職人の姉友 2

 百合姉たちがリビングにスペースを作ってくれ、そこで千秋さんがうどんを作ることになった。わざわざここに来てまでやるだけあって小麦粉の量も相当なもので、六人分の昼御飯は軽くまかなえそうな量だ。千秋さんは大きなボウルにたっぷりと入れた小麦粉へ冷たい水を注ぎ、それを手でかき混ぜるようにして生地を作る。 

 そうしてできた生地を腰を入れるようにしてぐっとこね始めた。俺と理子姉も彼女のやり方を真似るようにして生地を作ってこねこねとこねる。百合姉がその様子を見ている中、愛理姉は台所で何か準備しているためか席を外していた。


「生地が余らないように外から回し込むようにな」

「これをこうして……こうですか」

「そうだ、よくできてるじゃないか」

「千秋、こんな感じで良い?」

「お、いい感じだ」


 テーブルの上をまるごとうどん作りに使う昼前。こねて一つの塊にしたものを今度は力を込めてぐっと押して折り曲げる。徐々に丸い生地は硬さを帯びてきた。


「千秋ー、これ全然動かないんだけど」

「理子は足で踏んでみたらどうだ? 百合もいるし」

「ねえ、私の得意分野みたいに言わないでくれる?」

「将君はおてて?」

「うん」


 ぐっっっと全身で力を入れれば生地がうまいこと変形して何とかなった。その間に理子姉と百合姉はラップでくるんだ生地を裸足でふみふみして形を変えていく。なんということはないんだけど、二人が踏みつけている様子から何故か視線が離せない。


「ん、将も足でするか?」

「今度……」

「それじゃあ次やる時そうするか。お、丁度生地が仕上がってるな」


 生地が完成し、次はそれを冷蔵庫で少し寝かせる時間になる。

 およそ一時間くらい。記事をこねる際に疲れていた俺は空いている場所で壁にもたれかかって休憩していた。百合姉と理子姉も座布団に座って休んでる中、隣へ千秋さんがやってきて話しかけてくる。


「隣いいか」

「もう座ってる……」

「ま、それはいいとしてだ。生地をこねるのには慣れたか?」

「全然慣れないです。普段こういうこと全くやらないので……」

「やるとしてもうちだと愛理が担当するからねー」

「あの子一人だけで一から全部やっちゃうから、ちょっと申し訳ないくらい」


 確かに家でうどんを一から作るなら、その作業の大部分は愛理姉が手早くぱぱっと済ませてしまうことだろう。本人はやってて楽しいと言ってくれるが、普段から家事を彼女に投げっぱなしと言うのもどこか良心が痛む。


「寝かせた後にもう少しこねてまた寝かす。その次に麺棒で伸ばす作業だが……少しこねる練習でもしてみるか?」

「ん?」


 千秋さんが俺の手にそっと自分の手を重ねてくる。会話の流れからこの後どうなるかを大体察した俺は向こうのペースに乗せられないように足元を固めておく。


「それってもう一個作るとかいう感じですか」

「まあそれでもいいぞ」

「そうですね、一緒にやってくれるなら……」

「おーそうか」


 千秋さんは嬉しそうにそう言うと俺の片手の手首をくいっと掴む。

 そしてそれを自分の方へ誘導し――むにっ♡


「ん」

「はあっ……♡ 全く、私の身体で練習したいだなんて、お前という奴は……♡」

「え、ええっ!? ちょっと待ってください千秋さん、無理やりですね!?」


 そんな流れだとは思っていたが、思った以上に強引に千秋さんの流れに乗せられてしまった。おかげさまで俺の片手は今、千秋さんの大きな胸の片方をしっかりと手のひらに包み込んでやわらかさを享受してしまっている。

 近くにいた理子姉と百合姉も呆れたような顔で俺たちを見ていた。え、俺も?


「仕方ないな、いいぞ。私の胸でしっかりこねる練習をするんだ……♡」

「千秋さん、待ってください! 待って! 両手引っ張らないで、あっ――」


 もみっ……もみっ、もみっ、ぷるんっ♡

 抵抗むなしく、もう片方の手も千秋さんの胸に引き寄せられてしまった……


「あっ、柔らかい……じゃなくて! 千秋さん、放してっ」

「んっ……ほら、ちゃんと練習するんだ♡ 料理のできる男は触り方も上手だぞ?」

「二人とも、そういうの別の部屋でやってよ……」

「相変わらず場所を選ばないわねぇ」

「姉さんたちもっ、ちょっと、助けてっ……!」

「んんぅ♡ あっ、はああっ……大分慣れてきたな、将……♡」


 百合姉と理子姉の二人から見捨てられた俺は千秋さんの身体から解放されず、結局、寝かせる時間の殆どをどこかしら触っている状態で過ごすこととなった。お陰様で生地をこねる時はいくらか慣れた手つきでできるようになったのは内緒の話である。




 そして、二度目の寝かせる時間に入る。もはやこうなることは予想できていたのだろう、百合姉と理子姉はちょっと別の部屋に用事があると言っていなくなってしまった。そんな中、時間が経つのを待つだけとなった俺たちの間で何もないわけがなく。


「お疲れ様だな、将」

「千秋さん、ちょっと、後ろから抱き着かないで……!」

「いいじゃないか、久しぶりにお前のことを抱くんだぞ? それともなんだ、私にこうやってくっつかれると何か不都合なことでもあるのか? あ?」


 それはもう、Tシャツ越しにしっかり主張している大きなおっぱいが……

 なんて正面から言えるわけもなく。言っても茶化されるだけだし。


「少しくらい素直になってくれたっていいだろ……? しばらくお前に会えなくて寂しかったんだから、なぁ……?」

「う……分かりました、少しだけですよ……」

「話が分かる奴で助かったよ、ほれ、お前の好きなおっぱいだぞ」


 むにぃ、と背中にまた押し付けられる双乳。まだ背中にあった時は良かったんだけど、それが肩に乗ってから千秋さんがどれだけ切迫していたかを実感する。もしかして千秋さんは本当に最後までするつもりで家に来たのでは……?


「晩酌の時……沢山、いいことしような」

「え……」


 少し物悲しそうな声で言われたものだから、嫌です、なんて言えなかった。

 これも全部千秋さんのよく使う「演技」なのに。くうっ……

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