第7章 いざ、大海原へ
第24話 新たな船、新たな遺跡
部屋のドアがノックされる。
「オム先生、お客さんですよ。なんか船がどうとか言ってますけど」
ひょっこりと顔を出すタグチ。
オム先生はにぃ、と口の端を引き上げた。
「みんな来て。ついに船が届いたわ」
急いで港へと走る。
船着き場には船大工の老人とイサームさんが立っていた。
「お前らの船はこれだ」
イサームさんが港に浮かんでいる船を指さす。
「大きな船ですね」
「凄いですわ!」
ピペとヤスナが歓声を上げる。
確かに、届いた船は想像していたよりずっと立派だ。
茶色い木造船なんだけど、所々に黒い金属の金具がついていて、見慣れない歯車や煙突があって、二、三十人は乗れそうに見える。
「だろ?」
船大工さんが笑う。
「それにこれ、見てみな」
老人が指差したのは、黒い箱に紙とペンが付いている見たこともない装置だ。
「これは大戦中に使われていた軍用探知機を改造して作ったんだが、海底に音波を当てて戻ってくる音を記録することで海底の地形を調べることができるんだ。まだ試作品なんだが、何かに役立つかと思ってな」
「ありがとうございます......!」
僕たちは船を手に入れた。そして海に沈んだ遺跡の調査は、いよいよ本格的に始まったのだ。
*
「さて......二人はずっと遺跡の場所を周辺住民に聞き込みしていたのよね?」
「はい」
僕たちは研究所に戻ると、地図を広げた。
地図には、周辺の住民や漁師さんの遺跡の目撃情報があった場所に赤くバツ印をしてある。
「僕たちが調べた所によると、トウキョウには至る所に遺跡があることがわかったんです」
地図に広がる無数のバツ印を見てヤスナが声を上げる。
「まあ、こんなに!」
オム先生が腕組みをする。
「ではまず陸地に近い辺りからこの地図を元に探してみることにしましょう」
「この四人でですか?」
ここにいるメンバーは僕、オム先生、ピぺ、ヤスナの四人。
「少ないようだけど、今回は本格的な発掘ではなく、遺跡の大まかな位置を把握するための調査だからこれで十分よ。そうね、まずは......」
「オム先生も来るんですか?」
「ええ、そうよ」
オム先生は偉い先生なんだから、そういう作業は僕たち下っ端に任せてどーんと構えてればいいのに。
オム先生はチッチッチッと人差し指を振る。
「遺跡は会議室にあるんじゃない、海底にあるのよ!」
僕がぽかんと口を開けていると、ヤスナが解説してくれる。
「この国には『事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ』という昔からの故事がありますわ」
どういう故事からそんな諺が生まれるんだよ。
僕たちは、イサームさんに船の運転を頼み、真新しい船に乗り込んだ。
風を切って進む船。ウミネコの鳴く声。
やがて船は何も目印のない、大海原のど真ん中で船は止まった。
「こんなところに?」
僕が驚いていると、運転室からイサームさんが顔を出して叫ぶ。
「ああ。良く分からんが何か反応があったぞ」
「そうね。地図にもバツ印があるし、まずはこの辺りから調べてみましょう」
珊瑚礁の広がる浅瀬。僕とピペ、ヤスナの三人は一斉に潜った。
オム先生は船に残り、地図を見ながら僕たちに指示を出したり方向や距離を確認している。
「透明度が高いからそんなに深く潜らなくて大丈夫。ちょっと見てそれらしいものが無かったらすぐ別へ移って」
オム先生が指示を出す。
指示された通り、海に入り水に顔をつける。
海の中は幻想の青。
珊瑚がびっしりと海底を覆い、縞模様の魚が群れを成して通り過ぎる。
「この辺りには、無さそうです」
「こっちも無しですわ!」
「こっちも!」
一斉に顔を上げる。
オム先生は大きく腕を振った。
「よし、じゃあ次はこっちの方!」
僕たちはバタバタと場所を移動し、再び潜る。
「こっちにもなし!」
「こっちもですわ!」
僕とヤスナが顔を上げる。
「あれ、ピペは?」
