須藤朋美~002
阿部は去り際、更に俺を襲った奴等の住所等をメモして、それを渡した。
保険が欲しい俺には、結構な渡りに船だ。
さて…取り敢えずどうしようか…?
やっぱ槙原さんに相談するか?
春日さんや楠木さんも襲われかねないと知った今、早急に対策を取らなければならないし。
だけどテストがあるからな…迷惑掛けちゃうかも知れないし…
――いつも迷惑は掛けているじゃん
凄い久し振りに麻美が出てきた。
「おい、お前今までどうしていたんだよ?呼んでも姿現さないし…」
――まあ、私にも色々あるのよねえ
幽霊にどんな事情があるのかは解らないので、その言葉を信用するしかないが…
それにしても久し振り過ぎる。
懐かしくて、つい顔が綻んだ。
――何気持ち悪い顔しているのか知らないけど、どうせ隆は馬鹿だから、一人でどうこうできないでしょ?だから素直に相談したら?
「その短い文章の中で色々失礼な事を言っているが、その通りだな」
ぐうの音も出ないとはまさにこの事。
「じゃあ明日早速…」
――今相談したら?メールか電話で
今!?流石にこんな遅い時間、無理だろ!?
――仮に、今家に帰ってさ、途中で『朋美』に出会ってしまったら、最低でも罵倒するでしょ?そしたら阿部や他の人達から証言取りにくくなると思わない?朋美の事だから、色々根回しすると思うよ?
……軽く感動した。
今まで『あの子』だったのが、『朋美』と、ちゃんと名前で呼んでいる…
それは即ち…
「まさか…『規定』ってのが取れた…?」
頷く麻美。
――私が死んだ事件の黒幕を確定させたでしょ?隆の中でさ
そうか…
そうか!!
改めて確信する。
朋美が麻美を殺した黒幕だと!!
そう思った途端、奥底から沸々と怒りが湧いてきた。
なんであいつは人を二人も殺しておきながら、大手を振って太陽の下を歩いてやがる!?
許せない…なんなら俺が…
握った拳に手が触れた感覚を覚えて、我に返った。
麻美が拳に手を添えたのだ。
――だから、落ち着きなさいって。そうなるのが解っていたから、槙原さんも何も言わなかったんでしょ?
それは…確かに言っていたが…
――私が言える事は、隆が個人で動いても暴力沙汰にしかならないから、頭のいい人に相談しなさいって事
「また身も蓋も無い事を…」
だが、その通りだ。しかし、夜も遅いのにこれから相談すんの?
麻美が三白眼になって言う。
――馬鹿が無駄に悩むとか滑稽だから
「お前さっきから酷いぞ!?」
俺じゃ無かったら自殺するレベルだぞ?
ともあれ、これと言った代案も浮かばないので、俺は渋々とスマホを開いた。
3コール目に出た槙原さん。
『やっほー。隆くんから電話なんて珍しいね?なに?テスト勉強が解んないとか?』
夜なのにテンションたけーな。なんか声弾んでいるし。
「いや、テストも解んないが、それよりももっと大切な事が…」
『えー?期末が一番大事でしょ?これクリアしなかったらクリパに参加できないし、参加できなかったら須藤の思う壺じゃない?それに…』
延々とクリパの重大性を説き始める槙原さん。
その言葉を遮るように言う。
「麻美を殺したのは朋美だろ」
その確信が
『……どうしてそう思ったの?』
俺はさっきの出来事を丁寧に伝えた。余計な脚色は一切ぜずに、淡々と。
『……そっか…麻美さんはなんて?』
「俺は考えるだけの頭が無いから、槙原さんに相談しろって」
電話向こうで爆笑された。
ちぇっ。そんなに笑わなくてもいいのにな。
結構傷つくんだけど。いや、そうでもないけれど。
鋼鉄のハート、緒方隆であった。いちいちヘコんじゃいられないし、何よりも、もっと酷い事を言う幼馴染の幽霊がそこに居るからな。
『そっかそっか。うん、解った。じゃあどうしようかな…家来る?』
「いや、よく考えたら槙原さんの家知らなかったし、つか、こんな夜遅くに、女の子の家にお邪魔できないよ」
一応一般常識はあるつもりだ。多分だが。自信があんまり持てないが。
『そう言えばそうかあ。じゃあ仮に、今須藤と出くわしたとして、どうなると思う?』
「多分ぶっ飛しちゃうかもな…」
そればかりは自信があった。
麻美を殺した奴を殺すのは俺の望みだ。武蔵野だろうが阿部だろうが、朋美だろうが、それは同じだ。
『物騒だねえ…えっと、じゃあ美咲ちゃんの家に戻れる?』
「いや、戻れって、幾らなんでも女の子の家に行けないってば」
それは御免こうむる。せめて家に帰りたい。
『だよね。じゃあ…春日ちゃんのバイト先は?』
「そこなら行けるが、まさかそこに泊まれって言わないよな?明日も学校あるんだぜ?」
『まさか。ちゃんと家に帰れるようにするよ』
それならいいけど、頼もしいやら、自分が情けないやらで、何かやるせない。
取り敢えず言われたようにしよう。
何だかんだで、朋美と出くわすような気がしてならないしな。
言われた通り、とぼとぼと春日さんのバイト先の、味が普通のファミレスに入る。
春日さんがダッシュで俺に近付て来て言う。
「……待ってたよ?」
せめて『いらっしゃいませ』って言おうよ。一応仕事中なんだし。
つか、もう事情を知っているのか?
