協力しあって仕事をこなします。

「貴士、右の部屋に入れ。向かって左側の壁面に設置。菊之丞、ホールを抜けて廊下の突き当り。鉄男の方は残りいくつだ」


 見取り図とモニターをせわしなく交互に見つめ、二郎は次々に指示を飛ばす。


「残り三つ! 後はどうすればいい」


 遠隔起爆用の電気信管をセット済みの爆薬を抱えて、三人は敷地内を駆けずり回る。


「ええと、鉄男が西の方か。そのまま先に進んで、左右に和室があるから、そこの押し入れに仕掛けろ。残り一つは適当なとこでいい」

「あいよ了解!」


 どこにどう仕掛ければいいか。二郎はコンマ単位の秒数で判断し決定する。狙うのは建物の主要な柱及び、壁面の角が交わる箇所だ。あとはよくある「頑丈な場所」。面積が狭く柱か壁に囲まれた、その空間が一つの大きな柱として機能している部分。分かりやすく言えばトイレや押し入れ。

 いくら車両二つに搭載してきた分の爆薬があると言えども、数には限界がある。なおかつ一回でケリを付けなければならないのだから、判断を誤るわけにはいかない。設置場所は慎重に選定されるべきだ。

 悲しいかな、二郎はその判断に慣れていた。昔の職場では物資が容易には入手できず、ケチケチしながら効果的な方法やら位置取りやらを考えていたものだ。それに比べれば今は格段にやりやすい。物資もそれなりにある。人材も優秀。年端もゆかぬ新兵を一から現場で育てる、なんて手間もかからない。恵まれたもんだ、と、二郎は内心でひとり呟く。

 そこへ、突然の発砲音。


「ッくそ、まだいやがったか!」


 貴士の声が続く。モニターに目をやれば、貴士の入った部屋の中に敵が居た。どうやら、この部屋の隅で震えていたらしい。中にはそんな奴もいるだろう。この状況下、死にたくないと震えて泣くことを責めるのは酷というものだ。一人ひとりが死を運ぶ旋風みたいな奴等が群れ成してやってきて、片っ端から殺してゆくのを目の当たりにすれば、さもありなん。

 だが貴士は容赦なかった。爆薬が入ったズタ袋を上に放り、見栄を張ってやたら高く作った天井へと重量のあるそいつが舞い上がる。袋が放物線の頂点へ到達するよりも早く踏み込み、刹那の間に白刃が閃いた。気が付いた時には既に血飛沫が飛び散り、貴士の刀は鞘の中へと収められている。


「っしょ」


 落ちてきたズタ袋を両手で受け止めて、その後から敵の持っていた銃がぽろりと床に落ちた。続いて思い出したように、命を失った身体が倒れる。


「二郎、部屋のどの辺に仕掛ければいい?」

「……ああ、窓の下。そこが終わったら近くにトイレがあるから、そっちにも設置してくれ」


 あまりの速さに、つい見入ってしまった。二郎はすぐに意識を引っ張り上げ、指示を続ける。


「貴士さあ、そのままトイレに篭ったりするなよ? 鉄男とっても心配。たかちゃんすぐにウンコするから」

「しねえよ!」

「するじゃん」

「しねえよ!」


 すぐに鉄男が茶々を入れ、会話を引っ掻き回す。こいつらはどんな状況でもこの調子だ。軽口が叩けるのならば上等。

 そんな中ふと、菊之丞の動きがおかしいことに気付く。


「どうした菊之丞、状況は」

「追われている。設置は可能だが、その後に撤去される可能性があるな」


 菊之丞の位置を示すポインターは一定の速度で移動し続けている。モニターが映し出す途切れ途切れの映像には、駆け抜ける彼の姿。


「……よし、菊之丞、持ってるやつを前に放り投げろ」

「前?」

「鉄男、そのまま前進。右から来るから受け止めろ。菊之丞は転進、迎撃に専念してくれ」

「了解」

「あいよ、任されて!」


 ラグビーボールのように爆薬の入った箱を放り投げ、菊之丞はその先を確認もせずに振り向く。箱の飛んで行く先、横の通路から疾風のように鉄男が飛び出し、拐うように受け止めた。


「受け取ったぜ菊兄!」


 駆け抜ける鉄男の気配を背中だけで見送って、菊之丞はベルトに引っ掛けていたバールを手に取る。

 速さや身軽さで言えば鉄男が最も優れている。残りの爆薬設置は鉄男に任せてしまった方が得策だ。菊之丞には菊之丞に見合った仕事を行うべきであり、今この状況でそれは何かと問われたら、それは。


 振り回したバールの先端が、相手の持っていた銃を吹き飛ばした。ついでに手首の関節を抉って、二度と銃の持てぬ体になった。

 もう一人の後頭部を掴んで壁に叩きつける。ぐしゃり、と顔面の潰れる音がする。さらにバールを胴体に刺し貫き、壁に縫い止めてやる。

 ここぞとばかりにサブマシンガンを向けてくる男の、その武器を下げているスリングを掴んで、首に巻きつけ締め上げる。ナイロン製の幅広テープが喉に食い込んで皮膚を破き、鈍い音とともに脛骨を砕いた。

 彼にとっては無用の長物と化したサブマシンガンを奪い取る。


「これは、経費じゃないから良し」


 確認するように呟いて、菊之丞はトリガーを引いた。

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