一年の冬~001

 味が普通のコスプレファミレスに、槙原さんと楠木さんを呼び出して、昨日麻美と相談した事を話した。

「と、言う訳なんだけど…どう?」

 最初はニコニコしていた二人が仏頂面になり、飲み物を音を立てて啜る。

 あれ?気分害した?

 ちょっとだけドキドキしながら二人、いや、御二人の顔色を窺う。

「まーったく…おデートのお誘いじゃないのはムカつくけど、それはまあ、いいとして、クリパの事はね」

「そうそう。あれはもうさ、聖域な訳よ。学祭みたいなローカルイベとは格が違うんだよ?」

 え?そんなに大切なもんなの?

 俺の記憶じゃ、ケーキ食って鶏食って終了だったけど…

「え?なに泣いているの隆君?」

 驚いた楠木さんが顔を接近させる。

 そうか。俺は泣いていのか…

 ロンリークリスマス…昔は特に気にしていなかったが、こんなにキツイものだったとは、想像を遥かに超えている…っ!!

「お待たせしました。ケーキとアイスのセット、フルーツあんみつ、サンドイッチでーす」

 やべ、注文したのが来た。

 慌てて涙を拭い、店員さんの方を見た。

「つか春日さん!!うわ!!かっこわりー!!」

 必死で涙の痕をゴシゴシ拭うと、そっと春日さんが俺の手を取り、動きを止めた。

「む」

「む」

 御二人が不満の呻き声を出した。

「え?なになに?」

「……楠木さんと槙原さんは反対みたいだけど…私はいいよ?」

 話を聞いていたのか。つか、有り難くて再び涙が出そうだ。

「……二人は来ないようだから…実質二人っきり…」

「たった今気が変わった!!みんなでワイワイクリパもいいじゃん!!」

「そうそう!!いや、寧ろこれはラストチャンスですよ!!みんなで過ごすクリスマスは多分これで最後だしー!!」

 …これは春日さんのナイスアシストなのか?

 横目で春日さんを見ると、物凄く残念そうな顔だった。だが、多分気のせいだろう。多分!!

 兎も角、もしも朋美に誘われたとしても、断れる大義名分はできた。

 安堵してサンドイッチを頬張る。

 あんみつをスプーンで掬う手を止め、槙原さんが言った。

「でもその案ってさ、返って須藤を怒らせることにならない?」

 うん?どうしてだ?

 首を捻る俺に、楠木さんが助け船を出す。

「そりゃ、好きな男子が女子三人とイチャコラする図を想像したら、ぶっ殺すまでボルテージ上がるよね」

 イチャコラは兎も角、ぶっ殺すまで!?

「は、はは…いくらなんでもそれは…」

 グサッとケーキをフォークでぶっ刺し、それを俺に向けた。

 心なしか殺気すら感じ怯む。

「私もね、誘った相手が槙原や春日ちゃんじゃなきゃ、刺していたかもよ?フォークでね?」

 おうーこええ!!

 自分の心境に置き換えただけでそれかよ!!

 じゃあ朋美なら完全にぶっ殺されるじゃねーか!!

「まあ、ぶっ殺されるのは隆君じゃなく、私達の方が可能性高いだろうけどね」

 言いながら「あ~ん」と、俺に口を開けさせる。

 無論素直に口を開けると、ケーキの欠片が口の中に放り込まれた。

「む」

 槙原さんの唸る声を無視し(怖いから)モグモグとそれを食べる。

 だが、その通りだ。

 女子のみはイカン。別に何かする訳でもないが、女子だけはマズイ。

「国枝君に頼んでみるかな…」

「国枝君にお相手がいなければいいけどね」

 むう…国枝君のそういう話は聞いた事無いが、彼はカッコイイからな。ひょっとしたら彼女の一人や二人はいるかもだ。

「美咲ちゃん、男子のストックは?」

「う~ん…殆ど切っちゃったからなあ…今いる奴等、情報収集用だから、あんま近付きたくないし…」

 男子のストックとか何なんだ!?

 真人間になったんじゃないのか楠木さん!?

「そう言う槙原はどうなのよ?」

 槙原さんに男子のストックを期待するとは、流石だ楠木さん!!

「何とかなりそうなのは一人いるけど…」

「「え!?マジ!?」」

 俺と楠木さんは同時に声を上げた。

 槙原さんに男子の伝手つてがあったとは!!

