オカルト少女と宇宙人に攫われた少年 ~ 水の惑星に沈む街 ~
深水えいな
第1章 ようこそ、ハチオージへ!
第1話 浜辺の出会い
彼女と出会ったのは、夏の始まりにふさわしい澄んだ空の日だった。
さんさんと照りつける太陽。
母なる大地に抱かれているような心地良いまどろみの中で、僕は目を覚ました。
指先にザラザラと砂の感触が絡みつく。潮の香り。寄せては返す波音。
ザザ……ザザ……。
僕はこの場所を知っている。この感覚を知っている。これは――海だ。
ぼんやりとした頭で体を起こすと、大きな波がこちらへ向かって押し寄せてきた。弾ける水しぶき。
「うわっ、しょっぱ!」
思い切り飲み込んでしまった海水を、慌てて吐き出す
ヒリヒリする喉を抑えながら、僕は辺りを見回した。
「ここはどこだ?」
見たことのない景色だった。
見渡す限り広がるコバルトブルーの海。さんさんと輝く眩しい太陽に、ヤシの葉が生暖かい風で揺れる。
じわりと汗がにじんで、額を流れる。
ここは一体どこなんだ? こんな浜辺で僕はいったい何を? 何で倒れていたんだ? 僕は――僕は誰だ?
僕は懸命に、自分に関するデータを自分の中から引き出そうとした。だが、そこには何も無かった。無だ。何か思い出そうとしても、そこにはただ空虚な闇だけが広がっていた。
まさか、記憶喪失?
僕は途方に暮れた。見知らぬ浜辺に、記憶喪失のまま打ち上げられていたのだという、その事実に。
彼女と出会うまでは。
「あなた、誰?」
涼やかな声に振り返る。
声の主は、夏の空みたいに晴れやかな女の子だった。
金色の長い髪に、水面のように揺れるブルーの瞳。
彼女は、まるで周りの景色から浮き上がっているみたいに、くっきりと輝いて見えた。
「私はピぺ。あなたは誰? どうしてここに倒れてるんです?」
僕が動転しながらも何とか記憶喪失であることを伝えると、ピぺと名乗る少女は、不自然なほど真剣にうなずくと、僕の顔をじっと見つめてきた。
「分かりました。もしかして、あなたは――」
「僕が、何?」
息を飲んで彼女の言葉の続きを待った。もしかして僕の身元を知っているんじゃないか。そんな期待を微かに胸に抱きながら。
だが可憐な真夏の天使は、つぶらな瞳でこう叫んだのだった。
「もしかしてあなたは、宇宙人に攫われた人なのではーーっ!!!?」
「……は?」
ちょっと待て。訳が分からない。
「記憶喪失だなんてきっと宇宙人に攫われたに違いありません!」
自信満々な口調。
意味分からないってば。
戸惑う僕の腕を、ピぺは捕まえた魚を逃がすまいとでもするかのようにがっしり掴む。
「大丈夫です、私に任せてください。早くハチオージ研究所で検査しないと」
研究所!?
嫌な予感がする僕の腕を強引に引っ張り、ピぺは真っ直ぐに駆け抜けていく。
「えっ、ちょっと」
僕の言葉など完全に無視して、形の良い唇は、眩しい太陽に向かって叫んだのだった。
「ついに……ついに見つけました。宇宙人に攫われた人ー!!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよーっ!!」
僕には記憶が無い。
名前も、住所も、両親の顔も分からない。
だけど、これだけは分かる。
この子は――ピぺは、頭がおかしい!!
これが僕と頭のおかしいオカルト少女、ピペの出会いだ。
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