「…槙原さんから聞いたのか?」
コックリ頷く春日さん。
「……今、美咲ちゃんも来るよ」
素晴らしい連絡網だ。彼女達の中で、俺がどういうポジションなのか、いつか是非とも伺いたい。
「……私ももう直ぐ上がるから、一緒にお茶しよ?」
「え?従業員が客と一緒でいいのか?」
またまたコックリ頷く。
「……バイトが終われば、私もお客さんだから…」
まあそうだが。つか、俺って、ここのファミレスで優遇されているんだっけか。西高生追っ払ったヒーロー的に。
だから多少の融通は通るんだったな。春日さんとお茶しても問題無い程度の融通は。
つっても、バイトが終わってからだから、やっぱりそんなに問題無いのかな?
ともあれ、まだバイト中の春日さんに案内されて、テーブル席に通される。
俺を含み、春日さん、楠木さん、槙原さんが座る席にしては広いと思うが、そこは取り敢えず気にしないようにしておこう。
通された席に座り、取り敢えずドリンクバーを注文。
さて、コーヒーでも飲むか。
そう思って席を立とうとしたその時、俺の横にどっかり座って来た奴がいた。
ムッとしてそっちを見ると、ヒロだった。
少し機嫌が悪いのか、若干眉尻が持ち上がっている。
「…おう…お前も来てくれたのか」
「…来るだろ。須藤が黒幕だって知っちまった。つうか、受け入れちまったんだ。お前を人殺しにする訳にはいかねえだろ」
受け入れた、か…そうだな。それ以前は文字通り受け入れていなったからな。
お前等がやんややんやって言っていたのに、どこか他人事のような気もしていたな…
だけど、俺を心配して、来てくれたのはマジで嬉しいよ。なかなかカッコイイなヒロ。これぞ友情だ。
「なに笑ってんだお前…」
「いや、暇な奴だなあ。と思って」
誰が正直に言うか。恥ずかしいだろが。
「いや、さっき優と別れたばっかで、ホントに少し暇になったから」
「お前には失望だ!!」
期末テスト前にデートしてるんだウニ頭が!!お前そんなに余裕こける程、頭良くないだろ!!
取り敢えずヒロと二人でコーヒーを取りに行き、席に戻ると、そこには山盛りの唐揚げとフライドポテトがあった。
こんな夜遅く、こんなの食えるかよ…
げんなりしながら、そこに座っている波崎さんに頭を下げた。
「こんばんは緒方君。遂に真実を突きとめたそうだね?これはお祝い!!」
「いや、唐揚げとフライドポテトをお祝いに貰っても…」
俺はコーヒーを持って座り直すが、ヒロはコーヒーを置いて再びドリンクバーに向かった。
きょとんとしていると、波崎さんが言う。
「私の飲み物を持って来ようとしているんだよ」
ははあ…なんと言うか…
「よく躾けられているな…」
「でしょ?」
でしょ?じゃねえよ。こええよ女子。
俺もちゃんとお付き合いする事になれば、こうなるのだろうか?