「え!?誰よ!?マジいるの!?」

 ぐいぐい食い付く楠木さん。

 それに頷いて、真顔を拵えて答えた。

「西高の木村君」

 そういやアドとケー番交換していたな…

 納得する俺とは対照的な、苦い顔の楠木さん。

「一応クリパなんだけど…」

「だよね。元彼とクリパは嫌だよね」

「元カレじゃないし!!元共犯者だし!!」

 立ち上がっての抗議であった。

 つか、嫌がっているのは解ったが、それは地雷じゃないか楠木さん…

 言って気付いたか、楠木さんの顔が赤面していた。

「ま、冗談は兎も角、クリパに呼べる程親しい男子はいないわー」

 あんみつのスプーンを咥えて、背凭れに体重を預けた。

 こうなって来ると、友達の少なさを、やけに実感してしまう。

 俺だけじゃない、楠木さんも槙原さんもだ。

 暫しの沈黙…と不意に――

「お待たせしましたー。バニラアイスです」

 誰も注文していない品が届く。

「あれ?間違いじゃ…」

 言おうとして店員さんに目を向けると、それは波崎さんだった。

「波崎さん。そうか、今日バイトか。だけどアイスは頼んでないよ?」

「うん。知ってる」

 ニヤーとして、テーブルにアイスを置いた。

 そして伝票にチェックを入れた。

 アイス追加注文した事になっているけど!!

「クリパ、私達も出席してもいいよ」

 驚きながらも納得した。

 クリパの話をする為に、アイスを持って来たんだと。

 出来ればお金かからない方法で来て欲しかったが、敢えて言うまい。

「いいのか?ヒロと過ごさなくても?」

 当然そのつもりだろうと思っていて、ヒロには話を通していない。

 だってカップルイベの頂点だぞ?疎い俺でも、それくらいは知っているのに。

「うん。今年はね。来年は無理だけど」

「なんで今年はいいの?」

 聞いた途端、遠くを見る波崎さん。そして呆れたように言う。

「二人っきりだと、貞操の危機を感じてね…」

 ……なにやったんだ、あいつ………

 だが、擁護する訳じゃ無いが、恋人同士だからいいんじゃないのかな…?

 でもまあ、波崎さんは身持ちが固いんだろう。

 だけど来年ならって!?

 ……いかん!!いろいろ考えてしまう!!

「クリパなら、ものづくり同好会の二人を誘えば?あの件と関係ない人も必要じゃない?」

 成程…俺が不埒な想像をしているのに、ちゃんと考えてくれていたんだ。

 やっぱヒロには勿体無いなあ。

「流石波崎!!策士だねえ…」

 ニヤリと悪い顔で笑う槙原さん。

「だったら黒木さんも川岸さんも誘えるし…その二人に男子の人数頼めるかも…」

 ブツブツと呟き、思考を巡らせる。

「なんならもうちょっと女子いた方良くない?男子釣るのに餌必要でしょ?」

 流石の楠木さん、黒いぞ!!赤坂君なら完璧に参加しそうだな!!

「女子なら何とかなるかな?でも、増やし過ぎに注意しないとね」

「やっぱ木村君呼ぼうよ?他校生もアリでしょ?」

「うげー!!木村はちょっとなあ…あいつ女に困ってないから、そもそも来るかも微妙だし…」

 ……当事者たる俺を完全に置いて行き、女子だけで盛り上がっていた。

 やっぱりこういうイベントは、女子の方が楽しみなのか?

 

 女子と楽しくクリパの相談した翌日の登校途中、思いっ切り不機嫌なヒロに出くわした。

「オス、ヒロ。なんか人殺しそうな目をしているぞ?」

 軽口を叩いて挨拶すると、これまたすんごい目で睨まれる。

「お前、マジどうした?ヤバいぞその目?」

「……隆、クリスマスってのは、カップルの一大イベントだ」

「そう思うが、それがなんだ?」

「黙れ。お前の糞ふざけた提案で、みんなで過ごす事になった事、許されると思うなよ……!!」

 それは恨みの眼。波崎さん、早速ヒロに言ったのか。

 だがしかし!!

「お前、二人っきりになるとオイタしようとするらしいじゃん」

 だから波崎さんは俺の話に乗っかってきたのだ。そして、決して俺からは誘っていない。全てはヒロの思春期が悪いのだ。

 言葉に詰まるヒロだが、やはり気に入らんもんは気に入らんようで、反撃に出た。

「よく聞け童貞。いいか?クリスマスだぞ?彼女持ちの俺が、なんで童貞野郎達と共に過ごさなきゃならないんだ?」

 いや、お前も童貞だろうに…

 少なくとも、波崎さんとは、そんな関係になっていないだろうが。

 じゃあ、と切り返す。

「お前は不参加って事でいいんだな?」

「それは話が違うだろ!!俺の彼女が出席して俺が出ないとか、イミフ過ぎる!!」

「じゃあ、今年は諦めて、来年チャレンジしてくれ」

 カックリと項垂れるヒロ。そして呪いの言葉のように呟いた。

「……優もまだ早いとか…ちくしょう…俺はいつでもどこでもいいっつうのに…高校一年生の情熱は、鎮まるのは奇跡だっつーのに…」

 こいつ、前からアピって拒否喰らっていたな、多分。

 がっつくとそうなるんだぞ。別れに近付くだけだって言うのに。

 俺はまだブツブツ言っているヒロを無視して、校舎に入った。

 他人の情事、いや、事情に深く首を突っ込んではならない。親友なら尚更だろう。

 教室に入ると、待っていましたとばかりに、黒木さんが俺に詰め寄って来た。

「槙原さんから聞いたよ。景子もOKだってさ!!」

「マジ!?つか、仕事はえーな槙原さん!!」

 既に確保したとか、有能過ぎる!!

