第21話 海賊船がやってきた
僕たちは、やっとのことミウラ島へと上陸した。
「見て下さい、海の向こうに陸地が見えます!」
ピペが海の向こうを指さす。
確かに、海の向こうにはうっすらと緑の山のようなものが見える。
「本当だね、あれがボーソー島かな?」
「案外近そうですわね。泳いでいけないかしら」
「そんな無茶な......」
そんなことを話している僕たちの肩をオム先生が叩く。
「さ、ぼんやりしている暇はないわよ。夜になる前にボーソーに渡る船か宿を見つけましょう」
僕たちは再び手分けしてボーソ―島に渡る船を探すことにした。
「何だか凄い田舎ねぇ」
ヤスナが辺りを見回す。
確かに、漁師さんたちの小屋が何件か立っているだけで、かなり簡素な場所に見える。
「ハチオージより田舎な場所なんて初めて見ましたわ」
「もうっ、ハチオージを馬鹿にしないでくださーい!」
ピペとヤスナはまた喧嘩してるし。
僕は二人を置いて一緒に船を出してくれる人を探すことにした。
だが、船を出してくれる人は一向に見つからない。
「どうだったかい?」
所長が尋ねる。
「駄目でした」
「こっちも駄目」
オム先生も渋い顔をする。
所長は腕を組んで天を仰いだ。
「どうやら噂によると海賊は海賊たちは『ボーソーゾク』と名乗る最近出来た若者たちのグループらしい」
「ボーソーゾクぅ??」
僕たちは声を揃えて叫んだ。
なんだそれ!!
僕らが不思議な顔をしていると、オム先生が教えてくれる。
「神話に出てくる不思議な乗り物を猛スピードで乗り回す古代のならず者のことね。なるほど、彼らはそこから名前を取ったのね」
所長は笑う。
「なるほど、ボーソー島と古代のならず者を掛けたわけか」
「なるほど」
「おもしろいですわ」
僕たちがそんな風におしゃべりしていると、突然ぐい、と服を引っ張られる。
「あなたたちだねー、ボーソー行きの船を探してるっていうのは。見慣れない顔だからすぐ分かった!」
黒いストレートの髪をボブカットにした小さな女の子が、大きな瞳を黒々と輝かせる。
彼女は僕たちを見つめ、ニヤリと笑った。
「あなた、船を出してくれる人を知ってるんですの?」
ヤスナが少女に詰め寄る。
「ええそうよ。」
胸を張る少女。
「パパに聞けばきっと連れて行ってくれるわ」
どうやら彼女のお父さんは漁師で船を出してくれるようだ。
「パパは強いしなんでもできるんだから!」
両手を広げる少女。本当に大丈夫なんだろうか?
「パパは今家にいるの?」
「うん、パパが出かけるのは大概早朝か夜だから、昼間は家にいるよ」
少女はミツキちゃんといい、近所の子供らしい。
ミツキちゃんの家は海から徒歩三分の所にある木とトタン屋根でできた小さな家だ。僕たちはぞろぞろと連れ立ってミツキちゃんの家へと向かった。
「パパー、お客さんだよー」
ミツキちゃんが叫ぶ。
しばらくして、のっそりと大きな体の無精髭の男性が出てきた。彫りが深く、日に焼けていて、眼光の鋭い男の人でだ。いかにも海の男といった感じ。この人がミツキちゃんのお父さん、イサームさんだ。
「なんだてめェらは」
ギロリと睨むイサームさん。なんだかちょっと怖い感じの人だ。
所長は全く臆さずに話し始める。
「ボーソー島まで船を出していただきたいのですが」
初めはあまり乗り気そうに見えなかったイサームさんだが、所長とオム先生の話を聞いているうちに、徐々に目に真剣な色が帯びてきた。
「確かに、俺ら漁師の間では海ん中に町が沈んでるって噂はずいぶん前からあった」
「本当ですか!?」
僕たちはタカオサンでトウキョウとニジュウサンクが描かれた壁画を見つけた話をした。
イサームさんは勢いよく膝を叩く。
「それであんた達は、海底に沈んだ古代トウキョウとニジュウサンクの遺跡を見つけようってんだな?」
「ええ」
「面白ェ、手伝ってやろうじゃねぇか」
「本当ですか!?」
「ああ、男はそういう海のロマンみたいな話に弱ぇんだ」
「やったあ!」
こんな順調でいいんだろうか。
「さあ、張り切っていくぜぇ!」
僕たちはイサームさんに連れられ、船へ乗り込んだ。
「ミツキちゃんは?」
ヤスナが尋ねる。そう言えばミツキちゃんの姿が見えない。
「あいつは家に置いてきた。ガキだからな」
ニヤリと笑うイサームさん。
「ここからは、大人の時間さ」
「……はあ」
僕は苦笑したのだが、横のピぺとヤスナはなんだか嬉しそうだ。
「大人ですって!!」
「何だかワクワクする響きですね!」
「ええ、私たち、大人ですものね!」
いや......凄く子どもっぽいけど。
僕はため息をついた。
それにしても、随分ヤスナはピペに懐いたもんだ。
同世代の友達が居なかったって言ってたし、寂しかったんだろうか。
よく考えると、ピペも変わった性格だし、ニホン人とは容姿も違う外国人だから今まであまり友達も居なかったのだろうし。二人が友達になって良かったのかもしれない。
......でも、少しは僕に構ったっていいじゃないか? 二人だけで盛り上がってないでさ!