するとピペが目を見開いて顔を上げた。
「......ありました」
「えっ!?」
「ありました、遺物が!」
ピペの指さす場所に潜ってみる。そこには確かに、珊瑚に覆われた壺や皿の破片のようなものが散らばっている。
「よーし、そこにブイを浮べて!」
僕は言われた通り目印となるブイを浮かべた。
「念のため、その周辺も探してみて」
オム先生に言われた通り、周辺の海底を見て回る。
「こっちに柱のようなものがありますわ!」
ヤスナの叫び声に、僕もその場所へ潜ってみる。
珊瑚やウニがへばり付き、イソギンチャクが揺れる海底に、確かに細い木でできた柱の様なものがある。
他にも木片や板のようなものが沢山散らばっている。
その奥に、錆び付いた金属のようなものが見えた。錨だ。
僕は顔を上げた。
「違う。これは......船?」
「そうみたいですね」
どうやら初めての探索で、僕たちが見つけたのは海底遺跡では無く沈没船のようだ。
*
「この間見つけた遺物だけど、どうやら150年くらい前の沈没船のものらしいわ」
「150年前ですか」
「探していたものとは違うかも知れないけど、大発見には違いないわ。初めての探索で何か見つけるなんてツイてる。それに、海底探査の手順は大体分かったでしょ?」
「はい」
「ではこれから、じゃんじゃん調査していくわよー!」
オム先生が拳を振り上げる。
僕たちは顔を見合わせた。
「......おー」
こうして、本格的な海底調査が始まった。
「よし、今日はここから調べてみることとします」
宣言するオム先生。
オム先生は船に残って僕らに指示を出す係だ。
「よしっ、とりあえず潜ってみますか」
ピペが波に流されないように腰にロープを巻き海に飛び込む。僕とヤスナも続いて海に飛び込んだ。
海中は、透明度の高い青。
水面から差し込む光でキラキラと魚の群れが輝いている。
水を蹴り、一段と深いところへ潜っていくと、海の色はまた深いブルーへと様子を変えた。
が、おかしい。海底が見えてきたのに、そこには遺跡の影も形も見えない。
しばらく何も無い海底を散策したあと、僕たちは船に戻った。
「何もありませんでしたわね......」
「ですね......」
がっかりとした表情のピペとヤスナ。
オム先生は二人の肩を優しく叩いた。
「そうね。何かの見間違いかも。とりあえず次に行きましょ」
だが、その後も探知機に反応があった場所や遺跡の目撃情報のあった場所に潜ってみるも、なんの成果も得られない。
風が出てきて、僕らは身を震わせる。時刻は午後三時。
「反応があったわ。今日はここを見たら終わりにしましょう」
「はい」
これで最後か。僕は大きく息を吸って海に潜る。
そこは前よりも流れが早く、水が濁っている。
遮られる日光。深いところに潜っていくにつれ、水が冷たさを増す。大きな海藻が揺らぎ、浅瀬にはいない大きなマンタが目の前を横切った。
よく考えたら、こんなに陸地から離れた深いところでやるのは初めてだ。
気を引き締めなくては。ちょっとしたミスが命取りになることもあるからだ。
やがて海底にゴツゴツとした岩肌が見えてくる。
頼む。頼むから、遺跡よ出てきてくれ。
すると濁った水の流れが止まり、視界が開けだ。目の前に大きな岩が現れる。
――いや、ただの岩じゃない!
海藻やフジツボやイソギンチャクがへばりついているけど、そこにあったのは間違いなく遺跡だった 圧倒的な岩のスケール観。真っすぐに伸びるそれはまるで機械で測ったかのようだ。柱だ。これは何かの柱の跡だ!
「ぷはっ!」
陸に上がる。心臓のドキドキが止まらない。
海中にいた時間はわずか十五分ほどなのに、まるで何時間もそこにいたかのようだ。
顔を上げるとピぺと目が合う。続いて顔を上げたヤスナの顔も、興奮して赤く染まっている。僕たちは頷き合った。
「あったね」
「ええ、遺跡が......ありました!」
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