「でもいいのか?ほら、一応クリスマスだし…」

 聞くと同時にダレた顔になった。

「クリスマスなんてね…独り身じゃ、単なる一年の内の一日でしか無いのよ…」

 ……空気が重い!!

 つか、黒木さんなら、その気になれば彼氏の一人や二人、簡単に出来るだろうに。

「ん?て、事は川岸さんも独り…う!?」

 独り身と言おうとしたら、黒木さんにすんごい顔で睨まれて怯んだ。

「景子は商業高校だからね。女子の方が人数多いから、チャンスがどーたら、って言ってた。このクリパに賭ける!!ってグーを握って灼熱していたよ」

「出会いが無いってヤツか…だけどそうなると、男子の人数当てにできなくなったな…」

 黒木さんは元より、川岸さんにも頼もうと思っていたが、期待はできそうにないな…

「男子は緒方君が頑張って探してよ?できれば白浜の生徒じゃない人」

 おう…何気にプレッシャーかけやがるな…

 そんな出会いが欲しいもんかなあ…

 考えていると、国枝君が教室に入って来た。

 俺は早速国枝君の席に行く。

「おはよう緒方君。クリパの件聞いたよ。僕も参加させて貰うよ」

「マジか!?国枝君はこっち側で良かったのか!?」

「こっち側って?」

「フリーダムグループと言うか、独り身グループと言うか…」

 国枝君はプッと噴き出して。

「僕は恋人がいないからね。寧ろ寂しく過ごす事の方が当たり前だから、賑やかな場に誘って貰った方が助かるよ」

 国枝君、彼女くらい直ぐに作れそうなスペックなんだけどなぁ…

 アホで不細工なヒロに波崎さんっていい子がいて、国枝君がフリーとか、世の中なんか間違っているような気がするな。

「でも、もう一つの方は厳しいかな?僕も友達少ないしね」

 男子の数か…

 意外と苦戦しそうな予感がした…

 

 授業が終わり、ホントはジムに行くつもりだったが、疲労を感じて、帰宅して伏した。

 まず、午前の授業の休み時間、楠木さんがEクラスに来てこんな事を言った。

「ねえ。クリパだけどさ。同じクラスの友達連れて行っていい?サラッと話したら乗り気になっちゃってさあ…」

 困っているようだった。楠木さんは薬の噂で、クラスで軽く浮いた存在になっていた。それ以前は男子にも女子にもそれなりに人気があったのに、一気に孤独になってしまったのだ。

 だがまあ、楠木さんにとって『友達』は利用するものだったから、逆に吹っ切れる切っ掛けにもなった。

 しかし!!あの学祭でのメイドコスで、以前ほどじゃないが、親しくしてくれる人が出来たと。

「あ、でも女子だけだよ?男子は隆君が嫌がると思ってスルーしているし。」

 いや、別に嫌がりはしないけど、まあ要するに『女子の友達クリパに三名程追加』で、コンパみたいなのを希望との事だ。

 ただでさえ男子の目途が無いのに、そんなにハードル上げられても困るが、『薬の噂』を知りつつも、仲良くしてくれる『友達』を無碍にも出来ず、困りに困って参加だけは何卒…みたいな。

 楠木さんに世話になっている俺としては、断る必要も感じないのでOKした訳だ。

 んで昼休み。春日さんの呼び出しに応え、図書室にて仲良く昼食を取っていると、春日さんらしく俯きながら、しかし勇気を出して言った。

「……あ、あの、あのね…クリスマスの事なんだけど…と、とととと、友達連れて行っていいかな…?」

 マジビックリした。春日さんが『友達』と言ったのだ。

 驚いて聞くと、やはり学祭の時、衣装を一緒に作る事で仲良くなったと。

「……あ、で、でも女子だよ?勘違いしちゃ、やだよ…?」

 いや、男子だろうが勘違いはしないから大丈夫だが。

「……そ、それで、その子…隆君に期待しちゃって…」

「期待?」

「……う、うん…あの『緒方隆』の友達なら、きっとカッコイイ男子の友達がいっぱい居るに違いない…って…大沢君とか、国枝君とか見たら確実だって…」

 国枝君は兎も角、ヒロがそっちのカテゴリーに入る筈が無い!!

