エピローグ

「ジュンくん! おはようございます、ジュンくーーん!」


 ドンドンドンドン......


「んー......」



「おはようございまーす! ジュンくん、おはようございます!!」


 激しいノックの音で目を覚ます。


 朝日が眩しい。ピンクのハイビスカス柄のカーテンの奥では、朝の海が宝石のように輝いている。


 これは、夢?


 いや――現実だ!


 僕は急いでシャツを羽織るとドアを開けた。


「ごめん、おまたせ」


 そこには太陽のような髪と、海色の瞳をした夏の妖精が立っていた。


「朝ごはん食べに行きましょう、ジュンくん!」


 ニコリと笑うピペ。昔より少し髪が伸びて大人っぽくなっているけど、あの時と変わらない、清々しい笑顔。


 僕はその眩しさに、思わず泣きそうになった。


「ああ。急いで行こう」


 あれから数年、ピペは研究者として再びハチオージ研究所に戻ってきた。


 そしてまた、僕らとともにあの海底遺跡を研究する日々を送っている。


「そういえば、ジュンくんが乗ってきた宇宙船、まだ見つからないんですよねー」


 ピペがご飯を口いっぱいに頬張りながら首を傾げる。気のせいか、いつもの倍くらい食べてる気がする。


「本当に、どこにあるんだろう」


 僕が地球にやってきた時に乗ってきた宇宙船は、今も東京湾に沈んでいるはずなのに未だに見つかっていない。


 もしかして今頃は海の藻屑となって珊瑚礁に飲み込まれているのかもしれない。


「......でもそれでも良いのかもしれないな」


「なんでです?」


「だって僕はもうあの星に戻るつもりは無いしさ」


 僕も父さんと同じように、ここに骨を埋める覚悟を決めていた。海が見える一軒家を買おうという計画も立てている。


「それに僕らが見つけるよりも、後の世代の人間が見つけて『これは何だ!』ってなった方が面白いだろ?」


 ピペは笑いながらお腹をさすった。


「そうですね。もしかしたら、が見つけてくれるかも知れません」


 窓から日差しが差し込み、微笑むピペを聖母のように照らす。


 その柔らかな表情に、僕もつられて微笑んだ。


「そうだったら素敵だね」


「オーパーツだと思われますね。超古代文明の遺物だーって!」


「そしてまるで誰かさんみたいに騒ぐんだろ?」


「え? 誰のことでしょう」


「しらばっくれて!」


 こだまする笑い声。


 窓の外では波が穏やかに揺れる。

 白い砂浜。揺れるヤシの木。

 照りつける太陽が、また新たな夏が始まることを告げている。


 こうして僕らの冒険は、新しい世代へと語り継がれて行くのかもしれない。


 誰も知らない奇妙でおかしな伝説となって、永遠に。


【完】

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