職人の姉友 4(終)

 夏のある日の午後、薄暗い自分の部屋。

 カーテンから漏れたかすかな光だけが照らすこの部屋はどことなく暑苦しかった。


「うふふ、それで、一体私たちはどんなことをされちゃうのかしら?」

「何をしてもいいんだぞ? 私たちは『身体も』『心も』お前のものなんだからな?」

「ぁっ……」


 ベッドに腰掛けている俺の両隣に百合姉と千秋さんが挟み込むように座っている。当然の如く両腕にぴったりと二人はくっついていて、熱くなった姉たちの身体からは耐えがたい女の香りが立ち込めていた。

 息を一つ吸う度に身体が変になっていくようだ。逃げ場もない……!


「黙ってたらなんで私たちが来たかわからないぞ……?」

「教えてくれない? いったい私と千秋に何をしてほしかったの?」


 どく、どく、と自分の心臓の鼓動が耳ではっきりと分かるまで大きくなっている。このままどちらかへ身体を倒してしまえば、もう、そこからは爛れた昼下がりへ一直線――そうならないように、楽な方へ行こうとする自分の頭を全力で律しに行く。

 だが、そんな小手先のことがいつまでも通用するのは甘い考えだった。俺が動かないのを見た二人はくすくす馬鹿にするように笑うと太ももの上に手を乗せてくる。


「そんなに言わないなら……私と百合で『当てっこ』するしかないな?」

「そうね、将が何をしてほしいのか、一つずつ聞いていくしかないわね」


 嫌な予感が当たってしまう。何をされるか分からないが、耐えられる気がしない!

 言い出しっぺの千秋さんはまず俺の耳元に顔を近づけると――


「それじゃ、一つ目はまず……『抱き枕』」

「っ……!?」


 頭が勝手に千秋さんを抱き枕にする妄想で埋まってしまった。肉付きの良い身体を好き放題にしても良い快感は百合姉から仕込まれているから、そんな状況になったらいよいよ人としての理性を手放さなければならない……!

 すり、すり、と太ももに載っている姉さんたちの手も動く。ああぅ……


「次は私ね。二つ目は……『ディープキス』」


 百合姉が耳元でそう呟いた後、わざとらしく口の中でにちゃにちゃと水音を立てて聞かせてきた。駄目だ、これも駄目だ。一度してしまったが最後、姉さんたちに主導権を握られて一方的に心地よくされ続ける……!


「なんだ、今言ったのじゃなかったのか……」

「でも惜しいところまでは来てるわよ。将の顔、たっぷり蕩けちゃってるもの……」

「百合姉っ、千秋さんっ、まって……」

「駄目だ。お前が何してほしいか、ちゃんと聞き出してやるからな?」

「将にはしっかり満足してもらいたいもの……♡」

「ううっ……」


 千秋さんと百合姉の間で何が行われているか俺には知る由もない。

 太ももと腰の辺りを撫でまわしながら、今度は百合姉がが耳元で囁いた。


「三つ目は、そう……『おっぱい』♡」

「ひっ……!?」

「あら、正解に近づいたわね。でもしたいのはそれだけじゃないみたい」

「そうかぁ、何をしたいんだろうなぁ。おっぱいするのは気持ちいいのに、もしかしたらお前はもっと気持ちいいことをしたいのか……?」

「そうかもね……千秋、なんだと思う?」


 いよいよもって追い詰められてしまった。もうその次が何なのか聞かずともわかるから一人で悶々とするしかない。そんなド直球なことを言われたらもう隠すも何もなくなってしまい、姉さんたちに食べられるだけになってしまう!

 なにか、なにかないか、この状況から脱出できる手段は……!


「分かんないなぁ。おっぱいよりも気持ちいいことって何だろうなぁ」

「将なら絶対に好きだと思ったのにね……千秋?」

「ああ、なるほど、思いついたぞ……」

「ひいいいっ……!?」


 千秋さんがニヤニヤと不敵に笑いながら俺のことを見下ろしてくる。そして三人で立ち上がるように俺と百合姉を促し、間に挟み込むようにして百合姉と肩に手を合わせた。もしかして、これって……!


「抱き枕も、おっぱいも、どっちも欲しかったんじゃないか?」

「そうね……将は欲張りさんだから、全部欲しいのかも……♡」

「だから、将が本当にしてほしいのは――」


 二人は、理性を粉々に砕くむっちりと柔らかい身体で俺のことを挟み込んで……


「――『サンドイッチ』、だろ♡」

「ぁぁぁぁ……!」


 両隣から抱きしめられて頭の中が真っ白に飛んでしまった。両頬にちろちろ舐めるようなキスを同時に受けて、姉さんたちの身体で全身をぎゅうううっと締め付けられる快感も相まって一切の力が抜けてしまった。

 もはや、声もろくに出せない。息をする時になんかそれっぽい音が出るだけ……


「大正解ね、千秋♡ 将もこんなに喜んでる……♡」

「ああ、そうだな。身体をびくびくさせてとっても気持ちよさそうだ……♡」

「ぁぁぅっ、ぁぅぁ……」

「こんなに顔を蕩けさせやがってっ♡ 母性湧いちまうだろうがっ♡」

「本当にね♡ 将は姉を駄目にしてしまう困った弟なんだから……♡」


 ぎゅうっ、ぎゅううっ……身体と汗のにおいがぐっちゃぐちゃに入り乱れていたずらに鼻の奥を刺激する。二人のお姉さんの身体と言う天国のような監獄に囚われた俺はそこでしばらくうわごとのように何か唸り続ける。


「ぁぇ……」

「そろそろ将も立っていられないか、寝せるぞ」

「ええ、続きはベッドの上でしましょう」

「ぇ?」

「よし、ほら、こっちだ……」


 千秋さんにお姫様抱っこされた俺は抵抗一つできない状態でベッドまで運ばれ、再びそこで二人の間に挟まれることとなってしまった。寝そべった後に千秋さんは横から顔を伸ばしてキスをしてきて、口の中に舌を入れられてしまう。


「あぁぁっ、あっ、ぁぁ……」

「ん、んんっ、ちゅっ、はあっ……ああっ、本当に可愛いな、お前……♡」

「千秋、ちゃんと将がして欲しいことを聞かなきゃ♡ 自分の好き放題しちゃ駄目よ」

「もう我慢できないんだ♡ こいつのこと可愛がりたくて身体が抑えきれない♡ ほら、よしよし、お前の大好きなおっぱいだぞ……♡」


 むにんっ、と顔におっぱいを押し付けられて心が大満足する。むにっ、むにっ、むちっ、むちっ、と千秋さんのたわわでお世話されながら、百合姉が優しく見守ってくれている中で目を閉じた――


「幸せになれっ♡ いいぞ、揉みたいなら揉ませてやるっ♡ はぁぁ、かわいい……♡」

「ぁ……」

「ふふ、良かったわね、面倒見のいいお姉さんができて。おやすみ、将♡」


 百合姉に優しく見守られ、そして、千秋さんに自分のすべてを肯定してもらい……幸せの海の中で溺れるように、俺の意識は光の中へ飛んで行ったのだった。

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