 慌てて抗議しようとしたが、小動物のような瞳にせがまれるよう見られたら、うん。としか言えない…

 ので、『彼女募集中のカッコイイ男子を求む女子一名追加』となった。

 で、放課後。

 ジムに顔出すつもりで駅方面に行くと、喫茶店付近で槙原さんが友達と思しき女子と、丁度別れる場面に出くわした。

「槙原さん、今帰りか?」

「おおう!!隆君!!丁度いい。ちょーっとお話ししようじゃないか」

 と言って喫茶店に引っ張られた。

 無料チケでコーヒーを御馳走になりながら話を聞く。

「須藤の目を欺くためにはクリパの人数は多い方がいいと思うのよ。『みんなで集まる』って事に安心するんじゃないかって事。日向さんの案を盛大にやる訳」

「ふんふん」

「で、クラスの女子に頼んで、5人程来てもらえる事になったから」

「ほうほう」

「だから隆君、男子もそのくらいの数を用意してね。女子だけじゃ、須藤がおかしな方向に行くとも限らないし、頭数揃えたらコンパかなんかと思われるかもだから、できれば女子の数より多く。」

 ふんふん…

 えっとだ、つまり、楠木さんとその友達3人、春日さんとその友達一人、槙原さんとその友達5人、そんで黒木さんと川岸さん。計女子14人。

 で、白浜じゃない男子、カッコイイ男子、コンパみたいなの希望っと。

 渇いた笑いが口から漏れ出る。

 無理だろ!!黒木さんからコミュ症認定された俺だぞ?そうでなくとも、友達自体少ないってのに!!

 更に槙原さんの要望じゃ、男子の数を女子より大目に。

 て、事は、俺、ヒロ、国枝君を外して、11人より多く集めなきゃならんって事だ。

「奇跡でも起きなきゃ不可能だろ!!」

 余りの絶望感に、テーブルに突き伏す。

「やっぱりキツイよね?でも、男子は、私は用意できないから…」

 しゅんとする槙原さん。

 やめてくれ。槙原さんにそんな顔は似合わない。いつものように。自信たっぷりでいてくれ。

 つか、俺が頼りないから、こんな顔させているんだ!!馬鹿か俺!!

 こんな時こそ男気を見せなきゃ駄目だ。いつも頼り切っているんだから!!

 俺は精一杯男前の顔を作って言った。

「安心しろ。それくらい、どうにかしてみせる」

「ほんと?期待していいの?」

 う…そんなに瞳を輝かせて期待されちゃあ…

「勿論だ!!」

 と、言うしかないじゃないか!!

 で、帰った途端ベッドに伏した訳だ。

 あーマジでどうしようか…

 取り敢えず、同じクラスの蟹江君と吉田君を誘うとして(国枝君が声を掛けてくれるらしい)俺も少しは働かないとな…

 しかし、俺の携帯に登録されているアドレスに、男子の名前は皆無に等しい……

 ん?

 木村…

 木村か…楠木さんは嫌がるだろうな…

 やっぱ木村はマズイよな。そもそも来る筈ないか…

 とか思いながらもコールする…

 なんだろうな。この藁にも縋る感じは…

『はい』

  出たよこいつ!!なに普通に出てんだよ!!

「お前、なんで電話にでんだよ!!」

『はあ!?お前が掛けてきたんだろうが!!』

 まあそうだけど…つか、キレんなよ。短気な奴だな。

『で、なんの用だ緒方?』

 なんの用とか言われても…

 まあ、無駄だと解っているし、楠木さんも嫌だろうが、一応聞いてみよう。

「お前、クリスマスの日、暇か?」

『あ?俺はいつも忙しいんだよ』

「だよなー。他に」

 当たると続ける前に。

『あ、ちょっと待て。クリスマス?その日なんかあんのか?』

 と、逆に聞かれた。

 なので、企画とその理由を言うと――

『そんな理由かよ?だけどまあ、協力してやってもいいぜ。丁度女達がウザったく誘ってきやがるから、断る口実が欲しかったしな』

 意外とあっさりOK出しやがったー!!

 しかも断る理由とか!!俺も同じ理由だが、中身が違い過ぎる!!

 なんかムカつくが、自分で誘った手前文句も言えず。

 これで確定した男子は俺、ヒロ、国枝君、木村の四人。もうちょっと頑張りたいな…

「木村、お前の仲間でお前の仲間じゃない男子の知り合いいないか?」

『あ?なんだその回文?意味解んねえぞ?』

 ああ、ホントに察しが悪いなこいつは。

「だから、西高生じゃない、真面目な男子の知り合いはいないかって事だよ」

『ああ…要するに、お前の嫌いな奴等じゃない野郎が欲しいって事か。中学の時の連れに一人いたな』

「ほう…因みに学校は?」

『海浜高校だったかな』

 海浜…進学校か…

「その人連れて来れるか?」

『お前の例の件にあんま巻き込みたくねえが…まあ聞いておくよ』

 そこで電話を終えた。

 今、電話して確認してから、折り返し電話を貰う事にして。

 結構な時間が経った。

 つか、10分くらいしか経ってなかったが、やけに長く感じたが、木村からの折り返しの電話が来た。

『おう。了解得たぞ。行ってもいいとよ』

 この時は木村が救いの神に見えた…

 こいつマジいい奴!!