「あんたたち、早く行くわよ」
先に船に乗り込んでいたオム先生が呆れ顔をする。
「はい!」
僕も船に乗り込もうと走ると、イサームさんが聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。
「それに......この船旅はちと危ねェことになりそうだしな」
......大丈夫だろうか??
茶色くすすけた船は、歯車やレンズが沢山ついた不思議なデザインをしている。
風を受けるための大きな帆がついていて、メイン動力は風のようなのだが、蒸気で動く予備エンジンも積んであるそうだ。
日が落ちたというのに蒸し暑く、生ぬるい空気が頬に当たる。
空には満点の星。ポッカリと浮かぶ月が、黒くうねる波間を照らす。
「さあ、出発だ!」
イサームさんの掛け声で船は動き出す。
巻き起こる風と水しぶきにピぺとヤスナは歓声を上げた。
「見てください、トビウオ!」
ピぺが海の上を指さす。キラキラと小さな銀色の魚が波間を飛び跳ねる。
「きれいですわ」
そんな風にはしゃいでいると、急に所長が険しい顔をする。
「しっ、静かに、何か聞こえないかい?」
「どうやらおいでなすったようだな」
イサームさんが不敵に笑う。
「え? もしかして、海賊?」
耳を澄ますとプシュープシューという蒸気の音と歯車の回る様なガタゴトという音がする。いよいよ、海賊船がやって来たのだ。
「よし、そんじゃこっちも本気でいくぜ!」
イサームさんが何かのレバーを引く。ギイと何かのスイッチが入るような音。おそらく予備動力の蒸気エンジンが動き出したのだろう。轟音があたりに鳴り響く。
「いっくぜええ!」
急に上がるスピードに、僕たちは船の端に掴まってこらえる。巻き上がる水しぶき。
「ふぎゃあああ」
「速いですわ!」
強い風が髪の毛をなびかせる。景色がどんどん流れていく。
「わあ、凄いです!」
喜ぶピぺ。オム先生は渋い顔をする。
「でも大丈夫? なんか、どんどん追いつかれてるような......」
確かに海賊船は、轟音を立て、触れるもの全てをなぎ倒さんばかりのスピードでこちらを追ってくる。
「んー、まずいなあ。この船旧式だからあんまりスピードが出ねぇんだよなあ」
頭をかくイサームさん。
「そんなあ!」
「ま、何とかなるだろ」
しかし、そんなイサームさんの思いも虚しく僕たちの船は海賊船に囲まれ、その内の一隻に横付けされてしまった。
「イサームさん!」
横付けした海賊船から、刺青をした怖そうなお兄さんたちがどんどん降りてくる。
リーダ格であろう、人喰い熊のようなギラギラした大男がイサームさんに詰め寄る。
「おいおい、誰の許可を得てこの海域を通ってんだあ? ここは俺たちの縄張りなんで通行料を......」
こ、これはピンチ!
「大丈夫かい?」
所長がイサームさんの顔を見やる。
イサームさんはやる気のない目で鼻を擦りあげると、海賊たちに向かっておもむろにこう言った。
「おいおい、誰の許可を得てそんな事言ってんだぁ?」
「あァ!?」
するとその顔を見た海賊のうちの一人の表情が強ばる。
「そ、総長!!」
その言葉を聞き、海賊たちの顔が見る見るうちに青ざめていく。
「総長じゃねえ、俺はもう引退したんだ」
イサームさんは迷惑そうに視線を逸らすと、ポリポリと頭をかいた。
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