第18話 お嬢様がやって来た
「タカオサンの遺跡は今調査中だから入れないけど、ここなら見学しても大丈夫だから」
僕たちは、作業が行われている近くの遺跡へとやってきた
「僕たちが調べてるのは土器とか石器とかの遺物なんだけど、ここで調べてるのは遺構って言って建物の跡とか、そういうのなんだ」
「へえ、そうなんですのね!」
遺構では作業員さんたちが足場を組んだり、写真を撮ったり、メジャーで何かを測ったりしている。
スコップで穴を掘り土を運ぶ様子は、パッと見たかぎりでは工事現場にも見える。
「あれは何をしているの? ジュン」
ヤスナが僕の袖を引っ張る。僕が答えようとすると、後ろから声がした。
「古代の家がどれ位の大きさか計っているんだよ」
「タグチ。ここで働いてたのか」
ニヤリと笑う色黒の青年。
「んなことも知らなかったのかよ。それよりも、この子は誰?」
「あー、この子は」
僕がポリポリと頭を掻いていると、ヤスナがずい、と前に出た。
「ヤスナと申します。以後、お見知りおきを。それより、これはどれ位前の遺跡なの?」
「ええと、千年か二千年くらい前かな」
タグチが答えると、鞄からノートを取り出し、何やらメモしだすヤスナ。
ヤスナは、作業員のおじさんに柱の大きさや建物の大きさなどを矢継ぎ早に質問し出した。
「ははは、随分遺跡が好きなんだね」
「いえ、そんなことないですわ」
「はは、まるでここに来たばかりのピぺちゃんみたいだな」
「ピぺって?」
ヤスナの顔が曇る。
「ほら、あの金髪の子だよ」
ヤスナは首をひねる。そうか、ヤスナはピぺに会ったことが無いんだっけ? そう言えば博覧会でもピぺはずっと他のお客さんを接客していたしなあ。
「そうそう、いつもジュンと一緒にいる」
タグチが茶化す。
「いや、いつも一緒って訳じゃ」
僕はポリポリと頭をかいた。
「そうなんだ。二人、付き合ってるんじゃねーの?」
「違うから」
僕が否定すると、ヤスナは意味深な笑みを浮かべる。
「じゃあ、ジュンには今特定の彼女は居ないんですの?」
「居ないよ」
「あらそうですの」
ヤスナは嬉しそうに笑うと、るんるん、とスキップをする。
「じゃあ、これからは遠慮なくジュンを連れ出して遺跡の案内をさせられますわね?」
「ま、まあ、別にいいけど......」
僕が苦笑いするとヤスナはにぃ、と葉を出して笑う。
「分かりましたわ。じゃあ決まり、ですわね」
......何が「決まり」なのだろう
*
「これが、あの建物から見つかった遺物だよ」
「まあ、面白い形の土偶」
「それでこれが、あの地層から見つかったもの」
「まあ、そうなんですの」
目をらんらんと輝かせて遺物を見つめるヤスナ。
「君って――」
「ヤスナよ」
「ヤスナって、遺跡が本当に好きなんだね」
「そうかしら。私は不思議なものに興味があるの。ジュンくんこそ、こんな所で働いてるってことは、遺跡が好きなのですわよね? どうして遺跡に興味を持ったんですの?」
僕はため息混じりにここでピぺに拾われた時のことを話した。
「実は僕、記憶を失ってここハチオージの海岸に倒れてたんだ」
ヤスナは興奮した様子で目を輝かせる。
「すごいですわ。神秘ですわ!」
「神秘?」
手を目の前で組み、一回転し、夢見るような瞳でヤスナは言う。
「私思うんですの、きっとジュンは未来から来たんじゃないかって」
「み、未来?」
「ええ。『タイムスリップ』読んだことありません? 時間旅行ができるようになって未来の話で、空想科学物語って言うんですの。最近人気ですのよ」
「ははは、時間旅行ねぇ」
「もう、馬鹿にして」
「いや、ピぺも言ってたよ。僕は宇宙人なんじゃないかって」
ピぺの名前を出した途端、ヤスナの目が曇る。
「もう、ピペピペって、その子の話ばっかり!」
ヤスナがむくれる。そして、顔を上げ、真っ直ぐに僕の瞳を見た。