「悪いな!!よく頑張ってくれた!!」

『別に頑張ってねえが、向こうもお前に興味あったらしいから、楽に話進められただけだ』

 え?俺に興味あるって事は…

「まさか…ホモ的な?」

 えっと…俺はノーマルなんだが…それに、今も女子三人もキツイってのに、これ以上ややこしいのが入ると…

『違う!!お前が有名過ぎるからだ!!西高相手に、たった一人で暴れまくった狂犬のお前がだ!!』

 たった一人って…単に西高生が、群れて弱いもの虐めしているだけだろ。結果1対多数になっただけだ。

 ともあれ、同性愛的な感じじゃなくて、ホッとした。

『で、一応クリパの前に会っておきたいとよ。お前、人数欲しいんだろ?その時ついでに頼んでみたらいいさ』

「なんで会いたいのかは解らんが…解った。いつ?俺はいつでも時間作れるけど…」

『日にちと時間は後でメールしとくよ』

 そこで電話を終える。

 いや、マジ助かった。木村の友好範囲が広くて助かった。

 俺は一旦胸を撫で下ろす事に成功したのだった!!

 

 翌日、いきなり蟹江君と吉田君が、俺の前で土下座した。

 当たり前だが、思いっ切り引く俺。

「な、何!?何なの!?」

 顔を上げた蟹江君。涙を滝のように流している。

「緒方!!お前いい奴だなあ!!俺達をクリパに誘ってくれるなんて!!」

 続いて吉田君。彼も涙をぬぐいながら言う。

「この恩は忘れない!!俺達に出来る事があったら何でも言ってくれ!!」

「い、いや、別にそんなつもりは…」

 言い掛けて口を噤む。

 これはチャンスかも…

 俺は土下座状態の蟹江君達と同じ目線で片膝を付き、頼んだ。

「このクリパ、蟹江君達が企画した事にしてくれないか?」

「うん?別にいいけど…」

「で、白浜以外の男子の人数、集めて欲しいんだ。女子の数が多いから、ちょっとバランス悪いんだよ」

「ウチの学校以外の?っつても、南女や北商には知り合いいないぞ?」

 いや、南女は女子高だし、北商もほぼ女子高だから。

 俺男子の人数欲しいって言ったよな!?

 突っ込みたい気持ちを押さえ、ややぎこちなく笑い、続けた。

「えっと、欲しいのは男子の人数だから、例えば東工や荒磯から、男子引っ張って来れないかなーって…」

 白浜東工業高校、荒磯高校共に男子の比率が高い。特に東工はほぼ男子校だ。その二つに知り合いがいるなら、男子の数合わせは比較的容易にならないだろうか?

 蟹江君は首を傾げて。

「東工に中学の時のツレいるけど、殆んど彼女持ちだからなあ…引っ張って来れても5人くらいだぞ?」

 5人!!それは大量じゃないか!!

 更に吉田君。

「荒磯にツレが通っているな。全員フリーだった筈だ。取り敢えず3人でいいか?」

 3人!!それは頼もしい数字だ!!

 俺は固く握手を酌み交わす!!

「いいよ!!いい!!お願いしたい!!」

 逆に引かれた俺だが、蟹江君達は頷いてくれた。

 ともあれ、これで人数は確保できただろう。

 後は木村の紹介の海浜の男子が、どれだけ連れて来れるかだ。

 そういや一回会って話するとか言っていたな。友達が乏しい俺にとっては、結構楽しみでもある。

 なので知らず知らずに鼻歌を歌って廊下を歩いていた。

「なに?随分機嫌いいじゃない?」

 そりゃ一気にノルマクリアできそうなんだ。機嫌がいいに決まっている。

 そう言おうとして其方の向くと…

「朋美…か」

 一気にテンションが下がった。だが、何とか表情に出さずに持ちこたえる。

「なに?なんかいい事あったの?」

 仔犬のように纏わりついて来る朋美。

 確かに可愛いんだが、もう、どう見ても、わざとらしさが目に映る。

 偏見じゃない。計算された動き。

 それが解るようになっただけでも、かなりの進歩だろう。

「別に?いつも通りだよ俺は」

 すっとぼけて流してみる。

「ふーん。まあね。いつも少しおかしいからね」

 おかしいのはお前だ!!ってマジ突っ込みたい!!

 それを堪えて続ける。

「学祭も終わってもう少しで冬休みだから、ちょっと浮かれていたんだよ。でもジムに行かなきゃならんけどな」

 ピクリと朋美の笑顔が強張った。

 俺が言うジムはボクシングジムで、対抗戦が予定されていたが、相手選手の不慮の事故でお流れになった。

 その選手は佐伯。俺がぶっ殺したい糞の一人でもある。いや、だった。

 その佐伯を殺したのは朋美だ。流石に平静を装うのに、苦労するんだろう。

「へ、へえ?ジムにはまだ通っているんだ?」

「まだってなんだ?お前も知っているだろ?俺は用事が無い限りは、なるべくジムに顔を出しているって」

「そ、そうだった。うん。継続は力だしね」

 明らかにキョドってるな…

 その調子で自白してくれたら有り難いが。

 朋美は話題を変える。やや強引に。

「ふ、冬休みの前に期末テストがあるじゃん?追試大丈夫そう?」

「ああ。なんとかな。クラス平均にはなったし。期末はヒロにも勝つだろ」

「大沢に?でも大沢、塾に通っていたんじゃ?」

「またボクシングに戻って来たんだよ。だから塾は辞めた」

「あう…」

 変えたはずの話題が戻ってくるとは、とんだブーメランだな朋美。

「そ、そうかあ~。あ、期末終わったらクリスマスだよ!!」

 またまた話題を変える朋美だが、今度は俺がグッと来る。

 クリパの件を今知られたら不味い。

 どうやってすっ呆けようか…

「あ、ねえねえ、クリスマスの日…」

 く…ヤバい…まさかクリスマスに誘うつもりじゃないだろうな?