いや、それが嫌って訳じゃ無いが…
「……おまたせ…」
着替えた春日さんが俺の横に座る。
「春日ちゃん、お疲れ様~」
波崎さんの労いの言葉に、こっくり頷いて返す。
ヒロが波崎さんの飲み物取りに行ったからではないが、俺も何となく聞いた。
「春日さん、なんか飲む?あ、注文しなきゃな」
呼び鈴を押そうとしたが、春日さんがその手に触れて止めた。
「……もうオーダーしたから大丈夫だよ」
そっか。遅い晩飯も一緒に取ろう作戦かもしれない。遅番は夕食を食べ損ねる事がよくあるとか言っていたしな。
そう思っている時、丁度春日さんのバイト仲間のメイドさんが料理を運んできた。
が…
「………これ、メニューに乗ってないよな?」
運ばれてきたのはハニートースト。それだけならいい。確かにメニューにはないけれど、裏メニュー扱いにはなるだろう。
問題はそのトッピングだった。
生クリーム山盛りに加え、カラメルがアホみたいにかかっていた。受け皿になみなみと。
ベースはハニトーだよな?つまりは蜂蜜もかかっているって事だよな?
「あれ?春日ちゃん、今日はあんこトッピングしなかったんだ?いつもはそれこそ山にして食べているのに?」
何ですと!?これの他にあんこ!?
「……もう遅いから我慢したの」
じゃあ早かったら、あんこ山盛りトッピングあったの!?
「そっか。接客業は疲れるしね。ホントはもっと糖分取りたいんだけど、太っちゃうからねえ」
同感だと頷く波崎さんだが、いやいや、それよりも糖尿とか心配した方がいいだろ?ヤバいよ?色々。
「……波崎さんは練乳掛けが好きなんだよね」
「そうそう。蜂蜜と練乳のコラボ、チョー最強!!」
聞いていて胸焼けしてきた…
俺は口直しのように、コーヒーを一気に煽った。
コーヒーを煽っていると、俺の隣(春日さんじゃない方の)に誰かが座る。
横目で確認すると、楠木さんだった。
「隆く~ん。一時間と8分ぶり!!」
「8分は嘘だろ。約一時間ぶりにしようよ…」
べたべた引っ付いてくる楠木さんを、身体を捻ってやり過ごしながら言う。
「……美咲ちゃん、こんばんは」
「こんばん、春日ちゃん。ん?ハニトー?美味しそうだねえ」
「楠木さん、こんばんは。今日は緒方君と放課後デートだったんだって?」
ブフー!!
リアルでコーヒーを噴いた。
なんで波崎さんも知ってんだよ!?
「……私達の連絡網は強固…」
「そそ。信頼関係を築く為には、隠し事はタブーだからね」
丁度良く戻って来たヒロに、春日さんと楠木さんの分の飲み物をパシらせながら、波崎さんが言った。
ヒロもなんか可哀想だが、俺も結構な位置に居ると思った。
「で」
ニヤニヤと、波崎さんが身を乗り出しながら聞いてきた。
「春日ちゃんのオムライスと遥香のチャーハン、楠木さんのピラフ、どれが一番美味しかったの」
ブブブー!!!
またもや噴き出した。
「そ、そんな事まで言ってんのか!?」
楠木さんは小首を傾げる。
「あたりまえじゃん?お料理の出来は、女子力に関係するんだよ?」
更に春日さんも小首を傾げた。
「……みんな同じのを出したら、飽きるでしょ?」
なんだそのロジック!?俺にはさっぱりわかんねーよ!!
解るのは、小首を傾げた二人が可愛すぎるって事だけだコンチクショー!!
「やあやあ、みんなお待たせ!!」
最後に、真打登場とばかりに、槙原さんが俺の正面に座る。
「そこヒロの席だけど…」
「大沢君は優の隣ならどこでもいいんだよ?」
まあそうだろうが。
丁度ヒロが楠木さんと春日さんの飲み物を持って帰ってきた。
「あ、博仁、遥香のも」
「………おう…」
やはり波崎さんに言われて従順に動くヒロ。なんつーか、マジで可哀想だ。
「で、早速本題だけど、みんなにはある程度話していたけど、遂に隆君は須藤の事を知ってしまいました。このままじゃ、もしも今からお家に帰る途中、須藤と出くわしたら、隆君は須藤を撲殺するかも知れません」
歓声に近いような『おおお~』の合唱。
まあいいや。細かい事は。それよりも。
「なんで朋美と出くわすと思うんだ?」
それを不思議に思っていた。勿論可能性はゼロじゃないが、なんつーか、そればかり心配しているような節がある。
「出くわすよ。ほぼ確実に」
「だから何でだよ?」
「隆君の話だと、阿部って人に、どこかのホムペで襲うように依頼したんだよね?須藤の中じゃ、やられた隆君をたまたま通りかかった須藤が甲斐甲斐しく看病して、やがては恋に…とか絶対思っているって」
なんだその安っぽいドラマみたいな内容?
