ」

 だよな。俺ももういらん。プロを目指している訳じゃ無いから、ウェイトに気を遣わなくてもいいが、普通に腹いっぱいだ。

 川岸さんは袋から何か発見して食べているが。

 まあいいや。除霊はお腹が空くんだろう。多分。

「じゃあ花火でもやろうか?」

「うん。でも、黒木さんの姿が見えないね?」

 ああ、そっか、今シャワー中だった。

 じゃあ黒木さんが戻るまで保留と言う事で。

 俺達は並んで座って待つ。木村とヒロのやり取りをBGMにしながら。

「何だよ大沢。ビールねえじゃねえか。気ぃ利かねえなあ」

「ふざけんなよお前。こんな田舎で補導されたかねぇぞ」

「んなもん、そこいらのチンピラを小突いて買わせりゃいいだろうが?」

「お前がチンピラだ!!何でそんなテロリスト見たいな真似してまでビール買わなきゃ なんねぇんだよ。おとなしくお茶でも飲んでろ」

 そのやり取りをぼんやり眺めてながら、思う。

 俺、結構幸せかもなあ…何回も繰り返して手に入れたこの現実…今度こそ逃してはならない…

「お待ち~」

 戻っていきなり木村の腕を取る。

 さっきそれで汗だくになって、シャワー浴びに行ったんじゃなかったか?

 それを強引に振り解く木村。

「あちぃっつってんだろうが!!それより花火でもやれ!!」

 ロケット花火を強引に手渡す木村。って、ロケット花火!?

「うわー!!花火じゃん!!でもこれピューってなるヤツじゃない?パチパチ光るヤツがいい!!」

 ごそごそ袋を漁る黒木さん。俺達は苦笑いし、その輪に加わった。

 お金を出したであろうヒロが、ゴホンと咳払い。

「あー、夏の夜と言えば花火。キャンプの夜と言えば花火。此処に第一回花火大会の開催を宣言する!!」

「博仁、どうでもいいから火を用意してよ」

「あ、うん。木村、ライター持っているだろ。出せ」

「確かに持っているけどよ。お前、頼み事するなら、口の効き方ってモンが…」

 文句を言いながらもライターを出す木村。

 と、同時に…

 雨が降った。

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