 嫌な汗が出てくる…

「あ、いたいた。緒方君、先生が捜していたよ」

 呼ばれて振り返ると、国枝君だった。

 いや助かった。朋美のその憎しげに国枝君を見る目で、確定した。

 やっぱクリスマスに誘うつもりだったんだ。

 邪魔が入ってムカついているんだ。

 だが公用じゃあ文句も言えない。

「先生が?なんか怒られるような事したかなぁ…」

 とは言え、教師が捜しているのは些か不安だ。マジでなんかやったけ?

「解らないけど、教室に帰った方がいいんじゃないかな?」

「だよな…じゃな、朋美」

 なんか言いたげな朋美を背に、クラスに戻る。

 そして、視線が遠くなった時に呟いた。

「つか、何の用事だろう…」

「ああ、嘘だよ」

 ん?嘘?

 え?なんで国枝君がそんな嘘言うの?

 信じられない気持ちで国枝君を凝視する…

 国枝君は屈託の無い笑顔で言う。

「彼女が助けを求めて来たからね」

 そう言って、親指を俺に向けた。

「彼女……麻美か?」

 頷いて続ける国枝君。

「クリスマスに誘われそうな雰囲気だったって。いずれ断るとしても、こっちのクリパが形を成してからの方がいいって事さ」

 成程…クリパが本決まりじゃないと、どんな妨害が入るか解らんからな。朋美ならやりかねん。

「そうか。助かったよ国枝君」

「お礼なら彼女に言ってあげなよ。かなり気を遣っているんだしさ」

 そりゃあ勿論。

 麻美が一番頑張って、一番苦労しているのは知っている。

 俺はただ、守られていただけだったし…

 いかん、なんか気分落ちてきたな…

「で?男子の数はどうにかなりそうかい?」

 国枝君の話題チェンジ。俺の落ち込みを察してくれたのだろう。

「うん。なんとかなると思う。蟹江君と吉田君の中学の時の友達が来てくれそうだから。あ、クリパは蟹江君達の企画って事にしたから」

「ふ~ん。緒方君や槙原さんの企画よりは安全かもね」

 俺もそう思う。蟹江君達は、朋美とは面識が無いしな。

 槙原さん達を矢面に立たせる事も回避できたし、俺にしちゃあナイス判断だ。

 そして他校生が入り乱れてのクリパだから、朋美も下手な真似はできないし、参加しようとも思わないだろう。

「あっと…もう教室だよ。後ろから須藤さん付いて来てないよね?」

 そろ~っと振り向く。

 ……うん。大丈夫だ。朋美の姿は無い。

「大丈夫だよ国枝君」

「そっか、良かったよ。須藤さんに絡まれる事は避けたいからね」

 笑いながら冗談を言う国枝君。

 …冗談だよな?その汗も演技だよな?

「僕は喧嘩も弱いし。女子と口論もできないしね」

 ちょ、そんな弱気でどうすんだ!?

 いや、いやいやいや。俺の問題に力を貸してくれている国枝君に、必要以上にプレッシャーを与えてはいかん。

 なので、俺は苦笑いで応えるしかなかった。

 