それでも、幾らなんでも朋美にだって解るだろ?俺が簡単にやられる訳が無いって事くらいは。
「……もう一つは確認の為とか」
春日さんが人差し指を突きたてる。
「確認って?」
「……12月25日まで動けないように、って頼んだって事は、クリパに参加させない為。なので、どのくらい怪我したか調べる為に、偶然通りかかった振りをする。とか」
「ははは。その理屈じゃあ、朋美が俺が帰って来るまで、どこかで張らなきゃならないじゃんか。幾らなんでもそんなに暇…」
その時俺の脳裏に、門の傍に置いてあったコンビニ袋やら、ワン切りやらが通り過ぎた。
「…やるな、あいつなら」
「……でしょ?」
ああ。十中八九、どこかで俺を待ち伏せているわ、あいつ。
そして俺はツラを見るなり、いきなりぶん殴る。と。
もう、見て来たように容易に想像できる。
こんな事は過去にも無かったのに、それは確定しているかのようだ。
思案している最中、漸くヒロが槙原さんの飲み物を持って、戻って来た。
そして当然のように(つか、当然だった)波崎さんの隣に座る。
「そんなもん、いちいち構っていられるか。須藤をぶん殴りゃいいだろ」
「流石に女子をぶん殴るってのは、どうかと思うよ博仁」
「だな。最低行為だ」
波崎さんに否定されて、気持ちいい程手のひらを返す。
いやあ、もう従順だな。恋って恐ろしい。
「まあ、普通に俺が送って行けばいいだろ」
「博仁は須藤さんをぶん殴らないの?」
「……自信はないな」
頼りになるんだか、ならないんだか…
だがヒロなら、朋美を何の躊躇も無く殴っちゃうだろうな。
それならそれでいいが、あそこのお家はとてつもなく厄介だから、俺としてはやめて欲しい。
俺だけなら簀巻きにされて、海の底やら山の中やらでも構いはしないが。
春日さんが俺の腕の裾をちょいちょい引っ張る。
「……うち…来る?」
それはとても魅力的な提案なれど、時と場合を考えて欲しい。
楠木さんと槙原さんが笑いながら青筋を立てているじゃないか。
「春日さん、女の子のお家にお泊りはちょっと…」
「……大丈夫だよ?親いないし、お弁当も作るよ?」
「じ、じゃあ私の家に!!」
「……美咲ちゃんのお家にはご両親がいるから、無理じゃないかな…」
「じゃあ私が隆君の家に!!」
「……遥香ちゃんが隆君のお部屋から朝出てくれば、隆君のご両親、びっくりしちゃうんじゃないかな…?」
おお…春日さんが二人を論破している…
これは珍しい物を見たな…
じゃねえよ、何を感心してんだよ。
春日さん、結構強引だから、このままじゃアパートに引っ張られてしまうかも知れないじゃねーか。
流石にそれはマズイ。色々と。主に思春期の男としてのナニがアレで。
「まあ、冗談は置いといて」
波崎さんが苦笑しながら割って入る。
春日さんは冗談と言われて少々お冠のようだったが、冗談にしといてくれ。
「取り敢えず、みんなで緒方君を送ればいいんじゃない?」
それはなんかカッコ悪いが、一番いいかも知れないな…
だけど、凄い申し訳ない感があるんだが…
「須藤もみんないれば、接触してくる事も無いだろうしね」
「そうだな。俺は優の意見に賛成だ」
当然乗っかって来るヒロ。なんか、もう、昔を見る影も無いな。
槙原さんは暫し考え、解ったと席を立つ。
「じゃあちょっと待ってて。少し準備してくるから」
準備?何を準備するんだ?
