不良品の姉友 3(終)

 希さんの事は百合姉が良く知っているので、彼女の「調教」に関しては百合姉に任せることにした。もう一度メイド服姿に戻された彼女を百合姉がしっかりと縄で縛りつけ、天井から軽めに吊るす。膝を折ったまま両腕を上にあげる体勢になった彼女は、目の前にいる百合姉を半ば涙目で見つめていた。百合姉の所にお茶を持っていけ、と言ったのもこれが見たかったためであるが、いざこうなるとこちらも緊張を感じざるを得ない。


「うちにあったメイド服一着を紅茶で汚したから、あんなことを書いたの? 将」

「まぁ、そうだな」

「へぇ」


 百合姉は希さんの身体を嘗め回すように見ると、彼女に耳打ちをする。


「紅茶をこぼしたから身体に落書きされたんですって」

「え、でも、何で今はこんなことに……」


 希さんがそう答えた時、百合姉は近くに置いてあった鞭を手に取りながら言った。


「あなたの淹れた紅茶が不味かったからよ」

「そんな……あれはご主人様に頼まれたからで」

「不味い紅茶を入れろとおっしゃったのかしら? あなたのご主人様は」


 百合姉が視線を向けてきたのでこちらは首を横に振る。希さんの顔が青ざめる。


「あなたなら美味しい紅茶を入れられると思っていたのに、残念ね」


 鞭を一振り。希さんの身体はビクンと震えた。目の端からは涙が流れていて、半開きになった口からは涎が垂れる。抵抗しようにも、両腕を天井からつるされているため何も出来ない。無言のまま、百合姉は奴隷メイドにさらなる一撃を与える。


「ごめんなさい。期待した私が間違っていたわ」

「そ、それだけは……」

「いいのよ。あなたは『不良品』だったから」


 鞭。希さんは既に限界状態に近づいていた。家に来た後から、身体に落書きされ、それから立て続けに百合姉の調教を受けているのだから、仕方がないであろう。だが、それでも希さんは涙を流しながら、悦びの表情を浮かべている。これは真性だ。


「将。今度はあなたの番よ」


 そう言って鞭を手渡された。耳元で百合姉が「目には当てない様に」と囁く。鞭を持った時、目の前にいる希さんがまるで人間でない動物のように見えてしまった。彼女は鞭を止めるように目で懇願して来るが、それが逆に「したくなってしまう」ことになるなど、今の彼女には分かりっこない。隣で百合姉が囁いた。


「やりなさい」


 その一言で頭のスイッチが切り替わった。鞭を振り、不良品の人形に一瞬の痛みを与える。彼女の悶える声が心地よい。腕に書かれている「変態奴隷」もまた、一興であった。百合姉と共に代わる代わるで彼女を痛めつけ、時は過ぎる。全てが終わった後の希さんは死んだように動かなかった。百合姉の部屋に倒れている彼女は、こちらから呼びかけても何の反応もない。

 ただ、口元が「ご主人様」と動いているのが分かる。放棄された彼女は口から涎を流しながらにへらにへらと笑っていた。

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