 翌日。

 蟹江君達に頼んだ男子の数が確保決定となった。

 聞くと、電話でこういう企画があるんだけど、と言ったら速攻だったらしい。

「まあ女子に飢えてんだよ」との事だ。だけど東工は兎も角、荒磯は女子の数もあるはずだけどな…女子、糞女が殆どだけど。

 因みに、俺は糞女子にもあんま遠慮はしない。つっても、緒方だと知って取り入ろうとした糞女子を、怒鳴り散らして追っ払った程度だが。

 ともあれ、これで13人。女子の数と互角になった。

 あとは木村からの連絡待ちか…

 そんな事を授業中ぼんやりと考えていたら、携帯がブルブル震えた。メールだ。

 先生にバレないように、そっと確認する。

 木村からだ。。西高も授業中だろうに、なんてはた迷惑な奴なんだろう。

 まあ、奴が真面目に授業受けている姿を想像する方が難しいが。

 何の用だと内容を読むと、今日の放課後、西高駅前の茶店に来い。との事。

 呼び出しかよ。糞めんどくせーな。

 だけど地元で待ち合わせると、朋美に見つかってしまう可能性があるから、逆に出向く方がいいか。

 珍しく、と言うか、初めてと言うか、蟹江君、吉田君、国枝君、ヒロのメンツで昼飯を食っていた時に、さっきのメールの話をした。

「そういやさっき西高の木村からメールが来たんだけどさ」

「緒方、あの西高の木村と知り合いだったのか…」

 蟹江君が青ざめながら言う。

「知り合いってか、まあ色々と」

「木村って、ここら辺で一番強いとか言われている奴だろ?実際お前とどっちが強いんだ?」

 吉田君が興味深気に聞いてくる。

「どうだろ。解んないなあ」

 惚ける俺だが、過去に木村と散々やり合って、負けた事は無い。

 今回は喧嘩してないから、解んないで正解だろう。

「つか、木村が何の用事だ?」

「多分クリパの件だと思うけど」

 一斉に「えー!!」と声が挙がった。

「西高生も来るのかよ…」

「荒らされないだろうな…」

 蟹江君と吉田君が解りやすく拒絶反応を起こした。

「でも、前に会った時は、そんなに怖そうな人に見えなかったよ?」

「国枝…お前木村に会った事あるのか…」

 今度は国枝君におかしな視線を送る。

 つか木村、有名過ぎるだろ。

 もうちょっと大人しくしとけよ。せめて他校生には噂程度にしとけよ。

「西高生は木村しか来ないし、大丈夫だよ」

 木村も俺と繋がりがあるとか、仲間にあんま知られたくないだろう。いろいろ制約付けちゃったからな。

「そ、そうか…だったらいい…のか?」

「だから安心して企画した事にしてくれ」

「そこはどうしてもそうなのか…つか、俺達が西高の木村呼べる筈ないんだが…」

 いちいち不安そうな蟹江君と吉田君だが、そこは諦めて貰うしかない。

 気の毒だが、その分女子が大量に来るぞ!!ボーナスステージのボスだと思って頑張ってくれ。

「あ、丁度その事で話があったんだ」

 国枝君が律儀に挙手して言う。

「この後クリパの噂を聞きつけて、参加したいと言ってくる人がいるかもしれないけど、全部断って」

「え?女子も?」

「そう。女子も」

 俺に目配せする国枝君。

 そうか。念の為の朋美封じか。

 無いと思うが、朋美も参加したいと言ってきた時の事を考えての事か。

「ふーん…なんか解んないけど解った。様は断ればいいんだろ?定員オーバーです、みたいな感じで」

「そうそう。そしてもう一つ」

 今度はヒロが人差し指を突きだした。

「南女には手を出すな」

「南女も来るのか!?」

 さっきとは打って変わって、瞳を輝かせる蟹江君と吉田君。思わず立ち上がってしまう程、興奮を露わに。

「そうだ。南女からは一人。だが、あれは俺の女だ」

「大沢…お前、彼女いるのに、グループ交際に混ざるのか…」

「しかもその彼女もグループ交際に混ざるって…」

 蟹江君と吉田君の憐みの言葉。

「うるせえ!!俺だってなあ!!俺だって…」

 ヒロは震えだしたと思ったら、涙ぐんでしまった。

「ちょ…大沢…」

「な、なんか知らんが、悪かったから泣くな。な?」

 慰められて頷くヒロ。

 哀れだ。将来的に恋人ができたとしても、ああはなるまい。

 

 放課後、木村が指定した喫茶店に足を踏み入れる。

 ここは過去に木村をぶち砕いて店内を滅茶苦茶にした喫茶店だが、今回は何もしていない。

 なので、愛想の悪いマスターに一瞥された程度で済んだ。

 木村は…まだ来ていない。

 一番奥の席に座り、取り敢えずブレンドを注文。

 ここのコーヒーはマズイのだが、何も頼まない訳にはいかないし。

 しかし、西高生がいなくて良かった。

 俺にその気が無くても、向こうは突っかかってくるだろうし。

 糞に向って来られたら、間違いなくぶち砕く事になるだろうし。

 そうなったら木村との約束を破ってしまう事になるし。

 つか、西高生の縄張りに俺を呼び出すなよ。揉め事が起きても、俺に責任はないぞ?

 まずいコーヒーが俺の前に置かれる。

 ごゆっくりも言わずに、さっさと退散するマスター。

 別にいいけど、やっぱ感じ悪いなあ。

 啜りながら待つ事暫し…

「おう。待ったか?」

 呼び出しておいて、漸く来た木村。

「おせーよお前……?」

 その木村の後ろに、西高生らしからぬ見た目の男子が、愛想笑いしながら俺を見ていた。

 制服だ。学ランの西高と違い、紺のブレザー。進学校、海浜の制服だ。

 じゃあこいつが?