「……私もちょっと…」
「あ、私も。来るまでちゃんと待っててね」
槙原さんに倣って二人も席を立った。
何だろう?いやな予感しかしないが…
小一時間ほど経過した頃、三人がまるで示し合わせたように戻って来た。
三人ともバッグを持って。
「…一応聞いておく。何が入っているんだ?」
「隆君、女の子の荷物を推測するのは良くないよ?」
と、槙原さん。
「……いろいろ、だよ?」
と、春日さん。
「まあ…エチケット?みたいな?」
と、楠木さん。
ならば、と追記しておく。
「泊めないからな」
「「「なんでー!!?」」」
三人一斉に同じセリフを叫んだ。
やっぱりバッグの中身は着替えか。良かった、一応探りを入れといて。
「普通に考えろ。次の日は学校、しかも男なら兎も角、女子を家に泊めるとなりゃ、ご近所の目が色々厳しいんだよ」
あ。と手を叩く波崎さん。
「だったら博仁もつけるよ。それならいいでしょ?言い訳は期末テストの勉強会とかでいいと思うし」
「「勝手に決めんな!!」」
今度はヒロと俺がハモった。
波崎さんに従順なヒロだが、流石に泊まるのは嫌のようだ。
「なんで嫌がるのよ?博仁、緒方君しか友達いないのに」
「失礼過ぎるだろ!!コミュ障の隆より友達はいるっつうの!!お前は知らないだろうが、こいつ寝相滅茶苦茶悪いんだよ!!」
思いきり指を差されて力説された。
まあ、確かに寝相は良くは無い方だとは思う。
だが、俺にも言い分がある。
「波崎さんはもしかしてもう知っているかもだが、こいつイビキパンパじゃねーんだ。とてもじゃないが、安眠できる自信が無い」
俺の言葉を聞いて赤面した波崎さん。ところで、と追ってみる。
「こいつのイビキがパネエのはもう知っているの?」
「まだ知らないよっ!!」
真っ赤になって否定。対するヒロは涙目だった。
まあ、健全な高校生はまだ立ち入らなくてもいい領域。当然ながら、俺もまだ立ち入るつもりは無い。
なんか伝説では、30年童貞を守り通せば魔法が使えるらしいし。どんな魔法かは知らんが、楽しみではある。
勿論そこまで童貞をこじらせるつもりは無いけれど。
ちょいちょいと春日さんがまた袖を引っ張る。
「ん?」
「……私、寝相悪くても平気だよ?」
もう隣に寝る事は確定なんだ…
「私だって平気だし!!なんならホールドするし!!」
楠木さんは抱きつくつもりのようだが、それじゃますます寝られんわ。
「私なんか処女あげちゃうし!!」
「それは生々しすぎるからやめろ!!」
槙原さんだけには突っ込んでしまった。
保健室エロいとか、ベッドエロいとかの問題発言、その身体で迫られちゃ、マジ洒落にならん。
「いいよ。朋美と出くわそうが。殴っちゃうのも別にいいよ」
「「「良くない!!」」」
またもや綺麗にハモったな。そんなに駄目なのか?駄目だろうな。普通に考えりゃ。
つか、こんなにグダグダやってりゃ、電車無くなるんだが。
そろそろマジに家帰りたい…
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
ヒロが大きな溜息を付く。
「仕方ねえ。俺が泊まりに行ってやる」
「だから博仁も須藤をぶん殴るのに加担しちゃうでしょ?」
「当たり前だ」
清々しい程の全肯定。微塵も隠したりはしない。
「だから、それは駄目だって言っているじゃん」
発言した楠木さんをじろりと睨む。
「お前等、隆の家に来るのはいいが、俺もいるから、おかしな思惑は達成できないと思っとけ」
成程、ヒロは朋美云々じゃなく、女子三人を牽制する為に、家に泊まると言いたい訳か。
「だから隣に寝る事も、抱き付く事も、処女やる事もできない。そしてそんな真似しようとしたら、俺が容赦なく隆の家から叩き出す!!」
一斉にブーイングする女子三名。
しかし、ヒロは鬼の形相を作り、こう言った。
「彼女持ちの俺でさえ、まだそんな羨ましい事できてねえんだ」
それは悲痛な叫びにも似ていた。
そして、女子達はヒロを酷く憐れんだ目で見ながら、何度も頷いた。
波崎さんだけは真っ赤になって俯いていたが。
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