みんなお仕事頑張っています。
さて、一方の吹雪はと言うと。
「オラ見やがれ! 終わったぞ!」
こちらもまた、『反社会的組織に対する抗議活動』として吹雪と鉄男、そして貴士の三人が駆り出されていた。吹雪に敢えて鉄男をぶつけたのは、社長曰く「吹雪くんたっての希望を叶えた」だそうだ。
三人にはもう一つの目的があった。禅が見せてきた写真の男を必ず始末すること。そう、威瀬会系暴力団天誠組の生き残りである。根本的にあの日あの現場にいなかったため、禅がマークしていた対象の一人だ。
だが、三人は「とりあえずここにいる奴等を全滅させれば良い」という共通認識に至った。生かして捕らえろという指示が出ているわけではない。ならば確実に屠りさえすればいいというわけで、もうパッパと全滅さえればいいんじゃね? 逃げたりする前にみんな始末すればいいんじゃね? と、まあそのようになったのだ。
自分が担当する箇所を終えて、吹雪は一人吠えた。「お前一人でできんのか?」とか「何かあったら呼べばいいよ」とか、こちらが独りで出来ないような物言いをされて猛烈に腹が立っていたので、それはもう最速で仕事をこなしたのだ。
実際、接敵してから全速力で急がないといけないのはとても良く分かる。もたもたしているうちに逃げられる可能性が上がってしまうからだ。窓を見る。開けられた形跡はない。一応、倒した連中をひとりひとり引っ繰り返して確認しなければならないだろう。少々面倒だが仕方ない……
と、意識が緩んだその時。その窓を、外から何者かが叩いた。条件反射的に持っていたPDWをそちらに向ける。
「おーい、開けてー」
だが、聞こえてきたのは貴士の声だった。慌てて開けると、貴士が呑気に手を振って覗き込む。
「どう、終わった?」
「あ、ああ、まあな」
「速いね! 一応さ、外まわって逃げた奴いないかチェックしたから。大丈夫だとは思うんだけど」
速いね、などと言うが吹雪には分かっていた。貴士の方が更に速く、だからこそ外の見回りなどということができた、この事実。自分に割り振られたエリアが他の二人に比べ少し狭いということも。
「あとさ、おかわり来るみたいだよ」
「おかわり?」
「そ、二杯目。さっき鉄男から連絡があった。対象はもうやったから帰ってもいいんだけど、どうする?」
「え」
既に目的も達成していた。とうの昔に。吹雪が認識しないうちに。
ふと、貴士が耳にかけた小型インカムに手を添える。そんな姿を見て、自分がインカムを付け忘れていたことに気付く。ポケットを探って耳に掛ければ、鉄男の声が途中から聞こえてきた。
「……ハゲ! このハゲ! つっかえねえハゲだなテメェは」
「うるせえ! 誰がハゲじゃ!」
「貴士」
「いやあお前の方がハゲだろ」
「失敬な、俺は美少女だぞハゲじゃねぇ」
「なにお前チンコねぇの」
「概念としての美少女」
「ハァ? オメーみてぇなハゲが美少女だったら俺なんざ絶世の美女だわ」
「ケツ毛むしるぞコノヤロ、誰がハゲじゃ!」
「鉄男」
馬鹿丸出しのくだらない会話。それなのに、貴士は懐から取り出したリボルバーのシリンダー内を真剣な顔でチェックしている。これまたご結構な大口径だ。こんな優男が、こんなのを撃てるのか? こいつ、ファッション的にこれを選んだんじゃなかろうか?
と、思わず感じてしまったが。よく見ればそのリボルバーは随分と使い込まれたものだった。普通に撃つのか? これを? こいつが?
「ごめんな吹雪、あの人アタマおかしいから。相手すんなよ?」
眼鏡の奥の目が、心底おかしそうに笑っている。やっぱりどう見ても、この貴士という男はその辺にいるニイチャンにしか思えない。今時のファッションに身を包んで、オシャレな街で学生仲間と歩いてそうな、そんな感じの。
突如、何かが上から落ちてきた。大きさの割には落下した際の音が小さい。黒い影の塊かと思われたそれは、立ち上がることによって正体を表す。
「アタマおかしいのはオメーだろ! このウンコ野郎」
鉄男だった。上から飛び降りてきたのだ。ついでのように貴士の尻を思い切り叩く。
「鉄男お前、降りてきてんじゃねえよ! 上から撃った方が効率的だろが!」
「やっかましいわケツ毛野郎、この方が早いんじゃ」
「ケツ毛言うなこのハゲ」
「この豊かな頭髪のどこがハゲなんじゃい!」
「増毛法」
「植毛職人の細やかな手仕事」
「俺のケツ毛植毛すんぞ」
「貴士さんついにお認めになられた! ケツ毛を! ケツ毛の存在を!」
くだらない会話が止まらない。なのに、二人は着々と迎撃の準備を整える。鉄男の方は手持ちのサブマシンガンの予備弾倉を確認し、ショルダーホルスターに収めた自動拳銃も確認して、「おっしゃ」と呟く。
「おう鉄男、どんだけ来るんだ」
「セダンが六台。ワゴンが四台。中身ぎっちり」
「上から撃って……あー、敷地内じゃないと駄目か」
「だから降りてきたんだよハゲ」
「うっせえハゲ」
「撃ち尽くしたらどうするよハゲ」
「そしたらいつも通りに斬ればいいだろハゲ」
貴士の腰には一振りの刀。柄尻を叩いて、既に視線は敷地の向こう側。
「吹雪はどうする?」
「行くに決まってんだろ」
「だよなぁー」
「だよねぇー」
笑顔で返す二人の、その顔付きは既に肉食獣の如き。この状況で、こいつらは笑うのか。
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