「木村、この人が?」

 頷く木村。

「真鍋ってんだ。海浜の生徒だよ」

 真鍋君か…なんかちょっと頼りなさそうな感じだが、見た目は女子受けしそうな、可愛い系の顔立ちだ。

 真鍋君は思い切り低姿勢宜しく、腰をほぼ90度に折り曲げて、超速でお辞儀した。

「チース!!白浜の緒方君ですね!?お噂はかねがね!!真鍋って言います!!よろしくッス!!」

 それは、腰が骨折したんじゃないかと思わんばかりのお辞儀。

 丁寧を通り越して気色悪い。

「真鍋。取り敢えず座れ」

 木村が後ろの襟を掴み、無理やり椅子に座らせた。

「ひどいよ木村君!!憧れの緒方君の前で、猫の子を掴むようにさ!!」

「黙れ。殺すぞ」

「あ、マスター。僕オレンジジュース」

 木村に凄まれて、あっさりと抗議をやめて、いきなり注文し出す。

 唖然とした。当たり前だった、その他のリアクションなんて取れない。

「こいつはなんつーか、調子いいんだよ。だから、決して心を許すなよ」

「ひどいよ木村君!!僕みたいな誠実な人間はいないよ!?」

「うぜえぞ?」

「あ、マスター。木村君にブレンド!!」

 同じようなやり取りを見せた。

 成程。まだ何とも言えないが、木村の言う通り、信用しないことにしよう。

「生憎だが、お前の嫌いじゃない連れはこいつしかいない。こいつで妥協するか、諦めるか。どっちにする?」

 妥協って…そのレベルなのか…

「酷いよ木村君!!中学時代、よくパン買いに行ってやったじゃないか!!」

 抗議する真鍋君だが、それは所謂パシリじゃ…

「お釣り稼ぎのバイトだったろうが」

「真鍋君木村からお金稼いでいたの!?」

 仰天だ!!

 普通にパシリにしていたんじゃなくて、お釣りをあげていたのか!!

「木村君のおかげで、卒業まで一万は稼げたよー」

 屈託の無い笑顔で答えた真鍋君。ホントなんだ…

「お前が金無え金無えって、うるせえからだ」

 軽く真鍋君を小突く木村。

 なんつーか…普通の友達同士みたいだな…

 もうちょっと上下関係がはっきりしているかと思っていたが、成程、木村はやっぱ、そこら辺の糞とは一線を外すな。

「いやー。でも、憧れの緒方君とこうして喋っているなんて、夢みたいですよー」

 やはり屈託の無い笑顔の儘言う。

「なんで憧れ?俺は別に正義の味方じゃないし…」

「えー!?充分正義の味方ですよ!!海浜の生徒も結構助けられていますから!!」

 そうなのか…?

 多分糞共が、寄って集って海浜の生徒を虐めてた時に出くわして、ぶち砕いた事があったんだろうが、あれは単純に俺が気に入らなかったからであって、海浜の生徒を助けた訳じゃ無いんだけど…

「西高の生徒をバッタバッタと!!東工の生徒もバッタバッタと!!」

 木村が眉根を寄せたのは気付かない振りをしよう。

「いや!マジカッケーっすよ!!負け無しですって!?」

「いや、試合じゃ、結構判定負けしているから…」

「試合がなんです!!要は実戦っすよ!!最後に立っていた奴が一番なんす!!」

 ……なんか困った。

 だから苦笑いで返すのみ。

 どうしよう?断った方がいいのかも知れないなあ…

「で、クリパの件ですけど、どうします?女子なら10人は確保できますよ?」

 つか、もう参加確定なの!?

 木村を見ると、呆れたように肩を竦めた。そして徐にスマホをチェックしだした。

 うわ、あの野郎、俺に丸投げするつもりか?

 なんて奴だ!!最低だな!!

「……どうしました?10人じゃ足りませんか?頑張れば30人は…」

「い、いや、女子は足りているんだ。だからいいよ」

「マジっすか!?やっぱ緒方君、女子にモテモテなんすね!!チョー羨ましい!!」

 いや、10人確保できる君の方が、モテモテのような気がするが…

「じゃあ僕ひとりだけでいいんすか?なんなら男子も…」

「い、いや、男子の数も確保できたから…」

「マジっすか!?やっぱ緒方君!!統率力もパネエっすね!!」

 いやいやいやいや!!統率力なんて無いから!!

 みんな友達に助けて貰っただけだから!!

 統率力なら、寧ろ木村の方が段違いだから!!

 なんか疲労を感じる。

 そう思った時、真鍋君が頼んだオレンジジュースとブレンドが到着した。

「やっと来た!!遅いよマスター」

 そう言ってストローをぶっ刺す真鍋君。

 同時に木村が財布からお金を出して、テーブルに置いた。

「出ようぜ緒方」

 驚いた。のは、真鍋君。たった今口をつけたばかりなのに?って顔をする。

「ちょっと待ってよ木村君。直ぐ飲んじゃうから!!」

「いいからゆっくり飲んでろ。俺のブレンドもな。俺は今からこいつと内緒話だ」

 え?俺だけ?

 だけどまあ…ちょっと疲れたし、いいかな?

「解った木村。真鍋君、悪いけどこれで」

「え~!?緒方君まで居なくなるんすか!?」

 だから木村と内緒話って言ったじゃねーか…

 俺は逃げるように、木村は堂々と、真鍋君を置いて喫茶店から出た。

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