「ねぇジュンまたここにきていいかしら?」
「いいけど、どうして?」
「あら、理由が無ければ友達のところに来てはダメなのかしら?」
友達......。
もしかして、ヤスナは友達が少ないのかな。お金元の子供ってことで、周囲に遠慮されてるのかもしれない。少し変わってるし。だからここに遊びに来たいのかも知れないな。
「ああ、いいよ。ヤスナは僕の友達だ」
僕が言うと、ヤスナは心底嬉しそうに笑った。
「嬉しいですわ」
その顔は、気丈なお嬢様どはなく、年相応の少女らしい微笑みに見えた。
*
「ジュンくーん」
ピペが何やら紙を持って駆けてくる。
「ピペ。それは?」
「はい、この辺りの漁師さんに聞いた遺跡の場所です」
どうやらピペは僕がいない間に遺跡の場所の聞き込みを続けてくれていたらしい。
「色々話も聞けて楽しかったですよ! 海の向こうには死者の住む
「色々調べてくれたんだ。ごめんね、ありがとう」
ピペはぷぅ、と頬を膨らます。
「ジュンくんときたら、最近全然仕事にも来ないですし......古代トウキョウ文明の遺跡とかニジュウサンクとか、探そうって言ってたのに、どうなっちゃったんですか?」
「ごめん。僕も遺跡を探したいんだけど......」
あれから、ヤスナが足しげくここに通って来ては僕を連れ出していた。
仕事にもあまり出れないし、仕事が終わった夕方すら晩御飯やら何やらに誘われて遺跡探しもできない。
「でもオム先生も、ヤスナの機嫌を損ねないようにって言うし......」
「ふぅん。随分、熱心なんですね」
「うん。なんか遺跡がすごく好きみたいでさ」
「……好きなのは、遺跡だけなんでしょうか」
「え?」
「いいえ、なんでもありません」
なんとなく、煮え切らない態度のピペ。何だか機嫌が悪いみたいだ。
「あ、そうだ。タグチから聞いたんだけど、今日はお祭りがあるんだって」
「ああ、ハチオージ祭りですね」
「そうそう」
僕は鞄から祭りのチラシを取り出した。
「これに一緒に行かないかなって思って」
そこへ高く澄んだ声が響く。
「こんにちは~、ジュンくん、います?」
ワインレッドのドレスを着てひょっこりとドアから管理センターを覗き見るヤスナ。
「やあ、今日はどうしたの?」
僕が立ち上がると、ヤスナは頬を上気させながら言う。
「いえ、今日はハチオージ祭りというのがあるのですわよね? ジュンくんをお誘いしようかと思って」
あー……。
ピぺがスッと立ち上がる。
「ごめんなさい、今日は私とお祭りに行く約束をしてるんです」
僕の腕をがっしり掴むピペ。僕は苦笑いをした。
「そうなんだ。ごめんね、先約があって」
僕が額に汗をかきながらそう言うと、ヤスナはピペをちらりと見た。交わされる視線が怖い。
「あなた――ピペさんですわよね」
「は、はい」
「なるほど、その金の髪で、大きな胸で、ジュンを誘惑しているというわけなのですわね?」
え……えーっと、何を言ってるんだろう。
「そんなんじゃないです!」
ピぺの顔が真っ赤になる。
ヤスナは胡散臭そうにピペの顔を見た。
「でも、お二人は付き合っているというわけではない。そうですわよね?」
「そうですけど……」
「だとしたら、ピペさんにはここは引いてもらいたいのですわ」
ずい、とピぺの前に進み出るヤスナ。
いったい何を言ってるんだ。
「どうして私が引くんです?」
ちょっとムッとした様子のピペ。
するとヤスナは不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「私はジュンが好きなの! 婚約者にしたいと思っていますわ。だからあなたは身を引いて」
え……ええええええええ!!??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます