旅行する姉 1(美香姉)

 高校から帰ってくると、一足先に帰っていた美香姉が居間で目をキラキラさせていた。彼女の手には一枚の封筒が握られている。どうやら何かが届いたらしい。


「何かいいことがあったのか?」

「これ」


 封筒の中から出したのは、温泉宿のペア招待券。思いつく節があると言えば、美香姉と一緒にやったクロスワードパズルか。あれが当たったのだろう。

 理子姉もこちらへ来て、嬉しそうにしている美香姉をなでなでしながら言った。


「どうせだから二人で行ってきたら? その方が美香ちゃんも嬉しいでしょ?」

「……うぅ」


 図星だったのだろう。美香姉は顔を赤らめてうつむいてしまった。




 ということで、とある休日の朝。俺と美香姉はある温泉宿の入り口にいた。中に入って受付の人にペア宿泊券を渡すと、あらかじめ取っておいた部屋の番号を教えてくれる。俺と美香姉はそこに入ると、ここまでの疲れをとるため畳に横になった。

 美香姉は俺の所にころころと転がり、俺をそっと抱いてきた。


「美香姉?」

「……将」


 美香姉の小さな身体が俺と密着する。頭をなでなでしてあげると、まるで小動物のようにむーっと声を上げる。それはなんともねこを撫でているみたいな感じだ。美香姉の少し緊張しているような目が俺の顔を覗き込んでくる。


「最近こうしてなかった」

「確かにな」

「……今日は二人きり」


 美香姉を抱きながら、この後どうするかをぼんやりと考えていた。温泉に入った後に近くの街を散策するのも良いかもしれない。ついでに何かいいお店も見つかればいいのだが。そう考えていると、それを察したかのように美香姉が寂しそうな表情をする。


「私の事だけ考えて」

「……すいませんでした」


 美香姉は少しほぐれると、顔を赤くしながら俺の胸元に顔をうずめた。





 少し経った後、美香姉と俺は同じ温泉に入っていた。もちろん混浴である。前に百合姉たちと来た時とは違い、今回は美香姉と二人きりだ。何だか照れくさい気持ちも少々。

 美香姉も同じ気持ちなのか、俺の隣になかなか入ろうとしなかった。バスタオルに身を包んでいる彼女は少し離れた所に入って、俺の方をちらちらと不安げに見てくる。その可愛い姿に俺の視線も持っていかれるわけで。


「美香姉もこっち来たらいいのに」

「……行く」


 左隣に美香姉がやってきた。タオルがまかれている身体の凹凸は他の姉さんより劣るかもしれないが、それでも美香姉が可愛いことには変わりない。だが、美香姉は自分の身体の事をとても気にしているようであった。その姿もかわいい。

 俺の左腕を少し掴むと、美香姉は自分の胸の辺りを見て自信なさそうに言った。


「ごめんね」

「……いや、美香姉はそれくらいがいいよ」

「どういうこと?」


 少しムッとした感じの声で美香姉が返してきた。あ、怒らせかけたかもしれん。


「美香姉は今のままでも可愛いんだよ」

「……」


 自分でも恥ずかしくなるような言葉だったが、美香姉は言葉を詰まらせてうつむいてしまった。その顔はこちらから見てもわかるほど赤くなっていて、俺の左腕をつかむ手に少しだけ力が入ってくる。


「ばか」

「ごめん」

「謝らなくていい」


 俺と美香姉の他に温泉には誰もいなかった。美香姉の背中に左腕を回し、そっと抱くと、美香姉は目をトロンをさせて俺の方にもたれかかってくる。途端に美香姉を離したくなくなり、俺は強く抱きしめてしまう。

 美香姉と目が合った数秒後、俺は美香姉からキスをされていた。


「んっ……」

「……っ」


 温泉でのぼせたよりも、美香姉とのキスでのぼせたのかもしれない。頭がぼうっとする中、俺と美香姉はほんの少しだけ残った理性でお互いを保っていた。美香姉は長いキスを終えると、俺の胸元に寄り添う。そろそろ美香姉も限界が来たのだろう。


「上がるか、美香姉」

「うん」


 丁度昼時だ。外で何か食べるのも悪くないだろう。

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